はじめてのオフショルダーの夏
撮影の日は公園にたくさんセミがいて、僕の露出した肩にも容赦無く元気な声を浴びせていた。2021年の僕の夏は『はじめてのオフショルダーの夏』として心に刻まれた。
オフショルダーという服がよく分からない。肩だけを出すことにどんな効果があるというのだろう。そして着るとどんな気持ちなのだろう。分からなければ着てみればいいのだ。はじめてのオフショルダーである。
ずっとオフショルダーという服が気になっていた。肩が出てるのに袖はあるという趣向を凝らした奇妙な服である。
鎖骨からズバッと出ている服はなんとなく分かるのだ。そのあたりの肌を出した結果、たまたまそこに肩も含まれていた、という感じがする。でもオープンショルダーは肩『だけ』出ているのだ。それはどんな効果があって、どんな着心地なのだろうか。
分からなければ着てみればよい。はじめてのオフショルダーである。
ショルダーありの状態で編集担当の藤原さんと待ち合わせた。写真撮影と、ショルダーがあったりなかったりする僕を見て感想を言ってもらう。
お手洗いに行って着替えてきた。さあ、どうか。
しっかりオフショルダーだ。肩が大きく出ており、あまり意識していなかった襟の丸さが強調されていて何かの衣装みたいだ。肩が出ているだけなのにキャラクターを主張するような意志を感じる。膝が出ていてもこうはいかないだろう。
着た感想としては、これがすごく恥ずかしい。「切りすぎましたよね」と藤原さんに言ったら「こんなもんだと思いますよ」と返された。見た目以上に恥ずかしいのだ。
なぜだろう。ジーパンに穴が空いて膝が見えているのとは全然違う。もっと大事なものが見えてしまっている感覚である。ヘソだ。ヘソが見えているのに近い。
見えていると恥ずかしいもの(筆者の場合)
手、足 < 顔 < 肘、膝 <<< 肩 <<< ヘソ
でもお腹が出る恥ずかしさは更に数段上という感じがする。鍛えて引き締まったら気持ちも変わるのかもしれない。
お腹を出すのは引き締まっているか否かという要素が関わってくるのでハードルが高い。肩はそこまで個人差がないので出しやすい。そういうことなのだろうか。
後日、そう妻に聞いたら肩を出すのにも色々あるようで、首が長くて鎖骨が目立つような華奢な骨格はオフショルダーが似合うが、肩幅が広いガッチリした骨格では華奢に見えないから似合わないらしい。
そう、「華奢に見える」ことがオフショルダーの目的なのだ(もちろんデザインが好きだから、というのが大前提の上で)。
しかし全人類が華奢に見えることを目指しているわけではない。例えばボディビルダーがオフショルダーを着たらその肩の幅と筋肉が強調されて嬉しいのかもしれない。肩を出す、というのは個人によって目的の異なる奥の深い行為なのだ。
分かったこと
あまりに恥ずかしくて藤原さんの周りをモジモジするばかりになってしまった。
通販でオフショルダーの服を買ってみた。
女装という要素が入らないよう、飾りの少ない、ただ肩が出ている服を選んだ。
しかし服が想定している人物より肩幅があったのか、そこまで肩が出ないオフショルダーとなった。
「これは全然いい」「これで電車乗れますよ僕は」とはしゃいでいたのだが、藤原さんには「でも今まで肩出てなかった人が突然これで来たらおっ、とは思いますね」と言われた。さっきの服が奇抜すぎたのかもしれない。感覚がバグっている。
ショルダーが風を切って気持ちよかった。オフショルダーの人はターザンロープやブランコを積極的にやっていった方がいい。
しかし外で遊ぶならショルダーに日焼け止めを塗るのを忘れてはならない。「袖がある分、肩に日焼け止め塗るの忘れそうだよね」とぼんやり心配していたことを後日妻に聞くと「いやー、そう忘れないんじゃない?」と言われた。やはりしっかりとした覚悟を持って肩を出しているのだ。漫然とオフショルダーしているわけではない。袖があっても肩のことは忘れないのだ。
そもそもなぜ肩だけが出ているのだろうか。タンクトップではダメなのだろうか。妻から二つ回答があった。
新要素、二の腕が現れた。確かに二の腕を隠しながら肩を出せるのはオフショルダーだけである。特別隠す意図がなくても、タンクトップになってしまうと印象が違いすぎるというのもよく分かる。
そういえばオフショルダーの人が大きなリュックを背負っているのを見たことがない。地肌に紐が擦れて痛いと思うので、オフショルダーの日は荷物少なめがいい。
分かったこと
オフショルダーは風を切る。風が、肩から腕の方に入ってくる感覚も新鮮で気持ちがいい。屋内の冷房も強めに感じたりするのだろうか。
冷房の風を感じる地肌の面積が大きい。このおかげで涼しく感じた。首回りが大きく開いていて冷えやすく、結果的に体全体も涼しく感じやすい。
あとで調べたら首と肩の間ぐらいの位置に『松風』『村雨』という人体の急所があった。オフショルダーはオフ松風、オフ村雨でもあるのだ。
すごく気持ちがいい。運動部のユニフォームがオフショルダーだったら、好きな女の子が冷たい飲み物を肩に当ててきて「キュン」というシチュエーションが実現する。キュンとするだろうか。すると思う。当ててみたらいい。すごく冷たいから。
分かったこと
肩にカフェオレを当てながら藤原さんとオフショルダーについて話し、なんとなくそのまま解散した。僕はオフショルダーのまま電車に乗り、家に帰った。家に帰ると妻と子どもがいて、二人とも少しギョッとしていたのですぐに着替えた。
さて、はじめてのオフショルダーだが、感想や分かったことをまとめるとこんな感じである。
分かったこと
着た感想
現在は特に『華奢さを強調する』という目的が強く出ているように感じるが、『華奢さだけでない、肩の特徴を強調できる』『衣装っぽくて気分が上がる』『涼しい』などの点を考えると別の使われ方もできると思う。
例えば夏祭りの屋台で、ガタイのいいおっちゃんがオフショルダー着て焼きそばを焼いていたらどうだろうか。それこそタンクトップでいいじゃないかとなりそうだが、油がはねて熱いので、ガードするために袖が必要なのだ。僕はおっちゃんが着たいのならば是非着てほしいし、実用的でいいと思う。
そんな風にいろんな人がはじめてのオフショルダーをしていったらいいじゃないか。何かいいのかって聞かれたらよく分からないけど。
撮影の日は公園にたくさんセミがいて、僕の露出した肩にも容赦無く元気な声を浴びせていた。2021年の僕の夏は『はじめてのオフショルダーの夏』として心に刻まれた。
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