素手でも大漁でした
ほんとはもっと捕ったんだけど、途中で喧嘩してたので逃がしてやったり、写真撮る前に飛んでいってしまったりで、上に載せたのはだいたい2/3くらい。思った以上の大漁だ。
そして虫捕りは十分素手(というか手袋)で楽しめることがわかった。(実は平坂さんもふだんから網はそんなに使わないらしい)。
今年の夏は軍手を買って森に行こう。

岐阜の山奥で育った僕にとって、夏のレジャーといえば、海でもプールでもなくて、虫捕りだ。いまはすっかりインドア派になってしまったけど、昔は虫捕り網持って山んなか走り回ったりしていたのだ。
それを懐かしんで虫捕りに行ったのが3年前。そろそろもう1回行きたくなったので、今度は詳しい人を連れてもっとハードな虫捕りに行ってみることにした。それがこの「素手限定虫捕り」である。
※2011年7月に掲載された記事の写真画像を大きくして再掲載しました。
「詳しい人」というのは当サイトのライター、平坂さんである。サソリやらイチゴフレーバーの虫やら珍生物を探す記事を連発、有毒の虫に刺された経験も豊富だ。
彼にとってもはやふつうの虫捕りは物足りないかと思われたが、誘ったら二つ返事でOKしてくれた。
そういうわけで今日のメンバーはこの3人。
そして先に言ったように、今回はただの虫捕りではない。テーマは「素手」。
3年前の虫捕り企画でクワガタ捕りの子供に出会ったのだが、彼は網を持っておらず、手で捕まえたクワガタをコンビニのビニール袋に放り込んでいた。この「ちょっとタバコ買ってくる」感覚の虫捕りスタイルに憧れて、我々も今回は素手で挑むことにしたのだ。
コンビニ感覚を標榜したわりに、どうも場所選びを本気でやりすぎた。人づての情報とネットを頼りにやってきた虫捕りスポットは、本気の森であった。
「じゃあ行きますか」といって先陣切って踏み込んだ僕だったが、たった5歩あるいたところでヒィーと悲鳴を上げて駆け戻ることになる。
「どうしたんですか!」と駆け寄る平坂さんに、小声で「いや、毛虫が…」。
行動開始から20秒ほど、この瞬間に今日の3人の力関係が決まった。
目で「早く手入れろ」って合図してくる平坂さん
この後、名目上は僕がリーダーであるものの、しばしばこのサディスティックな圧迫を受けることになる。
そんなとき、小柳さんは無言でカメラマンに徹するのである。
虐げる人、虐げられる人、傍観者。典型的ないじめの構図が完成した。
獣道に入って1本目の樹で僕が悲鳴を上げ、2本目の樹でいじめを受け、3本目の樹で早くも虫を見つけた。なんだこの目まぐるしい展開。
ノコギリクワガタのメス。横にいるのはヨツボシケシキスイという虫だそうだ(虫の名前はすべて平坂さんの監修によります)。
最初の獲物は、リーダー権限で僕が捕獲することになった。
素手で触ると、クワガタの体の硬い感触がよくわかる。素手虫捕りとは自然とのコミュニケーションなのだ…などと思った次の瞬間
クワガタが急に動いて、慌てて手を離したら地面に落ちた。自然からのコミュニケーション拒否。
クワガタが吸い込まれていったのは、奥で何がうごめいているかわからない真っ暗な茂み。ブラックホールに手を入れる勇気がなくおどおどしていると、平坂さんが何のためらいもなく手を突っ込み、獲物を回収した。風呂のお湯の温度でも確かめるかのようであった。
風呂の底からすくい上げられた、虫かご最初の住人
つづいて僕が、横にいたヨツボシケシキスイを捕獲。
この成果を盛大に自慢したいところだが、僕が捕ったケシキスイは小物すぎて誰も写真撮ってなかった。いやほんとに捕ったんですって…。
一応の成果は収めたものの、どうにもこの森は鬱蒼としすぎている。この獣道は「ハードモード」と名付けられ、今回は見送ることに。森の中でなく、外周から攻めることになった。
あと怖いのでルール変更、手袋はしていいことにした。(いいよね…)
その後も平坂さんの独壇場は続く。
ちなみにこの人、本業は生物専攻の大学院生だ。虫の記事ばっかり書いているのでてっきり虫が専門かと思っていたのだが、よくよくきくと専門は魚とのこと。
本業は魚、プライベートは虫。それが研究者業界のワークライフバランスか。 そんな彼の活躍をダイジェストでご紹介します。
見てのとおり一人で大豊作である。捕獲技術もさることながら、虫を見つけるスピードがすごい。目の前にいる虫の説明をしてくれて、その後3分も経たないうちに、「石川さ~ん」と声がかかり、次の虫の説明が始まる。前日に自分で放したんじゃないだろうか、と思うくらい虫をすぐ見つける。
コツをきいてみると、樹の種類、樹液が出てるかどうか、葉っぱの虫食いはどうか、なんてところを見ていくとなんとなく居そうな場所がわかるらしい。
