特集 2021年2月2日

ロボットで殴りあうニュージーランドの新競技 “Stupid Robot Fighting League” 日本大会のすべて

オーストラリアの隣にあって、日本と似た形の島国、ニュージーランド。

そこで行われている、ちょっと変わったロボットバトルイベントがあるという。
その名も「Stupid Robot Fighting League(愚かなロボット格闘選手権)」。

先日開催した、その日本大会の様子をレポートします。

インターネットユーザー。電子工作でオリジナルの処刑器具を作ったり、辺境の国の変な音楽を集めたりしています。「技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)」主催者。1980年岐阜県生まれ。(動画インタビュー)

前の記事:仕上げにニスを塗る(デジタルリマスター版)

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時間がない人のためのスーパーダイジェスト動画

ロボットで殴り合え!

Stupid Robot Fighting League は、みなさんがロボットバトルと聞いて想像するものとはおそらくちょっと違う。熱心な読者の方なら、その名前からヘボコンを思い浮かべるかもしれないが、あれともちょっと違う。
出てくるロボットは、等身大のヒューマノイドロボットだ。

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サイズがわかりにくいが、たぶん150cmくらいある


ロボットというか正直、廃品を針金でつなげたものなのだが、ここではこれがロボットの定義なので慣れてほしい。

ここでひとつ疑問が生まれる。コンピューターもモーターも搭載していないこのロボットがどうやって戦うのだろうか?

こたえは、こうである。

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椅子に座った人(パイロット)とロボットの手足を角材でつなぐ。その状態で……
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人が暴れるのである

ロボットバトルというか、実質的にはロボットを介して人間同士が殴り合いしているという状態である。しかしながら人を見ないようにしてできるだけロボットに意識を集中し、心の目で見るとロボットが格闘しているように見える。(冗談ではなく本当に見えるので、まだ見えていない人はがんばってほしい。)

日本大会開催まで

そんな異常なイベントを主催しているのは現地在住のヒゲの男、John Espin氏である。彼とは僕が運営している別のイベント、ヘボコンを通して知り合ったのだが、去年の初夏に急に「日本大会をやろう」と持ち掛けられたのだ。

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Johnさん

いわく、

・参加者を集めてくれ
・素材はあるからZoom経由で一緒にロボットを作ろう
・試合はニュージーランドで勝手にやって映像送るから

おりしも新型コロナの影響でイベント開催が困難だった時期である(今もだが)。

完全オンライン対応でスカッとバカなことができるとあって、考えるまもなく乗っかることにした。
 

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愚かなロボット開発はパーツを選ぶだけ

というわけでサイト上で参加者を募集、7人の精鋭が集まってロボット作りが始まった。

ロボットのパーツはニュージーランドのJohnさんの自宅にある。それを日本から参加者がZoom越しに見ながら指示をして、その場でJohnさんが組み立て、ニュージーランドでロボットができあがっていく。

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各ロボットはこの17個のパーツで構成されていて
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Johnさんが用意してくれた廃品からひとつずつ選んでいく

各パーツはおもちゃや家電を分解したもので、金属製だったりプラスチックだったりいろいろ。

金属製は丈夫だが、エッジが薄いとパーツ間をつないでいる針金をナイフのように切ってしまう場合がある。かといってプラスチックはもろいので、割れて壊れやすい。

いずれの場合も、パーツが脱落すると失点になるので慎重に選ばなければいけない。

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ボディ用のパーツの一部。乗り物のサドルから人形の家、ままごと用キッチンを切断したものなど、かなり個性的な形がある
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頭部パーツ。これを顔にしないでどれを選ぶというのか!
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樹脂が細い、めちゃ壊れやすいパーツを選んでしまった瞬間(この時はまだ気づいていない)

いろんな部品があるので、強さをとるか、見た目の面白さを取るか悩む……って普通ならなりそうなものだが、この時点ではどれが強いのかよくわからなかったので、結局みんな見た目で選んでいた。

選んだパーツはZoomの向こうでJohnさんが組み立ててくれる。

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素体ができてきた。モノトーンでシックに決めるロボと、カラフルなロボ
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形ができたら装飾。ネクタイを付けることを考案し「エクセレント!」って言われているところ
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カニをコンセプトに、大量の足を搭載したロボット

