特集 2019年8月30日

海外だってタピオカブームだ

日本のタピオカが止まりませんね。

最近はタピオカ丼なるものが登場したり、ガラパゴスな進化の道を辿りつつあります。ただこのタピオカミルクティーブーム、日本には遅く来た方で、世界各地ではけっこう前から来ていたようです。各国に住むライターにタピオカ事情について聞いたところ、流行の背景も見えてきました。インスタはもちろん、「貧者の食べ物」と「アジア系コミュニティ」が鍵です。

※この記事は、 世界のカルチャーショックを集めたサイト「海外ZINE」の記事をデイリーポータルZ向けにリライトしたものです。

海外ZINEは、世界各地のカルチャーショックを現地在住ライターが紹介する読み物サイトです。 / 1984年生まれ、大阪出身。海外ZINEの編集長です。ベトナムに片足をつっこみながら記事を書いたりサイトを運営したりしています。

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2016年に感じたベトナムのタピオカブーム

右を向けばタピオカ、左を向けばタピオカ、前を向いてもやっぱりタピオカ。タピオカ狂想曲と言わんばかりの『タピオカミルクティー』ブーム。黒くてまぁるいその見た目、太めのストローでスポポンッと吸い上げる楽しさ、口の中でモッチモチと歯にくっついては離れるその食感……と、説明不要なほど世に広まっています。

今や専門店のみならず、ドトールやタリーズなどのカフェチェーンに、ロッテリア、ローソン、そして回転寿司のスシローまで! さまざまなお店がタピオカ・バトルロイヤル(?)に参戦しているとのこと。

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人気店『THE ALLEY』のタピオカミルクティー、世界18カ国・地域に展開。

タピオカミルクティー、もともとは1980年代に台湾の喫茶店で生まれたと言われており(台中の『春水堂』説と台南の『林茶館』説の大きくふたつ)、2018年頃から火が着いた日本での流行は、2000年頃と2008年頃につづく「第三次タピオカブーム」とも言われています。

しかし、ご存知の方もいらっしゃるかとは思いますが、日本に限ったものではありません。たとえば私自身が暮らしているベトナム、少なくとも知る限りでは日本に先駆けて2016年の時点ですでにやってきておりました。

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有名チェーン店『GONG CHA』に集まるひとびと(2016年12月撮影)

当時、ホーチミンシティで人だかりのできた店を発見。外食文化が盛んなベトナムは選択肢も多く回転率も高いため、わざわざ客待ちの列ができるほどの繁盛店はそれほどお目にかかれません。そこで「これは珍しい」と思って撮った写真が上記にあたる訳ですが、このお店こそがタピオカミルクティーブームを牽引するひとつ『GONG CHA』だと知ったのはあとのこと。

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若者が集うエリアでは、5軒ものタピオカミルクティースタンドが並ぶ光景も見られる。

(首都の)ハノイでは2006年の頃にはあった、という話も。これは2008年に起こった日本での第二次ブームの2年前と考えるとタイミングが一致します。意外ともしかすると、中華圏発のブームが伝わる上で、ベトナムと日本には2年ほどの時間差があるのかもしれません。

 

で、タピオカのなにが世界を虜にしたの?

しかし、ベトナムだけではなかった! 海外ZINE(※元記事のサイトです)で各国について執筆するライターを中心に、「タピオカ目撃情報」を聞いてみると……!!

この通り!

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"上海では完全に日常のもので、10年以上前からあるようです。混んでいるお店もありますが、受け取るまで10分かかるくらい。日本のような行列は見ないですね。"(中国・海辺暁子さん)
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"タイでも流行っていますね。記憶が確かなら、20年前くらいも日本やタイで流行っていて、再びって感じでしょうか。タイだともともとスイーツの材料にタピオカがあるので、すんなり受け入れられた感じです。"(タイ・高田胤臣さん)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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タイのタピオカミルクティー。

