そもそも鯵の由来が味
原稿を書く段階になって、鯵の名前の由来を調べてみた。
「味が良い」ことからアジと呼ばれるようになったそうだ。
「アジフライ」と聞いて「味」のことを考えてしまっていたが、大きく外れてはいなかったんだな。
「アジフライ」と音で聞く時、魚の鯵の前に「味」と思う。
「味のフライか…」「何味かな…」という意味のない時間が一瞬あり、ハッとして鯵のフライに焦点が定まる。
この、存在しないのにいつも一瞬だけ想像してしまう「味フライ」、一度作ってその姿を確かめておこう。
味フライ。つまり味をフライにしたものだ。味そのものを作ってそれにパン粉を付けて揚げればいい。
例えばしょうゆ味なら、食べられるくらいに薄めたしょうゆを、粉と水で固めて揚げたら「味フライ(しょうゆ味)」と呼んでもいいのではないか。
作ってみよう。
混ぜていると突然粘りが出て固まった。おもしろいな。味そのもの作り。
別の料理として名前が付けられていそうだが、呼ぶのはやめておこう。それになっちゃうから。
最後に「みそ味そのもの」も作ろうと思ったが、みそを溶いた水がうまく固まらない。とろみは付くのだが、その先にいかない。
大豆のつぶつぶがいけないのかなと思い、濾してから火にかけてみたが、ダメだった。
みそにだけ、片栗粉で固まりにくい理由があるのだろうか。それとも前2つは奇跡的にうまくいっただけで、僕のやり方が間違っているのだろうか。
悩んでいたら時間がなくなってきた。
調味料を薄めて固めたものを「味そのもの」と呼んでいるので、上の写真の物体に名前が付けられない。「味そのものを生み出すための媒体」だろうか。
では揚げよう。
形が崩れないように揚げるのが大変だった。ひっくり返す時にきれいにいかず、汗だくになりながら整えて揚げた。
味そのものをフライにしたの味フライ(しょうゆ味)だ!
途中でパン粉がなくなって買いに行った。
頭の中にしかないものを作っているのに、現実的な苦労が発生すると困惑する。
みそ味固める時に試行錯誤したり、パン粉がなくて買いに行ったり。パン粉のお金を払っているのも、理解し難かった。
僕がずっと「アジフライ」と聞いた時に浮かぶ「味そのものを揚げた物体」である。
意外と見たことのあるような、親しみやすそうな物体である。おいしそうだ。
「やっと出会えた!」と感動するほどではないが「前から知ってる気がしますね」と話しかけたくなる感慨深さはあった。
食べてみよう。しょうゆ味フライから。
おいしさはそこまで期待していなかったので、認めるのが遅くなったが、思っていたよりおいしかった。
しょうゆのしょっぱさと衣の甘さのバランス、そして中のトロッとした食感と外のサクッとした食感のバランスが良い。
埼玉県の行田市にゼリーフライというご当地グルメがある。おからやじゃがいもを小判形にして揚げたものなのだが、初めて聞いた時は「ゼリーをフライに!」と驚いた。その想像の中のゼリーフライに、似ている。
頭の中にある食べ物を作ったら、頭の中の別の食べ物と似てしまった。
塩味フライもみそ味フライもおいしい。しかし塩は味としてあまりにストレートで、複合的な味わいがあるしょうゆやみその方が好みだった。
「味そのもの」というコンセプトから考えると、塩味フライが一番趣旨に則っていたと思う。
この日の夜、何も言わずに妻と子に食べてもらった。「これは味そのものを揚げた味フライだね」と当ててもらえたら成功である。
妻:(眉間にしわを寄せる)…
僕:何だと思う?
妻:…ゼリー? あのさ、埼玉にゼリーフライってあるよね。あれって最初こういうものかと思ってた
子:おいしい!
僕:あのね、これは「味」を揚げたの。味を揚げた「味フライ」なの
妻:…はぁーん…………
子:どういうこと?
僕:しょうゆ味のフライ。しょうゆを薄めたものを片栗粉で固めて、揚げたの
子:おいしいよ
妻:びっくりした。脂身かと思って顔しかめちゃった
僕:分かんないと怖いよね
妻:片栗粉かー…
こんな反応があり、夕食に戻った。
奇跡的に一致する「想像のゼリーフライ」という感想、気を遣っておいしいと強く伝えてくれる子ども、「味フライ」の説明をした時のゾクゾクする空気など、見どころがたくさんあったが、「味そのもののフライ!」と当ててもらうことはできなかった。
人によって「味フライ」の姿や味は違うのかもしれない。
「想像のゼリーフライ」の方が認知度が高いことが分かった。
原稿を書く段階になって、鯵の名前の由来を調べてみた。
「味が良い」ことからアジと呼ばれるようになったそうだ。
「アジフライ」と聞いて「味」のことを考えてしまっていたが、大きく外れてはいなかったんだな。
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