すだちうどんのすだちって食べるものなのだろうか
知り合いから季節外れのすだちをたくさんいただいた。一回り大きいかぼすとか青柚子とかとごっちゃになりやすい柑橘類だが、ピンポン玉くらいの緑色をしたやつである。
すだちといえばサンマの塩焼き、鍋料理、あるいは松茸に添えられているイメージだが、どれもまったく今の時期ではない。さてどうやって食べようかと悩んだが、そういえばうどんとかそばに輪切りで乗っているのを見たことがある。
こういう機会でもないと食べない料理なので、うどんを打って作ってみることにした。
季節外れのすだちををいただいた。この時期なのでハウス栽培なのだろう。
うどんは細めが合いそうなので、家庭用製麺機で適当に打つ。
うどんを茹でている間に、よく洗ったすだちを輪切りにしておく。すだちは皮がしっかりしていてサイズが小さいので薄く切りやすかった。
だしは透明に近い色が雰囲気に合うかなと、めんつゆではなく白だしを水で割って丼に入れる。ヤマキの割烹白だしを使ったので読み方は「しらだし」だ。白だしとはなにかという話はこちら。
茹だったうどんを水でしっかりと洗い、だしの入った丼にスープと入れて、仕上げに輪切りのすだちをたっぷり載せたら完成なのだが、いざ食べようとしたときに、「で、このすだちは食べるのだろうか?」という疑問が湧いた。
食べ方がわからず、とりあえあずスマホで写真を撮った。
自分で作っておいて食べ方がわからないというのも変な話だが、本当にわからないのである。
載っているのは皮ごと種ごとのすだちなので、あくまで滲み出る果汁や皮の爽やかさを狙ったものだとは思うのだが、わざわざ薄切りにして載せているのは、ぜひすだちも食べてほしいというメッセージのようにも感じる。
作っている段階では、薄いほうが香りが出やすいし、すだちの枚数が増えるかなと思っただけだが。
これは高松で食べた、冷たいかけうどんにオプションですだちをつけたもの。この状態ならすだちは迷わず絞って使う。皮ごと食べるなんてまさかまさか。
いやいやあくまですだちははヴィジュアル担当、映え狙いでしょうと考え直して、とりあえあずすだちを避けつつうどんをすする。きっと桜餅か柏餅でいえば柏餅寄りの食べ物のはず。
なるほど、鰹節などを使った和風のだしとすだちの風味がとても合っている。果汁を絞ってかけるのではなく、皮ごと浮かべることで、より香りを楽しめる気がする。これはおいしい食べ物だ。
インド料理におけるホールスパイスのように、香りづけには欠かせないけれど食べないものなのだろう。タイ料理のレモングラスとかコブミカンの葉とかもそうですよね。
うまいうまいと半分ほど食べたところで、具が食べられないすだちだけというのが寂しくなって、なるべく薄いのを選んで、種を避けつつうどんと一緒にこっそり食べてみた。
これが意外と程よい酸味と苦味と歯ごたえで、食べ物として違和感がなかった。ぜんぜん平気。だが少し厚切りのすだちが口に入ると、強すぎる酸味と苦味と歯ごたえとなり、やっぱりこれは食べないやつなのかなとも思う。
最終的に薄いすだちを選んで七割くらい食べたのだが、「食べ物」と「食べ物じゃないもの」が自分の中でせめぎ合う、大変おもしろい体験だった。
すだちうどんをよりおいしく作りたい
すだちもうどんもまだ残っている。どうせならよりおいしいすだちうどんを作ってみよう。
まずだしだが、白だしだけでも十分うまいが、ここにいりこ(カタクチイワシの煮干し)の風味が加われば、もっとすだちの風味が生きるのでは。サンマの塩焼きにすだちが合うのだから。
そこでいりことついでに昆布を水に浸して冷蔵庫で数時間水出しをして、白だしと1:4で割る。これで上品な白だしに良い意味での生臭さとパンチの強さがプラスされたはず。
鰹節がベースの上品な白だしにいりこと昆布を足す。最近また香川までうどんを食べに行ったので、いりこだしの香りが恋しいのだ。
すだちは薄ければ薄いほどいいはずだとスライサーを使ってみたが、外側の皮と内側の果肉の硬さが違うためか、ぜんぜんうまく削れなかった。
だめだこりゃ。
仕方なく包丁をしっかり研いで、人力でできるだけ薄く切る努力をする。丸じゃなくて欠けた形になることも多いが、別に自分が食べるだけなので問題ない。
