セレブの冷やしトマトが大変だ
冷やしトマトがすごかったんだ。
おっと、いきなりすみません。今回の企画を思いついたのは、セレブの冷やしトマトを食べてのことだったのです。
友人がくれた「スーパーフルーツトマト」という銘柄のトマト。これがもう異様な美味しさだったのだ。
調べれば安くも買えるようだけど、デパートなどで買うとそれこそひとつ500円以上することもあるらしい。
500円! それって野菜の価格じゃないだろうなんかもっとすごいいいものの価格だろう。ヨックモックとか! と、うまくたとえの見つからないうろたえ方をしながら食べた。
甘いくて、さわやかで、すっぱさが丸い。
こりっとした固さがあって、食感がちょっと普通のトマトとは違う。初めての味わいだ。すごく美味しい。
セレブの人はこんな冷やしトマトを食べているのか……。
やっかみというよりも、ほとんどこれは驚愕だ。
フルーツトマトというものはジャンルとしてトマトと違って、普通のトマトと比べるものではない、ということは分かっていながらも、単純に高いトマトの美味しさに私は真後ろに倒れたのだった。
で、このときにひらめいた。
セレブの人は、もしかしたら ねこまんまとか、もやしだけの炒め物とかでも、私たちとは違う美味しさで食べているんじゃないか、と。
高級スーパーで節約メニューの食材を買おう
節約メニュー、しかもマンガなんかにありそうな、いかにも学生のびんぼう時代を彷彿させるメニューを高級な食材で作る。具体的なメニューは何にしようか。
まずはやっぱり もやし炒めだろう。他に具のないもやしだけのもやし炒めはいかにもなびんぼう物語を連想する。
それからねこまんまは節約、というよりもお行儀の悪いメニューというイメージだけど、だからこそセレブの食材で作るとどうなるか気になる……。
食材を取り揃えるべく向かったのは高級スーパーの雄、紀ノ国屋だ。
徒歩でたどりついた私の行く手を、買い物を終えて駐車場から出るベンツ、ベンツ、あとジャガーがさえぎった。
そしてそんな高級店と対峙の結果、調理予定のメニューが、半分になった。
バター、2500円
高いのだ! 食材が!
いや、高いものを買いに行ったのは私なのだけども、それにしても高い。「高くて手が出ない」という状況を完璧に体感した。
今回は「高くても手を出さなければならない」(だってそういう企画ですもんね)はずなのだが、あまりの高さにどうにも手が出ないのだ。
焼肉のタレのコーナーへ行けば1本1000円なんてのがあり、バターとなると高いものだとひとつ2500円する! じゃあマーガリンと思っても有機だとかなんとかで500円。
そんな牙、むかないでくださいよ~~。
庶民の1000円に、セレブは4000円かける
記事のためがんばって買おうとお金もおろしてきたが、結局、努力して買えた品から今回作るのはこちら。
・もやし炒め
・油揚げ焼肉(油揚げを肉とみなして焼くやつ)
・ねこまんま(かつおぶしバターしょうゆご飯)
・じゃがバター
・きゅうり
・落花生
なんとつつましいメニューだろう。
しかし、これを作るのにセレブはいくらかけるかというとなんと4000円なのである。紀ノ国屋のレジで震えて会計を待つ私の心、みんなに、届け。
なお、同じものをいつものスーパーで買って比較しようとしたら、そっちの会計は1000円ちょいだった。
セレブ、すごい。すごいよ、セレブ。なんだかもうすごすぎて気持ちが応援に回った。かっせーかっせーセーレーブ!