それぞれのパーツは解体されたおもちゃや電気製品で、その出自をJohnさんにたずねながら組み立てていくのもたのしい。木馬のお尻の部分を手にすれば尻尾がムチになるし、自分のロボットと他人のロボットが、実は2つに切断された同じおもちゃを分け合った兄弟、なんてこともあった。

手探り英会話の面白さ

そんなふうにJohnさんとの共同作業を進めていくわけだが、参加者の英語レベルがバラバラだったのもおもしろかった。

僕も含めた「海外旅行をギリギリやり過ごせる」くらいの英語力だと、パーツ選びはできても、細かい指示、たとえば「そこ90度回転させてもうちょっと上に寄せて!」みたいなことがギリギリ言えない。「このパーツってもともとなんだったの?」って尋ねることはできるけど回答を聞き取るのが困難だったり。

そういうやりとりをちょっと背伸びしてやろうとして、途中でしどろもどろになって最後は身振り手振りで無理やり乗り切る…!みたいなのがとても楽しいのだ。

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Johnさんはこんな感じでパーツに番号を付けて、選びやすいように工夫してくれた(「右から2番目の…」とか言うだけで大変なのだ!)
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「こんな感じで耳を付けて!」(言葉で表現しきれず手が出ているところ)
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「こう??」

自分の番以外にも、同じ日に参加したメンバーとお互い知ってる単語を出してカバーし合ったりして、チームワークが生まれる(チームといっても、この後のゲームでは敵なのだが)。

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単語帳も作って出場者間で共有した

この片言英会話、本気で英語教育のカリキュラムに取り入れてもいいのではと思うほどのエンタテインメント体験であった。

Johnさんがナイスガイなのをいいことに英会話の練習台にしてしまったのは申し訳なかったが、彼もそういうコミュニケーションを楽しんでくれて、1か月後には無事に7体のロボットが完成した!

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8体の「愚かな」ロボットたち

記念すべき、第1回 Stupid Robot Fighting League 日本大会、出場機はこの8体だ。

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Mask man 2020(タマテック)
新型コロナの流行を受けて、顔のマスクが特徴。腕のリーチの長さがソーシャルディスタンス越しの攻撃を可能にする。向かって右の腕がイモムシなのもキュート!
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My Home(のぐちともひろ)
名前の由来はおなかの家。家にはニワトリがいたり、ユニコーンの顔に加えて向かって右の手にも動物が乗っていたり、ファンシーなデザインも魅力。
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一つ目コウモリ(石川大樹)
Johnさんが「creepy(キモイ)」を連呼していた、筆者のロボ。一つ目とでかい耳が特徴。なんか妙に太いひげが気持ち悪さの根源か。
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ミレニアル・ドン・キホーテ(東日暮里テックサービス)
向かって左の足に注目、馬の頭を使用しているのが見えるだろうか。乗馬している(?)のでドン・キホーテである。他に風車モチーフのパーツがあったりと細かくドン・キホーテしている。
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ダンスクラブ(じきるぅ)
タラバガニ型殺戮ロボット。腰から生えた多脚が特徴だが、よく見るとすべての腕・脚の先には二股に分かれたハサミっぽいものがついているディテールのこまかさ。
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タコ男爵(ダイオウイカ)
モノトーンでシックに決めたタコ型ロボット。「手のピストルから常に墨がちょっと出ている」(作者)。よく見るとボディにサルが載っていてかわいい
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タカズ三号(谷中研究所)
むかしのロボットマンガをイメージ。渦巻き状のボディが特徴で、色もカラフルでポップ。とぼけた表情も愛らしく、今大会でいちばんの愛されロボかもしれない

我々が作った以上7体にくわえ、もう1体、Johnさんの友人の日本人が作ったという刺客ロボが参戦。

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RISING SUN(HONDA SAN)
グレーと赤に統一され、パーツもどこか流線形っぽいものが多い、スタイリッシュなロボ。足がキーボードなのが唐突でおかしい

これら8体のロボが、「愚か」の頂点をかけて戦うのだ!

ニュージーランドの暮らしがそこに

そして去年の10月。日本は秋も深まり、そしてニュージーランドは春。
いよいよ戦いが始まる……のだが、試合は現地で勝手にやってくれるので、日本の参加者はしばらく待ち状態になった。

現地で地元のお祭りやイベントがあるたびに、その出し物として試合が開催される。Johnさんからそのつど連絡が来るのを、特に何もせずホワーと眺める日々が始まった。

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今日はこんな場所で試合やるよー、というビデオメッセージを送ってくれた(が、僕は英語がよく聞き取れなかったので「ごめん、よくわかんないけどいい景色だね!」と返している…。ごめん!)

