まず、筆者が考えた回答を披露しよう。
ムササビです。他の人(動物)がもてあましている脇腹の皮を使って飛んだりします。
これを、エントリーシートに記入して提出した。
「なんの役にも立っていない倉庫の肥しを使ってイノベーションを巻き起こすぜ!」くらいの気概(実際できるかどうかは別として)をアピールしたつもりだったのだが、ふざけていると受け取られたのか、企業からの返事はなかった。
友人には
コアラです。誰も見向きもしない木にしがみついて一人で葉を食べてます。
と自分の専門性をアピールした人もいた。これなんか、かなり面白いことを言っていると思う。
余談だが、この人も面接を通過できなかった。
デイリーポータルZ友の会とツイッターでアンケートをとってみた
編集部の協力を得てデイリーポータルZ友の会およびツイッターでアンケートのお願いをした。自粛中で暇な人が多かったのか、予想よりも多くの回答が集まったのは幸いだった。
アンケートの質問は4つ。
1.「あなたを動物に例えると何ですか?」またはそれに類する質問を就職活動の場などでされたことがありますか?
2.その質問に何と答えましたか?
3.実際に聞かれなくても、想定回答として用意していたものがあれば教えてください。
4.今、同じ質問をされたら何と答えますか?
である。
結果を見ていこう。
就職活動で動物質問をされたことのある人は、意外と少ない
まずは「あなたを動物に例えると何ですか?」の質問を実際にされたことがあるか否かなのだが......これが予想よりはるかに少なかったのだ。体感的に半数は聞かれたことがあるだろうと思っていたから、意外だった。
同年代の友人にこの話を振ると、だいたい一度はこの質問を経験したことがあるという答えが返ってくることが多いのだが、いろいろな年代や経歴の人々が集まるインターネットではそうはならなかった。
就活の質問にも流行り廃りがあるみたいで、「私の時代にはそんな質問はなかった」といった意見をいくつもいただいた。
世代の常識を世間の常識と取り違えていたようである。
令和30年頃には、平成を懐かしむテレビ番組でネタにされてるやつだ。
就活ではタイガース・カラーの動物が人気!?
貴重な「聞かれたことがある」組の回答。
引き合いに出された動物は、キリンとトラとイノシシが同着1位だ。
キリン。冷静で俯瞰的であろうと心がけていますが、時としてその視点が自分の体や身の丈から離れてしまっている事が欠点になるところを感じます。(野地海月さん)
人と争うことが得意ではないのですが、その分、自分を活かすために何ができるかを考えるようにしています。キリンが首を伸ばしたことで食料を確保したように、アイディアで、自分にとっても周りにとっても良い環境を作っていけるよう常に努力しています。(北の床さん)
物見高さが売りな模様。
キリンは大きいやつで身長6mくらいになるそうなので、だいたい8.7km先まで見渡すことができる。人間(約4.7km)のほぼ倍である。
虎のように忍耐強く獲物を獲得するというニュアンスで答えましたね…。(藤井さん)
ネコ科にしては珍しく比較的色んな気候、環境に適応できると聞いたことがあります。外国でも国内でも、それほど時間がかからずその場の環境に適応するのが得意な自分に似ていると感じたためです。また、干支が寅年ということで親近感があります。…という感じで答えた記憶があります。(まきさん)
猛々しさに注目するのかと思いきや、忍耐や環境適応力に絡めてきたか。
たしかに「私はトラのように猛々しいのです」ではまるで一騎打ち前の武士の口上だ。平和な時代の就職活動にはそぐわない。
いのしし。猪突猛進、こうと決めたらまっしぐらで後ろを振り向かないから。(けろこさん)
イノシシです。亥年生まれの猪突猛進型なので。(うさみちゃんさん)
イノシシといえば突進力、突進力といえばイノシシだ。
以前罠猟免許の講習を受けた時に「興奮した大型のイノシシは罠のワイヤーを引きちぎって突進してきたり、銃を2,3発撃ち込んでも死なないことがあるから気を付けて」と言われたことがある。どう気をつけりゃええねんという感じである。
好奇心旺盛な働き蜂。好奇心と行動力を売りにしていたので。(木村さん)
”働き”蜂という所に人事に対する遠回しなアピールが伺える。
黄色い地に黒やこげ茶で模様を描いた動物が、3種(キリン、トラ、働き蜂)も上位にランクインしている。