コツは爪を立てるようにヘタ側を押さえて切り、すだちの両端は潔く諦めること。がんばりすぎると「すだ血」になりそうだ。
これ以上は深追いしない。
うどんが透けるほどすだちを薄く切ったことで、果汁や香りがよりだしに広がりやすくなり、だからこそいりこを利かせただしとよく合っていた。これは正しいバージョンアップだ。
薄切りにしたすだちであれば、驚くことに種すらもナッツのようにおいしく感じる。皮も種も意外と苦くないのである。
うどんが透けるほど薄く切った。
またすだちの薄切りを「食べ物」と私の脳が認識したことによって、少し厚いすだちを食べたとしても「これくらいは全然平気」と判断するようになる。これは人として進化なのか退化なのか。
とにかくこのすだちうどんは、全部おいしく食べられた。
すだちはネギよりもうどんに合うのでは。
ライターにすだちうどんを食べてもらってモニタリングする
すだちは薄くさえ切れば、皮も種もおいしく食べられる。
これが私の持論なのだが、刺身の添え物は(プラスチック製でなければ)全部食べるし、エビフライの尻尾も残さないし、桃も皮ごと食べるタイプの人間なので、一般的な人の食べられる・食べられないの線引きとはちょっと違うかもしれない。
そこで当サイトの会議にすだちうどんを持ち込んで、特に説明をせず食べてもらうことで、すだちを食べるかどうかモニタリングしてみた。
保冷バッグに入れて会議室に流水麺(水でほぐすだけで食べられる便利な麺)のうどん、だし、薄切りのすだちを持ち込んだ。
白熱した会議の最中、こっそりペットボトルの冷水で流水麺をほぐし、すだちうどんを完成させる。
ちょっとしたお菓子のようにちょっとしたうどんを配る。
この日の参加者は私の右側から、林さん、橋田さん、まいしろさん、唐沢さん、伊藤さん、べつやくさん、石川さん。
こういった輪切り柑橘載せ麺類があるのはみんな知っていたが、食べたことがある人は唐沢さんだけだった。
試食の最中に「このすだちは食べるんですか?」という疑問が飛び交う。迷いますよね。
結果はすだちを食べた人が唐沢さん、べつやくさん、石川さん。食べなかった人が林さん、橋田さん、まいしろさん、伊藤さん。食べない側がやや優勢か。
林:「俺は食べない。だって皮があるじゃないですか。皮には農薬がついていると信じている『美味しんぼ』の世代だから」
玉置:「その気持ちはわかります。林さんと話すと毎回『美味しんぼ』の話題になりますね。でもこれは国産だし、よく洗ったからたぶん大丈夫」
林:「でも食べないかな。レモンサワーのレモンは食べないよなあというのと同じで」
橋田:「私も残しています。皮が硬そうだなと思って。でも中は箸でギュウギュウ潰しました」
玉置:「果肉の汁を出し切りたいですよね」
まいしろ:「私も食べない派。はなから食べないものだと思っていました。試しにちょっと齧ってみたけど、苦かったので断念しました。アイスのミントとか揚げ物のパセリも食べない」
玉置:「苦いものは食べない、それが普通のような気もします」
唐沢:「今回は薄切りだったので皮も全部食べました。だしとすだちの相性が良さそうだったから、普通においしそうだと思って。食べたらおいしかったです」
玉置:「薄切りだと皮も平気ですよね」
すだちを皮ごと食べた唐沢さん。
伊藤:「僕は食べないです。風味付けのためという意識があったので、深く考えたことはないけれど、自然と食べずに残しました。唐揚げのレモン的な。でもみんなの話を聞いて食べてみたらおいしかった」
唐沢:「私は絞る用のレモンも果肉は食べます」
林:「味噌汁のシジミの身も迷いますよね」
唐沢:「え、あれ残すことがあるんですか? 」
流水麺がおいしかったとの意見多数が、今回は「どこでも流水麺」という企画ではない。
べつやく:「私は皮も食べましたけど、大きい種は残した。唐揚げに添えられたレモンは絞ってかける用だけど、これは汁に浸かっていたから具だなと思って。でも私はエビの天ぷらも尻尾まで食べるから」
石川:「僕も種だけ残しましたね。料理の上に載っている柑橘は食べる。パエリアとかカルパッチョとか」
べつやく:「ロイヤルホストのコスモドリアとかね」
石川:「それは食べたことがない」
まいしろ:「私は除けて食べていたかも」
