世の中には名前に「タイ(鯛)」とつく魚がたくさん存在する。
しかしその中にはあまり「鯛っぽくない」ものも少なからず含まれるのだ。今日はいろんな「⚪︎⚪︎ダイ(鯛)」を羅列し、鯛として認定されるための境界を探ってみタイ。
そしてタイとしての特徴を備えていない「名ばかり鯛」たちの面白さを知らしめタイ。
海水魚界の超メジャーどころ
はい!突然ですが海の魚の代表格といえばなんでしょうか。いちばんのメジャーどころといえばなんでしょうか。
マグロ?あー、悪くないけどちょっとね。外洋性であんまり身近な感じしないのがちょっとね?
じゃあ身近でおいしいイワシ?…はぁ。あんたもし国対抗国際魚選手権があったらイワシを我が国代表に選ぶか?選ばないだろ?
アジ?マジで言ってる?
いやいやいや。公平な目で見りゃあここはもうあの魚一択でしょ。
これよ!タイよ。マダイよ。
タイでしょ。鯛。タイしかないっしょ。
これはあくまで個人的な意見だが、限りなく民意に近いと思われる。自信がある。
タイ。見目麗しく、食っても美味なり。祝い事には欠かせない。恵比寿様も抱えていらっしゃる。
高級食材として確固たる地位を確立しているが、日本人なら知らぬものはいないこのタイ。標準和名(図鑑などに記される名前)は「マダイ」という。漢字で書けば「真鯛」であり、読んで字のごとく「こいつこそがタイの中のタイ」というわけである。
…その一方で、冒頭でも言及したように「真」でないその他の「〇〇鯛」たちも多数存在するわけである。
例えばクロダイやキダイなどが代表的か。
クロダイ。チヌと呼ばれることも。
キダイ。レンコダイとも。
これらは分類学上、マダイと同じ「タイ科」に属す魚たちである。つまり、数ある「○○鯛」の中でもかなり由緒正しい(?)ものだと言える。
他方、分類学上はタイ科に属していないながらも「○○鯛」の名で呼ばれる魚たちもいる。むしろ、トータルではそちらの方が多い。
キンメダイやアマダイなどである。
キンメダイの一種、ナンヨウキンメ
キンメダイはくっきりと脂が乗っていてマダイとはまた違う味わい。分類学的にも全然違う魚(タイ科とキンメダイ科)だから当然ちゃあ当然か。
ここからはそうした「○○鯛」たちをザザザッと見ていこう。もはや「○○鯛」の写真集だ。今回の記事は。
色々いるぜ○○鯛
フエダイ科
ゴマフエダイ。南方系の魚で、沖縄ではカースビーとも呼ばれる。
フエダイの仲間もマダイに負けじとおいしいものが多い
フエダイ類は名前が似ているフエフキダイの仲間と混同されがち。これはフエフキダイ扱いされているゴマフエダイ。
シロダイ。沖縄でもシルイユー(白い魚の意)とも。上品な白身でおいしく、沖縄ではなかなかの高級魚。
アオダイ。深場の魚でやはり美味。ムルーとも。
ハナフエダイ。綺麗な上に旨味が強くおいしい。フカヤービタローという別名を持つ。
ハマ深海性のダイ。…ん?体型が全然タイっぽくないぞ。
ハマダイに近縁なオオクチハマダイ。これまた色以外はタイっぽくない…。
フエダイにはおいしいものが多いが、ハマダイは特に美味(個人の感想です)。深場に棲む魚なので脂がよく乗っている。
ブダイやベラの仲間
イロブダイ(写真中央)。タイにしちゃカラフルすぎるぜ。写真上はハマダイ、下はマダイなので何気に鯛三点盛りである。沖縄の市場にて。
キャプシオビブダイ。ベラやブダイの仲間は非常に種類豊富で、色彩豊かなものが多い。
キツネダイ。キツネ顔のタイ…と見せかけて実はベラ。なかなか入手できないが、美味い。
コブダイ。ベラの仲間で、メスからオスへ性転換する。食レポはこちら。
ハナダイの仲間
アズマハナダイ。かわいい。ちょっとタイを名乗るには体型がコロンとしすぎな気もするが、かわいいから許す。
マダラハナダイ ハナダイの仲間は体色が美しいので観賞魚として飼育されることもある
その他いろいろ
フエフキダイ科のノコギリダイ。
マツダイ(マツダイ科)。写真のものはまだ幼魚で、成長すると体長50cm以上になる立派な魚。
マイアミ国際空港の壁にはなぜかこのマツダイが大きな輪を作っている。どういうセンス?
テンジクダイ科のネンブツダイ。小さくてもタイ。ネンブツ、とは口の中で卵を保育する習性にちなむ。口をモゴモゴさせるのが念仏を唱えているように見えるらしい。
イットウダイの仲間。漢字で一刀鯛。背びれやエラのトゲがめちゃ鋭いことが由来か?
石垣模様がかわいいイシガキダイの幼魚。イシダイ科。
ミツボシクロスズメダイ。スズメダイの仲間も種数が豊富。
イトヨリも「イトヨリダイ」という名で扱われること多し。カジキをカジキマグロと呼ぶようなものか?
