特集 2021年10月29日

マヨ派 or お酢派?ドイツ国内のポテトサラダのレシピ調査

先月、ドイツのポテトサラダについて記事を書いた。ポテトサラダのドイツの食文化での立ち位置について軽い気持ちで調べ始めたのだが、思ったより奥が深くて収集がつかなくなってしまった。

ドイツのポテトサラダをより深く理解するために、地域による違いを調べ、代表的なレシピを使ってポテトサラダを作ってみた。

1986年東京生まれ。ベルリン在住のイラストレーター兼日英翻訳者。サウジアラビアに住んでいたことがある。好きなものは米と言語。

前の記事:Potato Salad: Germany’s Unofficial Cultural Heritage

> 個人サイト words and pictures

ポテトサラダの地域性が知りたい

前回の調査でドイツでのポテトサラダはお酢派とマヨネーズ派に分かれることが分かった。今回は地域別の違いについて知るために、まずは図書館に向かった。

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旧西ベルリン側にあるアメリカ記念図書館。1954年にアメリカ政府の寄付によって建てられたのが名前の由来になっているそう。

この図書館でポテトサラダのレシピが載っている本を手当たり次第に集めてみた。

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左上から時計回の順でザールラント州、ケルン市、ブランデンブルク州、シュヴァーベン地方のレシピ本。表紙のじゃがいもの存在感はばっちりだ。
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じゃがいも料理だけのレシピ本もいくつかあった。下の二冊に関してはポテトサラダ専門の本である。

そんな中でも心強かったのがこの本。

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タイトルを直訳すると「ポテトサラダのない1日は、食の観点から見て無駄な1日だ」。

著者カップルのポテトサラダ愛を強く感じる。毎日ポテトサラダ食べてるのかな。

では、この9冊のポテトサラダのレシピを見ていこう。

まずはドイツ南西部にあるザールラント州のレシピ本。

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茹で上がったじゃがいもが温かいうちにスライスし、だし汁、お酢、サラダ油を入れ、炒めたベーコンと玉ねぎのみじん切りを加える。おいしそう。

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結構厚みのあるスライスだ。いもの形もしっかり残っている。

お次は南ドイツのシュヴァーベン地方の「長ネギ入りのポテトサラダ」のレシピ。

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ポテトサラダの写真はなかったが、同じくお酢、だし汁、サラダ油で味付けられている。温かいうちに食べる、しっとりしたポテトサラダだそうだ。

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そして次はドイツの第4の都市ケルンのポテトサラダ。

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写真を見るだけで、ザールラントのポテトサラダとは方向性がまったく異なることが分かる。

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マヨネーズやクリームでじゃがいもの色がかき消されている。

このレシピではマヨネーズに加えてサワークリームとシュマント(脂肪分25〜28%のサワークリーム)が入っている。超スーパークリーミーなポテトサラダである。

そしてドイツ西部のヴェストファーレン地方の「おばあちゃんのポテトサラダ」レシピ。

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こちらはマヨネーズ、ピクルス、茹で卵、ベーコンが入っている。

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次に旧東ドイツにある、ベルリンを囲むブランデンブルク州のポテトサラダのレシピを見てみた。

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今まで集めた情報が正しければ、ブランデンブルクはマヨネーズ派なはずだ。

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あれ、マヨネーズが入っていない!

「低カロリーポテトサラダ」のこのレシピでは、ヨーグルト、りんご酢、レモン汁で味付けられている。りんごと茹で卵が入っている点ではドイツの北部や西部でも見られるレシピと同じだ。

マヨネーズが入ってなくて一瞬びっくりしたが、マヨネーズを低カロリーのヨーグルトで代用している健康志向なレシピなのだろう。

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お酢派とマヨネーズ派の曖昧な境界線

続いてじゃがいも料理やポテトサラダのレシピ本を見ていこう。

こちらは先ほどの「ポテトサラダのない1日は、食の観点から見て無駄な1日だ」の本にあった南ドイツ風ポテトサラダ。先ほどと同じく、南ドイツのポテトサラダはお酢、だし汁、サラダ油、塩こしょうと、材料が少なくてシンプルだ。

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じゃがいものスライスは先ほどのザールラントのレシピと比べて薄い。

そして同じ本の北ドイツ風レシピ。手作りマヨネーズ、マスタード、シュマント、塩こしょうで味付けしてあるが、最後にお酢を少々入れても良い、と書いてある。マヨネーズのポテトサラダにもお酢が登場するのか!