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"メキシコでも見かけますが、アメリカで流行った影響から入ってきていると思います。ここ5~6年で一気に日本人が増えたレオンという地方都市では台湾系のStarlightというカフェが在住日本人御用達という感じですが、もともと台湾系資本が幅を利かせている街で、マッサージやレストランを展開していたので、その一環でしょう。"(メキシコ・Mariposa Torresさん)
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"ベルリンは数店舗見かけます。一瞬流行りこそしたのですが、「砂糖が多い」などの理由からすぐに数が減ってしまいました。今はアジア人のティーンエイジャーが顧客の中心みたいで、フランクフルトやミュンヘンなどの大都市にもあるみたいです。"(ドイツ・久保田由希さん)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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これはベルリン。

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"ミラノでも見ますが、中華街でのみです。飲んでいる人もアジア人が中心で、おそらくイタリアの他都市も同様だと思います。"(イタリア・鈴木圭さん)
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"ミャンマーでは2014年頃にChatimeが上陸(現在は契約解除で撤退済み)して以降、目に付くようになったと思います。ただ、ファルーダという、タピオカ入りのドリンクに近いおやつが昔からあるため、「新しいドリンク」というイメージはなく、かつ一杯の価格がOLクラスの平均的月給の1/100はする(日本でいえば2000円前後)のでブームとまでは言えないと感じています。"(ミャンマー・板坂真季さん)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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これはミャンマー。

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"タイ料理や中華料理のレストランのメニューにはあります。ただ、ショッピングモール内のカフェにはメニューに載っているのを見たことがないですね。そもそもコーヒーを「冷やして」飲むようになったのは最近のことで、ティーに関してはホットで飲むものというのが今でも一般常識になっています。"(カタール・福嶋タケシさん)

ライターではありませんが、韓国人の友人からも。

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"僕が大学の頃(2013年前後)もタロミルクバブルティー(タロイモを使った紫色のタピオカミルクティー)が流行ってましたね。今年から黒糖タイプを押し出してきて、さらにまた盛り上がってる感じ! 日本と同じく若い女の子に人気です。ちなみにゴンチャも今は韓国資本になっています。"(韓国・諸俊赫さん)

台湾発でも、アジア圏に留まることなく、タピオカミルクティーは世界各地にすでに展開していたという!……と、ブームになっているかどうかはそれぞれですが。

到来時期も併せて見てみると、日本が遅かったのではないかと思うくらい。そこでひとつの疑問が浮かびます。

なぜ??

素朴かつ単純な疑問。日本でのブームの背景を探るコラム記事もあり、また一方で「スイーツとドリンクの中間で手に取りやすかった」という商品そのものの魅力もありますが、味覚などの感覚を越えた全世界で再現性のある背景もあるはずです。そこで海外ZINEでは、すでに挙げた目撃情報から仮説を立ててみることにしました。信じるか信じないかは、あなた次第……!

 

インスタグラマーはブーム到来前に知っていた?

黒くてまぁるい見た目がかわいらしいタピオカ(最近は黒くないことで差別化を図るものもありますが)。その見た目が「映える」として、インスタ映え需要にガッチリとハマったとも言われています。日本だけでなく、タピオカミルクティーは英語で『Bubble Tea』、中国語(繁体字)で『珍珠奶茶』、韓国語で『버블티』、それぞれのキーワードのハッシュタグの検索ヒット数は……

Bubble Tea(1,543,948件)

珍珠奶茶(164,914件)

버블티(208,335件)

この通り! とんでもない数の検索結果が出てきます(2019年7月26日時点)。

なお、「タピオカ」で検索すると英語圏を網羅するはずの「Bubble Tea」に匹敵するヒット数なので改めて日本の熱狂ぶりはすごいなとも言えますが、英語では「Boba tea」や「Tapioca」、中国語でも「波霸奶茶」といった呼称があるので、そこが日本だとタピオカひとつに絞られやすいから多いという理由もありそうです。

ここで「インスタ映えするから流行った」と言ってしまうと簡単な話ですが、もっと深いところでInstagramはタピオカミルクティーのマーケティングに関わっているのではと思います。

ずっと疑問だったのは、ベトナムでのタピオカブームが突然はじまった(ように見えた)こと。日頃から街中でネタ探しをしている割に、こうしたことは後にも先にもタピオカだけでした。もしかしたら、現地で徐々に受け入れられてというよりも、出店前から有名だったのではないか? ここで思い出した存在が、今から5年前にオープンしたマクドナルド1号店でした。

