憧れウサギ
ウサギは誰もが見たことがある動物だと思う。ペットショップや動物園に行けばいるし、小学校によっては飼っているところもあるはずだ。小学生時代を思い出すと飼育係という役職もあった気がする。
日本には野生のウサギも生息している。本州や九州、四国には「ニホンノウサギ」がいて、北海道にはエゾユキウサギやエゾナキウサギが生息している。またミッフィーやマイメロディなど、ウサギはキャラクターになっていることも多い。
そんなウサギの一種に「アマミノクロウサギ」が存在する。日本の固有種で世界中を探しても日本にしか生息していない。さらに日本でも奄美大島と徳之島にしかいないのだ。どちらも鹿児島に属する島だ。
私は小学生時代の数年を鹿児島で過ごした。そのためアマミノクロウサギは近い存在だった。貴重であることや、数が減っていることを習った覚えがある。その頃からいつか見てみたいと思っていた。
博物館などで剥製は見たことがあった。ただ私は生きている、自由に動き回る野生のアマミノクロウサギを見たかった。子供の頃からの夢だ。ただ奄美大島にしろ、徳之島にしろ、行く予定がないのだ。叶わぬ夢だと決めつけていた。
奄美大島を目指して
何かの予定のついでにアマミノクロウサギを見よう、ではなく、アマミノクロウサギを見るためだけに奄美大島に行こう、と決めた。奄美大島に行く予定なんて、そうそうあるものではないので、それしか方法はないと気がついたのだ。
そんなの当たり前じゃん、と思うかもしれない。実際そうなのだけれど、アマミノクロウサギは数が少ないので行っても見ることが難しいのでは、と思い行くことを躊躇していた。ただ近年は数が回復しつつあるそうで、環境省が行った2021年度の調査では、推定個体数の中央値が2万匹弱となっている。
1977年に出版された「アマミノクロウサギ生きた化石シリーズ日本の野性動物〈5〉」を読むと、1962年の文部省文化財保護委員の調査について書かれており、個体数が約500匹と推定されているとある。つまりアマミノクロウサギは増えているのだ。40倍なのだ。
2003年の環境省の調査では2000匹から4800匹となっているので、やはり今は数が増えていることがわかる。つまり今なら夢であった野生のアマミノクロウサギを見ることができるかもしれない、と思い奄美大島に行くことに決めたのだ。
続々登場
カレンダーは12月だった。奄美大島だけあり、寒くはなかった。観光シーズンではないようで、人は少なく、ホテルを取るのも難しくはなかったし、アマミノクロウサギを見るための「三太郎線」の予約もすんなりできた。
三太郎線とは、奄美大島の中央に位置し、国道58号線にある三太郎トンネルの上を通る道路。以前は林業を支える道路だったらしい。地元の方に話を聞けば、むかし三太郎という茶屋があったと言っていた気がする。
この三太郎線は現在、夜間通行のルールが決まっている。事前に予約しなければ通ることができない。予約が必要な時間は季節によって変わり、私が訪れた12月は17時から翌7時までだった。東側入口、西側入口があり、それぞれから30分おきに1台ずつと決まっている。
また時速10km以下や、大きな声を出さないなどのルールもある。三太郎線にはアマミノクロウサギをはじめとした野生動物が多く存在し、ロードキルを防ぐためだ。ロードキルとは車で轢いてしまうこと。また野生動物のストレス増加などの悪影響を防ぐためでもある。
時速10km以下でゆっくりと走った。楽しみすぎて、夕方に奄美空港に着くと、ホテルに荷物を置いて、三太郎線に直行した。そのようなスケジュールになるように予約しておいたのだ。ただ簡単に見ることはできないと思っていた。子供の頃から貴重、数が減っていると習っていたからだ。
案外簡単に目撃することができた。というか、めちゃくちゃいた。都会のコンビニくらいいた。最初のうちは数えていたのだけれど、あっという間に二桁になったので、数えるのをやめてしまった。こんなに出会えるなんて、感動だった。
どんどん出てくる。黒く小さい。耳も特徴的だ。ウサギと言えば大きな耳を思い浮かべるけれど、アマミノクロウサギの耳はそこまで大きくない。ただピンと立っており、内側が白いために存在感がある。目が赤いのは光が当たっているから。通常は黒い。
剥製や写真でしかアマミノクロウサギを見たことがなかったので、動いているのを見るのは感激だった。意外と機敏ではない。面倒臭そうに跳ねていた。道路を横切る時は機敏だったけれど。
パレードかな、と思うほどにアマミノクロウサギが登場した。この感動は私が想像していたよりも大きかったようで、熱が出た。熱が出るほどに感動したのだ。病院に行ったら、ただの風邪だったけれど。奄美大島に来てよかったと心から思った。