 

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この日は花火大会でやったみたいで、花火の動画が送られてきた
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試合が終わった様子の写真(と、「俺のが勝ったでしょ!?」「No.」という会話)
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戦いの激しさを物語る、試合後に散乱するロボットの破片

ほかにも家で修理をしている様子なんかも送られてきて、ニュージーランドの日常に交じってトーナメントを進めてくれているのがわかる。
ただ試合結果だけが送られてくるのではない、現地の生活を感じるレポートに、すっかりニュージーランドが身近に感じるようになってしまった。いままでキウイのイメージしかなかったのに。

そして最終的には全試合の動画を送ってもらって、12月に出場者のみんなでオンラインのパブリックビューイングをした。そのアーカイブはこちらに残っているので全編見てみたい方はそちらをぜひ見てほしいのだけど、ここではサクッと読めるようにトーナメントの流れをダイジェストでご紹介していきます。

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1回戦

初戦は馬を履いたミレニアル・ドン・キホーテ vs 渦巻きボディのタカズ三号。地元の教会のイベントで開催されたそうだ。

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スタンバイ

フィジー出身だという大男2人がパイロット。つけているフェイスシールドは、日本で見かけるコロナ対策のそれではなく、もっとものものしいもの。なぜなら物理的に破片が飛んでくるからだ。

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パイロットたちの雄たけびで試合は幕を開ける

ルールとしては、ロボットの首がもげたら即敗北、そうでなければ時間内に相手のパーツをたくさん脱落させた方が勝利。
日本大会の記念すべき初戦、いったいどんな展開になったかというと…

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最初の一撃でドン・キホーテ(左)の首がもげ、瞬殺!
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パイロットの顔に当たってる…!ほんとに危ないようだ。

各試合のあとにはパーツの検証が行われる。

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ここに針金がくくってあったのが、もげてる!

見た目で選びがちだったパーツ選びの重要さを、参加者一同が思い知った。初戦だけにゲームのチュートリアルみたいな試合だった。


続く第2試合では My Home が Mask man2020 のマスクを吹っ飛ばし、両者徐々にパーツを失いつつの長期戦に。
この試合は雰囲気を感じていただくためにも、ライブ配信の時の動画を抜粋しよう。


9分ほどあるので、まんなかへんを少し見て雰囲気だけ感じていただくのもいい。

ざっくり展開を説明すると、序盤は2体のロボットが絡まりあい取っ組み合いに。そして My Home が激しいパンチを繰り出しすぎて自身の右腕を損傷。その後マスクマンが左右の腕を次々失い、そのまま時間切れ。残存パーツの多い My Home が勝利となった。


続く第三試合は 一つ目コウモリ vs タコ男爵。一つ目コウモリは筆者が作ったロボットである。この試合は激戦!!

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角材が折れる

 

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折れまくる


最終的には両ロボとも腕を失い、脚のみでの戦いに。そして持久戦の末、まさかの引き分け!!

その後、日を変えて再戦が行われ、

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パーツ2か所破損に加えて、だんだん奥の方に追い詰められてくる一つ目(左)

そのままタコ男爵が勝利!筆者はここで一回戦敗退となった。


そして4試合目、謎のマシンRISING SUN vs ダンスクラブ。

8本の脚を搭載したダンスクラブ、ガチャガチャしていてひときわ派手だった。
しかし試合はなかなか決定打が出ず、2体ともすべての部位を残したまま…

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だんだん疲れて動きが鈍くなってきた両パイロット

このあと時間切れ直前にRISING SUNの足の角材が折れ、残存パーツ数の差でダンスクラブの勝利。

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1回戦の結果

2回戦(準決勝)

トーナメントの途中から、挑発タイムが設けられた。これは Stupid Robot Fighting League の定番ルールで、試合の前に各パイロットが対戦相手を挑発するようなフレーズを叫ぶ。

今回はせっかくの日本大会なので、ふだんは英語で生活しているニュージーランドの人たちに、日本語のフレーズをそのまま叫んでもらうことになった。

挑発シーンをつなげた動画

これもJohnさんの発案だったが、言いなれない言葉でちょっと嚙む人、照れる人、一切の躊躇なくまさにおたけびをあげる人など、さまざまでおもしろかった。
ロボット作りのときといい、必要性に追われずにヘラヘラやる異文化コミュニケーションはほんとエンターテインメントだなーと思う。

