特集 2019年11月7日

呪われた森に行ったら狙撃されそうになった話

不気味な場所というものがある。たとえば、「魔の三角地帯」と呼ばれるバミューダトライアングルなどがそれだ。謎の事故が起きていたり、本来見えるはずがないものが見えたり、その場所では「超常現象」が起きるのだ。

そんな場所の一つにルーマニアの「ホィア・バキュー・フォレスト」がある。「呪われた森」とも言われ、UFOの目撃情報があったり、そこに行った人が原因不明の吐き気や目眩などに襲われたりしたそうだ。ぜひ行ってみたいと思う。

1985年福岡生まれ。思い立ったが吉日で行動しています。地味なファッションと言われることが多いので、派手なメガネを買おうと思っています。(動画インタビュー)

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> 個人サイト Web独り者 彼女がいる風の地主恵亮

呪われた森へ

人類とはおかしなもので、怖いのは嫌だけれど、怖いものを見たい、という対局にあるはずの2つを同時に持ち合わせている。誰もが新築やリフォームしたての物件に住みたいけれど、古い建物を見ると「いいな」と思ったりする。それの恐怖部門があるのだ。

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恐怖を絵で表現してみました!

 私もそうだ。怖いものは嫌いだ。ホラー映画も見なければ、お化け屋敷にも行かない。しかし、怖いものに触れてみたいという気持ちがないわけではない。好きだけど別れるのような、なんと表現していいのかわからない、乙女のような感情を持ち合わせている。

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ルーマニアのクルージ・ナポカに来ました!

ルーマニアのクルージ・ナポカに「ホィア・バキュー・フォレスト」という、世界的に有名な森がある。「呪われた森」とも言われ、聞いた話によると、大昔に数百の羊と共に羊飼いが消えたと言われている。他にもUFOの目撃情報や、体調不良になったなどの話も聞いた。

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鳩が死んでいた!

そんな森に行こうと思う。そう思い移動していると鳩が死んでいた。幸先が悪い。時間帯は夕方。暗くなって行く時間だ。そんな時間に「呪われた森」を目指し、途中で鳩が死んでいる。悪い予感しかしてこない。 

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呪われた森へ(奥に見える森がそれです!)
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森の中へ

呪われた森は街中からそう遠くはない。バスで行ける距離だ。バス停から線路沿いを歩くと、道は舗装されておらず、工場や畜産、農業を営んでいる人々の家がある。目的の山も特別高いわけではなく、見た目は普通。里山という感じだ。 

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野良犬が吠えてきて怖い!

ただ怖い。それはなぜか。鳩が死んでいて幸先が悪いだけではなく、野良犬がたくさんいたからだ。野良犬は怖い。勢いがすごいから。草むらから深夜帯の高速道路か、というスピードで吠えながら出てくるのだ。怖いに決まっている。

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いよいよ森へ!

呪われた森に入った。特になんの変哲もない山だった。なんとなく植生が日本に似ていて、人工物が見えなくなったので、ここがルーマニアなのかわからない。皆さんご存知、山梨県・小菅村の三つ子山に似ている。

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綺麗な森ですよ!

呪われている感がない。テレビの撮影でここに来た人々の機材が動かなくなった、のような話も聞いたけれど、私のカメラは絶好調。森はあまり手入れされている感じはしないけれど、倒れている木の切り口が新しかったり、タイヤの跡があったりするので、割と人は来ているのだろう。

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切り口が新しい!
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蚊はすごい!

森の中には野良犬もいないのでその恐怖はない。その代わり蚊がすごい。めちゃくちゃ刺してくる。なぜ半袖半ズボン草履で来てしまったのだろう。少し考えればわかるはずなのに。この考えなさが、超常現象なのかもしれない。森関係ないけど。

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人に会う

海外の観光客に会った。英語だったのでたぶんルーマニア人でない。私と同じように呪われた森と聞いて、やってきたそうだ。この先には何があるの? と聞かれた。その時、私は十分にこの森を歩いていたので言った。「何もないんだ、全くなにも。ただ蚊がいるよ」と刺されたあとを見せた。 

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帰って行った!

それを聞くと観光客は帰っていた。嘘ではないのだ。何もないのだ。私も日が暮れるのを待って帰った。夜の山という意味では怖かったけれど、期待していたような感じではない。変な物も、不思議な現象もない。全く呪われた感じがないのだ。ただただ美しい森が広がっていた。ピクニックに来たいくらいだった。

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夜の感じを楽しんで帰った!
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呪いは次の日からやってくる

呪われた森に行った次の日に私はクルージ・ナポカからブラショフへと移動することになっていた。駅に行き切符を買って電車に乗った。6時間ほどの旅になるようだ。やってきた電車は昔の日本を思わせるような電車だった。 

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クルージ・ナポカ駅で、
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切符を買って、
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電車に乗る!

