読んだよ 2026年7月2日

人の一生を8ページだけで描く。超高密度に描かれた「やっぱ人間なんだよな」~いがらしみきお『人間一生図巻』

デイリーポータルZのライター、関係者が愛読している本を語ります。

今回はライター石井さん。レコメンドは『人間一生図巻』(いがらしみきお/アクションコミックス)

聞き手は伊藤、りばすと、んちゅたぐい、石川です。

では石井さん、お願いします。

インターネットにラブとコメディを振りまく、たのしいよみものサイトです。

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石井:いがらしみきおさんの『人間一生図巻』というマンガです。

伊藤:『ぼのぼの』の?

石井:そうです。いがらしみきおさんは元々不条理で過激なギャグ漫画を描いてた人ではありましたが、『ぼのぼの』以降は怖い漫画とかも描いてるんです。
『ぼのぼの』も哲学的で大好きなんですけど、「笑いと怖いものの境目が曖昧である」みたいな作品も本当にすごくて。

これは最近の作品です。2025年。

伊藤:去年。

石井:はい。人の一生を8ページだけで描くっていうマンガなんですね。20人ぐらいの人生を、ひとり8ページで。

りばすと:短編集ってこと?

石井:短編集です。
まず1話目を読んでびっくりしちゃって、横で笑いながらテレビ観てた妻に「ねえねえ、ちょっとこれ1話だけ読んで」って言って(笑)すげえ迷惑そうだったけど結局読んでくれて、読み終えたらもう、妻も「え……」って言葉が出てこなくなっちゃって。

りばすと:テレビどころじゃなくなっちゃった。

石井:自分自身も飯食った後に寝っ転がって読み始めて、ほんと1話1分ぐらいで読めるんですけど、1話目読み終えたら「これ正座して読まなきゃいけないやつだ」ってなりましたもん。

りばすと:出てくるのは実在の人物?

石井:架空です。そして世界中の人々。時代もバラバラで、原始時代の人とかもいる。
20人ぶんといっても群像劇ではなくて、あくまで一話ごとに1人の人生なんです。

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一話目がまずすごい

口で説明するより、1話目だけみんな読んでもらえますか。8ページですぐ読めるので。

※一人ずつ回し読みする

伊藤:(読み終えて)すごい。

りばすと:え、この短時間でそんなことある?(笑)

石川:(読み終えて)ああああ~~~(感嘆しながら1ページ目を見返す)そうなんだ……

りばすと:みなさん、読み終えて1回、前のページに戻りますね!?

一同:(笑)

んちゅ:(読み終えて、最初に戻る)この右下のコマを見て、なるほど…、ってなりますね。

りばすと:(読み終えて)あれ?(最初に戻る)……戻りますね(笑)。
これ、すごいです。すごいかもしれない。これすごいかもしれない。

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石川:3回言った(笑)

石井:僕、一話目ですっごい泣いちゃって。感動ものとかじゃないので、なんで泣くんだって話なんですけど(笑)
この密度で20人分続く。いや、すごいすごい。

りばすと:いや、このタイトルのマンガで、「一話目でこれか!」
っていうのもりますよね。

石井:まさに。一話目で最初に「え?」ってなって、「あ、コンセプトはこういうことか」と理解する感じ。

続く第2話目は300万年前の原人の話で、この人が、実は言葉を見つけていた、っていうんです。死ぬ間際に夜空を見て、何か言葉が浮かんだんだけど、「それがなんという音だったのか誰も知らない」とか。何とも言えない味わいの終わり方。

他には殺人鬼の話とかもあって、本当に全話すごい密度なんですよ。

りばすと:すごいわ。

石井:(本をめくって)この話は、幼少期に犬の交尾を見て以来、性交というものに対してものすごい汚らしさを感じるようになった人の話。
だけど、妻と出会ってそういうことができるようになって、のちに家族に恵まれて一生を終えるんです。
それで最後、奥さんが遺品を整理していたら、その奥さんとの性交の記録が全部ノートに書いてあったっていう……。

なんつうんだろうな。「人生ってなんなんだろう」みたいな。

 

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人間というものに対する射程の広さ

石井:これ読んでてすげえ思ったのは、「俺、自分の人生の何ページ目なんだろう」って。
最初「45歳なら6ページ目ぐらいに来てるな」と思ったんですよ。でも、「いや、甘いぞ」と。「8ページ目のいちばん最後のいっこ前のコマかもしれない。それも全然ありうるじゃん」と思って。
人生が8ページでまとめられてることによって、自分の人生のことを思うという。

んちゅ:パーセンテージみたいなことですよね。『100日後に死ぬワニ』じゃないですけど、「あと何日なのか」って。

石井:そうそう。

でも、本当にこの密度でよく描いたなって思います。
20話それぞれがどれも傑作って言えるぐらい。でも、やっぱりこの1話目にすごい掴まれた。

んちゅ:「一生」っていう言葉とのギャップ。

石川:この1話目ってちょっとトリッキーっていうか、いわゆる「人生を描いた漫画ですよ」っていうコンセプトに対するフェイントみたいなところがあるじゃないですか。2話目以降はどうなんですか?

石井:それが続くわけではないです。でもね、20個分のオリジナリティがある。
同じテンションで20話を書いてるというよりは、毎話「よくこの設定が出てきたな」みたいな。

あと、人間というものに対する射程が広いんです。
どの主人公も物語の主役になるタイプの人生じゃない。でも確かにそれは人間である。善人ばかりじゃないし、とんでもないことをしてしまう人とかも出てくるんだけども、でもやっぱ人間なんだよなっていう。そこを描くっていう。

我々だって、例えばんちゅたぐいさんが「蓄光テープで部屋を拡大したのである」みたいな(※)、他の人が聞いたら「何それ?」みたいなことがあるわけじゃないですか(笑)。みんな多分そうだと思うんですよ。でもそれが人間である、それがドラマなんだっていう。

※この記事の話→蓄光テープで作るサイバー空間は天井も高くなってお得

石川:8ページって短いから、ふつうそんなにドラマ起こせないですよね。

石井:でもめちゃくちゃ起きるんすよ、8ページの中で。
もう、本当に一瞬で読み終わりました、これ。「うわ、すごい」って、毎晩毎晩。「うわ、もう今回もすごい。今回もすごい」って。

 

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いがらしみきおが今、描くマンガ

伊藤:(いがらしみきおは)『ぼのぼの』以外は読んでなかったけど、今こんなタッチなんですね。

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石井:だいぶ変わりましたね。あの頃は本当に可愛いタッチだったけど。

でも元々、デビューが『ネ暗トピア』だったっけな。最初から割とこう、突き詰めた感じの人ではあります。『ぼのぼの』も読んでてどういう話なのかがわからない回とか、よくよく読んで「ああ、そういうことか」ってなる回がありますよね。

そういうめちゃくちゃ哲学的なギャグ漫画をやってて、ホラー漫画とかも経たいがらしみきおが、今描く漫画としてこれが出てきた。すげえなと思うし、なんか納得ができるなとも思いました。

りばすと:これ多分、僕買っちゃうな。

Kindle版です。紙の本はリンク先で「コミック」を押してください。

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