特集 2018年11月28日

廃バスを利用したナイトマーケットが夜逃げしていた話

こういうことってある?

せっかくバンコクまで来たので、話のネタになりそうな、なにか面白いところないだろうか。と、バンコク在住の方に話を聞いたところ「廃バスを利用して屋台にしたナイトマーケットがある」という話を聞いた。

そりゃ楽しそうだ。いきましょう! と、行ったところ、まるごと夜逃げしており、もぬけの殻だった話をしたい。

鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

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廃バスをリノベーションしたナイトマーケット

バンコクのバス事情についていろいろ教えてくれた、現地在住のバスマニア、若生りんかさんに、どこか、まだ観光客に知られていない、おもしろい場所はないかときいたところ、廃バスをリノベーションしたナイトマーケット「ザ・バスマーケット」が今年の春頃にオープンしたという。

廃バスを利用した宿や食堂は日本にもいっぱいあるけれど、バンコクだとナイトマーケットになっているのだ。それはぜひ見てみたい。

若生さんは、いちど行ったことがあるそうで、その時の写真をみせてくれた。

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確かにバスマーケットって書いてあるな

 

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なるほど、バスが屋台になってるわけね

 

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中に入ってみたい

 

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屋外で飲食できるのか

バンコクには、夕方頃から夜中まで営業する「ナイトマーケット」というものが市内の各地に存在している。
ナイトマーケットは、普通の市場とは違い、タイ料理メインの屋台や、アンティークな雑貨、おもちゃ、お土産など、観光客向けの色合いが濃い。
最近は、インスタ映え甚だしい「タラートロットファイ・ラチャダー」というナイトマーケットが人気だが、もしかしたら、上記のバスマーケットも、そのうちインスタ映えの人気スポットになるかも知れない。(と、まだ思っていた)
※以降、バンコクの乗合いバスの話が続きます。バスマーケットの様子を早く知りたい方は飛ばしていただいても構いません。

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地元の人しか乗らない乗合いバスで向かいます

さて、くだんのバスマーケット、鉄道の駅から遠い郊外の幹線道路沿いにあり、ちょっと辺鄙な場所にある。そこで、バスマニアの若生さんに案内してもらい、せっかくなので現地の人しか乗らないようなバスを乗り継いで行ってみることになった。

指定された駅で若生さんと落ち合うと、まずは「シーロー」と呼ばれる乗合いバスに乗って行くという。どんなバスなのか、赤バスみたいに、床は板張りだったりするんだろうか、などという期待を胸に待合スペースに行くと一台の軽トラがやってきた。

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これに乗るんです(若生さん)

バス。どうみても軽トラだ。

――これですかシーローは?

若生さん「そうです、バンコクは公共交通機関の種類が豊富で、まずバス、その他に、このシーロー、それからソンテウ、ロットゥーとか、いろいろあるんです」

――種類が多い……。

若生さん「シーローは、バスでは行けないような細い道に分け入っていくものが多いんですが、タイ語で検索してもあまり情報がないんですよ」

――ハードコア乗合いバスですね。

 

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ハードコア乗合バス

若生さん「都心だと、乗合いタクシーのような営業形態のシーローが多くて、ちゃんとルート(路線)を持って運行してるシーローは都心ではあまり見かけないです」

――都心と郊外で営業形態が違う……日本の公共交通機関で、このシーローに相当する公共交通機関無いですよ。地方公共団体がやってるコミュニティーバスがちょっと近い感じはしますけど。いま目の前のシーローはタクシータイプですか?

若生さん「いえ、ルートのあるやつです、シーローの、シーは4、ローはタイヤって意味なんですよ、つまり四輪ってことですね、ちなみに三輪はサムローって言うんです」

――タイ語でも4はシーっていうんだ……というか、これ外国人が乗って大丈夫なんですか。

若生さん「大丈夫ですけど、行っちゃいましたね、次のやつに乗りましょう」

 

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次は青いやつがきた

シーローは、簡単な行き先と経由地がタイ語で書いてあるだけなので、タイ語のわからない日本人観光客が乗ることはまずない。

 

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乗り込んだらこんな感じ。狭いけれど、壁がないので、圧迫感はそんなにない

 

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膝を抱えて座る

シーローには、高校生ぐらいの子供やおばさんが代る代る乗っては降りていく。よく見ていると、バス停というものがないようだ。

乗客は乗りたいところで手を出して、シーローを止め、乗り込んで、降りたいところでブザーを鳴らして降りている。

時刻表も決まってないようで、だいたい何分おきかぐらいに来る。といったアバウトな感じで運行しているらしい。

運賃は乗る距離によって違うらしいが、およそ8バーツから9バーツ。日本円で30円ちょっとだ。

 

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シーローの後ろ姿

軽トラの荷台に乗ってバンコクの町中を疾走するのは、ドナドナの仔牛になった気分で、なかなか気持ちがいい。

終点では、降りたときに運賃を運転手に現金で支払って終わりである。

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シーローとソンテウの違いは大きさ

シーローとよく似た乗合バスにソンテウというのもある。

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ソンテウ

「ソンテウ」のソンは2、テウは列。席が向かい合って2列あるので、そう呼ばれている。
バスが取りこぼした乗客や、バスのない不便な場所などを毛細血管のように結んで、バスの補完的な役割を果たす乗合いバスだ。

シーローとの違いはその大きさで、ソンテウのほうがシーローよりもすこしだけ人がたくさん乗れる。

 

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シーローよりもすこし大きいので余裕がある

 