左がロイヤルホストのコスモドリア。「桜新町のロイヤルホストはおいしいのか」より。
玉置:「べつやくさんも石川さんも、料理の一部だと食べると」
林:「俺もサクレ(アイス)のレモンとか、はちみつ漬けのレモンは皮ごと食べるかな。運動会で食べるやつ」
玉置:「なんなら運動会でしか食べないやつだ。ちなみにレモンティーのレモンはどうします?」
べつやく:「食べないねえ」
石川:「飲み物は食べないですねえ」
玉置:「飲み物は食べない」
唐沢:「私は食べます。果肉がちょっとでもあると見てられなくて」
今後はレモンティーのレモンも食べるか迷うかも。
石川:「すだちうどんって初めて食べましたけど、おいしいですね。丸亀製麺とかでメニューにあったら頼みたい」
べつやく:「私も今度食べてみようと思った!」
玉置:「丸亀のすだちは期間限定で、半切りみたいですね」
石川:「いっそのこと、うどんのかわりにすだちの薄切りばっかり入っているのを食べたい」
玉置:「そば屋の天ぬき(こういうやつ)みたいな、すだちぬきだ」
すだちを食べるか食べないかアンケート
もう少し広く意見を聞いてみようとTwitter(現X)で簡単なアンケートをとったところ、すだちうどんのすだちを食べる人が3割強、食べない人が7割弱だった。
意外と食べる人が多いなという印象だが、割となんでも食べる側である私がフォロワーに向けてやっているアンケートなので、もっとフラットな場であれば、食べる割合はもう少し下がった気もする。
すだちうどんを出す側である店主にも聞いてみた。香川県丸亀市の『純手打うどん よしや』の山下さんと、高松市の『手打麺や 大島』の大島さんの両名である。
山下:「(食べられるものを出しているけれど)普通は残すと思ってます。でも食べる方もいるので食べても大丈夫です!」
大島:「あれは基本的に食べないです。食べる人はかなり少ないと思います。自然と滲み出るすだちの酸味だけでも充分味わえますよ」
すだちは浮かべるだけで十分うどんがおいしくなるので、店側としては残すことを前提として出しているようだ。
左が山下さん、右が大島さん。お二人が登場する同人誌「さぬきうどんを食べ歩く旅」は絶賛頒布中!
最後にすだちそばについての意見も有識者に伺った。当サイトのライターであり、蕎麦屋の店主でもある石井公二さんだ。
石井:「すだちの輪切り、いつの頃からか蕎麦界でもうどん界でもよく見かけるようになりましたね。勿論私も食べたことありますけど、うちでは出してませんね。食べても食べなくてもその人の自由、という前提はありつつ、私個人としては風味を楽しむもので食べないですね。蕎麦は『ゾゾゾッ』と一気に食べるのが好きなので食感の邪魔になるのと、皮の苦みが少々気になるので」
確かにそばを勢いよくすすっているときにすだちが混ざると、うどん以上にリズム感が崩れるかも。もちろん蕎麦のタイプにも寄るのだろうが、今ちょっと想像しただけで軽くむせた。
私もすだちそばを食べてみようと思ったが、もらったすだちは使い切っており、近所のスーパーにはまだ置いていなかった。すだちのシーズンになったら挑戦してみたいと思う。
食べても食べなくても大丈夫!
これは最初からわかっていた話なのだが、一応結論としてまとめると、すだちうどん・すだちそばのすだちは食べても食べなくてもどっちでも大丈夫。食べない人のほうが多いけれど、食べる人も一定数いるので安心しよう。
今回使ったのはおそらく時期的にハウス栽培のすだちで、全農徳島県本部のサイトには「ハウス栽培のすだちは、果皮が薄めで、果汁が多く、酸味はやや控えめな傾向があります」と書かれているので、露地栽培のすだちだとまた印象が違ったのかもしれない。
あと大事なポイントは、すだちうどんは想像していたよりもおいしいということだ。だしとすだちがすごく合う。もし自作をする場合は、すだちを食べる人も食べない人も、できるだけ薄く切ることをおすすめする。
編集部からのみどころを読む
編集部からのみどころ
サンマの塩焼きにすだちがあうから、すだちのだしに魚由来のいりこを使う。この発想が料理勘ありますよね。
会議で食べたすだちうどんが人生初のすだちうどんでした。これ「これ流行るよ!」って言いたいぐらい美味でした。もう流行ってるけど。(林)