特集 2021年1月17日

仕上げにニスを塗る(デジタルリマスター版)

小学生のころの図工の授業を振り返ってみると、紙粘土で人形を作ってはニスを塗り、木を組み立ててはニスを塗り、彫刻を彫ってはニスを塗り…というぐあいで、なんでもニスを塗っていた気がする。

今でも「ニス」の2文字をきいただけで小学校の図工室を思い出すし、友達より早くニスを塗った(=制作が早く終わった)ときの微妙な優越感が胸によみがえる。

そんなことを考えていたら、久しぶりに存分にニスを塗ってみたくなった。

2010年4月に掲載された記事の写真画像を大きくして再掲載しました。

インターネットユーザー。電子工作でオリジナルの処刑器具を作ったり、辺境の国の変わった音楽を集めたりしています。「技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)」主催者。1980年岐阜県生まれ。
『雑に作る ―電子工作で好きなものを作る近道集』(共著)がオライリーから出ました!

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見てみたら別に懐かしくなかった

調べてみると、ニスとは木材などに使う仕上げ材で、樹脂と溶剤をまぜたもの。光沢を出したり、素材の表面を保護する役目をするようだ。

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こんなのだっけ

図工室にあったニスがどんな入れ物に入っていたか覚えてないのだが、こんな小さいボトルではなかった気がする。キャップを開けてみると

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シンナーっぽい匂い

開けてみると溶剤系の匂い。ニスってこんな匂いだっけ?

久しぶりのニスとの対面。さっきから、懐かしさよりも、こんなのだっけ?という疑問ばかりが浮かんでは消える。

試し塗り

とりあえず正統派な使い方から試す。木材に塗ってみよう。

左の写真はホームセンターに売ってた木片である。何に使うものかよくわからないが、とりあえずニスでも塗るか。

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商品名は「ジョイント」って書いてあった

 

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机を使わずに行儀の悪い姿勢でニスを塗るのは大人の特権
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比較のために半分まで塗った

とりあえず半分塗ってみた。その様子がこれだ。

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ハーフ&ハーフ

ニスを塗った部分がとりたててすごいということもないのだが、むしろさっきまでなんとも思わなかった生の木材が、急にみすぼらしく見えてきた。右半分、カッサカサじゃないか。

そのままぜんぶ塗る。

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家具だ!

 

高級感、なんていうと誉めすぎかもしれないが、なんというか「製品」っぽくなった。

塗る前のものが落ちてたらゴミ箱に放り込むと思うが、これが落ちてたら「なんかの部品が落ちてたからとりあえずしまっておこう」という判断をするだろう。

これがニスの仕上げ力。小学校の担任は、だてにニスを塗らせていたわけではなかったのだ。

 

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エレクトロニクスとニス

木工以外の可能性を探っていきたい。たとえばこういうのはどうだろう。

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エレクトロニック

以前、趣味で作った電子回路である。故障してしまって動作しないし、部品取りのために途中で銅線もぶった切ってしまった。どうにもみすぼらしい状態だが、ニスを塗れば見栄えもよくなるだろうか。

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BEFORE
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AFTER

なんとも言い難い出来である。

電子部品の持つ無機質で冷たいイメージは克服できたかもしれない。でも、これだけぬらぬらしているのは、それを補ってなお余るレベルで気持ちが悪い。

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すごい欠点を発見。スイッチが固まって動かない
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光沢が増して昆虫の腹側を彷彿とさせる裏面

裏側は見た目にも変化があったが、それより、もっとすごい効果も現れた。

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絶縁されてる

むき出しの導線は、うっかり金属(工具とかね)の上に置いて使うとショートしたりして危険だ。

それが、ニスで表面をコーティングすることにより見事に絶縁されていた。

予想外のところで、使える。(もっとマシな手段はあるので本当は使わないが)

 

食べものにもニス

木がOKなら、同じ植物である野菜や果物もバッチリ仕上げてくれるのではないだろうか。

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毎日食べてます

読者のみなさんは、このあと、テッカテカのバナナができてアハハハー!みたいな展開だと思っているだろう。僕もそれを狙ったのだが。

 

マウスオンで現実

大変なことをしてしまった。

軽い気持ちでニスを塗ったせいで、完全にバナナはダークサイドに堕ちた。そんなつもりじゃなかったのに。ごめん。

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この黒さ+テカリ。
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まさに異形

