特集 2020年12月24日

高知空港の近くにたたずむ飛行機の格納庫を見に行った

高知空港の側に残る、巨大なカマボコ型の格納庫

「掩体壕(えんたいごう)」という言葉をご存じだろうか。第二次世界大戦中に築かれた、飛行機を空襲から守るための格納庫である。

関東地方では東京都の調布飛行場や千葉県の香取飛行場跡、茂原飛行場跡などに現存しており、私は以前それらの掩体壕を巡る記事を書いた(参照記事→「飛行機用の防空壕、「掩体壕」のたたずまい」)。

掩体壕は関東地方のみならず全国各地の飛行場に築かれており、中でも高知空港の近くには計7基の掩体壕が残っているという。それらは現在どのような状態なのか、気になったので見に行った。

1981年神奈川生まれ。テケテケな文化財ライター。古いモノを漁るべく、各地を奔走中。常になんとかなるさと思いながら生きてるが、実際なんとかなってしまっているのがタチ悪い。2011年には30歳の節目として歩き遍路をやりました。2012年には31歳の節目としてサンティアゴ巡礼をやりました。(動画インタビュー)

前の記事:四国遍路・修行の「奥の院」巡り

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高知空港の西側に点在する「前浜掩体群」

高知空港は高知市から東へ約15kmほど、南国(なんこく)市の物部川河口に位置している。終戦前年の昭和19年(1944年)に建設された、偵察搭乗員の実技教育を行なう高知海軍航空隊の基地を前身とし、現在は高知龍馬空港という愛称で親しまれている。

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高知空港のターミナルは滑走路の東側に位置している
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南に周って滑走路を迂回し、空港の西側へと出ると――ー
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収獲が終わった田畑の中に、不思議な形のコンクリートがポツンポツンと見えた
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これこそが、飛行機を空襲から守るための格納庫「掩体壕」である

現在は空港の敷地外であるものの、かつては滑走路からこの前浜地区にまで誘導路が張り巡らされており、その道筋に面して鉄筋コンクリート造の掩体壕が計9基築かれたという。

爆撃に耐え得る頑丈さなだけあって取り壊すことは容易ではないようで、終戦から75年もの月日が経った現在も7基が残っており、「前浜掩体群」と呼ばれている。

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というワケで前浜掩体群を一つずつ見ていこう。まずは1号掩体を裏から見る
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掩体壕の鑑賞は久しぶりだが、相変わらず不思議な形状だ
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突貫で築いたのだろう、型枠の継ぎ目や表面の質感に荒々しさが感じられる
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上部の壁際には土が積もり、彼岸花が咲いていた

うむ、高知空港の掩体壕も実に良いたたずまいである。爆撃から飛行機を守るという機能に特化した、シンプルな構造ながら左右対称の流線形が美しい。近付いて見ると場所によって施工の状態や経年劣化の具合に差があり、それもまたなかなかに味わい深い。

ちなみに掩体壕の築造方法はまず土をカマボコ型に盛り、ムシロを引いたり木の板を張った上に鉄筋を組んでセメントを流す。セメントが固まったら中の土を掘り出して完成、という具合である。

千葉県のものは土の上にムシロを用いたものが多く、コンクリートの表面にもその質感が浮き出ていて朴訥な印象を受けた。一方でこちらは木の板の跡が多く見られ、よりカチッとした印象だ。

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掩体壕の表側に回り込むと、機体の形に入口が開いている
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現在は農業用具の倉庫として使われているようだ
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天井には水漏れの跡があったりツル草が這っていたりするが、状態は悪くない
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ちなみにこの謎マシーンは、葉タバコの収獲用車両である

この手作り感ある農業車両を最初に見た時には用途がサッパリ分からなかったのだが、よく観察すると左右のキャタピラにそれぞれ座席と荷台を備えており、二人一組で作物を収獲するための車両だとアタリを付けた。が、何の作物用なのかは分からない。

――という旨をTwitterに書き込んだところ、「南国市なら葉たばこではないですか?」との情報を頂いた。どうやら南国市は葉たばこの栽培が盛んなようである。この車両は1m以上に育つ葉たばこの間を移動しつつ、葉を摘むためのものなのだ。

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そういえば、四国遍路をやった時にも高知県内でたばこ畑を見かけることがあった

 

掩体壕によってそれぞれ異なる保存状態

さて、1号掩体の北側には2号掩体が位置している。航空写真で見ると1号掩体は西向きなのに対し、2号掩体は東向きのようだ。訪れたのは午前中だったので、2号掩体の方が逆光にならずに写真向きかと思いきや、2号掩体は1号掩体とは少し様相が異なっていた。

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2号掩体は草木によって覆われているのである
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どうやらこの一角だけ、畑として利用されていないようだ

 掩体壕が邪魔で畑として利用しづらいのだろうか。周囲に田園が広がる中、2号掩体があるこの一角だけは耕作放棄地となっている。掩体壕も草木に埋もれかけており、その全容を見ることは叶わない。

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草の間から内部をのぞくと、どうやら不用品置き場となっているようだ

ううむ、どうやら前原掩体群は一括して維持管理されているわけではなく、それぞれ個別の事情によって現存の状態が異なるようだ。

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続く3号掩体も、遠目では草木が茂っているように見えたが……
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こちらは1号掩体と同様、農業用具の倉庫として活用されている
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入口こそツタ植物に覆われカーテンのようになっているが――
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内部はキレイに整理されており、現存状態も良いようだ

