仮装をして海外に!
かなり多くの人が現地ではドラキュラの格好をしていると思った。でも、誰もしていなかった。お土産屋でドラキュラのTシャツは売っていたけれど、それを着ている人も少なかった。その結果、割と人気だった。問題は日本人に会った時。ただマントは顔を隠すのも便利だ。ドラキュラの衣装は考えられている。

ドラキュラというものがいる。昼間は棺桶の中で眠り、夜になると人の血を吸い、吸われた者も吸血鬼となる。不死身ではあるが、ニンニクや日光に弱く、杭を胸に打ち込まれると死んでしまう。世界中の人が知っている、ある意味ヒーローだ。
そんなドラキュラは、ルーマニアでのお話。モデルとなった人がキチンといるし、彼が住んでいた城のモデルも実在する。ということで、そんなドラキュラの舞台にドラキュラになって行ってみようと思う。
ギリシャ神話に出てくる「ラミア」や、ポルトガルの「ブルーカ」、ハンガリーの「プロゴヨヴィッチ」など世界中に吸血鬼は存在する。日本の「磯姫」なども吸血鬼だ。そんな吸血鬼の一人が「ドラキュラ」である。
ドラキュラは1897年にブラム・ストーカーが発表した小説「ドラキュラ」に登場する。その中でドラキュラはルーマニア出身と記述がある。もちろんフィクションではあるけれど、彼のモデルになった人物が存在する。
ヴラド・ツェペシュがドラキュラのモデルとなった人だ。1431年にシギショアラで生まれた、ルーマニア・ワラキア公国の君主。串刺し公とも言われるが、トルコの侵略から国を守り、経済発展のためにいろいろな施策をした人でもある。
串刺し自体は当時よくある処刑の方法で、いろんな人がやっていたけれど、ツェペシュがその刑をよく行っていたとかで、汚名が着せられている。1463年頃にハンガリーで発行された小冊子で、ヴラド・ツェペシュの汚名や残虐を誇張した小説がドイツ語で書かれた。そこでドラキュラという名が使われている。
そして、いろいろあって、ストーカーの「ドラキュラ」が生まれたわけだ。今では「吸血鬼=ドラキュラ」として世界中の物語に登場する人気者となっている。とりあえず、ドラキュラは実在し、ルーマニア出身と覚えておいて欲しい。ということで、ルーマニアに行こうと思う。せっかくなので、私がドラキュラとなって。
ルーマニアの「ブラショフ」という町からバスに乗り「ブラン城」を目指す。ブラン村にある中世の城砦「ブラン城」が、「ドラキュラ」に登場する城のモデルになった城なのだ。行ってみると浅草の仲見世通りのような観光地になっていた。
ドラキュラのモデルになった城だけあって、観光客が多く、城に入るためのチケット売り場には長い行列ができていた。もちろん並ぶ。ドラキュラが、ドラキュラの城に入るために並ぶという、俺の家なのに感を受けながら並んだ。
ちなみにこの日は30度後半の気温で、黒いマントはめちゃくちゃ暑い。誰もこんな格好をしていない。ディズニーランドに行ったら、ミッキーの耳をつけるじゃない。でも、ブラン城では誰もそんなことをしないのだ。だって、暑いから。
おかげで大人気だった。とても人気だった。こんなに人気なのは池の鯉に餌をあげた時の鯉人気以来だ。言葉がわからないのだけれど、背中を押され、写真のフレーム内に自然に誘われる。ドラキュラ城でのドラキュラ人気は揺るぎないのだ。明らかなる東洋人がこの扱いになるのだから。
ただこの城、実際のドラキュラであるツェペシュは住んでいない。あくまでもモデルになっただけで、ツェペシュの祖父の居城だ。ドラキュラの格好をしている私としては、夏休みにおじいちゃん家に行く感覚だ。よくここでカブトムシ捕ったな、的な。
城内は博物館のようになっており、当時の様子を見ることができる。ただ人がすごいのでゆっくりと進みながら、という感じだ。ドラキュラの世界的な人気の証拠だ。いろんな国の人がいるのだ。日本人もいたけど、その前では、マントで顔を隠しながら歩いた。
ドラキュラはセクリー人と言っている。本当のドラキュラであるツェペシュはルーマニア人だ。どちらにしろ東洋人ではない。夢を壊すかな、と思って日本人の前ではマントで顔を隠したのだ。マントは便利、ということにも気がついた。隠しやすいのだ。
ブラウ城を後にして、次に向かうは生家。ツェペシュの生まれた家に行く。それはシギショアラという街にあるので、電車で向かう。3時間ほどの移動だ。本当はレンタカーで行く予定で日本から予約していたのだけれど、準備されていなくて、電車になったのだ。ドラキュラはレンタカーの予約はうまくできないのだ。
