特集 2018年11月13日

ハイチュウと柿の種はJAXA認証済みの宇宙食である

宇宙食、見放題!( 本物だけど全部展示品なので 食べられません)

以前、種子島でのロケット打ち上げ取材記事でも書いたが、小学校卒業時の僕の“将来の夢”は、スペースシャトルの耐熱タイルを作る会社に就職したい、だ。

言ってることは地味だが、まぁとにかく宇宙大好きっ子だったわけで。

もちろん今でも宇宙への興味は尽きることがなくて、ネットで宇宙関連記事があるとつい読み込んでしまう宇宙大好きおじさんになっている。

そんな中で今回はたまたま、千葉県の科学館で宇宙食の企画展示をやっているらしい、という情報を見つけた。

気になる。行かねば。

1973年京都生まれ。色物文具愛好家、文具ライター。小学生の頃、勉強も運動も見た目も普通の人間がクラスでちやほやされるにはどうすれば良いかを考え抜いた結果「面白い文具を自慢する」という結論に辿り着き、そのまま今に至る。(動画インタビュー)

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> 個人サイト イロブン Twitter:tech_k

千葉県で宇宙食を眺める

その気になる宇宙食の展示こと『宇宙(そら)の味 -宇宙日本食と食品保存技術-』展は、市川市の千葉県立現代産業科学館でやっている。

事前に科学館側には「●時に取材に伺います」と連絡を入れていたのだが、あまりに展示が見た過ぎて、約束の時間の30分以上前にはもう現着していた。ワクワクしすぎである。

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千葉県立現代産業科学館、初めて来た。最寄りの本八幡駅から無料バスが便利です。

館内に入ると、目の前にH2Aロケットの模型がドーン。さらに後ろのガラスケースにはロシアのソユーズロケットの模型もバーン。

あー、宇宙だ。ここもう宇宙だわ。

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館内、展示会場入口。ロケットがあるだけでもう幸せ。
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ソユーズロケットの前身であるR7ロケットを携帯の待ち受けにしてるぐらいにはロケットが好き、とご理解ください。

ロケットの脇を抜けて企画展の会場に入ると、すでにお客さんがちらほら。

小学校低学年ぐらいの男の子が、国際宇宙ステーションの模型を見ながら「ISSだ!」「これ、きぼう!(国際宇宙ステーションISSにドッキングしている、日本の実験施設棟)」と連れのお母さんにテンション高く説明していて、超ほっこりした。

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家族連れは、だいたい男の子だけがテンション高い。

で、まず最初に展示されていたのは、アメリカとロシアの現行の宇宙食。

つまり、いまこの瞬間にもISSの中で宇宙飛行士が食べているかもしれない宇宙食である。

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ガラスケースで展示されている、本物の宇宙食。全部展示のみで食べられないけど、本物が見られるので嬉しい。
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こちらはアメリカの宇宙食。青い丸は、無重力下でふわふわ漂わないように固定するマジックテープ。

宇宙食には基本的に6タイプあって、

 ・加水食品(水やお湯で戻して食べる食品。フリーズドライとか)
 ・温度安定化食品(開封してそのまま食べる食品。缶詰やレトルト)
 ・自然形態食品/半乾燥食品(ドライフルーツやビーフジャーキー)
 ・調味料(塩・胡椒・ケチャップ・マヨネーズなど)
 ・生鮮食品(野菜・果物)
 ・放射線照射食品(放射線で殺菌を行った食品)

…と分類されている。

ちなみに、塩・胡椒は粉末が無重力で飛び散ると大変なことになるので液体化してあるとか、放射線照射食品は日本の食品衛生法にひっかかるので日本の宇宙食には使えない、というのはちょっとした豆知識なので、何かの機会に披露して「へー」と言われてみよう。

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加水タイプの『カシューナッツとチキンのカレー』と『アスパラガス』。アスパラガスの紙粘土っぽさ、カレーの泥っぽさがたまらない。食べてみたい。

見たところアメリカのはレトルトと加水タイプが多いっぽい。

基本的にフリーズドライの加水タイプが多いのは、宇宙に物資を打ち上げるのに1kgあたり100〜300万円ぐらいのコストがかかるから。つまり1gでも軽い方が正義なのだ。