最大の規模を誇る4号掩体

高知空港に残る前浜掩体群の中でも、4号掩体は文字通り格が違う。遠目でもハッキリわかるほどの巨大さなのだ。

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これまでのものと比べ、圧倒的な存在感を放つ4号掩体
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幅の広い開口部がポッカリ口を開けており、畏怖さえ感じさせるたたずまいだ

他のものが高さ5m、幅22m、奥行き12m程なのに対し、この4号掩体だけは高さ8.5m、幅44m、奥行き23mと倍くらいの規模がある。前浜掩体群のみならず、私がこれまで見てきた掩体壕の中でも最大級の規模である。

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側にまで近付くと、ちょっとした山のようで凄い迫力だ
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入口にはコンクリート片落下の注意を促す看板が立っている
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内部は物置となっているが、半ば放置状態のようだ
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天井の一部が剥がれて鉄筋が見えていたりするが、板の継ぎ目など実に味わい深い
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背後の壁は三角形のバットレス(控え壁)で補強されている

バットレスは屋根の荷重が掛かる壁を支える役目を持つものであるが、アーチ状の天井が地面に達する掩体壕だと壁への負荷はそれほどでもないように思う。

それでもなお壁にバットレスが必要なほど、巨大かつ分厚いコンクリートだということだろうか。あるいは爆撃を受けても絶対に破壊されないよう、より堅固にするためだろうか。いずれにせよ、バットレスを備える掩体壕は初めて見た。まさに規格外の規模である。

保存整備がなされた5号掩体

前浜掩体群の中で、5号掩体は唯一保存整備が行なわれている掩体壕だ。平成24年度には発掘調査も行われており、基礎の構造が明らかになったと共に、様々な遺物が出土したという。

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民家の間を通る路地の先に、口を開けている5号掩体。日常の中の非日常である
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周囲は園地として整備されており、案内板も設けられている
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前浜掩体群では最も状態が良く、コンクリートのひび割れなど補修も行われている
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コンクリートが欠けた部分には大きな川石が露出しており、維持は大変そうだ

コンクリートはセメントに砂利と水を混ぜて作られるものだが、これほど大きな川石だと強度が低下することだろう。現にこうして石の部分からボロボロと崩れてしまっている。

よほど素材に窮していたのか、あるいは砕石の手間すら惜しむほど大急ぎで築かれたのか、この掩体壕からは旧日本軍の焦りがひしひしと伝わってくるようである。

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内部は型枠の継ぎ目が良く残っており、板の木目までくっきり見える
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戦後は倉庫として使われていたらしく、開口部を塞ぐための柱や柱穴が残っている
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掩体壕の内部から見る景色。ここに飛行機が納まっていたのだ
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ちょうど、高知空港からプロペラ機が飛び立つところであった

住宅に近い6号掩体、内部に道路と水路が通る7号掩体

残りの6号掩体と7号掩体は、南北に通る県道31号線の東側に位置している。そのうち6号掩体は住宅街に近い水田の中に鎮座しており、他の掩体壕からは少々見えにくい位置にある。

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住宅街に隣接する水田の中にたたずむ6号掩体
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これまでのものとほぼ変わらない感じだが、やはり美しいフォルムだ
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内部は竹材が散乱するのみで、がらんどうとしていた

最後の7号掩体もまた同じような感じだろうと思っていたのだが、見に行ってみると、これがなかなか凄いことになっていて驚いた。

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この角度からだと7号掩体もまた他と変わらないような感じであるが……
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角を曲がると……えっ、路地が一直線に掩体壕へと向かっている?!
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なんと、7号掩体の中に道路と水路が通されているのである

これには本当にびっくりし、そして思わず笑ってしまった。1982年の地図にはまだこの路地は描かれていないのでその後に整備されたのだろうが、あまりに頑丈な掩体壕を撤去するのは面倒だったのか、背後の壁だけを取っ払って道路と水路を通しているのである。

入口の高さ制限があるので通れる車両は限られるのだろうが、まぁ、生活道路としてはこれで十分なのだろう。すぐ近くには小学校があるので、その通学路としても利用されているようだ。

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壁がぶち抜かれていることもあって保存状態は微妙だが、壁の質感が独特だ

これまで見てきた前浜掩体群の掩体壕は木板の型枠を使っていたが、この7号掩体だけはムシロやセメント袋を敷いた上にコンクリートを流したようで、表面がシワシワになっているのが特徴的だ。

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コンクリート表面の凹凸が有機的で、素掘りのトンネルに似た雰囲気がある
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背面の壁は取り払われているが、掩体壕の全体が失われるよりはマシだろう
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切断されたコンクリートや鉄筋の断面が少しだけ痛々しい
 

生活の風景に残る掩体壕

というワケで、高知空港に残る計7基の掩体壕をすべて周ることができた。関東地方以外の掩体壕を見るのは初めてであったが、いずれも個性豊かなたたずまいである。

田園が広がる生活風景の中にひっそりと残る、異質な存在感の掩体壕。そのコントラストが掩体壕の寂寥感を際立たせ、心にグッとくる不思議な味わいを生み出しているのである。

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車両で通り抜けられる掩体壕はここだけなので、カブで記念撮影

 

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