吹雪の氷平線に並ぶテント群
1月の終わり、野付は朝からやや吹雪いていた。どうしたものかと待ち合わせの場所に行ってみたが、ごうごうと吹き付ける風に舞う雪の向こうにはテントが並んでいた。
テントのほうへ歩いていくと、突然草木は無くなり一面の広大な雪原が広がる。何もない。わざとらしいくらいに何もない。
それもそのはず、そこは海の上、北海道は野付半島の内側に広がる野付湾である。12月の下旬ぐらいから厚い氷に覆われ、1~2月の厳冬期になると楽勝でウォーキングできるようになる。
広大な海上で待ち合わせ。
ここで待ち合わせていたのは当サイトのサケや道東記事の取材でおなじみ、標津サーモン科学館の西尾さんである。この時期の休日のご当地レジャー、「氷上チカ釣り」にまぜてもらう事となったのだ。
西尾家は1時間ほど前からここにテントを作り、釣りをはじめていた。
そんな感じで招くところなのかと氷上の別荘におじゃますると、細長い魚体をきらめかせながら無数の魚が雪を叩いていた。
このどかどか釣れている「チカ」という魚は何なのか。あまり聞いたことがないし、関東ではスーパーで見かけたりもしない。
「本州では東北でとれるみたいですがあまり知名度はないですよね。北海道ではポピュラーな魚です。知らない人に雑に説明する時はワカサギのでかいやつと言います(笑)」
――ああ、でもたしかにワカサギっぽいですよね。
「どちらも同じキュウリウオ科の魚です。他にはシシャモなんかも同じ仲間ですね。サケ科とも近くてサケのようにアブラビレがあります」
――パッと見ワカサギよりかなりでかい印象ですが。
「今年はかなり大きいのが釣れている印象ですね。ただサイズが同じぐらいになると見分けるのはけっこう難しいです」
――釣りに使う道具はワカサギといっしょなんですか?
「ほぼ変わらないです。まずは穴を開けないとはじまりません」
体を支点にハンドルをぐるぐる回して穴を開ける。間違えてタイムラプスモードで撮影してしまったことだしタイムラプスで見ていただこう。
「氷でよくわからないかもしれませんが、ここの水深は1mもないくらいで魚を目で追いかけられるほど浅いです。数ある釣りの中でも魚との距離がミニマムに近いのではないかと思います」
休む間もなくチカが釣れる。釣りというより漁の様相を呈してきた。超イージーではないか。
たわいのない会話がはずむ爆釣の模様をどうぞ。
「だめな時は本当に釣れません。ぼうずとまではいかなくとも3時間ねばって3匹とか......。回遊魚なのでそのルートに当たらなかったり、潮の流れなんかにも影響を受けると聞きますけど必勝法はないですね」
我々と少し離れたポイントでやっていた方は「いやあ今日はさっぱりだったわ」とわずかなチカをそりに乗せて引き上げていた。豊穣と不毛は隣り合わせなのだ。