もともとは鍵の会社
春に何度か東京駅で新幹線に乗ったのだけど、そのときたまたまコインロッカーがたくさんあるエリアを通りかかったのだ。
左手前の壁に「こちらはXのロッカーです」と書いてあるけど、これ別に元Twitterとかではなく、コインロッカーにAとかNとか名前がついている。
ちなみにこのエリアにはXとYとZのコインロッカーがあり、合計1219扉ものコインロッカーがあるという。
インバウンド需要もあるだろうしなぁ、それにしても異国のコインロッカーをよく使うなぁ、怖いくないのかなぁ、荷物が出せなくなったら詰んじゃうもんなぁ、と心配性を発動させていて、ふと思った。
日本で初めてコインロッカーを設置したのは誰なんだろう?
その会社こそ、株式会社アルファロッカーシステム。詳しいことを聞くために横浜市金沢区の本社を訪ねた。
あ。すいません、ちょっとこの写真の右側をよく見てもらえますか。
この南京錠を作っているのは、住宅や産業用のキーロックを製造販売する株式会社アルファ。株式会社アルファロッカーシステムは、そのグループ会社にあたる。
つまり、もともとは鍵の会社なのだ。創業は1923年。100年以上も前のこと。
中村さん:日本で初めて量産型のシリンダー錠を製造販売したのがアルファなんです。住宅用の鍵から始まって、自動車向けのキーセットを製造し、戦時中は双眼鏡のボディも作ってました。
ちなみにさっきのウルトラ南京錠、ちゃんと開けられます。
そんななか、創業者がアメリカ視察のときに現地で見かけたのがコインロッカーだった。
中村さん:住宅用の鍵だと100軒分買ってもらうのって大変ですよね。でもコインロッカーだったら、鍵100個なんてすぐじゃないですか。
えっ、それはつまり「荷物を預けられたら便利だなぁ」というところからスタートしたのではなく、「一カ所でたくさん鍵を使うから」という理由でコインロッカーに注目したってことですか……!
広まったきっかけは「市民プール」
これは鍵をいっぱい売るチャンス。創業者の和田さんはさっそく米フレキシブル社と技術提携し、日本で初めてコインロッカーを設置した。それが1964年。最初の東京オリンピックが開催された年。
どこに置いたかというと新宿駅である。
人でごった返す新宿駅である。さぞ注目されたかと思いきや、「まったく使ってもらえなかったらしいんですよ」と中村さんは言う。
中村さん:当時、荷物は駅の手荷物預かり所に預けるものだったんですね。「コインロッカー」という考え方自体がそもそもなかった。最初はスタッフがついて、使い方を教えていたと聞いています。
それまで人に預けるのが普通だったのに、「この箱に荷物を入れて」と言われるのだ。確かにそれは「えっなにそれ」となるかも。
まったく新しい概念だったため、最初は苦戦したコインロッカー。全国に普及したきっかけは市民プールだったという。プールですか?
中村さん:公共事業の一環で、各自治体に公営のプールが作られるようになったんですよ。着替えや荷物をしまう場所が必要だからと使われるようになって。狙ったわけではなく、本当にたまたまですよね(笑)。
さらに1970年には大阪万博でもコインロッカーを展示。一般的に認知されるようになり、利用者も増え始めた。
中村さん:この当時のコインロッカーは、追加料金や日送り(日をまたいだ利用)の機能はなく、一回利用タイプのものでした。それ以外の基本的な機能は今と同じですね。
何度も出し入れできるコインロッカー
そこからコインロッカーは徐々に進化を遂げていく。硬貨が何枚か入れられるようになり、追加料金が加算できるようになり、入れた100円が後で戻ってくるタイプができ……。
現在のラインナップを聞くと、14種類にもなるそうだ。そんなに。
中村さんに代表的なものを紹介していただいた。まずは東京駅でも見た、現金やICカードなどの決済に対応したタイプ。
中村さん:最近は、自販機にもついているマルチ決済端末に対応して、QRコード決済やタッチ決済もできるようになりました。インバウンドのお客さま向けに、スキー場などにも設置が進んでいますね。
スキー場にもコインロッカーある……! 板を入れるのに細長いロッカー必要ですよね、と話すと「那覇空港にはサーフボードが入るコインロッカーがありますよ」とのこと。上には上がいた。
見たことある色!と思っていたら、これは「デポロッカー」というタイプのもの。よく見ると、「お帰りボタン」というボタンがついている。
中村さん:最初に支払をしたあと、何回も荷物を出し入れできるロッカーなんです。帰るときに「お帰りボタン」と、料金の一部が返却されるんですよ。体育館やプール、スキー場とかで使われていますね。
コインロッカーに荷物を入れたあと「財布も入れちゃった!」みたいなことってある。すごい便利じゃないですか……!
最近できたんですか?と聞いたら2001年からあるそう。単純に僕がレジャー施設に行っていないだけだった。
置かれる場所でどう使われるかによって、いろいろなタイプが開発されているんですね。
中村さん:うちの会社は「ロッカーください」って言われても、すぐ売りたがらない(笑)。「どんな使われ方するんですか」「どんな運用するんですか」って聞きたがるんですよ。その場に合ったものを選ばないと、きちんと機能しませんし、担当される方にも負荷がかかりますから。

