特集 2016年12月20日

種子島でのロケット打ち上げがシビれるぐらい最高だった

ロケット打ち上げを見に行こうよ超楽しいよ。最高だよ。すごいよ。バリバリバリだよ。
ロケット打ち上げを見に行こうよ超楽しいよ。最高だよ。すごいよ。バリバリバリだよ。
先日、ロケット打ち上げを見に行った。

まず、暗闇の中でメインエンジンが点火されると、いきなり「太陽か!」というほどカーッと明るくなる。
続けて、雷が鳴り続けているような爆音で全身がビリビリと揺らされる。
数秒後、塊みたいなモカッとした煙を地上に残し、炎を引きつつロケットがグググーッと天に昇っていっていく。1分ほど空をぽかーんと眺めている間に炎の線が光の点になって、消えて、終わり。
これたぶん、僕の今までの人生の中で最もカッコイイものを見た1分間だったと思う。
1973年京都生まれ。色物文具愛好家、文具ライター。小学生の頃、勉強も運動も見た目も普通の人間がクラスでちやほやされるにはどうすれば良いかを考え抜いた結果「面白い文具を自慢する」という結論に辿り着き、そのまま今に至る。(動画インタビュー)

前の記事:眼鏡専門学校でメガネを学ぶ

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2016年12月8日午後、種子島(X-32時間)

12月8日。鹿児島フェリーターミナルから高速船に乗り込み、約一時間半の船旅を経て種子島・西之表フェリーターミナルに降り立った。

宇宙ステーション(ISS)に水や食料、バッテリーなどを運ぶ無人補給機『こうのとり』…その6号機を搭載したH-IIBロケットの打ち上げ(12月9日22時26分予定)に向けての前乗りである。
あまり揺れない高速船だったけど、正直ギリギリ。はきそう。
あまり揺れない高速船だったけど、正直ギリギリ。はきそう。
僕の表情が硬いのは、前日の晩からワクワクしすぎてほぼ寝られず、睡眠不足から船酔いのコンボを喰らっているから。

高速船を下りて5分ぐらいは、本当にこんな表情で自撮りをするのが精一杯だったのだ。
日本でここだけだろう。ロケットがお出迎えする島。
日本でここだけだろう。ロケットがお出迎えする島。
…が、ターミナルを出た瞬間に体力全回復した。
だってホラ、これだけスカッと晴れた青空の下に、H-IIAロケットが「おじゃり申せ 種子島」(種子島の方言で、いらっしゃいませの意味)とお出迎えしてくれたのだ。

上陸5分で、まだこの適当なロケット看板と空しか見てないのに「うわー、種子島最高!」と思ったぐらいだから、テンションもだいぶおかしな事になっていたと思う。
フェリーターミナルの屋根にもロケットが。種子島最高。
フェリーターミナルの屋根にもロケットが。種子島最高。
なんでこんなにテンションが上がっているのか。
ざっくり言うと、個人的にロケット打ち上げを見るのがずっと夢だったのだ。

僕ら世代は残念ながらアポロの月面着陸には間に合っていないが、その代わりに小学生の頃にスペースシャトルが飛んでいる。そのスペースシャトルブームに、ドはまりしたのがおそらく原点だと思う。
小学校の卒業文集では、「スペースシャトルの耐熱タイルが作りたいから」という理由で、将来の夢の欄にセラミックメーカーへの就職と書いたぐらいである。
今思えば、そんな地味な貢献で良かったのか。

種子島移動事情

種子島は南北にひょろっと伸びた意外とデカい島である。
いま僕が着いたのが、島北部の西之表市。中部が空港のある中種子(なかたね)町、そして宇宙センターやロケットの射場がある南の南種子(みなみたね)町と3つに分かれている。
サツマイモのような形の種子島。細長い。そして意外と広い。
サツマイモのような形の種子島。細長い。そして意外と広い。
今回は2ヶ月前に取材が決まった時点で宿を探しまくったのだが、宇宙センターのある南種子の宿は完全に埋まっていた。

