貴重品ロッカーの下半分に扉がないのはなぜ?
ショールームで「これもあるな!」と思ったのが、貴重品を入れるロッカー。これも作ってるんですね!
この機種は静脈認証でロックができる(現在は生産されていないそう)
中村さん:こうした小さな扉のタイプは、下の方に扉を作らないようにしているんです。なぜかわかります?
銭湯とかで見るタイプの貴重品ロッカー。言われてみれば下の方に扉がない(画像提供:株式会社アルファロッカーシステム)
中村さん:下の方に扉があると、しゃがんでのぞきこまないと奥まで見えないじゃないですか。見落としによる忘れ物を防ぐために、あえて下に扉をつけていないんですよ。
確かに、下の方に扉があったら、地面に膝をつかないと中まで見えなさそう。そんな理由があるなんて考えたこともなかった……!
意外と奥行きがある。カタログスペックで28cm。肘ぐらいまで入っちゃう。
他にも、無人販売用のロッカーや、商品受け渡し用のロッカーも製造販売している同社。
もはや、我々が思いつくロッカーは全部作っているようなもので、そうなるとシェアも高いのでは?
中村さん:いや、業界団体がないので統計的なデータはわからないんですよね……。毎年3万5千から4万扉はコンスタントに出荷しているんですが、新規だけでなく入れ替えもあるので、市場にどれくらいあるかまではちょっと。
そうそう、コインロッカーを数える単位は「扉」である。鍵がかかる箱ひとつが1扉。2列×5段のコインロッカーなら「10扉」だ。お金を稼ぐのは扉単位ですからね。
中村さん「型番はSが1列、Wが2列、Tが3列です。5Tなら5段の3列だから15扉。別にそこまで覚えなくていいですけど(笑)」(画像提供:株式会社アルファロッカーシステム)
どのサイズを置くか現地調査をして決める
それにしてもこんなにいろいろタイプがあって、5Wとか2Tとかあるのである。「ここにコインロッカーを置こう」と思ったとき、どれをどのくらい置くのかどうやって決めるんだろうか。
あんまり人が通らないところに、どーんと100扉とか置いてもスッカスカになっちゃいますもんね。
中村さん:そうなんですよ。なので、まず現地調査を行います。置き場所の寸法を測って、どんな人がどれくらい流れるかを踏まえたうえで、ロッカーのサイズやレイアウトをこちらから提案しているんです。
たとえばコンサートホールだと、地方から来るお客さんもいるからキャリーケースが入るように大きな扉サイズも用意しておきたい。
一方、オールスタンディングのライブハウスなら、手ぶらになりたい人が多いから小物も預けられるように小さな扉サイズを多めに用意しておきたい。
さらに、周辺のコインロッカー設置状況も把握して「この辺にあれとこれがあるから、ここはこれくらいあればいいか」とまで考えるのだそう……!
中村さん:東京ドームみたいなところは、会場まで大きな荷物を持っていきたくないじゃないですか。最寄り駅で預けるのが理想ですよね。なので「最寄り駅でロッカーが空いてなくて会場まで持ってきた」という状況まで考えて、ボリュームを設計します。
ここをちゃんと設計しないと、「大きな荷物を入れたいのに、小さい扉だけいっぱい空いてる」みたいなことが起きてしまうのだとか。大変だ。
重い荷物を高く上げられない人もいるため、上段は小さめ、下段は大きめのサイズにしたりする。いろんな人が使うことを考えないといけない。
そうだ、コインロッカーって個人でも買えるんですか?「うちの近くのライブハウスに人がいっぱい集まるから、コインロッカー置いて儲けよう」みたいなこともできる?
