これからコタツが気持ちいい季節になってくるがモニュメント昆虫たちは変わらずそこにたたずんでいる。
寺山修司みたいに「書を捨てよ、町へ出よう」ぐらいの事を言えたらかっこよく決まるのだが正直捨てるまではしなくてもいいんじゃないかなと思うので書は置いておくか持っていくかして、町へ出よう。
オオクワガタだって楽々ゲット
かつて「黒いダイヤ」と呼ばれ、レクサスかというぐらいの高値で取引されていたオオクワガタ。個体数が少ない上に分布も局地的で自然下で発見するのは困難を極める。
私も幾度かチャレンジしたが触覚の先すら見つからないうえに猿に吠えられたりしてブルーになって森を後にしたものだった。しかしその挫折に負けず、エンカウント率100%スポットを発見したのだ。
栃木県日光市、東武日光線上今市駅から日光杉並木に沿って広がる杉並木公園。
由緒ある杉並木に情緒溢れる古民家や水車、円筒分水井と共に夢にまで見たプレミアム昆虫が鎮座している。
見事なサイズのオオクワガタ。でかいだけではない。せわしなく動き回る昆虫は写真を撮るのも難しいがこのクワガタは山のごとく動かないので好きなアングルで、心ゆくまで撮影できるのだ。
石を使って流麗な甲虫のフォルムを表現し、息吹を吹き込む彫刻家、佐藤清和重隆氏の作品で、鎌倉は建長寺の虫塚でも観察できる。
ホタルも余裕
初夏の闇夜に浮かびふわふわ移動する幽玄な発光体、初夏の風物詩として我々の目を楽しませてくれるホタルだが成虫の活動期間は短いだけでなく、撮影もかなり難しくて閑散としたサイリウムのようになってしまう。
どうすればいいですかと問われたら、虫の専門家なら最適なスポットとタイミング、写真家であればカメラの設定などそれぞれのノウハウから的確なアドバイスがなされるのだが、私なら「京王線南大沢駅から京王バスに乗れ」と言うだろう。「絹の道入り口」バス停から歩いて約5分ほど、「鑓水蛍の里ビオトープ」の入り口では全天候型の巨大ホタルがハサウェイに負けない閃光を放っている。
妖精を乗せたセミ
子供に基礎教養をさずけてくれる学校の先生はまさに聖職だが、中には「冬にセミを観察してこい」というハラスメントまがいの課題を出してくる先生もいるかもしれない。しかしあきらめないで前を向いて笑ってほしい。いつでもセミは見られるのだ。
お蚕様もエブリタイム
絹の原料となる繭を作り、我々の生活と濃密な関わりを持ってきたお蚕様。養蚕業の衰退にともなってめっきり目にする機会も減ってしまったが会いにいけるお蚕様は存在する。
東京都杉並区、東高円寺駅を出てすぐ、青梅街道沿にいに広がる蚕糸の森公園は明治44年に設置され、昭和55年に筑波に移転した蚕糸試験場の跡地である。
煉瓦造りの旧正門や守衛所などが保存され、当時の面影を残しているこの公園の入り口で精巧なお蚕様が道ゆく人を見下ろしている。
もっと高いところ、かって横浜生糸検査所だった横浜第2合同庁舎の建物正面には蚕蛾と桑の葉をモチーフとした紋章が掲げられている。
電気街を見下ろす巨大バチ
大阪の日本橋に広がる電気街「でんでんタウン」、家電や電材、工具店が雑多にひしめく魅惑のストリートである。
狭い路地から空を見上げると縦横に張り巡らされた電線の間でホバリングしているかのようにたたずむ巨大な物体が見える。
棟屋のてっぺんをつかみ、そのままビルごと引っこ抜いて飛んで行きそうな巨大ハチ。以前このビルに入っていたゲーセンやカラオケの内装にも随所にハチモチーフのビジュアルがあしらわれていたらしい。
昆虫の王様 カブトムシいっぱい
昆虫界のトップスターの座をほしいままにしているカブトムシは各地で巨大化し、生態は多様化している。もうカブトムシは夏の思い出ではない。会いたい時に会えるスターなのだ。
