ブリザードフラワー
贈り物を選ぶ用事があり、妻が提案をした。
「プリザーブドフラワーってどう?」
「生花にすごく近い見た目なんだけど長く飾っておけて…」と色々説明してくれるのだが、話が入ってこない。すごく驚いていたからだ。
僕:ブリザードフラワーじゃないの!?
妻:え?
僕:ブリザード。ほら、冷凍保存した花だから
妻:…吹雪?
僕:うん、吹雪。吹雪…? 吹雪で保存はしないか…?
こんなやりとりがあり、僕はプリザーブドフラワーのことをブリザードフラワーと間違って認識していたことを知った。
プリザーブド(preserved)は「保存された」という意味の英単語で、プリザーブドフラワーとは、薬品を使って着色や保湿をして長く鑑賞できるようにした花だそうだ。
正しい意味を知れば知るほどブリザードフラワーの荒唐無稽さが際立ってくる。吹雪花。
「作るべき」
そんな話をデイリーポータルZの朝エッセイのコーナーで書いた(ブリザードフラワー(2026.9.30 朝エッセイと更新情報))。
すると、編集部の林さんが強く共感して、この勘違いがどれくらい浸透しているのか調べてくれた。
ブリザードフラワー2割!
「意外と勘違いが多い」という絶妙なライン。ブリザーブドフラワーも15%で結構多い。
間違っていたのは僕だけではない。嬉しいな、心強いな、と思っていたら「作るべきでは!」と提案される。
今、世界にブリザードフラワーという存在が無い。無いものを呼んでしまうから「間違い」になる。
存在さえすれば、それを呼んだことになるのだ。
そして僕たちは2割だ。意外と多いのだ。誰かがやるべきだ。気付いた人間が率先してやるべきなのだ。
氷の粒と吹雪っぽい演出があればいい
使命感から、ブリザードフラワーを作ることになった。ブリザードフラワーって何だろう。
林さんがアイスプラントという野菜を教えてくれた。葉の周りに白くて細かい、氷のような粒々が付いていて凍って見えるのだ。あんな感じで造花に白い粒々をくっ付けたい。
その花が吹雪の中にあったらいい。吹雪いている場所に行く時間はないので、吹雪っぽい演出を作ることになる。家を飛び出して色々道具を買ってきた。
ここまでは良い。それでは花を凍らせていこう。
ポジティブで打ち返せ
氷の粒をつける前に、全体がうっすら白くなっていたらそれっぽいと思い、絵の具を溶かした水をスプレーで噴きかける。
まあいいか。大事なのは氷の粒だから。
氷は、細かくちぎった発泡スチロールをスプレー糊で付けることにしていた。
ちぎる作業に取り掛かるが、これが静電気で手にくっついて全然うまくいかない。手を振って何とか容器に入れようとしても粒同士が反発して入らない。キーッとなってしまい写真も撮っていない。
何とか必要な量の粒を作り、ベランダに散らばった反発した粒をほうきで集めて捨てた。こんなことで汗だくになってしまった。
やっと次の工程に進める。造花にスプレー糊を噴きかけて、作った粒を振りかける。
『ポップコーンのバケツを頭上でひっくり返しちゃった花』ができた。アイスプラントの繊細な面影がどこにもない。
「粒が大きすぎた」「作り直しか?」と冷静な考えがよぎった瞬間、
「むしろこれぐらい雪が分かりやすい方が伝わるのでは?」「まだ無いものを作っているのだから失敗とかない」
とポジティブな自分が見事な反射神経で打ち返し、このまま進めることになった。いつの間にか「雪」と呼んでいるところがテクニカルで素晴らしい。
インドアなのにスポーティな瞬間だった。
どうでもいいノウハウが生まれる
雪に打たれる花を、さっきの背景の前にセットする。
ここに雪を飛ばして吹雪いている様子を作りたい。
ちぎった紙をうちわで飛ばしてみるが、勢いが出ない。弧を描いて画面の真ん中あたりで着地してしまう。
飛んだ紙を集めて、大きなカッターマットで扇いでみるが、今後は飛ぶ方向がバラバラで画面に収まらない。また飛んだ紙を集める。
色々試して、キッチンペーパーの芯に入れた紙をドライヤーで飛ばすのが、勢いが出て方向も定まる方法だと分かった。
どうでもいいものを作るとどうでもいいノウハウが生まれる。
こうしてやれることはやり切った。
数々のどうでもいい困難を乗り越えて完成したブリザードフラワーがこちらです!
長く心に残るだろう
人の手による仕事を必要以上に感じるブリザードフラワーができた。手作りの具合が仮装大賞っぽくて良い。
強い気持ちで林さんに見せる。
そう、これをプレゼントすればいい。
パネルと布団と凍った花をセットし、紙をドライヤーで飛ばして「おめでとう」と言うのだ。パフォーマンスのプレゼントだ。
長く鑑賞できるプリザーブドフラワーの対をなすかのように、一瞬の感動に全てを賭ける贈り物である。
きっといつまでも心に残るだろう。準備が大変だから。