対してロシアの宇宙食はというと、こんな感じ。

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かなり迫力あるサイズの缶がドーン

なんというかこう、えー、缶の存在感よ。

ロシアの宇宙食はどうも伝統的に缶詰が多いのだそうだ。

並んでいるうちの小さい方でもシーチキンとかあのお馴染みの缶より一回り大きいぐらいなので、大サイズの方は感覚的に言うと業務用かという感じ。

大きい方は主食(写真は川マスのピラフ)の缶なので、あれ1個で炭水化物1食分と考えればまぁそんなぐらいは必要なのかも知れない。

ちなみに宇宙飛行士の必要摂取カロリーは、地上とほぼ同じ。宇宙空間に出る船外活動をすると、+500kcalを摂る、とのこと。

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油井宇宙飛行士による、ISSでのピラフ缶実食風景。


上の写真で油井さんが手にしているのが、ロシア製のチキンピラフ缶。こうやって見るとやはりデカい。

あと、缶をペーパータオルでくるんでいるのは、温めた缶を開ける時に、中から汁が飛びだすのを吸い取るためだそう。なんか一人暮らしの大学生が体得するライフハックみたいなやつだな。

新人宇宙飛行士も先輩宇宙飛行士から「宇宙食のキャベツは安くて腹いっぱいになるから大量に積み込んどくんだぞ」みたいなノウハウを教え込まれるんだろうか。

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ISS内での食事スナップ。周りの機材が無ければ、ほぼおっさんが角打ちで飲んでる風景だ。

実際のところロシアの缶詰は汁気が多くてオイリーで美味しいので、なかなか人気らしい。機会があれば食べてみたいものである。

古いイメージだと、宇宙食=チューブに入った流動食、みたいなのがあるが、実際にはそれだとお腹に溜まらないし味気もないので、今はかなり地上に近いものが食べられるようになっている。

で、その古いイメージの方の宇宙食だが、こちらはロシアで一般的に「宇宙食風ファストフード」として市販されている。

弊サイトでも以前にライターさくらいさんがロシアの自販機でチューブ宇宙食を購入してレポートされていたが、あれ、実はそういうものだったのか。

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あ、なんか以前に記事で読んだやつだぞ。

そして、先ほどまでのアメリカ・ロシアの宇宙食はJAXA(日本宇宙航空研究開発機構)からお借りしたものだが、この宇宙食チューブは今回の展示を企画担当された千葉県立現代産業科学館の学芸員さんの私物。

実際に以前ロシアに行った際に購入したものだそうだ。

(ちなみに、さくらいさんの該当記事も読んでいたとのこと)

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宇宙日本食はコンビニでも買える

昔はISSで提供されていた宇宙食と言えばアメリカ製・ロシア製がローテーションで出てきたそうだが、現在は日本を含めた各国の宇宙食が食べられるようになっている。

もちろん、肝心の日本宇宙食も実物が展示されていた。

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わりと美味そうなビジュアルを維持している日本宇宙食。

以前には若田宇宙飛行士が日清食品製のラーメン(スペース・ラム)を持ち込んだことでニュースになったが、以降もいろいろと美味そうなものが作られている。

これらは元々は毎日食べる普通の宇宙食とは別枠の「ボーナス食」というカテゴリで持ち込まれたもので、つまりは毎日宇宙でお仕事大変だろうということで公式から提供されるISSログインボーナスみたいなものである。

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とはいえ「お稲荷さん」と「紅生姜付きお稲荷さん」は作り分ける意味があるのか。

こういった日本食は、各宇宙飛行士の希望したものをJAXAが国際的な取り決めの基準をパスしているか1年半ほどかけてチェックし、それが通ればようやく「宇宙日本食」として認証されてISSに持ち込めるようになる。

他にも食品メーカーから提案されて認証に進んだ宇宙日本食というのもあって、中には明らかに「それコンビニで売ってるな」という食品がそのまま含まれていたりするのだ。

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認証された宇宙日本食の数々。右端にあるのは、ボトルで生の鮮度を保つ系のあの醤油。
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宇宙ステーションでも食べられている、お馴染みの柿の種。

例えば柿の種なんかは、表示を見るとはっきりメーカー名含めて「亀田の柿の種」と書かれている。

中身も別に特殊のものでも何でもなくて、普通にあの柿の種である。

他にもチューイングキャンディーとして展示されているのは、ラベルこそ上から貼られているものの、下にはっきりとそのまま「森永ハイチュウ」って書いてあるし、その隣もパッケージそのまま森永の「焼きチョコBAKE」である。

あと、下の写真右端で見切れてるのは、ガワこそ宇宙食っぽい加水容器入りだが、中身は「理研のわかめスープ」だ。

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あー、これもコンビニで売ってるな。

さっきまで「わー、本物の宇宙食、食べてみたいわー」とか思いながら展示をずっと眺めていたのだが、本気で食べたいなら帰りにコンビニやスーパーに寄れば達成できることが判明してしまった。