中村さん:できますよ。コインロッカーの運営を専業にしている会社があるので、そこを通じてロッカーを買って、売上をもらう形ですね。
ちなみにアルファロッカーシステムは製造販売も運営も両方やっている。
「ロッカーを販売してその利益を得る」というパターンもあれば、「場所を借りてロッカーを置かせてもらい、貸主と売上を分配する」というジュースの自動販売機と同じパターンもあるのだという。
ただ、置きっぱなしにすればいいわけでもない。運用やメンテナンスも大切だ。
中村さん:定期的に清掃しないといけませんから。日送りのコインロッカーだと、「3日目以降は荷物を別途保管する」と約款で定めているので、毎日の忘れ物チェックも欠かせません。とはいえ、飲料と比べて在庫やゴミもないので、現金収入としては優秀かもしれないですね。
利用者が多い東京駅や新宿駅などは、最低1日1回はメンテナンスの人が巡回しているそう。大変だ。
鍵をなくしたときが心配
そうそう、カギをなくしたときが心配なのだ。
自分の荷物は確かにこのロッカーに預けている。でもその荷物は自分のものだと、どうやって証明したらいいんだろう。カギをなくしたことを、どうやって信用してもらったらいいんだろう。無理じゃないか。「嘘つけ」って言われたら終わりなんじゃないか。
どうなんですかその辺。信じてくれるんですか。
中村さん:3日以上経過して別途保管になったときは、お客さんに荷物を見せずに「中に何が入っていましたか」と聞きますね。あとは最新のロッカーだと、操作画面の上にカメラがついているので、本人かどうか顔を確認することもできますよ。
本当だ。カメラがついている。中村さん「荷物を入れたときに顔を記録して、荷物を出したときに記録を消すようになっています。プライバシーの問題があるので」
顔が記録されてるんだ。じゃぁロッカーの前で「カギ無くしちゃったんですけど……」と電話したら、ちゃんと見てくれるんですか。
中村さん:そうですね。ロッカーの前に立ってもらって、ライブの映像と入庫時の記録が一致するか本人確認をします。OKなら、遠隔操作でお客さんに「扉を開ける権限」を与えて、本人の操作で扉を開けてもらいます。
そんな面倒なことしなくても、遠隔操作でガチャッと開けちゃえばいいのではと思うが、「もし誤操作があると責任問題になるので、遠隔操作で開けることはできないんです」とのこと。確かに、間違えてとなりの扉を開けたら、別の人の荷物を出せちゃいますもんね。
コインロッカーでフードロス対策
最後に、最新のコインロッカーニュースをひとつ。
アルファロッカーシステムでは、横浜市と連携して「SDGsロッカー」という取り組みを行っている。これなにかというと、消費期限が近づいた専門店のパンを、割引価格で売るロッカーなのだ。フードロス対策である。
SDGsロッカー。キャッシュレス決済にも対応し
、3列や4列のタイプもある。最近Instagramも始めたそうですよ(画像提供:株式会社アルファロッカーシステム)
中村さん:食品ロスを減らせるだけでなく、パン屋さんにも「早く閉店できる」というメリットもあるんです。売り切るまで店を開けなくていいので、人件費も削減できる。人通りの多い場所に設置されているので、店のアピールにもなっているようですね。
SDGsロッカーは、横浜市庁舎や市営地下鉄関内駅、横浜銀行アイスアリーナなどに設置。評判は上々で、設置場所を拡大すべく地域のパン屋を募集しているとのこと。
最初は新しすぎて「なにこれ」と思われていたコインロッカー。荷物を預ける用途から、荷物を受け取ったり、無人販売をしたり。60年経っても新しい概念を生み続けている。
治安がいいから現金が使える
海外のコインロッカー事情について聞いてみると、欧米や北米はクレカ決済、アジアはコード決済が主流。防犯上の理由から、現金は使われていないという。
裏を返すと、日本では今もコインロッカーに100円玉をチャリンチャリンと入れて使っているのは、治安の良さの表れだと言えるだろう。
でもお金を回収するのは大変みたい。台車が使えないスキー場なんかは、何十キロもの硬貨を手で運ぶこともあるんですって。
今度からコインロッカーを使うとき、お金の行方までちょっと想像することになりそうです。
取材ご協力ありがとうございました!
取材協力:株式会社アルファロッカーシステム
編集部からのみどころを読む
編集部からのみどころ
日本で初めてコインロッカーが設置されたときは「まったく使ってもらえなくてスタッフがついて教えていた」というエピソードは「へ~」と言いたくなります。 無人の箱に預けるなんて、最初は確かに不安ですよね。
コインロッカーを数える単位は「扉」。こういうコネタは誰かに言いたくなります。(橋田)