さて二回戦初戦、My Home vs タカズ三号 ではMy Homeがパーツを次々破損させられ敗退。

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My Home(左)は顔パーツがちゃんと顔なので、殴られたときに「痛そう!」って思ってしまう
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両腕を失うも、タカズ三号(右)の首を集中的に蹴って一発逆転を狙う(首がもげると即敗北)

しかし逆転ならず、タカズ三号の勝利。


続いてダンスクラブ vs タコ男爵の海産物対決。眺めのいい場所に戦場を移し…

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パイロットはいずれもパワフルかつ手加減なしの二人で、トーナメント中いちばん激しい殴り合いが展開された。
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両腕と右脚を失い、最終的に足一本になってしまうダンスクラブ

そしてそのまま時間切れでタコ男爵が勝利。

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手のパーツとしてついていた缶が

 

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ベッコベコになっており戦いの激しさを物語っていた
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二回戦の結果

決勝

そしていよいよ決勝戦。タコ男爵 vs タカズ三号の戦場は…

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なんか立派なステージの上


これが先ほど写真を貼った花火大会のイベント。2000人ほどの観客が集まったそうだ。
こちらはせっかくなので動画でも見てもらおう。

 

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動画を見るのが面倒な人のためのGIF

歴戦を勝ち抜いてきた2体だけあって、どちらも丈夫。主要パーツの欠損どころか、飾りにつけた細かいパーツすらもなかなか壊れない。
しかし……

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時間切れ直前にタカズ三号が右腕を欠損

そしてそのまま時間切れに持ち込み、

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優勝はタコ男爵に決まった!!

記念すべき初めてのStupid Robot Fighting League優勝は、タコ男爵に決まった!

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おめでとう、タコ男爵!!

 

後日談

さて、優勝が決まって良かったね、でこの話は終わりではない。実は後日談があるのだ。

全試合が終わり一息ついた12月のある日、Johnさんから連絡があった。このあと地元でクリスマスパレードがあるのだという。
そこに Stupid Robot Fighting League として、優勝ロボットを山車(だし)にして出るのだそうだ。

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そして送られてきた山車の写真

手押し車に乗せられたタコ男爵。実はその下には準優勝のタカズ三号も丸めて詰め込まれている。

写真だと隠れているが側面にはGo-Proがついていて、「日本大会の優勝者。『コンニチハ』と言ってね!」的なことが書いてある。

そして後日送られてきた動画では、これがパレードで地元の街を練り歩き…

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みんなが「こんにちは!」と言ってくれている動画が送られてきた

もはやどこがクリスマスなのか全然わからない山車だが、タコ男爵のとぼけた表情はギャラリーの人気を博したようだ。

さらに、パレードの閉会式。このパレードは山車のコンテストになっており、その表彰があったようだ。ここでなんとわれらがタコ男爵の山車が……

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手押し車部門の大賞を受賞!!


日本大会で作られたロボットが、大会の中で活躍しただけでなく、ニュージーランドの街のコンテストでも賞を取ったのだ!!すごい!!!

……というのは実は裏があって…

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映像内、がんばってヒアリングするとJohnさんが「チート」(不正)がどうとかといって笑いを取っている

実は受賞した手押し車部門、Johnさんが事務局に掛けあって用意した部門で、しかもトロフィまで全部自分で作って持ち込んだもの。

そして手押し車を使った山車はタコ男爵一台のみで、自動的に受賞する仕組みになっていた。つまり全部自作自演の受賞だったのだ……!

このヒゲの男の茶目っ気、ただものではない。


たのしい「愚か」

廃材、バイオレンス、国際交流、ニュージーランドの暮らし。いろんな要素が詰まった、濃密なイベントだった。

あれから1か月半がたち、年も明け、はやいものでもう2月である。いま振り返って思い出すのは、Johnさんのユーモアとサービス精神だ。

Stupid Robot Fighting League はバイオレンスなロボットバトルのイベントであるとともに、関わった人が全員Johnさんのことを好きになっていく、最終的にはそういう「Johnさんファンの集い」みたいなイベントでもあったと思う。

日本大会の開催を持ちかけてくれたJohnさん、どうもありがとう。そして参加してくれた6人のみなさん、配信を見てくれたみなさん、どうもありがとうございました!!

Stupid Robot Fighting League 公式Youtubeチャンネル

技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)もよろしくね(FBグループ)

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