特集 2025年7月17日

日本で初めてコインロッカーを作った会社にコインロッカーのことを根掘り葉掘り聞く

去年、コインロッカーは還暦を迎えていたという。

日本で初めてコインロッカーが誕生したのが1964年。生まれたてのコインロッカーってどんな感じだったのだろう。

日本で初めてコインロッカーを作った会社に、気になるあれこれを聞いてきました。

1975年宮城県生まれ。元SEでフリーライターというインドア経歴だが、人前でしゃべる場面で緊張しない生態を持つ。主な賞罰はケータイ大喜利レジェンド。路線図が好き。(動画インタビュー)

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もともとは鍵の会社

春に何度か東京駅で新幹線に乗ったのだけど、そのときたまたまコインロッカーがたくさんあるエリアを通りかかったのだ。

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グランスタからちょっと入ったところ。

左手前の壁に「こちらはXのロッカーです」と書いてあるけど、これ別に元Twitterとかではなく、コインロッカーにAとかNとか名前がついている。

ちなみにこのエリアにはXとYとZのコインロッカーがあり、合計1219扉ものコインロッカーがあるという。

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そんなにあってもほとんど埋まっていたりする。東京は怖いところだ。

インバウンド需要もあるだろうしなぁ、それにしても異国のコインロッカーをよく使うなぁ、怖いくないのかなぁ、荷物が出せなくなったら詰んじゃうもんなぁ、と心配性を発動させていて、ふと思った。

日本で初めてコインロッカーを設置したのは誰なんだろう?

その会社こそ、株式会社アルファロッカーシステム。詳しいことを聞くために横浜市金沢区の本社を訪ねた。

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株式会社アルファロッカーシステム 事業計画部の中村さんにお話を伺いました。

あ。すいません、ちょっとこの写真の右側をよく見てもらえますか。

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お分かりいただけただろうか。ショールームの中に、すんごい大きな南京錠がある。
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近づくとこう。この「ALPHA」のロゴ、見覚えがある人も多いのでは。

この南京錠を作っているのは、住宅や産業用のキーロックを製造販売する株式会社アルファ。株式会社アルファロッカーシステムは、そのグループ会社にあたる。

つまり、もともとは鍵の会社なのだ。創業は1923年。100年以上も前のこと。

中村さん:日本で初めて量産型のシリンダー錠を製造販売したのがアルファなんです。住宅用の鍵から始まって、自動車向けのキーセットを製造し、戦時中は双眼鏡のボディも作ってました。

ちなみにさっきのウルトラ南京錠、ちゃんと開けられます。

そんななか、創業者がアメリカ視察のときに現地で見かけたのがコインロッカーだった。

中村さん:住宅用の鍵だと100軒分買ってもらうのって大変ですよね。でもコインロッカーだったら、鍵100個なんてすぐじゃないですか。

えっ、それはつまり「荷物を預けられたら便利だなぁ」というところからスタートしたのではなく、「一カ所でたくさん鍵を使うから」という理由でコインロッカーに注目したってことですか……! 

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創業者の和田和一氏。「運は前髪をつかめ」とよく言っていたという。幸運の女神には前髪しかない、というあの話ですね。
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広まったきっかけは「市民プール」

これは鍵をいっぱい売るチャンス。創業者の和田さんはさっそく米フレキシブル社と技術提携し、日本で初めてコインロッカーを設置した。それが1964年。最初の東京オリンピックが開催された年。

どこに置いたかというと新宿駅である。

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日本で初めて設置されたコインロッカー。(画像提供:株式会社アルファロッカーシステム)

人でごった返す新宿駅である。さぞ注目されたかと思いきや、「まったく使ってもらえなかったらしいんですよ」と中村さんは言う。

中村さん:当時、荷物は駅の手荷物預かり所に預けるものだったんですね。「コインロッカー」という考え方自体がそもそもなかった。最初はスタッフがついて、使い方を教えていたと聞いています。

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コインロッカーの使い方を教えるスタッフ(画像提供:株式会社アルファロッカーシステム)

それまで人に預けるのが普通だったのに、「この箱に荷物を入れて」と言われるのだ。確かにそれは「えっなにそれ」となるかも。

まったく新しい概念だったため、最初は苦戦したコインロッカー。全国に普及したきっかけは市民プールだったという。プールですか?

中村さん:公共事業の一環で、各自治体に公営のプールが作られるようになったんですよ。着替えや荷物をしまう場所が必要だからと使われるようになって。狙ったわけではなく、本当にたまたまですよね(笑)。

さらに1970年には大阪万博でもコインロッカーを展示。一般的に認知されるようになり、利用者も増え始めた。

中村さん:この当時のコインロッカーは、追加料金や日送り(日をまたいだ利用)の機能はなく、一回利用タイプのものでした。それ以外の基本的な機能は今と同じですね。

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先ほどの写真を拡大すると、「一日一回¥50硬貨使用 時間午前7時~午後10:30時」の文字が見える。その日の夜までの利用だったんだ。(画像提供:株式会社アルファロッカーシステム)
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何度も出し入れできるコインロッカー

そこからコインロッカーは徐々に進化を遂げていく。硬貨が何枚か入れられるようになり、追加料金が加算できるようになり、入れた100円が後で戻ってくるタイプができ……。

現在のラインナップを聞くと、14種類にもなるそうだ。そんなに。

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ショールームには見たことあるコインロッカーがずらり。

中村さんに代表的なものを紹介していただいた。まずは東京駅でも見た、現金やICカードなどの決済に対応したタイプ。

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アルファロッカーシステムの最寄り駅、横浜シーサイドライン産業振興センター駅にも置いてあった。日本で一番生まれた地に近い駅コインロッカーではないか。

中村さん:最近は、自販機にもついているマルチ決済端末に対応して、QRコード決済やタッチ決済もできるようになりました。インバウンドのお客さま向けに、スキー場などにも設置が進んでいますね。

スキー場にもコインロッカーある……! 板を入れるのに細長いロッカー必要ですよね、と話すと「那覇空港にはサーフボードが入るコインロッカーがありますよ」とのこと。上には上がいた。

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この色のロッカー、よく見るよな~。

見たことある色!と思っていたら、これは「デポロッカー」というタイプのもの。よく見ると、「お帰りボタン」というボタンがついている。

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お帰りの際に押してください、という「お帰りボタン」。なんですかこれは?

中村さん:最初に支払をしたあと、何回も荷物を出し入れできるロッカーなんです。帰るときに「お帰りボタン」と、料金の一部が返却されるんですよ。体育館やプール、スキー場とかで使われていますね。

コインロッカーに荷物を入れたあと「財布も入れちゃった!」みたいなことってある。すごい便利じゃないですか……!

最近できたんですか?と聞いたら2001年からあるそう。単純に僕がレジャー施設に行っていないだけだった。

置かれる場所でどう使われるかによって、いろいろなタイプが開発されているんですね。

中村さん:うちの会社は「ロッカーください」って言われても、すぐ売りたがらない(笑)。「どんな使われ方するんですか」「どんな運用するんですか」って聞きたがるんですよ。その場に合ったものを選ばないと、きちんと機能しませんし、担当される方にも負荷がかかりますから。

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バリアフリーのコインロッカーも扱っている。車いすで利用しやすかったり、開けた扉を手で押さえる必要がなかったり、支えとなる手すりをつけたりといった工夫も。(画像提供:株式会社アルファロッカーシステム)

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