気合の入った阪神タイガースのファンは髪や自転車を黄色と黒のストライプに塗ってしまうことがある。あの配色には人間の「戦ったるで!」という熱烈な意気込みを鼓舞する何かがあるにちがいない。
他にも
オランウータンです。無害だと思います。(アフリカ半島さん)
タヌキ/顔が似てると言われます!(まっすぐな瞳(新浜くるみさん)
「カメです。足は遅いですが地道にコツコツと取り組むことができます。」と答えました!(ぐぐさん)
といった回答があった。
全体的によく言えばポピュラーな動物が多い。宴席のとりあえずビール的なものも感じたのだけれど、中には尖った回答も。
なんとかドモザウルスみたいな感じの、聞いたこともない珍獣です。我ながら変わり者ですので。(しんぞさん)
「動物占いだと、どの動物だと思いますか?」と訊かれ、たしか「ペガサス」と答えたような気がします。「飛べるし、かっこいいから」という謎の理由を伝えました。(まつかた)
人間、健闘する
1位の犬はわかるとして、2位が人間である。
動物に例えろと言われて人間を引き合いに出すのはどうなのかとも思ったけれど、きっと逆張り的な大逆転の理由付けがあるにちがいないのである。見ていこう。
犬です。犬というのは、常に人に何かしてあげたい何かしてあげたいと思って生きている動物なんだそうです。わたしも犬のように日頃から人に尽くして生きています。そのぶん、自分のことはお留守になりがちです。(サンバさん)
柴犬。誠実さと素朴さ。虚飾に走らず人との関係を結ぶ。短期的に人の歓心を惹くには向かないかも知れないが、代わりに長く続く信頼関係を築き、それを自らの財産とする。(しばわんこさん)
誰にでも愛想のいい飼い犬。耳の垂れたイヌっぽいよね、と友人に言われ、初めて動物に例えられたなあ、と思ったことがきっかけです。 基本的に誰とでもすぐ仲良くなれるのですが、身内を守るためなどいざとなれば誰にでも噛みつきます。(あさふくさん)
会社の犬(従順な社員として有望という印象を持たせたかったため)(はつゆきさん)
圧倒的な、犬への親愛を感じる文章だ。何万年も人間に寄り添ってきた動物だけのことはあるというものだ。自分と犬を同一視しすぎたせいか、回答欄に単に「犬」とだけ書かれたものもあった。「もはや説明不要」的なすごみを感じた。
人間です。動物というものはそれぞれ知れば知るほど印象が変わる実に奥深く複雑で魅力的な性質を持っています。つまり、動物への印象はその人がどれ程その動物について知っているかで変わってしまい、一般化することが不可能なため例えることができません。これはそんなに真剣に考えるような質問では無いのかも知れません。それでも、本質を見出そうと真面目に考え答えを出そうとするのが私の特徴です。それを表現出来る動物を私は人間以外に知りません。様々な動物の有り様を尊重するという意味でも、私は人間であり、それ以上に私は私です。(兎は月を見てぴょんと跳ねたさん)
人間
理由:誰かの言いなりにならず、きちんと自分の頭で考えて行動できるから
(思い付いた瞬間、これ最適解みつけちゃったなって悟りました。)(タルテツさん)
『美味しんぼ』というグルメ漫画のフグの白子の回を思い出した。不漁で手に入らなかったフグの白子の代用品を探してくるよう求められた主人公が代わりにタラの白子を持っていくと、「代用品では決して本物の味はわからない。代用品を探してこいと言われて本当に代用品を持ってくるお前には食べ物を扱う資格はない!」てなことを言われる話である。面接官がひねくれものだったら、これが一番の正解なのかな?
それはそれとして、なんだかとてもしっくりと納得できる説明でした。我々は人間だから、人間に例えるのがしっくりくるのは当たり前ではあるけれど。
他の回答は
ひつじ(癒やしを与えられるし、肉や毛など役に立ちます)(にゃんこさん)
動物じゃないけど、マダラトビエイ(になりたい)。一生懸命には泳いでなさそうだし、時々海上を飛ぶし、群れでも単独でも行動するから。(isarさん)
鮪です。立ち止まったら死ぬところに強く惹かれます。(折りたたみさん)
あらいぐま(食器を洗うのが好きだから)(高下龍司さん)
などなど。チベスナ顔の方、一度お会いしてみたいです。
就活を離れると、いっきに活動量の低い動物が台頭する
「就活とか関係なしに、今の自分を動物に例えると?」という最後の質問だ。
就活では自分の長所をアピールしないといけないけれど、ここではその必要がないのである。他者評価という縛りがなくなると、人は自分を何の動物になぞらえるのだろうか。
1位の猫と2位のナマケモノが圧倒的に強い!