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マクドナルド1号店オープン初日の夜(2014年2月撮影)

ベトナムでマクドナルドが出店したのは、2014年と実は最近の話(ちなみに日本の一号店は1971年に銀座にできた)。時期こそ遅いもののグローバル企業だったマクドナルドは国内でも十分な知名度を誇っていたため、オープン初日からお客さんが殺到。整理券が配られ、長蛇の列ができるほどでした。その船出を盛り上げるべく派手派手しくステージやDJブースが設置され、まるで音楽フェスのような盛り上がりを見せていたことを覚えています(今は苦戦しているとも聞きますが……)。

なぜベトナム人はマクドナルドを知っていたのか? インターネットという情報網もありますが、その知名度の背景にはベトナム戦争を背景として国外へ渡った難民や亡命した資産家など、世界に450万人いると言われる「越僑」によるネットワークがあったのだと私は考えています。その1/3以上がアメリカ系(在住)だと考えると(出典)、むしろ待望されていたかもしれません。

タピオカミルクティーの場合、その越僑ネットワークの役割をSNSが担い、中でもInstagramにより世界中の流行に敏感なインスタグラマーが知っていた。そして、彼らがアーリーアダプター(新たに登場した商品・サービス・ライフスタイルを早期に受け入れ、ほかの消費者・ユーザーへ大きな影響を与える利用者)として国内のフォロワーへと広めたのではないか。

各国上陸前にインスタグラマーが知っていたか。これを確かめる方法はありませんでしたが、少なくとも検索数の多さからも、その存在が結果的に拡散を担い、そしてハッシュタグとして定着したことは間違いありません。

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タピオカは『貧者の食べ物』だった

調べる過程で耳にした、おもしろい話があります。タピオカの原料はキャッサバです。昔授業で耳にした方も多いと思いますが、アフリカとアジアの熱帯地域を中心に栽培され、茎を地中に挿すだけで発根し、そのまま育つという食物。生産性が高ければ原価も安く、かつタピオカに加工・乾燥させれば保存も輸送も比較的容易い。

このキャッサバはもともと扱いが散々だったようです。

例えば原産地ブラジルでは“cultura de pobres”、またアフリカ地域でも“poor man’s food”、“neglected food”あるいは“women’s crop”などと呼ばれ、さらに比較的遅く伝わったとみられる東南アジア、インドネシアでは“makanan orane miskin”とみなされるなど、日本の「イモ野郎」同様いずれの地域でも「貧者の食べ物」として蔑称を与えられているのである。(『世界のキャッサバの生産動向|農畜産業振興機構』より)

これに加えて、

特別な機材も不要だし、スタッフにも特殊な技術を教えなくてもいい。タピオカという原料の品質さえ担保できれば、独自のノウハウがなくてもおいしいドリンクができる。つくる人間の「腕」で味が大きく左右されるわけではないので、事業者側からすれば、参入のハードルが低いのだ。(『「黒タピオカドリンク」が20年を経て、再ブームになっている背景 (5/6)』より)

という声もある。つまり、安くて、扱いが簡単で、ブーム化している。まさしく「貧者の食べ物」と罵られてきた(?)存在がお金に変わる絶好のチャンスだった。商売っ気のある人なら「手を出したい」と思っても当然。もちろん、茶葉にこだわったり、パッケージや売り出し方という点で差別化はありますが、逆に言えばそれ次第でチャンスがあると見ることもできる。

冒頭で、タピオカミルクティー専門店以外にも、有名カフェチェーンやコンビニ、回転寿司チェーンまで参戦と書きましたが、それはまさしくこの参入障壁の低さが成せる業なのかもしれません(スシローについては専門店とのコラボではありますが)。

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バインカン、タピオカ好きなら食べてみてほしい。

ベトナムには『バインカン』という麺料理があり、実はタピオカの麺料理。モチモチとしておいしい一方、都市部でも100~150円で食べられる庶民的な価格です。前述の目撃情報においても、タイとミャンマーではおやつの食材にもともと使われたのですでに流通している。

