イヤホンだ、有線の
ビルの上にある大きな看板が視界の端に映った。白地にグレーで何か書いてある。文字じゃない。図形みたいだ。
おしゃれだなあ、アートの何かを宣伝しているんだな、と思ってちゃんと見たらライトの影だった。
広告物が貼られていない真っ白な板に、有線イヤホンがぶら下がったような図形が描かれている。音符や木の実みたいにも見える。
右の看板の中央の二つだけ、「ハ」の字になってリズムを変えているところもポイントが高い。
広告がない、と思うとそれまでだが別の何かが現れた、と捉えることもできるのだ。建設予定地に生い茂る雑草みたいでとても良い。
これって、他の場所でも見られるのだろうか。
「難しそう」ということが分かる
この、イヤホンみたいな図形を見るためには以下の条件が揃っていないといけない。
- 真っ白な看板
- 上にライトが付いていて
- 影ができている
1番はたまに見るけど、中でもライトの付いたタイプは少ないかもしれない。きっと周囲が暗くなる場合に付けられるので、建物が密集していない場所か、飛び抜けて高い場所にある看板だ。
3番は天気と時刻の条件が揃わないといけない。日がしっかり差していても看板の裏からでは影ができないだろう。
難しそうだ。これ以上考えても「難しい」ということ以外分からないので、とりあえず天気の良い時を見計らって外を歩いてみることにした。
惜しい看板が多い
屋外看板が多い気がして、東京の御茶ノ水から神田辺りを探してみることにした。
看板に文字が入っていると、ライトの影の存在感がすごく薄くなる。
これなんかすごく惜しい。でもやっぱり完全な白紙じゃないと「何かを伝えようとしている看板」になっちゃうので影が脇役になる。
夕方まで待ったら日の当たり方が変わって影ができるのかもしれない。
でもそこまで待つ時間はないんだ。本当にあの有線イヤホンは、一期一会の貴重な現象だったのだと分かる。
暑い。ガラスの音で和らぐような暑さじゃないからな、とやさぐれそうになったけど、何も無いよりは遥かに良かった。ありがとう。