年季を感じる電車に乗って、シギショアラに向かう。私以外は誰もドラキュラの格好をしてない。たまに話しかけてくれるので、今からシギショアラの実家に行くんだ、と言うと少し間があって、「なるほど」という反応は返ってくる。そう、私は実家に帰っているのだ。帰省だ。
電車は鈍行ではないけれど、ゆっくりとした走りだった。あと日光がすごく差してくる。本当のドラキュラなら大変なことになっている。ただこちらは夜だとよく知らない国は怖いので、必ず日中移動ということにしている。私というドラキュラは太陽や十字架より、治安を気にするのだ。
シギショアラはドラキュラが生まれた街で、日本の小京都のような感じだ。15世紀頃が繁栄の絶頂期で15のギルド(職人組合)が存在したそうだ。街の中央部には時計台もある。14世紀に作られたものだ。
シギショアラ出身の人がアメリカのアポロ計画にも携わっている。そのためなのか、ブカレストの博物館に行っても宇宙関係の展示があったりする。ルーマニアに特別宇宙のイメージはないけれど、ルーマニアは宇宙なのだ。
14時になりそうなタイミング。時計台の周りには人が集まっていた。みな一様に時計台の上の方を見ている。確かに見てみると人形が踊りだす感じがする。いや、踊らなければならない感じだ。
14世紀に作られた時計台なので、ドラキュラもこの時計台を見たことだろう。厳密に言えば、17世紀に焼失して再建されているので、彼が見たものと異なるけれど、時計台は時計台。そして、いま目の前で人形が踊ろうとしているのだ。
右下の人形がわずかに動き、鐘をならした。小さな動きでカメラがぶれた。「え?」と動揺してしまったのだ。しばらくカメラを構えていたら、現地の人が「これで終わり」と教えてくれた。周りの人も「動いた?」的なことを言っていた。
綺麗な町並みをドラキュラの格好で歩いた。割と人気で写真を頼まれた。みなドラキュラを求めているのだ。テーマパークに行くと着ぐるみと写真を撮るあの感じだ。ほぼ全員が、このドラキュラ、東洋人だな的な感じを醸し出していた気はするけれど。
ここはドラキュラの父である「ヴラド・ドラクル」が1431年から1435年前の4年間を過ごした家だ。ドラクルはドラゴンの意味で、彼の息子の「ヴラド・ツェペシュ」がドラキュラと言われたのはそれに由来する。ドラキュラはドラゴンの息子という意味だ。
今はレストランになっており、さらに一部はお化け屋敷になっている。生家がお化け屋敷になるのはどんな気持ちなのだろう。私は食事だけをしたのだけれど、時折悲鳴が聞こえてきた。悲鳴が聞こえる実家でドラキュラが食事。本当のドラキュラなら串刺し刑だ。
コウモリの形をしたスイーツを頼んだ。昔住んでいた街に来たら、街は随分と変わり、当時は全然知らなかった名産品を街が推しているみたいな感じだ。ただ美味しかった。問題があるとすれば、尖った前歯が邪魔なくらいだ。
ドラキュラの衣装を日本から持っていったので、なるたけ着るようにした。結構かさばるのだ。どこに行くのも基本的にリュックサック1個なので、準備の段階で持っていくか否かを考え多くのものを持っていかないとしている。そんな中で持ってきたのだから。
凱旋門はルーマニアにもある。第一次世界大戦の勝利を記念して建てられたものだ。つまりドラキュラはもう全く関係ない。ただルーマニアでドラキュラの格好をしていると、関係するものに見えるかな、という試みだ。とりあえず衣装代の元を取りたかっただけかもしれない。
日本円で1500億円を投じた建物で、部屋数は3100を超える。アメリカのペンタゴンに次ぐ世界で2番目の大きさの建物だ。チャウシェスク大統領の私欲を満たすための建物らしいけれど、今は観光地として人気を集めている。
完全予約制で入れなかった。あと黒が多い衣装なので非常に暑い。光を集めるのだろう。本当のドラキュラは光を嫌い闇に紛れるために黒い衣装だと思う。日中にこの格好で動けば、「く、苦しい」となるから光を嫌った説を推したい。
ナイアガラの滝だ。正しくは「新宿ナイアガラの滝」。ドラキュラとは縁もゆかりもないけれど、この格好でくれば、ゆかりの地に見えるかと思い撮ってみた。見えなくもないけれど、ルーマニアですらなく日本なので、ただ早すぎるハロウィンの人みたいになっていた。やはりルーマニアのあの景色がドラキュラを生み出すのだ。
かなり多くの人が現地ではドラキュラの格好をしていると思った。でも、誰もしていなかった。お土産屋でドラキュラのTシャツは売っていたけれど、それを着ている人も少なかった。その結果、割と人気だった。問題は日本人に会った時。ただマントは顔を隠すのも便利だ。ドラキュラの衣装は考えられている。
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