捨ててあったどこでもドア
私はどこでもドアを拾ったことがある。
未来の道具だっていつかは捨てられる時が来る。それが道具の定めだ。
私は美術大学で働いているのだが、大学構内には廃材置き場のような場所がある。捨てる前に一時的に保管して置く場所で、必要であれば誰でも持って行っていいのだ。
見慣れたピンク色のドアは、その廃材置き場にあった。
何かに使えるかもしれない。どう使うか全く想像できてなかったが、とりあえず構内にある自分のアトリエに持って帰ろうと決意したのだった。
試しに持ち上げてみたが、「あ、これは腕が取れるな」と思ったので、一度戻って台車を取ってくることにした。ドラえもんが四次元ポケットに入れる前に軽々持ち上げているが、やはりロボットだから出来る技なのだ。
道ゆく人が、「どこでもドアだ……!」とざわざわしたり、写真を撮ったりしていたが、私は風に煽られてそれどころではなかった。
見かねて、通りすがりの3人組が手伝ってくれた。初対面の人達と未来の秘密道具を運ぶ経験は、今後2度とないだろう。運び終えたときには達成感で謎の絆が生まれていた。
〜3年後〜
特に何にも使うことなく3年が経過。どうしよう。わりと邪魔になってきたぞ。
……断捨離するか。
今断捨離中だけど、どこでもドアを捨てるかすごい迷ってる pic.twitter.com/QaXoVzInPx
— とりもちうずら (@uzura_3) April 5, 2023
X(旧Twitter)に断捨離しようか迷っている旨をポストしたらかなり反響があった。ネットニュースにもなり、欲しいという人もたくさん名乗り出てくれたので、どなたかに贈呈することに決めた。
秘密道具を断捨離しよう
居酒屋のドアにしたい。幼稚園の遊具に欲しい。大学のドラえもんサークルが文化祭で展示したい。ドラえもん好きのスナックのママにプレゼントしたい……、などなどかなりたくさん欲しい人が現れた。
私が想像を超えた使用用途が多数寄せられ、私もワクワクしてきた。誰にあげるか散々迷ったのだが、結構傷がついていることと、安全面が保障できないところが心配点だった。壊れた時に自分で直せる人が良いのではと思い、撮影スタジオのシバカメさんという方にお渡しするに決めたのだった。
人力で運ぶ
どこでもドアの贈呈は、昨年の夏に行われた。記事にしようと思っていたのに半年放置してしまったため、夏の日差しの中の風景をお届けすることになるがご了承いただきたい。
シバカメさんは、「ドラえもん持ってきました!」といってお人形を抱いていたが、Tシャツはゴジラだった。
撮影助っ人に呼んだ友人が、想像以上にドラえもんっぽい感じで来たので驚いた。前日に鈴をつくったらしい。すごい情熱……!私はのび太風のシャツがあったので着てきた!
シバカメさんは岐阜県からはるばる東京まで車で来てくれた。きっと、運転中「どこでもドアがあれば一瞬なのに……」と思ったことだろう。
さっそく運んでいこう!
未来の秘密道具も、ドラえもん不在の場合かなり運ぶのが大変だ。台車必須である。きっとどんな未来に行っても、台車という道具は無くならないであろう。
シバカメさんは普段カメラマンのお仕事をされている。いろいろ機材を持ってきていたので、写真撮ってくれることに!! やった!
普段しないポーズを指示されてぎこちない私。
どこでもドアがあれば、どこでもフォトスポットである。良い写真が撮れる……!!
秘密道具の荷積み
問題は車に入るのかどうかだ。
どこでもドア持ってるのに車で帰るのか……。でも、どこでもドアの幅、車通らないしな。
アニメで四次元ポケットを失くしているシーンを見たことがあるが、その場合こういう風に人力で運ぶのだろうな……と、アニメで描かれない裏側の世界を想像した。
未来の世界では、使わなくなった秘密道具をリサイクルしたりするのだろうか。意外とハードオフみたいなところで売られたりするのかもしれないな……と思いながら、秘密道具を乗せた車を見送ったのだった。
シバカメさんは無事岐阜県に帰れたそうだ。どこでもドアは写真スタジオのワークショップなどで使う予定とのこと!どんな風に使われていくのか、これから楽しみである。