ではまず、もやし炒めから作ってみましょうか。
わざとびんぼうくさく作っていきます
もやし炒めの具はもやしのみ。そして、味付けは味塩コショーだ。
湯通ししたもやしを、サラダ油で炒めて味塩こしょうで味付けするだけ。
比較のために、近所のスーパーで買った28円のもやしと100円の味塩コショーでも同じものを作る。
そういえば、炒め油はセレブ専用のものをこのためだけに買うのがどうしてもはばかられ、両者に自宅のサラダ油を使ったこと、お許しください。
もやし炒めってこんなに美味しいのか
食べて見ると、セレブのもやし炒め、これが美味しい! 1本1本が細いので水っぽさがない。食感もパリパリだ。普通のもやし炒めも想定内の安定した味ではあるが、それとは全く違う。ちゃんと美味しい。
中華料理店で出てくる青菜単品の炒め物というのはやたらに美味しいが(空芯菜炒めのような)、あれと同じで、もやしだけでまったく問題なく料理の1品になってる。
この89円のもやしはも「ブラックマッペ」と呼ばれるミャンマー産の種子のもので、普通の緑豆もやしとは品種からして違うらしかった。
もやしの世界にもフルーツトマトみたいなことが起こっていたとは。
自宅の油を使っていためたが、これセレブの油を使ったらもっとすごいことになったんじゃないか。セレブ……おそろしい子! である。
28円のもやしを89円にすればこの贅沢が味わえるなら、ボーナスが出たときくらいこれはアリかもしれない。
セレブのもやし炒め
・調味料込み351円(庶民版は128円)
・もやしが細い(ミャンマー産の種子)
・具はもやしだけなのに1品になってる
・小料理屋のつきだしとしてもアリなんじゃないか
油揚げ1枚136円
続いては、焼いた油揚げを焼肉のタレで食べる節約メニュー。
油揚げもセレブのはすごく高かった。なんと1枚136円である。1枚入りという単位で売ってることにも驚いた。
比較用に買った近所のスーパーの物は5枚で99円という激安ぶりで、これも逆に「ちょっとまあ落ち着けよ」という値段設定。
1枚136円の油揚げがある世の中に、1枚20円の油揚げもあるのだ。もうなんだかよく分からないので差額116円でジュースでも買うか。
セレブ版は焼肉のタレも高い。店には500円~1000円くらいでいろいろと取り揃えてあったのでだいたい真ん中の価格帯である700円のものを選んだ。
たっぷりつけて、いただいてみます。
セレブの油揚げ焼肉は肉ではない
味は「ああ、なるほどなあ」というものだった。なるほどなあ、これは、豆腐だ。
口にひろがる豆腐とタレの味。ちょっと嗜好を凝らした豆腐田楽かという一品。
これは「油揚げ焼肉」ではなく、「タレをつけて食べる油揚げ」だ。話としては一回転して元のところに戻ってる。
セレブの油揚げには、一回転して元の位置に戻ることができる力があるのだ。腹筋があるのだ。
正統派は断然安いほう
5枚入り99円、1枚20円弱の油揚げは同じスーパーで買った148円のタレで食べた。
ああ。そうだ、これだ。
薄い油揚げに科学の味のタレが染み渡る。何しろタレのパンチがすごい。そうだ、これはあれだ、蒲焼さん太郎だ。いや、焼肉さん太郎だ。もうどっちでもいい。駄菓子だ。
当然、油揚げ焼肉としての正統は完全にこちらである。これはセレブには体験のできない領域ということだろう。胸を張ってそのままブリッジ!
セレブの油揚げ焼肉
・調味料込み836円(庶民版は168円)
・肉ではない
・豆腐だ
・新しい豆腐田楽になった
・これも小料理屋で出せるわね
次はねこまんま、セレブバージョン
ねこまんまというものを、一人暮らしをして初めて食べた。
母の実家が魚屋という関係で、実家には常にシャケのほぐし身やシラスがあるという、今考えれば大変に豪勢な暮らしをしていて、ねこまんまを食べる暇がなかったのだ。
むしろ、かつお節と醤油やバターで食べるねこまんまは本で読んで憧れる食べ物だった。
そんな憧れをセレブの味で食べるのだからこれは興奮さめやらない。
セレブのねこまんまはおいくら
ねこまんまのため買ったのは、お米のパック228円、かつお節パック598円。
普段普通のスーパーでお買い物をされる方には地味な値段の高さが感じ取れると思う。
ここへ乗せるのがカルピスバター357円だ。
バターもかつお節も全部使うわけではないので厳密な1杯の値段が出ないのだが、ここはざっくり高けえ、という気持ちで食べていきたい。
バターの陳列棚にはエシレの木籠入りというのが2500円で売られるなど大変なことになっていた。
なんとか手ごろなものをと思い、内容量が少なかったカルピスバターのソフトタイプというものを買った。カルピスバターの高級さとその白さについてうわさは聞いていたが、こんなに白いのか! クリームチーズみたいだ。
ほとばしる上品
食べてみると味がこれはまあ上品ですこと。
かつおぶしをかけたご飯にバターという組み合わせでなんで品がよくなるんだろう。
ふわっとして、なんだかえらい一体感。かつお節が柔らかくて舌にあたらない。そのかわりにかおりで存在感を発揮している。バターもしょっぱすぎなくて、きちんと乳の味がして優しいのだ。
食べているここは私の家か?! いや、どこかの個室の鉄板焼き屋なんじゃないか、で、この一杯は締めのご飯なのだ。
これは「ねこまんま」ではない。これは圧倒的になにか別の食べ物だ。
本当のねこまんまは庶民の手に
セレブのねこまんまは、ねこまんまではない別の食べ物だった。
一方、いつものかつおぶしと自宅の米で庶民のねこまんまも作って食べてみたところ、これがもうザ・ねこまんまという味だった。
かつお節の荒々しさと戦うマーガリンの雑な油の味が立つ! いかにもお行儀の悪い味。ガツンとくる大事な味。
これはセレブの人たちにもぜひ味わって欲しいなあ。安いスーパーの場所、いつでもお教えします。
セレブのねこまんま
・バター、米、かつお節、すべて庶民の倍の価格
・バターが白い
・上品な味とはこういう味なのかという勉強の味
・ねこまんまではない
・これも小料理屋で出せるんじゃないかね
セレブのじゃがバターは“じゃがバター”ではない?
