特集 2024年11月18日

昔のポパイを買い集めてます

最近、メルカリやヤフオクで古いポパイを買い集めている。

今と違うとか、懐かしいとかそういう懐古主義的な興味ではなく、いま読んで素直に面白いのだ。

1971年東京生まれ。デイリーポータルZウェブマスター。主にインターネットと世田谷区で活動。
編著書は「死ぬかと思った」(アスペクト)など。イカの沖漬けが世界一うまい食べものだと思ってる。(動画インタビュー)

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きっかけは意地悪でした、すいません

なんとなく古本屋で80年代のデート本を買った。読んでみるとそれがいわゆるおじさん構文で書かれていたのだ。

・軽くイッパイ、というライト・ドリンカーにはピッタンコ

そうか、おじさん構文とは40年前に流行った文体だったのかもしれない。
だったらポパイやホットドッグプレスなどの当時のカルチャー誌もこの文体がいっぱい載ってるんじゃないか。そんなちょっとした意地悪からいくつか買ってみたのだった。

ではおじさん構文を満喫しますかな、と思って読んでみると………おや、へえ、ほほう。
すごくおもしろいのだ。すごいなこの雑誌。

そのおもしろさに惹かれて、45年前の若者のように古いポパイを買い集めている。
特に集めているのが1976年~1979年ごろのだ。

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魅力・文字が多い

この頃のポパイはなにが意外って、字が多いのだ。特に多いのが冒頭のpop*eyeという細かいニュースを集めたコーナー。

1978.12.25 45号
1977.9.25 15号

ポパイってこんなに文字が多かったっけ?と思う文字数の多さ。

載っているのも、大英海洋博物館で新しいロープの結び方が追加された、グレナダの首相が国連でUFOについて論じた、食用ミミズの養殖の話題などいちいち引っかかる(ミミズの養殖のエピソードは前の持ち主が熱心に線を引いてあった。確かにミミズ気になるよね!)

雑誌って写真が主で文字は隅っこに800文字ぐらいのイメージだったが、まるで逆だ。ゴシップ誌や奇談集のようでずっと読んでいられる。
これを隔週で読めた当時の若者がうらやましい。

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コラムの本数が多い

pop*eyeは毎号18本ぐらい載っているのだが、たまに出るpop*eye特集号だと200本以上に増える。 

1977年 15号 pop*eye大特集号は表紙にまで本文を載せている。合計301本。

そのあとも定期的に pop*eye特集号が出ていて、
22号pop*eye特集 209本
36号pop*eye特集 170本
48号pop*eye特集 218本
と単行本にしてほしい情報量だ。
インターネットがない時代、これだけのニュースを集める労力を考えるとぞっとする。

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内容がおかしい

pop*eyeは本数が多いだけではなく、ひとつひとつのニュースが奇妙で際立っている。

アメリカではステーキで年間4000人も死ぬ。(56号 p.6)
ステーキを喉につまらせた窒息死が年間4000人いるため、喉に詰まったときの応急手当てが考案されたという話題(後ろから手を回して引き上げるという今も聞く方法)
コレラ予防の一番いい方法は毎日ビールを飲むことなんだってサ。(48号 p.7)
メリーランド大学のワクチン研究所が200人のボランティアにコレラ菌が入った食べ物を食べさせて実験した結果
(注:信頼しないほうがいいよ)
囚われの身でもこの日はスターだ。(48号 p.92)
テキサスの刑務所で開催されるロディオ大会のようす。模範囚が外に出てにこやかにプログラムを売っている
LAの定期旅客便の名物となっているアイスクリーム・プール(36号 p.89)
バスキン・ロビンスの社長の家にアイスクリーム型のプールがあり、その上を飛ぶ飛行機のなかで機長が乗客にアナウンスしている
ラジコンのジョーズは、一体何のために作られたのか?(15号 p.9)
サメの背びれだけのラジコンで金持ちがプライベートビーチから侵入者を追い払っている
マクドナルドのハンバーガーが大好きな植物がいるんだって。(31号 p.9)
ロサンゼルスでは食虫植物が人気で、ディオニアムシプラはマクドナルドのハンバーガーが好物という。
(注・Dionaea muscipulaは和名ハエトリソウ。ハンバーガーではなではないかもね)
ジョギングも公害!?走らない人の楽しみ方を教える本が登場した。(46号 p.7 )
「ザ・ノン・ランナーズ・ブック」という走らないで過ごす方法を記した本(もちろん皮肉)が出た