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それにしても、どこからどこまでが南で北なのかは不明。

また別の本では「南ドイツ風ポテトサラダ」と「クリーミーなポテトサラダ」という風に分けている。クリーミーな方は地域が特定されていない。

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南ドイツ風ポテトサラダの方を「Klassiker(典型的)」と呼んでいるところを見ると、著者は南ドイツ出身な可能性が高い気がする。

ここまで見ていて、ドイツ国内ではお酢派とクリーミー派に分かれることははっきりしたが、その境界線は書いている人もいまいち把握できていない様子だった。

両タイプが混在している場所もある

さらに、複雑さに追い討ちをかけるように、同じ地域でもクリーミーなレシピとお酢ベースのレシピが混ざっていることが分かった。例えばベルリンがそうだ。

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ベルリン出身の私の義母のレシピはマヨネーズ派だが、こちらのレシピ本に出てくるベルリン風ポテトサラダのレシピの味付けはお酢、サラダ油、マスタード、ピクルスの汁で、マヨネーズは一切使われていない。

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そのほかにマスタード、りんご、長ネギ、ピクルスが入ったあっさりポテトサラダ。

確かに私が教えてもらったベルリンっ子のレシピも、2つがマヨネーズ、2つがお酢ベースと半々に分かれていた。

最初は西と東ベルリンで方向性が違うのではと思ったが、西ベルリン内でも両バージョンが混在しているようなので、東西の違いだけではなさそうだ。

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スーパーの「ベルリン風ポテトサラダ」もマヨネーズ入りとお酢入りのがある。

わかったこと

知り合いから聞いたレシピとレシピ本を見て分かったことをまとめてみた。

●    ポテトサラダには2つの方向性がある:お酢 vs クリーミー(必ずしもマヨネーズとは限らない)
●    ふかしたじゃがいもはいきなり潰さず、スライスする
●    地域内でも両方共存する場合もある
●    南部のレシピはお酢ベースで、具が少なくシンプルなものが多い
●    北部・西部・旧東ドイツはクリーミーなレシピが多く、材料の幅が広い
●    北部や西部風のポテトサラダにりんごがよく出てくる

さらに、調べたレシピの地域性を地図にまとめてみるとこのようになった。

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「ほぼ」や「たぶん」という言葉が自信のなさを語っている。

 

思ったより両バージョンが混在する場所が多かったので、確実にクリーミー!確実にお酢!と言い切れる場所があまりなかった。調べれば調べるほど「例外」が出てきて訳がわからなくなってきた。

それもそのはず、2020年12月にドイツの新聞社によって行われたポテトサラダに関するアンケート(こちら・ドイツ語の記事です)によると、旧西・旧東ドイツ間の違いや(旧東ドイツの方がマヨ率が高い)、宗教的な違い(カトリック教徒はお酢派が多い)など、歴史的・社会的要素もポテトサラダの方向性に関係しているそうだ。

もうポテトサラダだけで博士論文が書けそうだ。余計に収集がつかなくなってきた上、無性にポテトサラダが食べたくなったので、諦めて実際にポテトサラダを作ってみることにした。

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2種類のポテトサラダを作ってみる

まずはお酢とクリーミー派のレシピを一つずつ選んだ。

お酢ベースの代表として、ドイツ南西部のバーデン=ヴュルテンベルク州出身の友人マルセルのお母さんのポテトサラダ、そしてクリーミー派の代表として、夫の母の西ベルリン風ポテトサラダの2種類を作ることにした。

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まずはじゃがいも選び

まずはポテトサラダの主役であるじゃがいもを選ぶ。

ドイツには200品種以上のじゃがいもがあり、それぞれに名前が付けられているのだが、なぜか女性の名前が多い。

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植物品種庁のじゃがいも品種リストの一部。マリオン、メアリーアン、マルタなど、圧倒的に女性の名前が多い。

昔は農家の娘の名前を付けていたとか、ドイツ語ではじゃがいもは女性名詞だから……といろいろな説があるみたいだが、実際の理由は不明である。

マルセルも義母も「リンダ」という種類がポテトサラダに向いていると言っていたので、今回はこちらにした。

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真ん中にあるのが煮崩れないタイプの「リンダ」。

では早速ポテトサラダを作ってみよう。

南ドイツ風のお酢ベースのポテトサラダ

まずはドイツ南西部出身のマルセルのお母さんのレシピを使ってポテトサラダを作る。

500グラムのじゃがいもを皮のついたまま、水の入った鍋に入れる。鍋に大さじ1/2の塩を加え、お湯が湧いたら、竹串がスッと刺さるまで弱火で茹でる。

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水はじゃがいもがひたひたになるぐらい

じゃがいもが茹で上がったら、熱いうちに皮を剥く。その間に100mlの野菜のだし汁とバター少々を、バターが溶けるまで弱火で温める。

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野菜だしを自分で作る場合は、1.5リットルの水にポロネギ、にんじん、玉ねぎ、セロリなどの野菜を塩こしょうと一緒に1時間ほど煮込み、こす。

