まとめ:もっと広がれ!スナップテープ!
音自体はどうしても苦手ではあるが、その功績はまぎれもなく素晴らしいものだ。
今後もすべてのものが完全にスナップテープに置き換わることはないだろう。
しかし、世の中でマジックテープの音に苦しんでいる一部の人たちにとって、スナップテープもまた、心のよりどころとして重大な役割を担ってくれるはずだ。
もっと広がれ!スナップテープ!!
世の中には2種類の人間がいる。
上の写真を見て何とも思わない人間と、マジックテープがはがれる音を想像して身震いする人間。
大半の人はおそらく前者で、何を言っているかわからないと思う。でも聞いてほしい。
「わかる、身震いする」という方も、最後に素晴らしい商品に巡り合うことができたのでぜひご一読いただきたい。
あなたには苦手な音はあるだろうか。
食べ物に好き嫌いがあるように、音にも好き嫌いがある人は多いと思う。
よく聞く苦手な音は黒板をひっかく音、フォークがお皿をひっかく音、歯医者さんで歯を削る音などだ。主に高音に弱いのかもしれない。
かくいう筆者はマジックテープが苦手だ。
あのベリベリである。はがす時の音にぞわっとくる。
特にゆっくり「ベリ…ベリべリ…」とはがしていくときなんかはもう文字通り身の毛がよだってしまう。
正直これを書いている最中も思い出すだけで首の後ろから後頭部にかけてゾゾゾっときている。
マジックテープ嫌いを自覚したのはたしか中学生の頃だ。
学校指定のバッグの外ポケットにマジックテープがついていて、開くたびに一人でぞわぞわしていた記憶がある。
当時友人たちに「マジックテープの音がこわい」と話してみても、誰一人共感してくれる人がいなかった。
大人になった今、マジックテープの付いた商品はできるだけ避けていて、傘に関してもボタン式のものを好んで使っている。
上の写真は外出先でうっかり雨に降られ、仕方なく買ったものだ。
ネットで検索してみると結構同じ悩みを抱える人が多いようで、Yahoo!知恵袋なんかでは同じような質問をいくつも見つけることができる。
仲間を見つけたようでうれしい反面、いくら探しても嫌悪感の原因がわからず、もやもやが残ってしまっていた。
Wikipediaによると、われわれが慣れ親しんでいる「マジックテープ」という名称は化学メーカーである株式会社クラレの登録商標であり、一般名称は「面ファスナー」というらしい。
面があるなら点もあるのか、とWikipediaで「ファスナー」を追い引きすると、点、線、面に大別されるようだ。
点ファスナーは衣服だとスナップボタンを差すことが多いようだ。工業用も入れるとボルトやねじなど、かなり馴染みのあるものも点ファスナーに入る。
よく考えてみるとファスナーの語源は「fasten(固定する)」なのでいろんな留め具のことを差していて当たり前なのかもしれない。
こうやってWikipediaは知のテーマパークなので、読んでいるうちにどんどん本筋から話がそれていく。でも仕方がない。おもしろいんだもの。
さて、面ファスナーである。
面ファスナーは1948年頃にスイスのジョルジュ・デ・メストラルという電子工学者によって発明されている。
登山中にゴボウの実が自分の服や飼い犬についたことから着想を得たとのこと。いわゆるひっつき虫だ。
きっとひっつき虫はそれまでも存在していたはずだし、なんなら子どもたちもくっつけあって遊んでいたはずだ。
その仕組みをジョルジュ氏は疑問に思って発明しちゃった。同時にあのべリベリ音が爆誕し、のちに筆者を苦しめることになるのだが、Wikipediaを読めば読むほど、その発明の偉大さを思い知らされる。
衣服などの生活用品だけでなく、医療器具や宇宙船などにも使われている。
筆者があの音を我慢するたび、宇宙開発が進んでいると思うと受け入れられる気がしないでもない。
苦手なものであっても「知ること」って大事だ。
ただやはり面ファスナーよりもマジックテープの方が耳馴染みがあるので本記事ではマジックテープ呼ぶことにします。
家にあるやむを得ず購入したマジックテープがついているグッズを並べてみる。
充電器もグローブも使用頻度は高いが、無理やりベリベリ部分を触らずに使うことで回避している。
しかし、これからの季節で避けては通れないものが一つだけある。
犬の服やハーネス、やたらとマジックテープがついているものが多い気がする。
犬に服を着せなくてもいいのでは?という意見もあるが、冬になると愛犬与太郎は結構な寒がりなのでお散歩のときに着せることが多い。
こいつの厄介なところは、与太郎の大きさに合わせて少しゆとりのできるように着せるのだが、その調整をするために何度かマジックテープをつけたり外したりしなくてはならないという点だ。
しかも与太郎はこれを見るとお散歩のテンションになるため、基本ジタバタしている中、何度もつけ直す。その度にベリベリ音が筆者の鼓膜を襲うのである。
あとのサコッシュやカメラケース、スノボウェアなんかは数年ほど使っていない。
ウェアに関しては使うことはないが確認したところ、上下合わせて12か所もマジックテープがついていた。
このマジックテープの恐怖は「実際に鳴らなくても想像するだけでぞわぞわする」ということである。
次にスノボに行くことがあったら、全身12か所にマジックテープがあると考えるだけで、滑るどころじゃなくなってしまうかもしれない。
世の中に人間が嫌に感じる音があるのはわかる。