「○○鯛」の基準
…実に多種多様であるが、ずらりと眺めているうちに「○○鯛」の名を授かる条件のようなものが見えてくる気がする。
マダイを基準とし、その特徴である
①横から見ると体がひし形~楕円形
②体が縦に平たい
③体色が赤みがかっているor桃色
だいたい、これらのうち二点以上を満たす海産魚は「○○鯛」と呼ばれる資格を得るらしい(ハマダイなど微妙なやつもいるが…)。
タイというのはもはや平たい魚、横から見てボリューミーな魚の総称に近いのだ。
だが、中には「ん…?」と首をひねってしまうような“タイ”も存在する。
ここからはそんなタイっぽくないタイたちを紹介しよう。
ヒメダイ
まずはヒメダイ。うーん…。平たくも、ひし形でもなく、体色もさほど赤くない。しかしフエダイ科に含まれるためかタイの名をあてられている。
まあこのヒメダイは序の口である。もっともっと「タイ…?」なタイたちが控えているぞ。
マンダイ(アカマンボウ)
アカマンボウもマンダイと呼ばれることがある。たしかに赤いし平べったいが……いくらなんでもこの体型はタイのそれとは一線を画しているだろう。
身は白身、胸の一部の肉だけはマグロのような赤身。味もやはり回遊魚チックで、タイには似つかない。
クロタイ(チカメエチオピア)
チカメエチオピアという深海魚は八重山では「クロタイ(クロ“ダ”イではない)」と呼ばれる。まあ平べったいではあるけどなあ。
身はビンチョウに似た味。沖縄、八重山では主に沖縄天ぷらの芯として活用される。
イズミダイ(ティラピア)
一見するとクロダイに似ているし妥当な呼び名な気もするが、実はこの魚は淡水魚。しかもアフリカ原産のティラピアという魚である。もはや別名というより商品名と言うべきか。
ティラピアは東南アジアや南米でも盛んに養殖されており、食用にされる。意外と味は本家のタイに近い。
この辺りは目にする機会の少ない魚に商品価値を持たせるためにタイの名をあてがった感が強い。
アフリカから持ち込まれた淡水魚であるティラピアのイズミダイ呼びなどは特に露骨だ。
鯛要素ゼロな鯛
そして「タイっぽくないタイ」のきわめつけはこいつらだろう。
ヤセアマダイ!
アゴアマダイ!
タイ…?アマダイ…?アゴ…。
…ふざけてんのか?
ヤセアマダイはタイよりもむしろウナギ寄りの体型だし、体色も赤系ではなく青みが強い。うん、間違ってもタイではないな。
アゴアマダイは…この…この何?なんかもうタイ要素皆無のハゼ寄りフィッシュじゃないですか。
名前の由来にもなっているこの大口(アゴ)は敵を威嚇するときに広げるほか、砂底に巣穴を掘る際の重機として、また繁殖期には卵や稚魚を咥えて守るゆりかごとして機能する。
しかもこのバケモノじみた大口。もはやタイどころか一般的な魚類の枠を逸脱しようとしている感すらある。
こんなナリだが味はよい。しかし、いかんせん体の小ささから可食部が少なく、食用魚としてのポテンシャルはマダイに遠く及ばない。
これらヤセアマダイやアゴアマダイに関しては純粋にその身体的特徴からタイの名をあてられたわけではない。
彼らが分類学上アマダイに近縁であることから「○○アマダイ」となったにすぎないのだ。しかし、アマダイでワンバウンドしたからといって、ネームオリジンであるタイからここまでかけ離れるとは面白いものだ。
アゴアマダイよ!きっとお前こそ日本一タイっぽくないタイだ(暫定)!
おまけ : 魚の名前の括りは海外でもテキトー
この「○○鯛」の例を見るに、日本において魚種名は必ずしも分類上の類縁に沿うことなく名付けられていることはわかったと思う。
しかしそれは海外でも同様だ。
英語圏におけるマダイをはじめとするタイ科の魚は歯が鋭く顎が強力なことから“スナッパー(snapper)”と呼ばれることが多いが、フエダイ科の魚もスナッパーである。
オーストラリアの漁協的な機関の資料より。マダイ(ゴウシュウマダイ)はSnapper。
フエダイ科の魚たちも○○snapper呼び。奇しくも日本の「○○鯛」と似たような感覚で呼び分けられているようだ。
かと思えば、クロダイ系は”ブリーム(bream)“と呼ばれる。
かと思えばタイ科でもクロダイの類はSnapperじゃなくてBream!何が基準だ?体色?大きさ?歯?…わからない。
が、またややこしいことにフナやブルーギルのような扁平な川魚もまたブリーム呼びで一括りにされるのだ。適当!!
淡水魚であるフナなんかもBreamと呼ばれる。銀〜黒色で平べったい魚の総称、といったところらしい。
…でも、たしかにパッと見の特徴でざっくり仕分けるのが一番覚えやすく、かつ一般人にとって便利なのは間違いない。
研究者には研究者用の「学名」というものがあるんだから、それでいいよね?
Hey!Say!JUMPもSnow ManもKing & Princeも、テレビ見ない人からしたらみんな「ジャニーズ」…みたいなとこあるじゃん?きっとそういうことです。