AIは国語辞典の語釈だけでどんな絵を描くのか
国語辞典の挿絵といえば、七福神だろう。
七福神は、挿絵のある国語辞典には必ずといっていいほど絵が掲載されている。マストオブディクショナリーピクチャーである。
さっそくAIくんに、七福神の絵を描いてもらうようお願いしてみる。
いきなり嫌がるAIくん。しかも返事が英語だ。日本語で話しかけられて、それが理解できているのに英語で返事するやつ。人間だったらメガネかち割られても文句言えないほどイヤな奴である。
英語の部分をざっくり訳してみる。
解せない。日本で古くから親しまれている七福神のイラストが、AI的にNGというのがなんかやだ。
なにがどうダメなのか、理由を尋ねてみる。
AIくん、かなり面倒くさいことをいうけれど、七福神を描くことが果たして文化盗用になるのだろうか? 逆に「七福神の絵を描かない」というAIの判断が、わたしたちが身近に親しんできた七福神という文化を、アンタッチャブルなものとして拒絶しているように思え、悲しい気持ちになってしまう人もいるのでは?
指示方法を変えてみた。
いきなり描いてくれた。なんなんだAIくん……。
とはいえ、七福神をよくわかっていないAIくんの描いた絵なので、まったく正確ではない。左の方は6人(柱?)しかいない(鹿を合わせて7体ということ?)
ただ、全体的なイメージは大外しはしていないだろう。
謎帽子や謎貨幣もきになるが、鹿の角に執着があるのも謎だ。寿老人(鹿を伴っている)のイメージの残滓だろうか。
指示方法を変えます
AIくんも、ぼんやり「七福神の絵を描いて」といわれても戸惑ってしまうということがわかったので、まず絵を描いてもらう前に、次の条件を提示することにした。
① 「国語辞典の語釈から絵を生成してください」と宣言する。
② 見出し語は書かず、語釈のみで絵を描いてもらう。
基本的に三省堂の『三省堂国語辞典第八版』(三国)を使用することにした。
三国の語釈は、他の国語辞典の語釈と違い「要するに何か」がわかる語釈で有名な国語辞典である。
上記を踏まえた上で、描いてもらったのは「いちご」だ。
これを踏まえてAIが生成したいちごがこちらだ。
惜しい、惜しいが、いちごじゃない。
しかし、不思議だ。三国の「いちご」の語釈は、いちごだと知っていて読むと、いちごのイメージがありありと思い浮かべられるけど、文章のみでイメージすると、たしかにこんな感じになるかもしれない。
左の絵の方に入っているシャーペンや、右の絵の方に入っているねじ切れたスプーンの唐突さが、ダリっぽい。
試しに、息子(18歳)に、同じように見出し語を伏せて語釈だけを伝えてイラストを描いてもらってみた。
なんだか、AIの絵に似ているものが出来上がった。
西村:これは、正解は何だと思ったの?
息子:いちごかベリーのどっちかだとは思った。で「表面にぶつぶつがある」というのが、いちごのゴマ(種?)のことではなくて、果肉自体がぶつぶつしているものかなと思って、ベリーを描きました。
西村:なるほど……たしかに「やわらかくて、表面にぶつぶつがある」のは、種のことじゃなくて果肉そのものがぶつぶつしているようにも読めるね……。
動物はどうか?
形が特徴的な動物はどうだろう。三国で有名な動物の語釈といえばこちらだろう。
この語釈は『三省堂国語辞典』の編纂者、飯間浩明さんが、わざわざ動物園に出かけてカピバラを舐めるように観察し、全身全霊をかけてひねり出した語釈として有名である。
で、そんな語釈からAIくんが描いてくれた絵はこちら。
あたらずともとおからず……。というか、まず「怖い」というのがある。真っ暗な道で、大型犬ほどの大きさのこいつと出会ったら逃げると思う。
とはいえ、憎めない顔でもある。すべてにおいて絶妙だ。名脇役の俳優っぽさがある。町工場の腕のいい職人役とかしてそう。
こちらの語釈も息子に書いてもらった。それがこちら。
西村:これは、語釈を読んで何だと思ったの?
息子:ねずみでイヌほどの大きさというところで、えなに? ってなって、おれの知らない生き物かと思ったけど「間のびした鼻…」のところで、オオアリクイの鼻をイメージしたので、アリクイを描いたんだけど……。参考資料を見ずに描けと命令されたので、まったく記憶のみで『けものフレンズ』に出てきたアリクイを思い出しながら描いた。だから細かなところが違うかも。
西村:なるほど。これ、正解はカピバラなんだよ。
息子:えー、まじで。カピバラってイヌぐらいの大きさあるの? (ネットで画像検索)あるんだ……。負けた……。
西村:別に、勝ち負けがあるわけじゃないからねこれ。