ロケット打ち上げ関係者だけで数百人が島に来ており、彼らだけで南種子の宿泊施設は完全に溢れてしまうのだという。
宇宙センターがあるのが、竹崎というところ。標識にもロケット!
宇宙センターがあるのが、竹崎というところ。標識にもロケット!
結局のところ僕は西之表港近くの民宿に予約が取れたのだが、じゃあ宿から宇宙センターまでどれぐらいの距離があるのか。簡単に行けるのか。
宿の人に確認したら「うーん、車で1時間半ぐらいです」とのこと。
え、マジで?そんなに広いの種子島?
バスは1日3便とかそれぐらい。バス停のマークはもちろんロケットと町キャラの「宙太」くん。
バスは1日3便とかそれぐらい。バス停のマークはもちろんロケットと町キャラの「宙太」くん。
西之表から南種子まで、およそ50km。途中の市街地以外は、やたらと高低差がありつつくねくねと曲がる山道と、急に開けた海沿いの道路が交互に来る感じ。途中には街灯も信号も数えるぐらいしか無い。
取材用に下調べするまでは、なんとなくレンタルサイクルで一周できるぐらいの島をイメージしていたのだが、無理だ。レンタカー無しでは移動もなにも出来なさそうだ。
(打ち上げが見られる展望公園までの路線バスもあるが、便数は少ない)
道路脇すぐがこんな海水浴場になってたりする。海が青くてリゾート感すごい。
道路脇すぐがこんな海水浴場になってたりする。海が青くてリゾート感すごい。
ちなみに島内のレンタカーも宿と同様にわりと争奪戦になるようだが、鹿児島で借りてフェリーで車ごと乗り込むという手もある。
ともあれ移動手段はあらかじめきっちり確保しておくのが最大のポイントになりそう。

種子島、ロケットばっかり

ということで西之表港から予約しておいたレンタカーに乗り込み、島内をぐるぐる回ってみよう。
明日(ロケット打ち上げ当日)スムーズに移動できるように、土地カンを少しでも養っておかねば。
ゴミ集積場がロケット。
ゴミ集積場がロケット。
島内の印象としては、当たり前なんだけど、もうどこへ行ってもロケット。基本的にロケット。なにか飾り付ける必要があったらとにかくロケットを描いておけ、みたいな。

もうちょい正確に表現すると、島内にあるデザインはロケットロケットロケットロケット、鉄砲、ロケットロケット、鉄砲、ロケット、安納芋、ロケットロケット、ぐらいの感じ。
安納芋は西之表市安納で作られた芋。だからといってベンチにする必要はあるのか。
安納芋は西之表市安納で作られた芋。だからといってベンチにする必要はあるのか。
フェリーターミナル屋根の裏面は種子島銃。観光客を撃つ気満々か。
フェリーターミナル屋根の裏面は種子島銃。観光客を撃つ気満々か。
南種子の小学校は校門前からロケット。ロケット英才教育である。
単に「ロケット打ち上げバンザイ」でなく「スタッフの皆さんがんばってください」と関係者をねぎらっているあたり、やはりロケットの地元だな、という印象。
この小学校はちょっと古いH-IIロケット2台でお出迎え。
この小学校はちょっと古いH-IIロケット2台でお出迎え。
別の小学校は、タイル絵ロケット。ここはH-IIAだ。
別の小学校は、タイル絵ロケット。ここはH-IIAだ。
とはいえ、もう本当にロケットばかりで、正直、ロケットを見つけるたびに車を止めて写真を撮っていたらキリがないぐらいだ。
温泉センターと宇宙センターの方向を教えてくれるロケット。
温泉センターと宇宙センターの方向を教えてくれるロケット。
橋の欄干がロケット。
橋の欄干がロケット。
別の橋もロケット。後ろのおかざき商店は限定で「宇宙ラーメン」を出すお店。
別の橋もロケット。後ろのおかざき商店は限定で「宇宙ラーメン」を出すお店。
これは墓石。not ロケット。
これは墓石。not ロケット。
あまりにもロケットばかりで、最終的に「あー、またロケットか」と思ってシャッター切ったら普通の墓石屋さんだった、みたいなこともあるぐらいだ。
数時間前までフェリーターミナルでロケット看板に癒されていたとは思えないぐらいの、ロケット飽和状態である。
早く、ちゃんと宇宙に行くロケットが見たい。
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2016年11月中旬、東京(X-556時間)

ここでちょっと時間を戻す。
そもそもなんでデイリーポータルでロケット打ち上げを見に行くことになったのか。

いまニフティは『宇宙ビジネスコート』というサイトのお手伝いをしており、その流れで「デイリーでもロケット行っとくか」となったらしい。ザックリした話だ。
で、誰か行きたい人いませんか、という編集部からの呼びかけに僕が「行きます行きます」と大騒ぎした結果、こうして取材としてロケット打ち上げが見られることになったというわけだ。

