これが、ぼたもち
あっ、と声を上げてしまった方がいたら嬉しい。私も最初にこのぼたもちを本で見たときは唸った。たぶん「ぬっ」とか言った。
丸めずにお重に敷き詰めてある。そういうものらしいのだ、千葉の飯山満のぼたもちは。
私が見た本というのは、郷土料理を地域のおばあさんに聞いて集めたというレシピ集。各地のぼたもち、おはぎをまとめた項があり(すごい項だ)、その中で発見した。
本には、この地方ではぼたもちは丸めずにお重に敷き詰めるのが特徴であるといったことが普通に書いてあった。なんでこうなっちゃったのか、今でもそうやって食べているのかなど知りたいことだらけなのに。それしか書いてない。
詳しくは後で調べることにして、本に書いてある通りにとにかく作ったのが冒頭の写真のものだ。
初心者には作りやすい飯山満ぼたもち
実は私は今回がはじめてのぼたもち作りだったのだが、ずいぶん簡単で驚いた。やったことといえば、あんこともち米を炊いたくらいだ。
なにせ飯山満のぼたもちは丸めなくていいときている。材料が炊けたらあんこ、もち米、あんこと順にお重に敷き詰めるだけ。
半殺し
おはぎ作りの途中に物々しい小見出しが出してしまいましたが、こうして普通のお米をまぜたもち米を荒く搗くことを「半殺し」というんだそうだ。
杵で餅をつくようにきれいにつけないことから、そう呼ばれるらしい。今回のことでいろいろとぼたもちについて調べていて知った。
郷土料理の世界ってこういう唐突でなげやりだったり凶暴な一面があると常々思う。
さて、用意ができたらお重に敷き詰めていきたい。今回はもち部分は2合、あんこは250gを炊いた。
お重はライター高瀬さんが別件で我が家に持ってきて忘れていってしまったものを借用した。このお重、小ぶりで背も低く、重箱いっぱいにぼたもちを敷き詰めるにはちょうど良すぎるサイズだったのだ。
大量の米と餡を使うという事実
なんと、あんこが足りなくなってしまった! 下に敷いたあんもギリギリの薄さにしたにもかかわらず、だ。
本に載っていたぼたもちはきっちりお重のギリギリいっぱいまであんこが詰まっていた。まさかそんなにあんこも餅も必要だとは。
あわてて追加のあんこを乗せて急場をしのいだ。
小さめサイズのお重がなかったら、もっともっと大量の材料が必要だったはずだ。恐ろしい。高瀬さん、ありがとうございます。
さて、まさにお重いっぱいに出来上がったぼたもち、早速食べてみようじゃないですか。ぼたもちというと昔はお彼岸の他にお祝い事やお祭り、仏事(※)なんかのときの他に、農作業の合間のおやつとして食べられていたらしい。
ということで、それをイメージして野外での作業のあいまに食べることにした。
※ちなみに仏事の場合はお重の一番下にあんこを敷かないらしいです。これも今回の参考文献に書いてありましたよ。
試食、そして飯山満ぼたもちについての調査
持ってきたのは品川区の公園。デイリーポータルZラジオ収録のため集まっていた工藤さん、石川さんと乙幡さんにも食べてもらおうというもくろみだ。
作業の合間の「こびる」(小昼、間食の意。これも郷土料理用語ですな)である。作った分全部をお重に詰めてしまったので私もまだ試食をしていない。やっと食べれるぞい。
お3人には「ぼたもちを持ってきました」とだけ伝えてある。企画案として事前に何となく知っていた工藤さんと石川さんは薄々気づいているようだが、乙幡さんは何も知らない。「え? 差し入れ? 企画?」とのんきに構えていた。ふふふふふ。
これ、千葉の飯山満のぼたもちなんですよ。といってお重のふたを取ると…
乙幡さんもやっぱり「うえ?」と声に出して言ったのだった。でしょ、でしょ。
分けるのに丁度いいぞ、これ
さて食べようという段になって、また飯山満ぼたもちの利点に気づいた。食べたいだけ取れるのだ。
ぼたもちというと甘いものが苦手な人にはちょっとハードルの高い食べ物だが、好きな人にはたまらない1品。これなら人の好みに合わせて食べたい量をお皿に分けられる。
ちなみに意外なことに今回は全員が甘味はいけるクチだったのでお腹のすき具合にあわせて取り分けた。
作っている間、これって握り寿司がちらし寿司になったみたいなことだよなあと思っていたのだが、取り分けてみて分かった。何のことはない、ケーキだ。ホールのケーキなんだ。
そう思うと、このぼたもちも一気に普通に思えてきた。
そしてぼたもちに自信をもらう
形が違うだけで、あとは普通のぼたもちと何ら変らないわけなので当たり前といっては当たり前なのだが、美味しかった。何より嬉しかったのは、3人が美味しい美味しいと言ってくれたことだ。
企画を離れた話になってしまって恐縮でありますが、そもそも私は人に自分の作ったものを食べてもらうのがすごく苦手なのだった。
手作り品を自宅で家族以外の誰かに食べてもらったり、よそに持って行ったりすると、あまりにも自信がなくて誰も自分の作ったものに箸をつけていないような気がして、いつも焦って自分ひとりでばくばく食べてしまう。これ、料理に自信のない方ならきっと大きくうなずいていただけると思う。
でも今回のぼたもちのおかげでちょっと自信が持てた気がします!
