デジタルリマスター 2022年5月29日

光る『しり文字』で、難しい字を書く(デジタルリマスター)

以前、「花火で、字を書く」という土屋さんの記事を読んだ。火花が散ったフォント。斬新である。

そのとき同じく記事中に、「伊藤さんのしり文字」という言葉があって、そのときは「しり文字……」と頭をかすめただけだった、のだが。

「光の出るものをしりにつけて、あの花火のようにシャッタースピードを遅くして撮影したら、光るしり文字ができるのではないか」と、ふと思いついた。そして、専用の装置を作ってまで書いてみることにした。「しり文字」を。

2006年2月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。

1970年群馬県生まれ。工作をしがちなため、各種素材や工具や作品で家が手狭になってきた。一生手狭なんだろう。出したものを片付けないからでもある。性格も雑だ。もう一生こうなんだろう。(動画インタビュー)

前の記事:オニオオハシの気持ちになってみる(デジタルリマスター)

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「しり文字用の装置を作りたいんですが」

この言葉を言わなくてはいけないのかと、いつもの東急ハンズの店頭で、私は逡巡した。いや、「しり文字」なんて言わなくていいんだ。単に「電球を、手元のスイッチで遠隔でコントロールしたいんです」でいい、そうだこれでいこう。

そう聞くと、売り場の人は、ちゃんとした「照明器具」の、リモコン関係の売り場に連れてってくれた。いや、そうじゃないんだ。遠隔って、そこまでリモートじゃなくていいんだ。有線でいいんです有線で。えーと、理科の実験みたいなのでいいんですが……

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逡巡の末、集めた材料。

懐かしの、赤と緑の線のついた電球ソケットなど、しめて1,000円弱。

ワット数とか、必要な電池の数とかは店員さんにだいたいの概要を伝え、軽く計算してもらった。買う前は「配線どうなるんだ?」などとものすごくおののいていた自分だが、よく考えたら単純な構造なのだった。

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念のためにくださった「豆電球をつけよう」冊子。
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ああ、こういうのあったよね。

こういう配線をしていて好きな作業が、下の写真。ニッパーとかで、芯を切らないようにしながらビニール部分を切り、引き抜く、その瞬間が「ボソッ」というかなんというか、地味な快感だ。

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キュッとねじ切って……。
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ボソッと引き抜く。鳥肌やや立ち。

むき出しにしたコードをつないでいき、最後にハンダ付けを行う。これでだいたいの形は整った。さて、点くかな?

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ハンダ付けはもう趣味というか嫁入り道具だ。
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点灯式

電池6個かき集めて、スイッチを入れてみよう。このスイッチは、「押すと点く→も1回押すと消える」というタイプ。

ポチっとな。

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点かなかったらハンダ人生やりなおし。
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点きましたな。いやーよかった。

正直言ってほっとした。これでもう今回の企画の8割がた終わった気になった。

なぜ特に手元にスイッチをつけたかというと、実は、明滅をコントロールすることによって、しりで通常書かれるのより複雑な文字、そう、「漢字」を書いてみようと思っているわけなのである。しり文字のパイオニアとなり、しり文字検定制度の発足も視野に入れているのだ!

しり文字装置「ホタル君」完成

これを、しりに固定するにはどうするか。ここでもちょっと考えないといけない。本当はゴムベルトか何かに、配線ごと縫い付けるのがいいのだろうが、そこまでぜんぜん考えずにハンズに走っていってしまった。代わりになるものを家の中から探す。と、あった。点々と打たれたハトメが、いかにもおあつらえ向き。

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ちょっとかっこいいベルト。この穴が利用できるではないか!
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まるでしり文字装置のために作られたベルト!

「しり文字ホタル君」完成である。

じゃさっそくホタル君をしりに。でもその前に準備体操だ。しり文字しり文字と馬鹿にしてはいけない。大振りな動作だけでなく、漢字を書くのに小刻みな運動をしなくてはいけないと思われるのだから、十分にストレッチをしておこう。

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下半身を特に入念に。
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イメージトレーニング。
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第1声は……

ものがものだけに、あえてこんな露出の少ないウェアを着て、「ほたる君」を装着だ。装着したまま点滅させてみる。ぴこぴこ。うーん、なんだか違う生き物になったみたいで、誇らしい。

もう私はヒトではない。改造しり文字人間である。

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カチッ。
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ぴっかー。

夜、部屋を暗くして、まずはベッドの上で撮ってみよう。何も見えない、何もかも手探りだ。精神的にも物理的にも。

暗い中をベッドの上に上るのに、危ないのでしりの明かりをつける。おお、便利。

まずは1回電球を点灯させ、1画書いたら消す。そして次の画を書くときまた点け……を繰り返す。そうすることにより一筆書きにならず、複雑な構造の文字も くちゃくちゃにならずにすむ、という具合だ。では、慎重に動いてみます。キコキコキコ・・・あ、キュッキュッキュ、と。

