頑張れタヌキ
熊本で動物のモチーフといえば基本的にはクマだ。なぜならくまモンがいるから。しかもくまモンは無料で使用することができるので、それはもうどこもかしこも、くまモンばかりである。
そんな中で船場はタヌキをクマに負けずに推している。それはもっと知られてもいいんじゃないだろうか。だって船場山に本当にいたのはクマじゃなくてタヌキなのだ。熊本にいったらクマもいいけどタヌキも覚えて帰ってください。
さて、船場最大のタヌキスポットといえば船場菅原神社だ。
江戸時代のはじめ頃にこの辺りの武将が天神様を祀ったことが始まりといわれるこの神社には多くのタヌキの像が奉納されている。
そう、実は今年の6月、ここに置かれていたタヌキの置物10体が盗まれてしまったのだ。防犯カメラに犯人が捕らえられていたことでタヌキたちは無事に返還されたとのことだが、防犯の観点から再度の設置は見送られている。
ひどいことをする人もいるものだ。なんとも残念、なのだが実は筆者は2年前にも熊本にきてこのあたりをたまたま散歩して、この盗まれたタヌキたちを写真に収めていた。というわけで今は見れない貴重なタヌキたちの姿です。どうぞ。
そしてこの神社では、無人ながらお守りと御朱印を授かることができる。賽銭箱にお守りは500円、御朱印は300円を納めて、境内に設置されたケースからセルフで受け取るスタイル。
タヌキ像の窃盗を経てもなお、全面的に人の善意を信用した受け渡しがなされており、その懐の深さには頭が下がる思いだ。もちろんしっかりお金を払っていただいた。
船場のタヌキたちを一通り見たところで、最後にタヌキがいると言われる船場山についても触れておきたい。今はこの近くに山はなさそうだが、いったい船場山とはどこにあったのだろう。
その答えは船場橋の説明書きに書かれている。
そう、船場山はいわゆる「山」ではなく、船場橋にかかる坪井川に沿って連なっていた小高い繁みのことをそう呼んでいたのだ。
この小高い繁みの正体は熊本城を造った加藤清正が城の守りを固めるために川と堀に沿って持った土塁である。洗馬駅のある新町地区は東と南を坪井川、西をお堀に囲まれたエリアで、川とお堀に沿って盛られた土塁にタヌキが住んでいたというわけだ。
この事実を知ると唄の印象も変わってくる。普通の山を想像すると鉄砲をもって山に入ってタヌキを撃つのも一苦労に思えるが、土塁=船場山だと分かると、鉄砲でタヌキを撃つのもそんなに大変じゃないように思える。
なんせ街中から近いので「ちょっとコンビニで牛乳買ってくるわ」という感覚でタヌキを撃って食っていたのかもしれない。そう考えるとあんたがたどこさの後半のテンポ感もあながちおかしくない、むしろリアルなライブ感を表現した等身大の唄とも言える。
こうやって実際に「聖地」を歩いてみると、タヌキが昔から物理的にも人間と距離の近い動物であったことが分かる。やはり日本人にとっては馴染みの深い動物だ。
都会に住んでいると日常生活で実際に目にすることは少ないタヌキだが、ときどき夜の公園で出たりして「こんなところにもタヌキいるんだー」という会話をしたりする。実は飲み会のあと「酔い覚ましにちょっと歩いて帰るわー」と言い出す上司が化けたタヌキなんてことも、ひょっとしたらひょっとするのかもしれない。
熊本で動物のモチーフといえば基本的にはクマだ。なぜならくまモンがいるから。しかもくまモンは無料で使用することができるので、それはもうどこもかしこも、くまモンばかりである。
そんな中で船場はタヌキをクマに負けずに推している。それはもっと知られてもいいんじゃないだろうか。だって船場山に本当にいたのはクマじゃなくてタヌキなのだ。熊本にいったらクマもいいけどタヌキも覚えて帰ってください。
| <もどる | ▽デイリーポータルZトップへ | |
| ▲デイリーポータルZトップへ |