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荷台に乗ってる感はかわらない

路線や時刻表、乗り降りの方法などは、シーローとほぼ同じである。

――それにしても、在住者でさえあまり乗らないシーローやソンテウに、よく乗ろうという気になりましたね。

若生さん「はじめて乗ったのは、タイにきてすぐのときですよ、会社の先輩に郊外の工場に連れて行ってもらったとき、行きはタクシーで行けるんですけど、帰りはとてもタクシーが拾えるような場所じゃなかったんです、でもソンテウはあって、先輩にソンテウに乗ればいいんだって教えてもらったんです」

――一子相伝だ。でも、行きたい方向じゃないのに乗っちゃったりする心配あるじゃないですか。

若生さん「そういっても運賃9バーツほどですし、先輩は『行きたい方向じゃななくなったら、降りりゃあいいんだよ』って教えてくれたんです」

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間違えて乗っても死ぬわけでもない

――まあ、乗るバス間違えたぐらいで死にはしないですからね。

若生さん「で、そしたら抵抗がなくなったので、家の前の道路走ってるどこ行きか分からないソンテウにも、乗るようになりました」

ぼくも、上京したてのころは、休みの日とか500円の一日乗車券を買って、最初に来たバスに適当に乗って適当に降りるという都バスロシアンルーレットは、昔よくやった。東京の地理をそうやって覚えたというのもある。

と、そんなことを考えているうちに、いよいよ、バスマーケットに到着した。

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営業していないのはなぜ?

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バスマーケットの入り口

廃バスを利用した屋台がどんなものか、さっそく見せてもらおうと、バスマーケットに近づくと、若生さんが「あれ、営業してない……」と、聞き捨てならないことを言い出した。

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電気ついてますし

いやいやいや、バスマーケットの公式Facebookページには、水曜〜日曜の夕方はやってるって、書いてあるでしょ、今日は日曜日だから、やってないわけ……。あれ。

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人がいないな

 

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うそでしょ

本当に人がいない。

ネオンと街頭は煌々と明かりがついているが、人がいないのだ。

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行った日は、日曜日の18時ごろだったので、営業してないとおかしい

 

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中に入りたかったあのバス

 

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からっぽ

 

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どこの屋台もやってない

 

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営業中じゃないだろ

 

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人はひとりもいないのに、電気だけはついている

 

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屋台だったバスも
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雰囲気は夜逃げだ

子供の頃に読んだ本に、住人が突然、集団蒸発した村の話が載っていたが、まさにそんな、狐につままれたような心持ちであった。

バスの中はゴミが散乱しており、また営業するような雰囲気はない。ぼくは、実家が夜逃げしたことがあるのでわかる。これは夜逃げだ。

公式Facebookページをみると、ここを訪れた10月21日の4日ほど前の17日に書き込みがあるのは確認できた。たった4日前まで営業してたのに、なんで今日はしてないのか。

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こういうことってあるかしら

 

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みなさまに悲しいお知らせです、バスマーケットは廃業してました

あかるい廃墟というのが、一時期話題になったが、このバスマーケットもあかるい廃墟であった。しかも、できたてホヤホヤの廃墟だった。

バンコクを走っていた、いかつい形のバスが、いろいろと揃っているので、バス好きにはたまらないけれど、ナイトマーケットは営業していない。

そのへんを承知のうえで、行ってみたいという方は、こちらへどうぞ。住所がわからないので、グーグルマップで位置を示しておきたい。

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ほんとうに廃業してるっぽい

取材先が夜逃げしてたという衝撃の結末となったわけだが、その後、若生さんがバスマーケットの前を何度か通りかかったものの、やはり営業はしていない様子だったらしく、廃業しているのは確定らしい。

ただ、上でぼくが「夜逃げ、夜逃げ」と連呼しているが、タイは「いつまで」という期限に対してけっこうおおらかなので「明日までに賃料が払えない、夜逃げしよう」ということはあまりないらしい。

若生さんにいろいろ調べてもらったものの、急に店じまいした理由は、よくわからなかった。

若生さんからもらった推測をちょっと長くなるが引用したい。

私がオープン1週間後ぐらいにいった時も、あまり人がおらず、その後もどこかでここの話題を耳にすることもなかったので、話題にもならず人が集まらないので、最終的には主催者が営業を終了する事を決めたかバックレたかのどちらかだと思います。

ちなみに、タイのこういったマーケットは主催者が出展者を募り、各ブースから使用料を取る形なので、ごく一部の運営スタッフ以外には、主催者→出展者へのお金の流れは基本ないはずなので、従業員への給料が払えないで夜逃げというような可能性もないと思います。

もし人が多少なりとも集まってくる場所だったら主催者がいなくなっても、営業を続けているお店があってもおかしくないかなと思っています。(例えば、屋台の撤去命令があった場所などでも、そこが儲かるから、ずっとそこでやってるから、などという理由で、かなり強引に営業を続ける屋台などもあるくらいで、そういったところは日本人よりもかなりたくましい)

・主催者がバックレ、各出展者も儲からないので誰もいなくなった
・主催者が営業終了を決め、各出展者も儲からないので誰もいなくなった

どっちもあんまり変わらない気がしますが、このどちらかだと思います。

ということらしい。


廃バスを見に行くというのはアリ

いずれにせよ、ナイトマーケットとしては営業していないが、バンコクの廃バスを鑑賞したいひとは行ってみてもいいかもしれない。

ただ、バスは撤去されている可能性もあるので、そこは気をつけていただきたい。

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こういう記念写真は撮れる

 

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