奥祖谷の落合集落を目指す
気になる事はこの目で見ないと気がすまない。という訳で、高低差390mの斜面集落を目指し、祖谷へ行ってみる事にした。
冒頭でも述べたとおり、祖谷というところは山深い場所にあり、日本三大秘境の一つにも数えられている。ちなみに他の二つは、岐阜県の白川村と、宮崎県の椎葉村。白川村は白川郷として有名になったのでもはや秘境とは言えないかも知れないが、まぁいずれにしても、山の奥地ではある。
私が目指す落合集落は、秘境と言われる祖谷の中でも東の方面、奥祖谷などと呼ばれる地域にある。以前当サイトのライター萩原さんが、モノレール(→参照)や野猿(→参照)に乗った、その辺りだ。
ちなみに私は車の免許を持っていない。ではどうやってそんな奥地にまで行くのかと言うと、なんと路線バスがある。徳島県西部の阿波池田から、落合集落の少し先にある久保まで、一日に数本バスが出ているのだ。
いやはや、奥祖谷にまでバスが通っているとは、日本の公共交通網の優秀さにはまっこと恐れ入る。
朝一番の8時15分。池田のバスターミナルに、普通のものより一回り小さいバスがやって来た。乗客は私の他、年配のご婦人が一人だけ。若干寂しくはあるが、その分、秘境へ行くのだという雰囲気は出る。それにしてはあまりに普通のバスなのだけれど。
乗車後ほどなくして出発。池田の市街地を抜けて、山方面へと突き進んでいく。空を見ると、若干雲がかかっているのが気になるが、到着する頃には晴れになっていることを期待しよう。ほら、山の天気は変わりやすいっていうし……って、悪い方に変わらなければ良いのだが。
このバスはまず、高知県と徳島県に渡って流れる吉野川に沿って峡谷を走っていく。その途中には、かの有名な大歩危やら小歩危やらといった石ゴロゴロ地帯があったりと、なかなか良い景色が続くので退屈することが無い。
この辺から既に平地は少なくなり、両側に迫る山も急だ。早くも秘境の片鱗が垣間見れるが、祖谷があるのはここからさらに奥まったところである。
出発してから一時間弱、9時くらいに大歩危駅に到着した。ここまでバスは吉野川に沿って南へと走ってきたのだが、この大歩危駅を出てからは、吉野川を離れて東に向かうこととなる。
阿波池田から同乗していたご婦人は既に下車しており、バスに乗るのは私と運転手さんの二人だけ。さぁ、いよいよここからが本番だ。祖谷へと突入する。
吉野川沿いの国道32号線から県道に入った途端、風景は山岳地帯のそれと化した。道幅も狭く、若干小さいタイプのバスだから良いものの、普通サイズのバスなら立ち往生してもおかしくない場面も多々あった。
だがしかし、このあたりの道路は祖谷では相当マシな方。なぜならこの先にはかずら橋という祖谷最大の観光スポットがあるため(前述の、萩原さんが行った野猿近くのかずら橋とは別の所)、そこまでの道路はしっかり整備されているのだ。
そうこうしているうちに、バスはそのかずら橋付近に差し掛かった。すると突然、目の前に祖谷特有の斜面集落が広がった。そう、早速斜面集落が広がったのだが……
地図を見ると、ここは今久保集落というらしい。祖谷によくある、山を切り開いて作られた斜面集落……なのだが、しかしまぁ、ご覧の通り、本来急斜面であるべき下部分がえらいことになっている。まるで山全体がサイボーグ化しているような、そんな印象を受ける。
どうやらこれは、かずら橋の駐車施設である模様。しかしこれは……ある種珍建築と言えなくも無いが……う~ん。
県道から国道439号線に突入、さらに東へ
さて、気を取り直していこう。観光客が大勢訪れるかずら橋を過ぎると、それまでなんとか二車線を保っていた道路が一車線となり、バスは道幅ギリギリに進むことを余儀なくされる。
対向車が来た場合、離合は極めて困難だ。どちらかが結構な距離をバックしてなんとかすれ違う。私はその度に、運転手さんの技術の高さに感嘆する。
そうして何とか祖谷の山道を走り抜け、バスは県道から国道439号線へと入った。
国道439号線は通称ヨサクといい、酷い状態の国道、略して酷道の愛好家たちの間では知らぬ者はいないというほどの超有名道路。特に、先ほど県道からヨサクに合流したところを南に行けば、ヨサクの中でも最難関の京柱峠が控えている。
我々が行くのは京柱峠とは逆方向なのだが、それでもさすがは京柱峠のお膝元。1車線から1.5車線の狭隘道路がひたすら続き、そこをバスがどんどこ走る。いやはや、なんと素敵な光景だろうか。
さて、阿波池田を出発してから二時間弱。ようやく車内に「次は落合」とのアナウンスが流れた。私はボタンを押し車が止まるのを待つが、どうも何か様子がおかしい。外を見ても、高低差が390mもある集落が存在するようには見えないのだ。