カッパバシナナメカブト(東京都・台東区)
道具専門の問屋街として栄えてきた浅草の合羽橋、その中心部のビルの2階にがっしりとつかまっている。
食品サンプル最大手、株式会社岩崎の店舗「元祖食品サンプル屋」の2Fで同社が過去にイベント用に製作したものを展示しているらしい。私が初めてこれを見たのが11年前、それからずっと、このビルの樹液を吸っている。
アダチシブカブト(東京都・足立区)
コンパクトながら多様な生き物達が飼育され、コンテンツ充実の足立区生物園を擁する元渕江公園の入口、水辺にそそりたつ石柱の頂で何かと交信している女の子を護るようにカブトムシがはりついている。
ムサシノメオトカブト(東京都・武蔵村山市)
ここのカブトはいい。何がいいって他のカブトムシと違ってオスとメスのペアなのだ。
地球を縮小したようなゆるいカーブのアーチ上で微妙な距離を取り向かい合うオスカブトとメスカブト。なにか底知れぬ神秘性を感じる絵面だ。世界で一番最初のカブトムシの出会いが描かれているのではないか。
静かな森に囲まれた橋の上で語られるカブトムシ創世神話は必見だ。
ナオカワアカオオカブト(大分県・佐伯市)
幼少の頃、私の周囲では体全体に赤みがかかったカブトムシが「赤カブ」と呼ばれ重宝されていた。こういう貴重な生き物やアイテムを持っていると周囲から羨望の眼差しを向けられ、その集団でイニシアチブを握る事ができるのだ。そういうえば小学校の同級生に、親に箱買いしてもらったメンコを学校に持ってきて「これ誰の〜?ぼくの〜!」って言ってるやつがいたがイニシアチブ獲得には失敗していた。なんの話だ。
もしお子様に「ぼくも握りたいよう」とイニシアチブをおねだりされたら、大分空港から高速に乗り、佐伯ICを降りて国道10号線を山側へ向かってJR日豊線を横目に見ながらひた走り直川を目指そう。別府で温泉につかりたくなる欲望をグッとこらえてここはスルーしてほしい、ちゃんと温泉もあるから。
JR直川駅近く、久留須川を横切る県道603号とぶつかる交差点の手前に息を飲む巨大サイズの赤カブトが陽光を浴びてだらだらしている。
ここから更に山に向かって4kmほど先にある「憩の森公園キャンプ場」と「かぶとむしの湯」という謎の浴場への道しるべである。
しかし来てみてわかったが直川のカブトムシ推しはこんなものではなかったのだ。
でかすぎる赤カブトが導くまま、「憩の森公園キャンプ場」へ向かうと晩秋の森とは思えないほど昆虫達が跋扈していた。
心ゆくまでカブト採集した後は隣接する日帰り温泉で汗を(そんなにかいてないが)流す。その名も「かぶとむしの湯」、この徹底ぶりはすごい。
その後、佐伯市街、津久見市、臼杵市と回ったが各所で直川へ行ったと話すと「ああ、カブトムシの」と言われた。大分南部ではカブトムシといえばaikoではなく、直川なのだ。
ニラサキサイバーカブト・クワガタ(山梨県・韮崎市)
このラインナップにはかかせないのは前の記事で取材した中嶋大道さん製作の「絶対印象」ステンレス昆虫、そこで掲載できなかった山梨県韮崎中央公園のカブトムシを紹介ししょう。
JR韮崎駅より3kmほど北上した丘陵地にある広い公園で蒸気機関車展示、ミニSL乗車などもあり子供も大人も楽しめる公園である。
アスレチック遊具の傍らでメタリックなカブトムシが壮絶なインパクトを放っている。
稀少な昆虫や動植物は乱獲などの恐れがあり詳細な発見場所は公開できないがモニュメント昆虫は思いっきり採集地を公開、共有できるのもメリットのひとつである。紹介した昆虫達をマッピングしたので興味のある方はぜひ尋ねてみてほしい。