環状の道という構造上、真ん中に何かを持ってしまうラウンドアバウトは単なる交通のシステムと割り切れない雰囲気をまとっていて、一基見るとまた次の一基が見たくなる。またさらにひとつ向こうのラウンドアバウトを詣でていきたい。新しい民間信仰のはじまりだろうか。
母子
神奈川県横浜市金沢区柳町、いわゆる金沢八景として有名なエリアの住宅街のロータリーも2015年よりラウンドアバウトとして運用されている。その中心に立っているのはブロンズの母子である。
碑文によればこの像は1966年、平潟湾が埋め立てられて柳町が誕生した年に町のシンボルとして建てられたという。
作者は清水多嘉示(しみずたかし)、1897年に生まれ、フランスの彫刻家ブールデルに師事し、多くの彫刻作品を残している。
そもそもこの象は清水が日中戦争のさなかに「出征兵士を送る」という題で制作した作品の鋳型から鋳造したものらしい。
(参照:東京湾要塞・神奈川、千葉、東京の戦争遺跡/母子像:出征兵士を送る)
ということはこの子が手を上げた先にいるのは戦地に向かう父の後ろ姿ということだろうか。
約60年前にこの輪の中心に立ってから今日まで、2人は何を見つめ、何を思ってきたのか。我々は周りをぐるぐる回るだけだ。
地蔵
ラウンドアバウトの真ん中はシンボルですね、神々しいですねなんて言ってきたがついに仏様である。
基本歩いて行っているのでそういう案内ばかりで申し訳ないが西武池袋線武蔵藤沢駅から 国道463号線に向かって3km近く頑張って歩いていくと住宅街の路地の5叉路がラウンドアバウトになっている。狭い円に5本もの道が接続されているので方向転換はいそがしそうだ。
地面すれすれのガードレールに守られた中島には六体の地蔵が中心を囲んで会議でもしているかのように並んでいる。
この地蔵は「上藤沢の六道地蔵」として入間市の文化財に指定されている。現地の案内板によれば江戸時代の中期に村の人々により無病息災を願って立てられたものらしいが、古道の5叉路のところに、しかも時期や形状がバラバラで立てられているのは珍しいとのこと。
さらに現代になってロータリーの中心になっちゃったものだから珍しさに拍車がかかっている。宅地が整備された際に地蔵も移動されており、移動される前の様子が入間市のサイトで紹介されている。
この時からお地蔵様が「ここはラウンドアバウトにするのじゃ」と言っているようにしか見えない。
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