とはいえ、今やタピオカミルクティー市場は競合だらけのレッドオーシャン。日本でも都内は「タピオカミルクティースタンドだらけ」と聞いているので、はてさて今後どうなるかというところですが。

 

世界各地のアジア系コミュニティが広めたのか

先のタピオカ目撃情報では「中華街でしか見ない」という話がありました。とくに欧米諸国で聞かれた声で、どこでもそうですが、得てして身近ではない国の文化はその周辺国などとひとくくりに見られがちです。日本もタイ料理とベトナム料理を同一視する人は多いですから。

台湾発祥の飲み物とはいえ、それを台湾にルーツのないアジア系の人物がやっていたところで気に留める人も少ない。そうすると、タピオカミルクティーは世界中のアジア系コミュニティ(多くは華人や華僑の多い中華街)に持ち込みやすい商品だったのではないでしょうか

Boba bonanza – EXBERLINER.com

と、ちょうどこの原稿を書いているとき、ドイツ・ベルリン在住ライターの久保田さんから「英語のベルリン情報誌でベルリンのタピオカミルクティーカフェが紹介されていた」という連絡をいただきました。これによるとオーナーはベトナム人で、久保田さんによるとベルリンはベトナム系移民が多く、「アジア料理店はベトナム人オーナーが多い」とのこと。そうすると、前述の仮説に信憑性が生まれます。

なお、メキシコでは「基本的にはアメリカから流行が入ってくる」そうで、現地で『Bubble Tea』として売られているものはとくにアジア人をターゲットにしているようには見えないとのこと。それはアジア系コミュニティに広まり、徐々に定着していった結果ではないか。流行元がアメリカというのはイスラエルも同じらしいですが、在住ライターのがぅちゃんさんに聞いたところ……

 

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イスラエルではまだ上陸した感じはないですね。こっちのアジア文化はアメリカ文化としてアメリカ経由で入ってくるところがあるので、ロサンゼルスやニューヨークで主流になれば来そうです。(イスラエル・がぅちゃんさん)

 

とのことでした。すでにメキシコに展開しているあたり、イスラエルの今後が気になります。といっても、メキシコと違ってアメリカとは地理的には離れる分、時間もかかりそうですが。

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アメリカ人青年二人が立ち上げたニューヨーク発の『MATCHABAR』/©泉野かおり

先例が抹茶。日本のみならず、MATCHAとして世界中で見かける一大ジャンルで、抹茶メニューを押し出すお店は各地で見ます。アジア系スイーツであり、乾燥状態で保存しやすく輸送もしやすいという点も共通する『Bubble Tea』はこれから『MATCHA』になれるか。

 

タピオカミルクティーは商売人に優しいフォーマット

まとめると、タピオカミルクティーが世界で流行した背景(仮説ですが)は以下の通りでした。

・世界各地のインスタグラマーが知っていて、広めていった。
・『貧者の食べ物」とされるキャッサバをお金に変える錬金術だった。
・世界のアジア系コミュニティで広まり、欧米文化として定着しつつある(進行中)。

上記みっつを読み返すと、タピオカミルクティーは商売人にとって優しいフォーマットだったんだろうなと。ただ、現地からの情報を参考にしているとはいえ、私自身が現地に入って聞き取り調査までした訳ではないので、冒頭で書いた通り仮説だということは断っておきます。

 


ベトナムに来たらタピオカヌードルも食べてみて

世界の話をしましたが、やっぱり私はベトナムびいきなので「タピオカ」と聞けば途中で紹介したバインカンをついつい連想してしまいます。これもまた貧者の食べ物の影響なのでしょうか、観光客向けのベトナム料理店で見る機会が少なく、ガイドブックにも拾われづらい存在であり、結果日本のベトナム料理店でも見かけません(「扱ってるぞ!」ということでしたらすみません)。

当然ベトナムに来れば食べられる代物。南部、ホーチミンの方が多いかな。ぜひ一度、召し上がってください。よく考えたら三年前に住所と合わせて書いていました。

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テレビを見ながら下準備するバインカン屋の女性たち

 

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