すべては寝る場所を確保するために
増倉さんは一度貝殻を拾いに行くと、多い日には2~300個ほどの貝殻を拾ってくるという。それを30年以上も続けていると家が貝殻だらけではないのだろうか。
それは痛いからさ、なんとか場所を空けてね。やってる人はプレハブ借りたりしてるみたいだけど、うちは狭い家だからさ。
そこで増倉さんは、二つの解決策を見出した。一つ目がこちら
【寝る場所を確保するために考えた施策その1】
微小な貝を集めることにした
たくさん集めるために、探す対象を小さいものに限ったのだ。
大きな貝だと増えていくと寝る場所なくなっちゃうから、小さい貝を探すことにしたの。「微小貝」っていって、いま研究分野でもわりと人気なんだよ。みんな目に見えるのは調べつくしちゃったみたいで。たとえばこれ見て。
これはきれいな柄ですね。でもそんなに小さくもないように見えますが。
この貝の場合、大人になっても2mmくらいなのだとか。模様の種類が豊富なので飽きないし、なにしろいくら集めても寝る場所を圧迫しない。
しかも見せてもらってわかったのだけれど、ルーペで覗くと宝石を見てるみたいでそれだけで楽しいのだ。
たくさんの貝を保管するための施策は他にもある。
【寝る場所を確保するために考えた施策その2】
博物館に寄贈する
日を増すごとにたまってくる貝殻。増倉さんは寝る場所を確保するため、新たなる手を考えた。それが寄贈である。
ちょうど翌日寄贈する予定だという貝殻を見せてもらった。
すべてがナンバリングされており増倉さんのデータベースに紐づいている。そこまで調べ尽くして気が済んだものを博物館に寄贈するのだ。
これはちょっと手間のかかりかたがすごくないでしょうか。
このくらいちゃんとデータと紐づけて納品しないと、受け取った方も困っちゃうからさ。
ギブアップ標本とは
分類できたものは博物館に寄贈するとして、まだ分類できていないものもあるんですか?
あるよ。たくさんある。ギブアップ標本って呼んでいて、まだ家に10箱くらいあるかな。
増倉さんはむしろこの「ギブアップ標本」の方が手放せないのだという。理由は「わからなくて腹が立つから」。増える。これは家に貝殻が増える。
増倉さん、貝を拾うのと拾ってきた貝を調べるのと、どっちが好きですか。
拾う方はなんとなく楽しそうだなとわかるんですが、調べるのはそれはもう作業になっちゃいませんか。
それがさ、貝の種類が特定できた瞬間が感動するのよ。「これにちげえねえ!やっぱりそうだ!」ってなる。これはたまんねえね。
急に江戸っ子になるほどの興奮である。
そうやってさ、感動っていろんなところにあるわけよ。
この小さな感動が形になったのが増倉さんのブログだったわけだ。やはりブログの主に話を聞くと見え方がまったく変わる。そして自分でも貝殻を拾ってみたくなっている。
「ターゲットヒット」は増倉さんが作った言葉
そんな単純じゃないね。まずはターゲット、狙いをつけるの。この貝がここにいるはずだ、って。詳しい学芸員さんとか先生なんかに話を聞いたりもする。ターゲットが決まったらそこに行くまでの手段を整える。宿の予約をして飛行機とって、で、いざ海に行って探すわけ。
そしたらその通りに見つかるんですか(ドキドキしてきた)。
そしたらよおめえ、一人で来てんのに声出るからな。「やったー!」っつって。これが貝殻拾いの醍醐味「ターゲットヒット」よ。
すごい。知識と経験、それに入念な下調べした結果、みごと当たればそれは楽しいだろう。貝殻集めの魅力が少しわかった気がした。あと増倉さんは興奮すると江戸っ子になることもわかった。
増倉さんがその「ターゲットヒット」を成功させるのはどのくらいの確率なんでしょう。
いよいよ増倉さんと一緒に貝殻拾いに行きたくなった。
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