「アメリカではステーキで年間4000人も死ぬ」はこの号の一番最初のニュースだった。雑誌のオープニングとしては最高のつかみだだろう。

はっきり言って真偽不明でちょっと盛ってると思われる話もある。
でもアイスクリームの形のプールがあって、その上を飛ぶ飛行機から人がそれを眺めているなんて(それが数回だったとしても)ファンタジックな奇妙さだと思う。人に言いたい話だ。現にこうして人に伝えている。
(アイスクリーム型のプールはインスタにあげている人がいた。

ポパイにアメリカの話題が多いのは、アメリカの国の機関から航空券などの支援を受けていたからという話もあるのだが、その話題がステーキで4000人死ぬで良かったのだろうか。

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興味の幅が広い

そしてこの時代のポパイは興味の対象が広い。ファッションや西海岸だけではなく、レース鳩や気球、おいしいパンだって取り上げている。

夕陽を浴びてレース鳩が帰ってきた(47号 p.78)
レース鳩の飼育方法や入手方法。レース鳩協会に連絡すると譲ってくれそうな会員を紹介してくれるとのこと(もちろん当時の情報です)
百科事典を愛読書にしてしまおう(47号 p.82)
騒音ゼロ!無公害飛行の熱気球は実在するUFOだ(36号 p.70)
壁新聞コミュニケーション(47号 p.57)
梅田駅の地下では関西ローカルの夕刊紙を柱に貼りだしているという話。いまはそんな習慣はないみたい。
サトウキビの食べ方にも、それなりのマナーはあるのだ。(31号 p.17)
「繊維ばっかりなのだが、その繊維に甘い汁が含まれているので、よく噛んで汁だけ吸ったら繊維は吐き出す」
久しぶりに日本のミステリー界に登場した20代作家・赤川次郎(15号 p.76)
先見の明がありすぎ
パン(22号 p.120) 
サワーブレッドという酸味のあるパンが紀ノ国屋にある
36・パン

これは商品レビューの企画で気になったものを特に短くたくさん紹介するページにあった。
「パン」という堂々としたタイトルに驚くが、周囲の「中国の薬」「小学生用の辞書」など興味の方向が全方位だ。(サワーブレッドはいまもあった。

いま、特にメジャーな媒体は有名人ありきでその人が推しているもの、という軸で商品が取り上げられることが多い。だがこの時代のポパイは出来事・もののインパクト優先で有名人がほとんど登場しない。というところも僭越ながらデイリーの魂に通じるものがあって嬉しい。(ポパイも80年代に入ると有名人が登場し始める)

そのくせライターやイラストレーターにさらっと有名人が混ざっている。これは原田治。
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広告もいい

文字ばかりのポパイに入っている広告もまた文字が多い。雑誌の雰囲気にあわせた広告がきれいに入っている。 

ボブデュランの来日コンサートについてのコラム、最後の7行で急に靴の話になるのはスニーカーの広告だから。
カメラのペーパークラフトになっているニコンの広告

これでカメラの大きさが分かるけど、本当に作ったらふにゃふにゃだろう。でもアイディアがかわいい。

ラジオがついたカメラの広告。ポパイ本文に負けないぐらい字が多いし、カメラの透視図が怪獣図鑑のようでかっこいい。

2024年版を読みたい

セーター特集では編み図を載せていたし、スポーツの項目では力士・朝潮(当時は長岡)を取り上げていた。国技から編み物、サトウキビの食べ方まで興味が自由だ。サブカルだとかメジャーだという壁がなく興味本位だ。

ボクたちのシティライフを熱くするにはこんな情報が欠かせないってことに気づいたんだ。伝説の雑誌に大いに刺激を受けたのでデイリーにも期待してくれ!バグース!(最後だけ当時のポパイ文体にしました)

1977年 15号 にスマホを持つタイムトラベラーが映り込んでいた

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