特集 2024年2月24日

大磯の祭りでは神様の小屋で子どもが遊ぶ

神奈川県の大磯は、5月に行われる大きなお祭り国府祭(こうのまち)や、浜辺で大規模に行われる小正月の左義長(別名:どんど焼き)など、大きなお祭りが盛んなエリアでもある。

今回、毎年1月14日前後に行われる左義長と、その前数日間だけ行われる「お仮屋・七所参り」を見てきた。

「お仮屋」は国府祭や左義長に比べるとあまり知られていないが、町内の神様を小屋に入れ、そこに子どもも入ってお菓子を食べるなどして過ごし、その小屋がそれぞれ飾られているのが不思議でおもしろいイベントだったので紹介したい。

生まれも育ちも横浜。大人げない大人を目指し、日夜くだらないことを考えています。ちぷたそ名義でも活動しています。(動画インタビュー

前の記事:浅草・待乳山聖天は大根だらけで超短いモノレールがある


まず、今回訪問するお祭りについての概要を簡単に説明してみる。

大磯で毎年1月14日に近い週末に行われる「左義長」。町会ごとにサイトを立て、お正月飾りを集めて浜辺で燃やす火祭である。

大磯の左義長

七所参りというのは、左義長の行事の一環で前3日間だけ行われる行事だ。
この期間、町内で祀られる道祖神(よく道端で見かける、悪いものが入ってこないように村境に置かれることが多い神様)を仮の小屋(お仮屋)に移し、子どもたちはその小屋にこもって参拝者に挨拶をする。この時に捧げられた賽銭は子どもたちのお小遣いとなる……。

仮の小屋に道祖神が年一で移動するのも、あの石の神様を誰かがよいっしょって移動させているんだろうということも気になるし子どもたちが中に籠るというのも気になる。しかもこの仮の小屋、8か所も建てられるらしい……うわ~~~~見てみたい……。

気になってしょうがなかったので、七所参りの大磯に向かった。

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仮の小屋に神様が祀られる大磯へ

お仮屋が建てられている場所は、大磯駅からは徒歩10分程度の閑静な住宅街。

歩いていると電柱に立派な松が括り付けられているのを見つけた。
 

そしてその奥には一軒目となるお仮屋が見える。

 一軒目・坂下

坂下

こちらが坂下のお仮屋。仮屋は想像していたよりも立派な小屋であった。 
平日の昼間だから子どもたちはいないけど、中には学校帰りに集まるであろう子どもたちに向けた、「おまいりのひとに元気よくありがとうございましたと言おう」「みんな仲良く楽しんで」といったお約束を書いたメモが置いてあった。あったかい!

坂下から少し行った隣の地区との境に、縄がかかっていた。 

道切り

この縄は道切りと呼ばれている。魔除けの目的で下げられるもので、こちらで用いられるのは大根と御幣(神々への捧げもの。紙(紙垂)で作られていたりする)。
町によっては大根がサイコロの形に切られていたり、そもそも道切りがないところもあった。

サイコロの道切り

これも普段からあるわけではないものなので、見られてよかった……。

2軒目・浜之町 

浜之町

さっきの道祖神は宮形(御札を入れる、お宮を模した入れ物)のタイプだったけど、こちらは石の道祖神だった。これ、きっと町内の人が動かしているんだろうな……神様なんだし、自分だったらめっちゃ緊張しそう。 

ファンシーな敷物が敷いてあったり、縁起物をかたどったお餅が供えられていたりした。、もしかしなくても、町ごとに個性めちゃくちゃあるな……?

そしてお仮屋に鎮座している道祖神、普段祀られているところは、というともちろん空っぽなのである。 

空っぽのお社

なかなか見られない光景で興味深い。 

3軒目・大泊

大泊

えええ~~!? これまた前二つと全然違う~!??? 

巾着の飾りが目を引く

飾りつけが多くカラフルで煌びやかで……作り手の個性が感じられる。このカラフルなバッグのような飾りは「巾着」といい、お金が貯まるように験担ぎで飾るんだとか。
私一押しの、“推し”のお仮屋はこちらである。

4軒目・子乃神

子乃神

ここはまたいいな!! 4色の紙に書かれた書初めが、仮屋の中にもたくさん飾られている。こうしたカラフルな紙に書かれた書初めを私ははじめて見た。野暮だけど、この紙一体どこに売ってるんだろう……!

すごく雰囲気がある。この書初めや正月飾りが風にはためく姿は最高だった。ぞくぞくする。どこもそれぞれ甲乙つけがたい良さがある。

5軒目・中宿

中宿

駐車場の横のお仮屋で、道祖神はお宮のタイプ。
こちらも書初めが目をひくが、よく見ると先ほどの子乃神とは配色が微妙に違い、青が目立つ。なんでこういう違いが出るんだろう……おもしろい。

6軒目・浅間町

浅間町

こちらに祀られていたのは庚申塔だった。小屋だけではなく、祀られる神様にもそれぞれ違いがあるんだな。

後ろに見える鳥居が浅間神社だが、浅間神社には集められた正月飾りや、左義長のヤンナゴッコという行事で使われる、疫病神を閉じ込めるための仮宮が準備されていた。

仮宮

昔は松の内(1月7日)を過ぎると、子どもたちが直接正月飾りを集めに歩き回ったのだという。

正月飾り

7軒目・大北 

大北

ここはまた他と違った。お社には棒状の石が祀られ、でかい柑橘が供えられていた。 

屋根の上の藁で編まれた謎のなにか。道祖神は性神として扱われることも多いので、そういうやつなのかなと思った。

8軒目・長者町

長者町

長者町のお借屋。他の7か所とは少し離れている。現代っぽい布と、地面が見えている「仮」感。
そしてなんといっても、横に積まれた正月飾りの数がすごかった。 

すごい積まれていた

仮屋自体は簡素だが、長者町はすごいぞ。
左義長当日に来るとトン汁や樽酒、甘酒の施しがあるのだ。びっくりした。 

なみなみの甘酒と樽酒をいただいてしまって嬉しい困惑する私

しかもトン汁もお酒も甘酒もたっぷりでどういうこと!? さすが「長者」町……!
お気持ちを奉納していったけど、一緒に行った友人と、自分が神だったらどうやって恩返しするかを話し合った。私が神だったら、この町の町長さんの家の前に米俵置くかな。

長者町の皆さんありがとう

以上、七か所を参って「七所(ななとこ)参って八所(やあとこ)せ」とはやすのが七所参り。
七所参りといいつつ、今日では一か所増えて八か所ある。とりあえず全部参ることができたので、「ななとこまいってやあとこせ」とつぶやいておきました。

⏩ 夜のお仮屋には子どもたちがいる

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