アナログとデジタルが共存するフェーズ
最後に坂本さんが、いまのボードゲームブームについて「やっとアナログとデジタルが共存しはじめた」といっていたのが印象的だった。
振り子のようにデジタルとアナログのあいだを流行がいったりきたりしていたのが落ち着き、両者が共存しはじめたのが今なのでは、と。
なるほど、たしかに「ダイヤモンドゲーム」の大型バージョンが売れているというのは回顧主義みたいなものではなく進歩のように見えた。
取材協力:株式会社ハナヤマ
近所のバザーで古いボードゲームを見つけた。見るとかなりの美品だ。
値段を聞くと10円でいいという。そんなわけにはと100円払ったところ(それでも100円…!)悪いからおまけするねと、少し状態の悪い別のゲームまでつけてくれた。
ボードゲームにはとくべつ詳しくはないものの古いデザインがたまらない。良い~~!
調べたところ発売元の玩具メーカーは今もなお脈々とボードゲームを作っているようだ。
古い雰囲気に全方面でぐっとくる。箱は劣化しているが年月を経てもボードのつくりや印刷が美しいままなのがすごい。
「コピット」は「帽子とりゲーム」ともいい、たとえばリバーシやダイヤモンドゲームのような国際的で一般的なゲームのようだ。
このゲームたち、いつごろの商品なんだろう。
検索してみると「はなやま智育玩具K.K」は現在「株式会社ハナヤマ」という社名で営業を続けているようだ。
・いつごろの商品なのか
・「名探偵」にはどんなカードが入ってたのか
この疑問……取材させてもらってなんとか解明できやしないだろうか……。
「バザーで御社の古いゲームを買ったんで、見ませんか?」
取材とはいえ動機的に浮かれ100%の打診ではあったが、なんとこころよく受け入れていただき秋葉原の本社にうかがえることになった。
無邪気におうかがいしてしまったことに今さら気づいて恥ずかしさでお腹がいっぱいになってきたが、マーケティング部の坂本忠之さんは「うちの商品に興味を持っていただいてありがとうございます」とていねいに迎えてくださった。
ここまで来たからには開き直っていきなり持ってきたゲームを見てもらってしまおう。
……。
うれしい……!
しまった、つい買い物が美品だったうれしさを叫んでしまった。
坂本さんによると、古い商品は会社の倉庫にも残っていないものが多いんだそうだ。
「商品を撮影したポジフィルムすら残ってないんです」とのことだが、カタログはきれいに保管されていた。
坂本さん:これが1972年のカタログです。一番ボードゲームが売れていた時代、という言い方をしていいかと思います。
坂本さん:わかりづらいかもしれないですが、ここにお持ちの「名探偵」がありますね。
坂本さん:「名探偵」はカードに手がかり、眼鏡をかけているとかヒゲが生えているとか、そういう条件が書いてあって、それを引いていって条件を絞り込んで犯人を当てるゲームです。
古賀:当時は350円だったんですね……!
坂本さん: はい。同等の商品がいまは2000円です。
古賀:物価感がリアル……!