写真だけでも気色の悪さはいくらか伝わっていることと思うが、実物はそれに加えて、触った感触までブヨブヨしている。

ニス、悪魔の薬だ。

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中身は無事でしたが

 

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なんでもニスを塗る

勢いに任せて、手当たり次第に塗ってみる。

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元からキラキラしているCD-R。ニスでさらに光沢が出る?
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割れたように見えるのは塗りむら。ニスが染み込まないのできれいに塗れない。光沢は「鈍く光る」といった感じで妖しい
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家にある木といえば割箸。吉野家のがあった
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意外に変化がない。表面積が小さいからか。箸袋が色オチでかわいそうなことになった点は素直に謝りたい

 

 

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木がいいなら紙もいいんじゃないか、と思った折り鶴。はけに紙がくっついて、ひどく塗りにくいのだ
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写真ではわかりにくいけど光沢が出た。樹脂を吸った紙が固くなって、ポージングがしやすく

素材によっていろいろ変化があっておもしろい。

そしてこうしていろいろ塗ってみてわかるのは、やはりニスは木に塗るためのものだな、という当たり前の事実である。

それ以外のものに塗ると、塗りむらになったり色オチしたりひどく塗りにくかったりするのだ。

読者の中にも、紙にニスがうまく塗れなくて「俺、向いてないのかなー」と悩んでいる人がいるかもしれないが、それはあなたではなくてニスが向いてないのだ。

 

 

シンデレラとニスの馬車

ニスを使ったシンデレラストーリーを考えた。そのへんに落ちてる薄汚れた石や枝も、綺麗に洗ってニスを塗れば、見違えるような「いいもの」になって、王子様に見初められたりしないだろうか。

明日のシンデレラをスカウトしにやってきた公園。雨に濡れて地面はぬかるみ、いい具合に全てが薄汚れていた。

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今夜のシンデレラは、キミだ
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キミもだ
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まずはタワシでゴシゴシ洗浄
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ニスを塗らずともこの時点でずいぶん変わってしまったのは計算外
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木の形状が、どこか恨めしそうな顔に見えるのは気のせいだろうか
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さあ、魔法をかけるよ
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このシンナーくさい液体が、きみのガラスの靴だ

話は逸れるが、一日、さんざんニスを塗りまくってみて突然思い出したことがある。そういえば大学時代、ジャガイモにニスを塗ったことがあった。学祭でイモを展示するスペースを作り、その一環として展示したのだ。おもしろいかと思って。

そのとき一緒にジャガイモにニスを塗った友人に、先日ひさしぶりに会った。いま彼は中東で工場を作っていて、いつの間にか世界をまたにかけるビジネスマンになっていた。

僕はいまだに、拾った石にニスを塗っている。

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その友人にもらったおみやげ。変な顔のついた鉛筆と、よくわからない樹脂(ガムのように噛むといわれた気がするが酔っていたので確信が無く、恐くて噛んでない)
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アラブ首長国連邦のCD。アラブの平井堅、みたいな感じなのだろうか(顔が濃いから平井堅を出したが、それを言ったらアラブ人歌手は全員平井堅だ)
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ライナーがかっこいい

関係ない写真ばかり載せてしまった。

とにかく友人は中東に工場をつくっていて、そうこうしているうちに僕はあと数ヶ月で、彼より一足先に30代に突入する。そして、こういう無駄話をしているうちに石や枝に塗ったニスも乾く。

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石。色や形は石なのに、質感が違うので作り物っぽい。人に思いっきり投げつけて脅かして遊ぶやつ。(これは本物なので投げつけると死ぬ)
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これはピカピカして質感はいいのだが、いかんせん形・大きさともにゴミだ

シンデレラストーリーというのはちょっとおこがましいが、亭主改造計画くらいにはなったのではないだろうか。召使いが王妃になることはなかったが、亭主が亭主のまま小ぎれいになったくらいの変化はあったと思う。


ニスがあればゴミも捨てにくく

ニスを塗ってから数日がたったが、あの石と枝は今も自室に置いてある。視野に入る度に「ゴミだ」と思いながらも、なんとなく捨てられないでいる。それはたぶんニスが塗ってあるからだ。

ゴミをゴミじゃなくすることはできないけど、なんとなく捨てにくくはなる。そういう力が、ニスにはある。

あと、工場は建たないけど、ライター業もなかなか楽しいですよ。

 

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