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くちゃくちゃだ。

おわかりになりますでしょうか。ならないね。

まっさきに思い浮かんだのが、なぜか「朝」という字。そのとき一番待ち焦がれてたもの、だったのかも。よくわからないが。

でも偏(へん)と旁(つくり)は、かろうじて書き分けている。うぬう、もっと大きく動くようにしないとだめらしい。ではもう何回か足慣らししてみよう。

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あ、「月 」が出た!
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おりゃ!
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アサー!(谷岡ヤスジ風)

出ました、「ハネ」。月の右下、ハネができているのがおわかりだろうか。これが「ほたる君」の面目躍如なゆえんである。

しかし、古代中国の遊牧民族の文字、みたいな勇壮な「朝」になってしまった。

全体的に横長に見えるのは、これ、上下の高さは かせげないのです。1画1画電球を点けたり消したりしながら書いていくと、どうしても動作がゆっくりしたものになり、その間、「中腰」体制を維持できない。ふるふる膝が震えてくる。当初予定していたところまで腰を下げられなくなってしまう。

また、漢字はひらがなに比べ直線的であるため、なんというか、ロボット的動きになってくる。それがしかもゆっくり。無駄に荘厳な雰囲気が漂う。

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動画で、産業ロボット的な記述の様子をご覧ください。

 

さて、どうも字の切れが悪いように感じたので、屋外でロケをすることにした。外なら、思い切った動きが飛びだし、のびのびとすばらしい字が書けるのではないだろうか。

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夜の公園で、しりで「薔薇」と書く

編集部の古賀さんにお供願って、夜の公園で撮影を行うことにした。街灯が立っていたりするのだが、それでもなんとか滑り台の裏に暗いポイントを見つけて、カメラを据える。

お外で書きますのは、「薔薇」。難易度もなかなかだし、だいいち「しり」で「薔薇」と、書きたいじゃないか。

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しり文字ウェアを着て、と。
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前もって漢字の練習しとかないと。

ふだん書かない難しい字をしりで書くのだ、ソラで覚えていないといけない。

でもかえって、しりで、つまり全身を使って書けば、体全体にその字が刻み込まれ、もう一生忘れない、ということになるのではないだろうか。「しりで書いた」という記憶と共に。

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スタンバイ。

このウェアで足を広げスタンバイすると、まるで「Yo!HeyYo!」と、HipHopダンサー気取りになるが、その高揚感は一瞬で終わる。シャッターが開くと同時に、HipはHopでなく、「コキッ。コキッ」という動きをせねばならない。

まず、ざっと「薔薇」の「薔」を書いてみよう。ばらの、ばー!

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どげーん。

下の部分を書くとき、点灯スイッチの押しどころがずれて、点くべきときと点いてちゃいけないときが反対になっていた。

「どげーん」とか言ってるが、書こうとしてる形はなんとなくおわかりになるだろう。では2回目、3回目の演技です。

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くっきり太い、ってことは、ゆっくり書いています。足腰大変です。
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つぼみ(蕾)?かみなり(雷)?

上の写真では、シャッタースピードを普段の60秒から30秒に縮めてしまったため、途中で露光が終わってしまい、字が切れてしまった。そう、1文字にだいたい40秒はかかっているわけです。40秒のあいだ、コキコキ腰を振ったり、中腰持続したり、結構な運動量なのである。しり文字道は厳しいのである。

ちなみに、今回の企画のため、シャッタースピードが3分まで伸ばせるリコーのGRという高級機を買った。今まで持っていたカメラでは8秒が最長なのだ。当分このカメラは「しり文字カメラ」と呼ばれることになる。しり文字道は厳しいのである。

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ばらの、らー!
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クラゲか。

これ、線が細いってことは、動きが早まっているってことだ。もうそうとう下半身にきているらしい。いてててて。早く終えたい。

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最後の「はらい」を終えたとたん……
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フレームから猛烈にアウト!

ぎりぎりまで動いて、粘って、最後の1画が終わると崩れるようにゴール。繰り返すうち、ひとりで勝手にトリノを戦っている気分になってきた。モーグルとかハーフパイプのゴール並みの勢いでフレームアウトせざるをえない。

こうして数回の演技を戸外で行ってきたわけだが、メモリへの記録時間もやたら長く、かなり寒くなってきた。ここらで有終の美を飾りたい。早く引退して後進の指導にあたりたいです。

全身全霊をかけて、最後の挑戦です。

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結果をじっと待つ選手。

Oh!エクセレン!ワラクールプレイ!ケイコ、オーツーハータ、ジャペァーン!

スコア、イーズ……ワールド・レコード!

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このあと、古賀さんと私は抱き合って泣いた。いや、泣いてないけども、夜の住宅街の公園で、「すげえ!!降りてきた!すげえ!!」と手を取り合った。

しり文字で書いた「薔薇」。まだまだ小さな1歩だけれども、この1歩が、「しり文字正式種目化」への道の礎になろうとは、このときの2人には知る由もなかった。

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