意外と簡単に叶うもんだな、夢。

(実際、この展示見たあとにハイチュウと柿の種とBAKEは買って帰った)

超レアな機械も見られてすごい

日本宇宙食の隣には、なにやらメカメカしい装置がドーンと展示されていた。

実はこれ、日本に1台しかないという、宇宙食を温めるのに使う「宇宙日本食試験用加温機」の実機なのだ。

普段はJAXAで実際に宇宙日本食を加熱して食べる試験に使われているもので、同様の機械がISSで宇宙飛行士が食事を温めるのに使っているという。

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こういう機械で宇宙食を温めて食べてます。

これ、まず一般的に見られるものじゃないぞ。

いちおう展示されているが、もしJAXAで宇宙食のテストを急遽するよー、ということになったら会期中と言えどいったん返さなければいけないらしい。

なのでもし、この記事を読んで展示を見に行ったのに加温機なかったぞ、という事態になっていたら、「ああ、いままた宇宙日本食がテストされてるんだな」と思いを馳せてほしい。

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この黒いフタを開けて中に宇宙食をセットして温める。

使い方は、黒いフタの部分を開いて、中のパネルに缶詰やレトルトを固定してスイッチを押す。すると電熱でじわじわと食事が温まるそうだ。

宇宙食のパッケージはアルミのレトルトや缶詰で、電子レンジは使用不可。なので、ちょっと原始的だけどこういう装置を使っているのだ。

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中のパネルにゴム紐がついていて、そこに宇宙食を挟んで固定する。この辺りも意外と最新機器っぽくない。

加熱時間は缶詰で40分ぐらいかかるそうで、かなりじわじわとした感じ。

腹が減ったからすぐチンして食べる、というようにはいかないので、宇宙飛行士の人も大変だ。

最新情報!高校生が作ったサバ缶の宇宙食

会場の隅に缶詰が2個だけポンと置いてあったので、なんだろうと思ったら、これはいまJAXAで認定試験を行っている新しい宇宙食らしい。

しかもそれが、福井県の若狭高校で海洋科学科の高校生たちが作った「サバ醤油味付け缶詰」なのだと言う。

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これが高校生の作ったサバ缶の宇宙食。

もちろん普通のサバ缶じゃなくて、汁気がそのままだと無重力空間で飛び散って大変なことになるので葛粉でとろみをつけたり、でも魚肉に味が染みこみやすい粘度を探ったり…といったことで基準をクリアした労作である。

今回の取材時には「まもなく宇宙食に認定の見込み」という形で展示されていたのだ。

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平成20年から10年がかりで辿り着いた、宇宙日本食認定。すごい。

で、実はこの記事公開の前日(11月12日)になって「高校生が作った食品として日本で初めて正式に宇宙食として認定された」という確定ニュースが入ってきた。

このサバ缶が実際に宇宙に届くのは2019年末になる予定。無重力空間でサバ缶と白飯食うの、どんな感じなんだろうか。

できれば、食べ終わったあと汁の残ってる缶に追加で白飯を詰め込んでかき回して食べる、といったサバ缶のフォーマルなマナーもきちんと無重力下でこなして欲しいものだ。

2019年末だと、ISSにいるのは野口聡一宇宙飛行士だな。お願いしますよ、野口さん。


宇宙食を見に行ってきた、という、文字通り見ただけでひとつも口にしていない(帰ってからハイチュウは食べた)ので、とにかくお腹が減った取材だった。

見ている他のお客さんからは「まずそう」「食欲無くなる」(特にアメリカの宇宙食展示の辺りで)という声も聞こえてきたが、美味いかまずいか以前に「面白そうだから食べてみたい」という方向で食欲が沸くのだ。脳から空腹になる感じ。とても面白い感覚なので、ぜひじっくり見に行って欲しい。

※会期は2018年12月2日まで

あと、会場内では宇宙食の祖先とも言える伝統保存食や災害保存食の展示もあって、それもかなり面白かった。こちらもぜひ。

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保存食展示コーナーにあった、昔の電動鰹節削り器。鰹節の切り落とし屑を固めた太い棒状の鰹節を削るやつで、要するにぶっとい電気鉛筆削り。文房具好きとして興味深い。

取材協力
平成30年度企画展「宇宙(そら)の味 -宇宙日本食と食品保存技術-」
千葉県立現代産業科学館
住所:千葉県市川市鬼高1−1−3
電話:047-379-2000
開館時間:9:00~16:30(入館は16:00まで)
休みなどはサイトの「開館日カレンダー」でご確認ください

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