特集 2025年8月11日

あんたがたどこさの聖地でタヌキを愛でる

船場山にはタヌキがおった!

わらべうた「あんたがたどこさ」の舞台は熊本の「船場」という場所だ。歌の冒頭で丁寧に「船場さ」と歌ってくれているので、どこなのか知らなくても名前だけは知っているという方も多いだろう。

そんな船場だが、熊本にちゃんと存在している。しかも普通に市街地のど真ん中に。歩いてみたら味のあるタヌキたちがたくさんいたので紹介します。

1992年東京生まれ。普段は商品についてくるオマケとかを考えている会社員。好きな食べ物はちくわです。最近子どもが生まれたので「人間ってすごい」と本気で感じています。(動画インタビュー)

前の記事:函館のミスドは地元パン屋のおかげで安い

> 個人サイト 日和見びより ライターwiki

船場で繰り広げられるタヌキたちのドラマ

最初にあんたがたどこさの歌詞を復習しておこう。

あんたがたどこさ 肥後さ 肥後どこさ 熊本さ 熊本どこさ 船場さ

船場山には狸がおってさ それを猟師が鉄砲で撃ってさ 煮てさ 焼いてさ 食ってさ それを木の葉でちょいと隠(かぶ)せ

曲の前半で「おまえどこ中?」みたいなやりとりを無駄に尺を使ってやる割に、後半で同じくらいの尺でタヌキを撃って、煮て、焼いて、食って、隠すところまでを猛スピードで行うアンバランスさが魅力のわらべうたである。

「熊本弁じゃない!」「熊本の人はわざわざ肥後を熊本だと説明したりしない!」みたいな意見から熊本で生まれた唄ではなく、船場も熊本ではないという説もあるようだが、ここは素直に熊本の唄だと受け止めたい。

IMG_0459.jpeg
だってちゃんと洗馬橋駅(漢字は違うけど)だってあるし、
IMG_0460.jpeg
駅前にはあんたがたどこさの歌詞まで掲出されている。菓子屋の看板だから歌詞?

 熊本の船場は今ではタヌキが出そうな気配もないくらい熊本市街から近い場所にある。船場町という町名が今も残る他、船場橋という橋があり、橋の隣は先ほどの洗馬橋駅もある。

IFrame

唄ではあっけなく撃たれて食べられてしまうタヌキだが、船場周辺にはいくつかのタヌキ像が点在している。タヌキからしてみれば、食ったくせに銅像立てたりして「人間って情緒がぶっ壊れてるのか?」と思わざるを得ないだろうが、まぁ唄のことも像のこともたぶんタヌキは知らないので許してほしい。

食べられたタヌキへの哀悼の意も込めて、船場のタヌキたちを愛でていこう。

IMG_0461.jpeg
まずは駅前にいるこの親子。なでる部分であらゆることが叶う贅沢なタヌキ。
IMG_0462.jpeg
けっこう歯が鋭くて怖い。威嚇されている感じがする。

これは母親と子どもだろうか。子ども守ろうとする意志が表情に表れているのかもしれない。

一方で、駅の向かいにある郵便局のポストのタヌキはまた違った表情を見せてくれる。

IMG_0464.jpeg
夏仕様に飾られたポストの上のタヌキ
IMG_0465.jpeg
目がぱっちりと開かれ、怖さよりも愛嬌を感じる表情だ

よく見ると先ほどの駅前のたぬきたちと同じポーズをしている。先ほどのタヌキが母と子だとしたら、こちらは父かもしれない。

ちょうど駅前の親タヌキの視線の先にこの虫取りタヌキがいるのだが、もしかしたら母ダヌキが父ダヌキに「早く帰ってきなさーい!」と怒っているのかもしれない。船場で人知れず繰り広げられるタヌキたちのドラマ、いつかネットフリックスで実写化してほしい。

IMG_0463.jpeg
これはおばあさんかタヌキかギリギリ判別がつかないお地蔵さん
いったん広告です

いろいろなタイプのタヌキに出会える街

船場ではまだまだタヌキに出会える。

IMG_0507.jpeg
ちょっとアナグマっぽいタヌキのイラストがキュート
IMG_0471.jpeg
タヌキをモチーフにしたお店も。英語ではRaccoon Dog(アライグマ犬)なのね。

そういえばタヌキは海外では珍しい生き物だ。今では人の手で持ち込まれたタヌキがヨーロッパでも生息しているようだが、もともとタヌキは日本を含む極東が原産の動物である。

そのため欧米ではあまり馴染みのない動物で、今でも空想上の動物だと思っている人もいるそうだ。日本人にとっては実生活で見ることは少なくとも、店先やキャラクターなど色々なところで目にする身近な動物なので、そのギャップに驚いてしまう。欧米の人たちはもしやタヌキにばかされていやしないか?

明治30年にイギリスで出版された「かちかち山」の挿絵は到底タヌキとは思えない恐ろしいビジュアルで描かれている。まさに空想上の動物だ(画像引用:The Slaying of the Tanuki - A Japanese Fairy Tale | Pook Press

珍しすぎて、日本の動物園がシンガポールの動物園に世界三大珍獣といわれるコビトカバの入手を交渉したところ「タヌキくれるならいいよ」と言われて、タヌキとコビトカバを交換したこともあるそうだ。

シンガポールの皆さん、やはりタヌキにばかされていやしないか?

IMG_0495.jpeg
船場にあったクリニックの前にカバがいた。タヌキと交換したのかもしれない。

閑話休題。

船場橋にもタヌキのモチーフがある。

IMG_0515.jpeg
駅は洗馬橋だけど本当の橋の方は今でも船場橋
IMG_0510.jpeg
橋のそばに船着場があったことから船場と呼ばれるようになった
歩いていて見つけた江戸時代の街並みを描いた地図にも分かりやすく描かれている
IMG_0451.jpeg
そんな船場橋のタヌキはやたらとデフォルメされたキュビスムみたいなタヌキだ。

そしてもう一体、船場には一目見たら忘れられないタヌキがいる。

IMG_0457.jpeg
今までのタヌキとは一線を画す、あまり見たことのないタイプのタヌキ
君にはいったい何が見えているのか?感情を読み取ることすらできない表情

最初にここを通りかかったときは夜だったので、かなりギョッとしてしまった。どちらかというと昔のヨーロッパで想像されていたタヌキ寄りのタヌキである。

最初にタヌキは唄のことを知らないと書いたが前言撤回。たぶんこのタヌキは食われたことも知っている。すべてを知っているタヌキが船場にはいた。

IMG_0469.jpeg
遠目からタヌキの置物か!?と思って近づいたら、
IMG_0470.jpeg
ただのゴミ袋だった。脳がすべてをタヌキに変換してくる。

⏩ タヌキ神社と船場山

▽デイリーポータルZトップへ つぎへ>

記事が面白かったら、ぜひライターに感想をお送りください

デイリーポータルZ 感想・応援フォーム

katteyokatta_20250314.jpg

> デイリーポータルZのTwitterをフォローすると、あなたのタイムラインに「役には立たないけどなんかいい情報」が届きます!

→→→  ←←←

 

デイリーポータルZは、Amazonアソシエイト・プログラムに参加しています。

デイリーポータルZを

 

バックナンバー

バックナンバー

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