本当に飯山満で食べられているのか
と、喜びの報告で記事が終わりそうな勢いだが、そもそも本当にこういったぼたもちを飯山満など千葉の一部の地域の人々は食べているのだろうか。どういうことでこういう形になったのか。
最初に言うと、実は、分からなかった。
※記事掲載後にたくさんの情報をいただきました。最後にまとめます。
こういった場合はいつもまず市役所にお話を聞くことにしている。今回も船橋市役所に尋ねてみた。商工課の方によると、しばらく調べてくれた後に「そういったデータはちょっとないのですが……」とのご返事であった。
さらに飯山満町の公民館、飯山満町駅の近くにある和菓子屋さんなどに次々電話をかけてみたのだが情報は得られなかった。
実はみなさんどこかちょっとつれない対応で、もしかしたら地域ぐるみでこのぼたもちのことを隠しているのではないかとも思ってしまうくらいだ。
食べたことあるよ情報、待ってます(→後日集まりました!)
そんなわけで人に聞くのに気が引けてしまい後はしつこく文献を探したりネット検索を続けていたところ、食育の祭事の様子を伝えたネットの記事でこういったぼたもちを展示している写真を見つけた。
さらに、ピンポイントに飯山満ではなく「成田や船橋の一部と市川の行徳地域」のぼたもちとして紹介されているページも発見(そのページはトップページがすでに消滅してしまっており、筆者の方に連絡がとれなかった……。残念だ)。やはりこういったぼたもちが存在するのは確かなようだ。
私んちのぼたもちは今でもお重に敷き詰めてますよなどなど、情報をお持ちの方はぜひお知らせください。
参考文献
農文協 編 奥村彪生 解説
「聞き書 ふるさとの家庭料理(7)まんじゅう おやき おはぎ」
「お知らせください」と、書いたところたくさんの「食べたことあるよ」メールをいただきました! 千葉の他に栃木や茨城の各地にもそういったぼたもちが存在するようです。
茨城県
鉾田市(旧旭村)
仏事のときに「餅米+あんこ」の2段構造のを食べた。
石岡市
食べたことがある。
我孫子市利根町
仏事のときに 料理の最後に出てきた。ちゃわんの底にあんこ、その上にもち米、さらに上にあんこ大盛というもの。
つくば市
半搗きにしたおこわにあんこをどばっと載せたスタイル。
鹿嶋市
親戚の方が作ったものをもらった。あんこと半殺しが一層ずつ、プラスティックパックに入っていた。
かすみがうら市
炊いたもち米を飯椀によそって、その上に餡子をたっぷり乗せたもの。
→全体的にお盆やお彼岸に親戚や実家で作ったり、お茶碗に盛ったりすることが多かった模様です
栃木県
(一部の地域?)
・作った人の気分次第で敷き詰めることがある
・私は今日まで、家で作るぼたもちは重箱方式で、商売用が丸める、と思い込んでいた
・タッパーにもち米ご飯を敷き詰めた上に粒あんを重ねたもの
・ もち米はつぶさず、ご飯茶碗にもち米をよそってあんこを乗せただけ。食事として食べていた
千葉県
船橋市芝山
佐原の祖母に教えてもらって母が作ったのを一度だけ食べた。
船橋市飯山満
・お彼岸などの時期はよく親戚や近所の人からもらった。
・プラスチックの弁当箱みたいな入っていたり、ラップで包んでったり。餅と餡の二段構造
・聞いたことがあるが、見たこと、食べたことはない)
その他、「ぼたもち 千葉」で)ググってみたら、結構出てくるじゃあないですか?というご連絡も! ひゃー、お恥ずかしいです。「ぼたもち 飯山満」「ぼたもち 船橋」などで必死に検索しておりました。
というわけで、敷き詰めぼたもち文化は思わぬ広がりを見せていました! 情報ありがとうございました。