デジタルリマスター 2022年5月24日

オニオオハシの気持ちになってみる(デジタルリマスター)

オオハシが好きだ。キョセンのことではなく、鳥のことだ。体に不釣合いなほどに大きなクチバシを持つ、あのトロピカルなルックスの鳥である。

オオハシへの憧れが高じて、私は「掛川花鳥園」をこのサイトでレポートした。ちょうど去年の今頃のことだ。本物のオオハシと戯れて、仕事も忘れて大コーフン。が、それ以来、あることをいつも疑問に感じていた。

「あいつら(オオハシ)は、あんなにでかい自分のクチバシのことを、いったいどう思っているんだろう?」  日常生活に邪魔ではないのか。ただの酔狂か?何かいいことあるのか?

トリ年はもう終わってしまったが、その疑問を晴らしたい。試しに作って、自分で はめてみることにした。

2006年1月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。

1970年群馬県生まれ。工作をしがちなため、各種素材や工具や作品で家が手狭になってきた。一生手狭なんだろう。出したものを片付けないからでもある。性格も雑だ。もう一生こうなんだろう。(動画インタビュー)

前の記事:ゴルフのあのでかいキーを持って(デジタルリマスター)

> 個人サイト 妄想工作所

やっぱり邪魔なんじゃないのか

まず、オオハシとはどんな鳥かを思い出していただこう。花鳥園での、ゆかいな一枚だ。

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「僕はさー、けっこう幸せなんだよねあははは」

いや、彼が実際そんな能天気なのかどうかはわからない。家庭内の問題とかもあるかもわからぬ。けれども、この滑稽なまでにバカでかいクチバシで「あははは」と笑っている(ように見える)顔を見ていると、こっちまで幸せな気分になるではないか。それが、私がオオハシを特に好いているゆえんである。

しかし幾葉かの写真をさらに見ていくと、おや?こいつもしかして、と思わせるものがある。

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「呼んだ?」「オレじゃねえ?」
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「呼んだ?」

なんだか、どの写真も「首をかしげている」ように見え、かわいいことはなはだしい。ちくしょうめ。

いや、それはおいといて、なんだか「物を見るときクチバシが邪魔なので首をかしげている」ように、見えてしまうのだ。こいつらもしかして、自分のクチバシのこと、実は「うぜー」と思っているのではないだろうか。

鳥の気持ちを知りたいから…

いや、別に知らなくてもいいのだが。

でも、あのゆかいなクチバシを一度作ってみたいとは思っていたのだ。そう思ったらむずむずしてきた。文房具屋へお買い物にレッツゴウ。

ライター小野さんが正月に「ひな人間」を作っていた、あのやり方でまずは造形からでしょうか。

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工作用紙を細く切って、上あごのカーブをなんとか作る。
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骨組みは適当に。設計書とかありません。
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「ガイキング」みたいだ(適当に言ってる)。
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こっちは下あごのカーブ。
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写真を見ながら、目見当でちゃっちゃと。
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半紙を切って、ひたすら貼っていく。昔の浪人の内職みたいな仕事が私は大好きだ。
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全部貼れたらとりあえず乾かす。けっこう時間がかかるのだ。

「脳内CAD」フル回転で、脳がフリーズする直前になんとか形ができてきた。上あごは、現代宇宙論における「虚時間でのド・ジッター宇宙の時空モデル」、下あごは「実時間」でのそれ、に似た造形だと思った。

何かを言ったような言わないような、適当な例えである。まあ、難しげなことを言ってみたかっただけだ。面目ない。

で、これがその宇宙モデルだ

じゃなくて、オオハシのクチバシだ。張り子で作ると、意外と造形に自由がきくもんだと思う。なかなかよくできた。

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上あご。
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下あご。

で、ここから微調整に入るわけだが、このクチバシにはいろいろ面白いところがある。例えば左下の写真だ。

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何だろうこの隙間。作りモノっぽい。
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とりあえずこっちも切り込み入れる。

クチバシは人間の爪と同じ「角質」から成り、上下のあごが発達してできたものだ。発達の中途で、この「隙間」はどうやって形成されていったのだろう。確かに、口の開閉時にはこの隙間がアソビとなって、うまい具合に動けるように見える。

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オオオオ

さて次は着色だが、ここのデザインはぜひ、大好きな「オニオオハシ」でいこうと思う。上左の写真の種類だ。ブラジルの国鳥でもある。ちなみにブラジル語では「tucano toco (トゥカーノ トコ)」、和名では他に「オオオオハシ」とも言うそうだ。

「オオオオハシ」。「オ」の連続を嫌って「オニオオハシ」になったというが、それは無論そのほうが妥当だろうと思う。「大奥 (オオオク)」「大女将 (オオオカミ)」など3つ並ぶのも言いにくいのに、まだその上があったとは。

授業で突然先生が「この鳥はー、オオオオハシと言ってー・・・」などと言い出したら、私はきっと少なからずたまげると思う。

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まずは薄い色から。ひさびさに着色作業、懐かしい!
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グラデーションは難しかったが、遠目に見ればなんとか。