実はこの段階では「呪われた森」はボツだな、と思っていた。国内外問わずよくある話なのだ。行ってみたら大したことなくてボツというのは。だって、呪われた感がないから。しかし、呪われていた。しっかり呪われていた。だって説明がつかないんだもん。

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電車には猫もいたよ!

電車に乗り込んだ頃は猫がかわいい、と写真を撮ったりしていた。この地獄の始まりを知らなかったからだ。ちなみに電車は4人掛けが向かい合っているボックス席だ。そのセットが1両にいくつかある。そして、電車が走り出し、地獄が始まった。

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はい、どーん!
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呪いの始まりです!

車内の温度は38度。これで6時間。クーラーが壊れているらしく動かない。窓が開く場所もあるけれど、開く幅はわずかで風は入らない。38度の車内で風も入らず、4人掛けの席は広くなく、それで6時間。地獄だ。

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窓はわずかしか開かず、
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地獄みたいな、
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車内になっていた!

席は4人掛けなのだけれど、4人座ると絶対に肌と肌が触れ合うので、暗黙の了解で誰かが座ると誰かが立ちを繰り返していた。この地獄をみんなで乗り越えようという一体感があった。誰もがキツさと暑さにやられていた。そこから生まれた各々の優しさだ。

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マジでキツかった!

私はメガネをかけることもやめた。視力が低いのでメガネがないと見えないのだけれど、メガネの柄すら暑さでわずらわしいのだ。立っているのもキツく、通路に座り込んだりしていた。そして、この電車は驚くほど遅い。誰かが言った。「トンボが電車を追い越した」と。 

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塩の入っている調味料を舐め、
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水を飲んだ!

ルーマニアを走る電車がすべてこうなら別にいい。でも、そうじゃないのだ。ルーマニアで長距離電車には5回ほど乗ったけれど、他はすべて涼しいのだ。この電車だけが暑い。呪われた、としか説明ができないのだ。

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別日に乗った電車は涼しい!
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ただこの電車は地獄!

暑さは収まることなく、電車がヤル気を見せることもなく、結局暑いまま7時間この電車に乗っていた。6時間のはずが7時間もかかったのだ。げっそりですよ。だって私にできることは耐えるしかないのだ。到着した時、みんなで抱きしめあいたかった。暑いからやんないけど。

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疲れた!
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呪いはまだまだ続く!

到着したブラショフで一泊して首都のブカレストに移動した。もう呪いは終わったと思っていた。ただそうではなかった。次は泊まっていたアパートで起きた。心臓が止まるかと思ったほどの呪いだ。 

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これ!
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狙われている!

わかりますか、これレーザーサイトの赤い光です。ライフルなどに装着して照準を定めるやつ。日本なら「いたずらかな」と思うけれど、ここはルーマニア。よく知らない国だから、「俺、狙われている」とパニックだった。

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怖くてたまらない!

台所の窓からレーザーサイト。怖い。たとえようのない怖さだった。呪われた森は怖くなかったけれど、戻ってからが怖い。すぐにアパートのオーナーに連絡したら、ここは安全な場所だから近所の子供のいたずらでしょう、ということだった。確かに撃たれはしなかったけど、震え上がっていた。 

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さらに、ですよ!

このアパートは部屋に入るまでに建物、バルコニー、玄関の3つの鍵を開ける必要がある。窓から狙われる以外はセキュリティがしっかりしている。ただ外出して戻ると、1つ目の鍵穴がちぎれた鍵で埋まっていた。部屋に入れない。というより建物に入れなかった。怖い。すごく怖い。鍵ってちぎれるのね。 

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鍵がささらないの!

すべては呪われた森に行ってから起きたこと。それまでは特に問題はなく、順調に撮影は進んでいたのだ。それなのに、森の後に起きた、暑い、狙われる、埋まっている、という呪い。あんなに素晴らしい森だったのに。呪われた森は本物なのではないだろうか。

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呪われた森流のおもてなし、かな

呪いはすぐにはやってこない

呪われた森なんて怖くないよ、という軽い気持ちが、結果的に真綿で首を絞めるようなじわじわした呪いをもたらした。行ってからと行くまでは明らかに起きた事件のレベルが違う。水もあまりなかったので、電車はヤバかったし、狙撃される可能性すらあった。呪いを舐めてはダメなのだ。今後はお祓いをしてから行こうと思います。

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本当にキツかったぜよ!

 

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