当サイト編集部の安藤さんは一人暮らし時代じゃがいもを主食にしていたそうだ。
炊飯器をもたず、じゃがいもを箱で買ってふかしておかずと一緒に食べていたらしい。どこか外国の食生活みたいなことになってる。外国みたいではあるが、確かにジャガイモは安いしおいしいし、合理的だ。大量に買えば10キロ1000円くらいで買えることもある。
と、思ったら我らが紀ノ国屋ではじゃがいもが500gで260円もした。
ちょっとした野菜でも容赦ない(ちなみに「インカのめざめ」的なブランドじゃがいもも扱っていてこちらはもっと高かった)。勢いで「我らが」なんて呼んでみたけど、ごめん、やっぱぜんぜん「彼ら」だわ。
これまたカルピスバターとコラボさせれば、ねこまんま同様セレブのじゃがバターができるわけで、それはもう“じゃがバター”ではないのかもしれない。やってみましょう。
平等だ!
ここへきて、セレブが庶民に歩み寄った。
下の写真は庶民のじゃがバターだが、美味しさはそれほどかわらなかったのだ。
セレブのじゃがバターはカルピスバターと500g260円のジャガイモ、庶民のじゃがバターはマーガリンと1キロ260円のジャガイモ。
庶民版がセレブ版のほぼ半額という価格だ。でも、味わい的にはどちらもきちんと“じゃがバター”であって、美味しい。
バターとマーガリンの味が違うので、味わいはもちろん違うが、その差が美味しさの差じゃなくて、単純な種類の差になってる。
味は違えど、セレブのじゃがバターも正しくじゃがバターだし、庶民のじゃがバターも正しくじゃがバターだ。
つまりは安い素材でもじゃがバターは十分に美味しく作れるということだと思う。
じゃがバター界においてはセレブと庶民は平等であった。
セレブのじゃがバター
・ふつうのじゃがバターだ
・熱々で食べたのでバターの美味しさの感動が熱さにかきけされたのかも、という話もあるには、ある
・「これ、カルピスバターなのよ」といえば小料理屋で出せるか
キュウリと落花生は節約の味
本日のメニューをご紹介した際、「キュウリ」と「落花生」というのが入っていた。これ、私の思い出のメニューなのだ。
ひとり暮らしの時分、休日、二日酔いで昼過ぎまで寝ていて起きたら台風で、家を出るのが億劫だしお金も使いたくないしで、よし、今日は1日家にいるかと思って冷蔵庫を空けたらキュウリしか入っていなかった。そして戸棚をあければ落花生がひとふくろ。
それでキュウリと落花生を食べながら伊丹十三の「お葬式」をビデオで見てすごした。
あのとき私がセレブだったら
もし、あのとき私がセレブだったら、高いキュウリと高い落花生を食べていたわけだ。
落花生が高い
落花生は「千葉半立」というステッカーが貼られており、庶民版が198円で買えた(これまた安いな)のに比べて915円もした。
ちなみに千葉半立種というのは千葉県の奨励品種で日本では一番古くから栽培されている品種だそうだ。以前、さま~ずの三村さんが絶賛しているのを見た。
キュウリは違いなし、落花生の違いがすごい
キュウリは、味に違いがあるものの、どちらのキュウリもおいしかった。
当然か、落花生のほうは驚くほど味が違う。庶民版が固くスカスカしていて、たくさん食べるとエグさが気になる一方、セレブはもうどんどん食べたい味だ。さすが半立種。
ただ、どうだろう。高いキュウリと高い落花生を食べる私はセレブだろうか。
キュウリと落花生だけでは、さすがにシチュエーションまでもセレブに変えてくれる力はないことが分かった。
セレブのキュウリと落花生
・自宅でもそもそ食べると一気にセレブ感が失われる
・落花生は小料理屋で出すのにはまったく差し支えない。キュウリはもろ味噌でも添えたらいいんじゃないか
社長の思い出の味、失敗版
まんがでよく、たたき上げで大成した社長とかお金持ちが大変だった頃によく食べた思い出の貧しいメニューを求める、みたいなことがよくある。
自分で作ってもうまくいかず、ああどうにかしてもう一度食べたいものだと思って主人公に相談すると「それはこんな味じゃないですか」とすっと差し出されるのだ。
おおこれじゃこれじゃと泣きながら食べる社長。
今回私が作ったのは、社長が自分で作ってうまくいかなかった方の味だ。手元にあるのが高級な食材ばかりなのでうまく昔の味が再現されなかった、そのバージョン。
社長にとっては「これじゃない」味は、私にとっては「ほほう……」という味だった。美味しかった。
でも、考えてみれば社長は安いほうの味で大喜びしているのだ。だから私も納得してたまに高いもやしを買いつつ、こっちの世界で生きていこうと思うのです。