へー、と思ったがそのコツをふまえても僕の虫発見力は変わらなかったので、やっぱりきのう自分で放したのだろう。
そうこうしているうちに僕や小柳さんも少しずつ虫を見つけられるようになってきて、そしてついにその時はきた。
「きた!!」って言って何がきたのか全く伝わらないところがこの虫の辛いところなのだが、上の写真の一部を拡大した物がこちらである。
さらに線で囲った物がこちらである。
もう、みんなきましたよね
ナナフシだ。以前、小柳さんがナナフシを見つけられなかった記事で、印象的だった一文を引用しよう。
「ナナフシは幸せのように、探そうとすればするほど見つからないものなのかもしれません」。
幸せは人生の最大の目標といってもいいと思うけど、小柳さんにとってそれに並ぶほど探し求めていたものがナナフシなのである。それが、目の前に。
小柳さんは自分の記事の写真もたいてい笑ってない。それなのに、この笑顔。もちろん僕も小柳さんのこんな笑顔初めて見た。(あとこんな枝っぽい虫も初めて見た。)
ナナフシを捕まえた小柳さんは最高に幸せそうに見えた。この人にとってナナフシは「幸せのよう」というより、幸せそのものだったのではないか。
このあと帰るまでずっと、小柳さんはもう人生に満足してしまったような雰囲気があった。まだ若いので、できれば新しい目標を見つけて今後もハングリーに生きてほしいと思う。
ちなみにこの日、「小柳さんがナナフシを見つけた時のみ抜いてよい伝家の宝刀」として虫捕り網を1本だけ持ってきていたのだけど、普通に素手で捕れたので、結果的に邪魔なだけであった。平坂さんによると「擬態してる奴は油断してるから動きが遅い」とのこと。
この場所はとにかくいい虫捕りスポットで、ただ歩いて探すだけでもいろんな虫が続々出てくる(といっても半分は平坂さんが見つけたのですが)。
なんだけどせっかくなのでちょっと知恵を使って、凝ったことをしてみたかったのだ。
小柳さんの発案により、罠を仕掛けておびき寄せてみることにした。糖分の多い飲み物を撒いて、虫をおびき寄せようというのだ。
糖分といえば栄養ドリンク。撒き餌として半分を周辺の地面に撒き、空き瓶を地面に仕掛けた。(もう半分は小柳さんが飲んだ)
虫捕りの仕掛けなのに、立ち去る前に周囲に人がいないことを確認してしまうのはなぜか。
結果だが、数十分後に戻ってくると、アリだけが集まる隠れ家的スポットと化していた…。
人間は頭がいいから道具を使うのだが、道具を使うことでバカに見えるケースもある。
いろいろ試したけど道具を使った捕獲はだいたい失敗した。「素手で捕る」という縛りは制限がきついようでいて、意外に変に工夫するより効率がいいのだ。
平坂さんや小柳さんの活躍ばかり紹介してきたが、僕だってけっこうがんばったのだった。
最初は「素手で虫なんか捕れるのかよ」と思っていたのだけど、チョウを除けばそんなに難しくなかった。捕るよりむしろ見つけるほうが大変なのだけど、ここくらい虫密度が高いと、それも見つけ放題だ。
そういうわけで楽しい素手虫捕りなんだけど、中でも特にお勧めの虫がいる。それはバッタだ。
理由は単純で、(1)見つけやすい、(2)適度につかまえにくい、の2点。
草むらに適当に踏み込むと、何匹ものバッタがピョーンと飛び出してくる。その中から捕まえたいのを1匹選んで、あとはバッタとのすばやさ競争だ。
見失っても草をバサバサやればまたすぐ飛び出てくるし、いなくなっても代わりの獲物は無数にいる。
一番悔しいのは、「捕まえたかな…?」と思って覗くために開いた手から逃げられたとき。キーッ!ってなってさらにヒートアップする。楽しすぎてやめ時がわからなくなる。
運動不足の体にも心地よい運動量。虫捕りの面白さって宝探しの面白さだと思うんだけど、バッタ捕りだけはスポーツ感覚。ボウリングとかダーツみたいな、気軽に体動かせる系の競技だ。街中にボウリング場とかダーツバーがある感じで、バッタ捕り場があればいいと思う。会社帰りに「軽くバッタ流して帰ろう」、みたいなの。これは流行る!
一日中歩き回って、16種類もの虫を捕まえた。そろそろ日も傾いてきたので、彼らには元の世界に戻ってもらおう。
顔写真を撮ったので、最後に卒業文集を製作してこのクラスのみんなとはお別れにしたい。
ほんとはもっと捕ったんだけど、途中で喧嘩してたので逃がしてやったり、写真撮る前に飛んでいってしまったりで、上に載せたのはだいたい2/3くらい。思った以上の大漁だ。
そして虫捕りは十分素手(というか手袋)で楽しめることがわかった。(実は平坂さんもふだんから網はそんなに使わないらしい)。
今年の夏は軍手を買って森に行こう。
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