坂本さん: 「コピット」の方は1964年(昭和39年)の、このカタログに載っているものと同じものじゃないかと思います。
ということで、私がバザーで買ったゲームは「コピット」の方が昭和39年(1964年)ごろ、「名探偵」の方が昭和47年(1972年)ごろに販売されていたものと、とんとん拍子で明らかになった。
そこそこ古いだろうとは思っていたが、1964年って東京オリンピックの年だ。
バザーで買ったとき、品物は近所の方の押し入れに眠っていたものを集めたのだと聞いた。押し入れがすごい。
古いカタログを見せてもらっていると、生まれの年代より前の時代のものかつ自宅になかったものもにも見覚えを感じる。きっと友達の家にあったとか、そういうことだろう。
おもちゃは家庭の中にあるもののなかでもひときわ個性ある形をしていて印象的だ。記憶のひだに残りまくるのかもしれない。
さらにさかのぼって保管されている一番ふるいカタログも見せてもらった。1950年代後半くらいのものだそうだ。
1950年代後半から1970年代前半の3冊のカタログ。10年ごとに物価がしっかり上がってカタログの様相も変わっている。
高度経済成長ってこれか。
持ち込んだ疑問はすっかり解明され、うっかり高度に成長した経済まで目の当たりにした。時間が濃密だ。
と、坂本さんから私は気づいていなかった部分に話が及んだ。
坂本さん: 「コピット」のこの部分ですが、登録商標とありますよね。
坂本さん: 弊社は創業者が花山直康というんですが、かなりいま風のビジネスマンと申しますか、契約書だとか知的財産権というものに当時すでに重きをおいていたようなんです。
坂本さん: 特許もそうですし、当時はいろんな商標をもっていたんですよ。「ダイヤモンド」とか「タクシー」とか、今では商標としては取得できないような普通名称みたいなものも。「こども銀行」という商標をうちで所有していたこともあるんです。
そもそもボードゲームに目を付けたというのも創業のころはかなり先見の明があった、珍しいことだったようだ。
お話を聞きながら気づいたのだが、坂本さんの背後には「ダイヤモンドゲーム」が元気いっぱい棚に並んでいる。
創業当時から扱いはじめ、現在でも売れ続けているのだそうだ。
では「コピット」や「名探偵」はいまも販売されているんだろうか。
坂本さん: 「コピット」は単品では扱いがなくなりまして、近年はセットのなかに入っていたんです。一つのゲーム盤にいろいろ差し替えて遊べる、こういうタイプです。
坂本さん: 地味ながらずっと売れ続けている商品です。このなかに「コピット」も入っていました。
ただ、つい数年前に「コピット」は外しまして。
坂本さん: 社内でもかなり物議をかもしました。「コピット」を抜いてしまっていいのかと。「コピット」はいまはもう売ってないんですかというお問い合わせもいただきます。
古賀:社内外から「コピット」を惜しむ声が!
ルールはユーザからの問い合わせで見えてきたわかりにくいところやあいまいなところを整理して改善してというのを繰り返しているのだそう。
そうすることで時代に即した言葉にちゃんと切り替わっていくのだから面白い。
純粋なゲームのおもしろさがまずある。それが価格やルールの文言や缶がプラスチックになるなど様相を変えながら時代をこえて作り続けられていて、今も問い合わせが入る。
強い遺伝子が生き残りをかけて頑張っている感じで興奮でしかない。
いやあ興味深いですなあととすっかり堪能したころ、坂本さんが少々おまちくださいと会議室を出て行き、しばらくして戻ってきた。
坂本さん: 宣伝になってしまうかもしれないんですが、 実はちょうど今月、創業当時のブランド名だった「花山ゲーム研究所」を復活させたんです。
古賀:「カードのヒントを基に、犯人・凶器・殺害現場を推理していくカードゲーム」って「名探偵」にかなり近いゲームですよね……。
坂本さん: 本当に宣伝というつもりじゃなかったんですが!
古賀:すごい! これは偶然ですね……!
なんとこのタイミングで「名探偵」の血を継いだゲームが復刻していたのだ。さらにこの「花山ゲーム研究所」ブランドで7月にまさに「名探偵ゲーム」のタイトルでリメイクして販売になるのだそう。
取材にやってきた記者と、取材を受けた広報担当者が顔をみあわせ、これ、ステルスマーケティングになりませんかね!? と妙な心配をするくらいの偶然だった。
このほかにも今回はかなり偶然が重なった取材だった。
ハナヤマは昭和の時代に会社としていったん解体しており、そこを先代の社長である小林邦巖氏が事業をまるごと引き継いで継続したんだそうだ。
引き継ぎのタイミングで社名が「コバヤシ」になっていたら検索で今日ここにたどりつけなかった。
さらに、バザーで入手したのが「コピット」だけだったら、「はなやま」の手掛かりが得られずこれもアウトだったろう。
このゲーム、このご縁でハナヤマさんにお譲りすることになった。今後は資料として保管されることになる。
偶然が一周した。
最後に坂本さんが、いまのボードゲームブームについて「やっとアナログとデジタルが共存しはじめた」といっていたのが印象的だった。
振り子のようにデジタルとアナログのあいだを流行がいったりきたりしていたのが落ち着き、両者が共存しはじめたのが今なのでは、と。
なるほど、たしかに「ダイヤモンドゲーム」の大型バージョンが売れているというのは回顧主義みたいなものではなく進歩のように見えた。
取材協力:株式会社ハナヤマ
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