皮をむき終わったら、じゃがいもをできるだけ薄くスライスする。マルセルのお母さんはスライサーを使っているそうなので、その通りにやってみた。

レシピ本にはスライスの薄さは2ミリが理想的と書いてあったところもあったので、2ミリを目指して薄くスライスした。

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ペラペラ!

スライスしたじゃがいもに先ほど温めただし汁をかけ、お酢大さじ2〜3(りんご酢やワインビネガーなど)、サラダ油大さじ2(ひまわり油など)、塩こしょう、ナツメグを少々加える。

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温かい汁がじゃがいもに染み込んでいく。すでにおいしそうだ。

じゃがいもの形が崩れないように優しく混ぜる。足りなければだし汁やお酢を追加し、味が染み込むまで1時間ほど置く。

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スライスが薄いので、形が崩れてしまわないように混ぜるのが大変だ。
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混ぜ終わったら完成。
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じゃがいもがツヤッツヤでおいしそうだ。

本当は1時間以上寝かせた方がおいしいそうだが、待てないので味見してみた。

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初めて自分で作ったお酢のポテトサラダだ。
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さっぱりしていておいしい!

今まであまり出会ったことがないポテトサラダだ。

だし汁とお酢でとてもあっさりした味付けなので、じゃがいものおいしさを味わえるレシピである。マヨネーズが得意でない人はぜひ試して欲しい。個人的にはもっとお酢を入れても良いと思った。

今回は野菜だしを使ったが、肉のだし汁でも絶対おいしいと思う。

西ベルリン風のマヨネーズベースのレシピ

次はマヨネーズの入った義母のレシピを作ってみる。

先ほどと同じくじゃがいもを茹でて皮を剥き、スライスする。義母はそこまで薄いスライスにはこだわらないそうなので、包丁で5ミリぐらいの薄さに切った。

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ちょっと分厚かったな。

このじゃがいもに、80グラムのマヨネーズと80グラムのヨーグルトを混ぜたものと、刻んだピクルス4本、長ネギ2〜3本、ピクルスの汁大さじ2、塩こしょう少々を加える。あと、じゃがいもと同じようにスライスしたリンゴも1つ入れる。

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義母の母はもともとマヨネーズだけで作っていたらしいが、重すぎるので義母はマヨネーズにヨーグルトを混ぜるようになったそうだ。

材料を全部混ぜれば出来上がり。

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うーん、もっと大きなボウルを使えばよかった。

こちらも少なくても一晩寝かせた方がおいしいらしいが、せっかちなのですぐに味見をする。

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夫の母がいつも作ってくれる安定のポテトサラダの味!

マヨネーズベースだけに日本のポテトサラダに少し似ているが、ヨーグルトが入ってるので少しあっさりめ。マヨネーズ好きにはパンチが足りないかもしれないので、全部マヨネーズでも良いかも。

たまにシャクシャクとしたりんごの歯応えがあってすごくおいしい。じゃがいももしっかり歯応えが残ってるので、これを「サラダ」と呼ぶのが分かる気がする。


ポテトサラダはおいしい

この所、人に会うたびにポテトサラダの話ばっかりしていたので、「ポテトサラダのことばっかり聞いてくる変な日本人」だと思われてたと思う。

でも、ポテトサラダの話をする時のドイツ人はとても楽しそうなので、きっとみんなポテトサラダが大好きなのだと思う。ドイツ人との会話につまったら、出身地のポテトサラダのについて聞いてみるといいかもしれない。

結論として、クリーミーポテトサラダとお酢ベースのポテトサラダはまったく別物だが、両方ともすごくおいしいのでこれからは両種類作っていこうと思う。

レシピ本の「日本風ポテトサラダ」がちょっと違った。でもこれはこれでまた作ってみたい気がする。
レシピ本の「日本風ポテトサラダ」がちょっと違った。でもこれはこれでまた作ってみたい気がする。
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