いや、理由はなんとなくわかるんだけど、ちょっと露骨過ぎる結果で笑ってしまった。やっぱり自分のペースで生きていきたいですね。
ねこ(外出や人と会うことの自粛を求められる中でも,一人でマイペースに楽しむ方法を見つけられるから)(はつゆきさん)
ネコ。マイペースなのはカバと同じく、そして今のツイッターのアイコンがネコモチーフのキャラクターだから。(ぽけもぐらさん)
猫。気まぐれでぐにゃぐにゃしてる。(ぺこぱんさん)
ナマケモノですね。"機敏に動くことができない上、非社会性動物である" とウィキペディアにありました。就職面接の必要がなくてよかったです。(isarさん)
ナマケモノです。心の底から働きたくないし揺るがない確固たる信念として是非養われたいです。(保科道恵さん)
なまけもの。家にずっといて行動範囲が狭いから(ほりさん)
なまけもの。今では人生はなまけるくらいが丁度よいと思います。(けろこさん)
猫もナマケモノも、必要がない限り自分の住処でゴロゴロしている印象がある。
テレワークが普及してみんな喜ぶわけである。
ハムスターです。背が小さくて、ずっと家の中に居て、よく寝ています。ナッツ類も好きです。
ビーバー。どこでも自分の環境づくりを得意とするから。
カピバラ。北国に住んでいるくせに年を取るにつれ寒がりになり、お風呂が日々の楽しみなので。
牛。マイペースでのんびりしている為。(天井冴太さん)
カタツムリ。こたつが大好きなので(ゴンボレ・ビアンコさん)
これらも、お家大好き・マイペース派だ。
家にいたい。自分のペースで過ごしたい。というのは、一般的には「労働したくありません」と言っているのと同じだ。面接では出せない本音が「就活は関係なしに」という条件を付け足した途端に溢れてきた。
Web会議が終わった瞬間、部屋着に着替え出す感覚である。
その他、集まった回答は深海から宇宙まで幅広く網羅されていて、さながら大自然だ。
アリです。もう27年も研究しているので、時々自分とアリの違いがよくわからなくなってきます。(アリ研究者さん)
アルパカ。生まれて初めて覚えた言葉が「まま」や「ぱぱ」ではなく、「イヤ」だった。ちなみに、アルパカは気に入らない人間に唾(くさい)を吐くそうで、「NO」と意思表示をはっきりするところが似ているのではないだろうか。あと、顔がアルパカに似てると言われてから妙に親近感がある。(だいごろうさん)
たぬき 大して才能もないのに努力だけで生き延びてきたと言われるので。自分も才能はないかもしれませんが努力は惜しみません。(もなカモネさん)
アルマジロ(ガードが固いがかわいい)(イエロー商店さん)
ハダカデバネズミ。なんとなく親近感がある。(りりさん)
イタチ。人の身近なところで人知れず走り回るのが好きだから。(だいななさん)
メスライオン。家事育児全くしない旦那を背に働く働く!めっちゃ働く母さんだよ〜!(ゆんみょんさん)
ハシビロコウ。じっとしていて何を考えているのかわからないとテレワーク中に言われるから。(匿名加工情報さん)
イヌワシ、猛禽類最強ハンターだから。(どちらもすごく好きさん)
アメンボ 手汗が酷いので(アメンボは手の油で水に浮く)(マトンカレーさん)
宇宙人です。ほら、地球人も広い意味では宇宙人じゃん!!(笑)(次男だから二郎さん)
意外と自己分析できているかもしれない
肝心の就職活動の現場では「あなたを動物に例えるとなんですか?」の質問は、最近ではあまり出題されなくなっているらしい。
理由は、「これはただの大喜利なのでは?」と疑問を抱く人が現れたり、あるいは事前に回答を用意する人が増えたせいで「相手の意表を突く質問」としての効力が薄れてきたからだという。ともあれ、人事と被面接者のイタチごっこの中で、すでに過去のものになろうとしている。
今回のアンケートでは、自分と動物の個性をうまくすり合わせて説明しようとした力作がたくさん集まった。自己分析という点では、この質問は案外悪くないのではないだろうか。
明日からも動物に自分を投影して生きていこうと思う。