ではそもそもなぜ不快なのか。実はこれ、まだ明確な原因はわかっていないらしい。マジックテープよりも圧倒的に苦しむ人が多い黒板をひっかく音ですらだ。
せめて手がかりはないものかと、図書館で文献にあたってみた。すると、人体の謎にせまる系の本でそれらしい手がかりが見つかった。
黒板をひっかく音はニホンザルの警戒を意味する叫び声に似ている説や、太古の昔に人間を捕食していた生き物の発する声に似ている説などが唱えられているが、推測の域を出ないようだ。
(参考:スティーヴン・ワァーン『Q&A 人体のふしぎ 黒板をひっかく音で寒気がするのはなぜ?』講談社,2000)
原題は「The odd body」。「考えているときになぜ上を向くのか」のような今更人に聞けない体のちょっと変な質問を答えてくれるかなり面白い本。
たしかに悲鳴のような高い声が不安を覚えさせるのは何となく納得できる。
歯を削る音とかもそうだ。
でも、でも……マジックテープは高い音じゃないのに、どうしてなの……誰か教えて……。
しかし、上記の本を参照すると、途方に暮れた著者を救ってくれるヒントになりそうな記述もあった。
「黒板の金切り声が寒気を引き起こすのは高い周波数のせいであるという理論は、すぐに捨て去られました。高周波の部分を除いても、不快な感情はそのままでしたが、低周波部分を除いたところ、驚くべきことに被験者は心地よく感じたのでした」
(同書,p162より引用)
また、この研究結果とは異なり、特定の域の周波数と音量のバランスが深く関係していると結論付けている岡山県の高校生の論文もあった。かなり面白いので興味がある方は読んでみてほしい。
もちろん推測の域は出ないが、以上から、マジックテープは音が高くなくても、黒板のひっかく音や歯を削る音の周波数と部分的に似ているのかもしれない。
ここまでで、不快に感じる理由にはなんとなく近づけたような気がする。
ではストリートの話をしよう。
メカニズムのヒントを得たからといって、日常生活に潜むマジックテープたちを受け入れることも、全く触れないことも難しい。
解決策はひとつだけ。
「剥がしても不快ではないマジックテープ」を探す、である。
マジックテープが発明されて73年。たぶん世界中の会社がせっせと色んな種類のマジックテープを作ってきたに違いない。
ひとつくらいは音を聞いても不快に感じないマジックテープがあるんじゃないか。
マジックテープのコーナーに辿り着くと、そこには色とりどりのマジックテープたちがひしめき合っていた。
もし、この子たちを一斉にベリっとしたら……考えるだに震えてきてしまう。
棚を見ているうちに感じたのは、マジックテープに求められているのは「かんたんに貼り付けられること」と「強い接着力」ということ。
明らかに機能面が重視され、誰も不快指数基準で探しになんか来ないのである。
あきらめかけたその時、ある商品が筆者の目に飛び込んできた。
「ブロック型スナップテープ」?聞いたことがない。
マジックテープに挟まれているので、用途としては一緒なのだろう。
スナップというのは先程出てきた点ファスナーの代表、スナップボタンのこと。
それをブロック型にしてテープにしているのだ。
あまりイメージがつかないが、イラストを見る限りマジックテープと同じ役割をしている。
フムフムとパッケージ裏を見ると、特徴と使用方法が書かれていた。その一文に目を奪われる。
試してみたところ、完全にボタンが外れるときのあの音が連なった感じで、バリバリする感じは一切ない。
付けるときもパチパチと鳴って、なんなら楽しい。
こんなにクリティカルに問題を解決してくれる商品は今まであっただろうか。
開発者はもしかしてマジックテープ恐怖症同志じゃないか。
販売元のクロバー株式会社公式サイトを見てみると、商品の使い方の説明動画があった。
再生してみるとハンガリー舞曲第5番とともに軽快に商品説明が始まる。
途中いいところで曲が一瞬止まり、テープを開ける音を聞かせてくれる。いい動画だ。
ブロック状になったボタンが集まっているので固さがあり、テープ部分、スナップ部分と接着面に間隔がある。
まとめると、マジックテープとの簡単な違いはこう。
アイロンがかけられない点、柔軟性に欠ける点はあるものの、筆者のようなバリバリ音が苦手な人間にとってはとんでもなくありがたい存在だ。
さらにいいことに、映画館や図書館など、静かな場所でも気後れすることなく開け閉めすることができる。
ようやくマジックテープとの長い戦いの終止符を打つときが来た。
もう決着はついている。わたしはスナップテープとともに生きていく。
日常のなかでもっとも苦しめられてきた与太郎の服についたマジックテープを丁寧に外し、スナップテープを縫い付ける。
裁縫をほとんどしない筆者でも、手縫いでなんとか取り付けることができた。
今までありがとう、マジックテープ。
音自体はどうしても苦手ではあるが、その功績はまぎれもなく素晴らしいものだ。
今後もすべてのものが完全にスナップテープに置き換わることはないだろう。
しかし、世の中でマジックテープの音に苦しんでいる一部の人たちにとって、スナップテープもまた、心のよりどころとして重大な役割を担ってくれるはずだ。
もっと広がれ!スナップテープ!!
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