ここまで来て工程はあと一息……というところだが、FRP樹脂(ポリエステル樹脂)を塗って、もうちょっと硬度を増したいと思う。

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ポリエステル樹脂に硬化剤を混ぜる。配合の割合は正確に!
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おうちでやるときは マスクとてぶくろをして かんきに ちゅうい!
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たいへんな新造人間

FRPの配合を少々間違えたおかげで、なかなか乾かず苦労した。冬場で温度管理がうまくいかなかったせいかもしれない。

かすかにベタつくが、最後の工程に入ろう。組み立てて出荷である。

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上下のあごに穴を開けて紐を通す。
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口を開けたあと元に戻るように、不本意ではあるがバネ(ゴム)を取り付ける。こんな鳥いない。
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カパカパ。うん、自動開閉とはいかないが、オートリターン機構(またも適当)は備わった。
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マスクのように、ゴムひもを通して・・・

FRPまで塗って本格を目指したのに、最後の仕上げはゴムひもかい。そう言わないでくれたまえ。創意工夫のわずかな跡を見てくれたまえ。

しかし、たとえここでもっと手を入れたとしても、結果的にはあまり変わらなかったものと思われる。なぜなら。

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鳥よ!

このクチバシのつけ心地を試すため、外に出た。

あいにくこの日は都下の動物園は休館日で、オニオオハシ本人との対面はかなわず。よって代々木公園までやって来た。別に公園にわざわざ来なくてもよかったのだが、他の鳥たちの反応を見たかったのだ。

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でかいとしか言いようがない。

なぜ上の写真で、私がかわいく指を一本立てているかというと、その指でクチバシを支えていないとずり落ちるためである。

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ほらね。

だらーん。「ゴムひも4点支持法」では、この全長約40cmのクチバシがいかに軽量化しようとも、支えきれないのだった。

次はタイツみたいなものに縫いつけよう、と心に誓った。

ちなみに、オニオオハシ本人のクチバシは中がハニカム構造で中空になっており、そのためかなり軽くできているのだ。彼らがあんなでかいクチバシを持って生まれてきても日々の生活がつらそうに見えないのは、そのせいでもあるのだろう。

あとは「視界」、「操作性」という点と対峙せねばなるまい。

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アハハハ。ガーッ。

視界はどうか

言うまでもなく、人間の目は前を向いてついているが、オオハシは横を向いてついている。なので単純に比較はできないが、それにしても、こんな大きなクチバシが目の前に伸びているとなると、視界にどんな影響が出るのだろうか。

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視界どうこうよりも、ゴムがきつい。

この写真は実際には、顔のかわりにカメラをクチバシに押し当てて撮影したものであるが、だいたいの視界はこんな感じである。なんだか、自分が飛行機になったような気分である。

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かなりクチバシを押し上げた場合。片目からはこう見える。
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ちょっと下げた場合、両目からの視界。そして夕陽。

……。結論としては、「よくわからない」のだった。ヒトとトリ、それぞれの進化の過程、環境への順応の仕方が違うので一概には言えない、というのは最初から、わかっていたことであるが、まあ、どう見えるのか、やってみたかったんですよ。

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操作性はどうか

さてオオハシは、このクチバシを使っていとも器用にフルーツを食べていた。花鳥園では細切れにされたフルーツが用意されていたが、野生のオオハシは飲み込みやすいようにクチバシでちぎったりもするのだという。あんな大きなクチバシなのに、大きいままでは食べ物を飲み込めないと来た。

では私がやってみるといったいどうなるのだろうか。みかん一房で試してみる。

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実はFRPのせいでまだクチバシが臭い。ラリりそうだ。
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クチバシの先っちょは見えてない。
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ヒョイ、パクッ……

彼らは先っちょにくわえた果実を、ちょいちょいっと空中に軽く放って飲み込む。それをやってみたかったのだが、くわえたあと上を向くので精一杯。軽やかに喉元に落とし込むことなどできそうになかった。だいいち今どこにみかんがあるのかわからない。

さて家に帰ろうか。文化的生活はできるだろうか。

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タイピングに邪魔だ、クチバシが。
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本は読める。ページめくるのにクチバシが使えるね。

オオハシのクチバシがなぜあんなに大きいのか、実はまだその意味はよくわかっていないそうだ。

人間がわかってないんだから、当事者たるオオハシたちにもまったくわかっていない、いないのに生まれ落ちてからあのクチバシは目の前で日に日に大きくなり、一生を共にすることになる。便利か不便か、などと思いもせず。

と、そこから何か気の利いたことを言えればいいのだが、特に言いたいことはない。日々、他の動物は何を考えているんだろうと疑問に思う私は、これからも「ヘンな科学者」のような実験を繰り返していこうと思う。

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代々木公園のカラスの大群が、なにやらざわついていた。でも近寄ってはこなかった。
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