ついでに「事前に宇宙ビジネスコートの人に話を聞けるよ」ということなので、こちらもホイホイ行ってみたのだ。が、その話を聞ける相手というのがとんでもなかった。
実はとんでもなく偉い人だった高山さん。
実はとんでもなく偉い人だった高山さん。
お話を伺うのは、宇宙ビジネスコートを運営している一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構の、高山久信さん。
なんと、今回打ち上げる補給機『こうのとり』のプロジェクトをスタートさせた、そもそもの張本人なのだ。
「あの時は大変だったんだよ、いろいろ反対されてさ~」と高山さん。しれっと言うけどその反対した相手ってあのNASAだ。
「あの時は大変だったんだよ、いろいろ反対されてさ~」と高山さん。しれっと言うけどその反対した相手ってあのNASAだ。
『こうのとり』は6tもの補給物資を積んで高度400kmまで打ち上げられ、自動操縦で宇宙ステーション(ISS)まで近付いて、これまた自動でISSにドッキングするという高度なもの。人工衛星でもロケットでもない、いわばロボット宇宙船である。
だから開発当初は「日本がそんなすごい補給機を作れるワケがない、ISSにぶつかったらどうすんだ。やめろやめろ」とNASAが難色を示していたのだ。
それまで日本は大した宇宙開発の実績が無かったので、まぁそれはごもっともな話である。

それに対して「いけるって。マジで。絶対いけるから」と何度も交渉を重ねてNASAからGOサインをもぎとるのに関わっていたのが、誰あろうこの高山さんだと言うのだ。
あくまでも僕の推測だが、たぶん高山さん、NASAの体育用具置き場裏かどこかで、あちらの偉い人と何度か殴り合いのタイマンをしてると思う。
昔からの宇宙好きをアピールしようと持参した、NASDA(現JAXA:宇宙航空研究開発機構の前身)時代のH-ⅡAロケットボールペン。高山さんには「あー、そういうのもあったね」で流された。
昔からの宇宙好きをアピールしようと持参した、NASDA(現JAXA:宇宙航空研究開発機構の前身)時代のH-ⅡAロケットボールペン。高山さんには「あー、そういうのもあったね」で流された。
で、『宇宙ビジネスコート』には、こういう高山さんみたいな宇宙に超絶詳しい宇宙おじさんが何人もいて、宇宙技術とか人工衛星からのデータとかをビジネスに使いたいと考えてる企業や起業希望者の相談にのってくれるのだという。

しかし今のところ、僕は宇宙技術や衛星からのデータでビジネスを始める気は無い。
興味あるのは、ただただ、来月に控えたロケット打ち上げをばっちり楽しむためのノウハウだけである。
宇宙おじさん、そんなカジュアルな相談にも乗ってもらえるだろうか。

ロケット打ち上げ、どこで見るか問題

まず何より事前に抑えておきたいのは、ロケット打ち上げを見られるベストな場所だ。
打ち上げ当日はロケット射場から半径3km以内は立ち入り禁止になる。逆に言うと、3km以上離れていて、山などに視線をふさがれずロケットが見えるのがビューポイント、ということになる。

何カ所かポイントはあるけど、メジャーなのはこの辺りかな、とまず高山さんが挙げてくれたのが『宇宙ヶ丘公園』。
名前からして宇宙ヶ丘っていうのが最高だな。
打ち上げ当日に宇宙ヶ丘公園を下見。天皇陛下(当時は皇太子)がロケット打ち上げを見学された折りに詠まれた歌碑もある。
打ち上げ当日に宇宙ヶ丘公園を下見。天皇陛下(当時は皇太子)がロケット打ち上げを見学された折りに詠まれた歌碑もある。
[宇宙ヶ丘公園]
住所:鹿児島県熊毛郡南種子町中之下1937-3
宇宙ヶ丘公園はロケット射場から直線距離で約7km。山という程じゃないけど、でも車が無いと登ってくるのしんどいなーというレベルの高台(海抜179m)にある公園だ。
これだけの高さがあれば、打ち上げ準備中のロケットまできれいに視線が通る。
打ち上げ当日の光景。ロケット見えてる!ただし根本は山に隠れているので、メインエンジンが点火する様子は見られない。
打ち上げ当日の光景。ロケット見えてる!ただし根本は山に隠れているので、メインエンジンが点火する様子は見られない。
打ち上げ後のロケットをレーダーで追跡する施設も宇宙ヶ丘にある。パラボラかっこいい。
打ち上げ後のロケットをレーダーで追跡する施設も宇宙ヶ丘にある。パラボラかっこいい。
この宇宙ヶ丘公園はキャンプ場も併設してあり、12月だというのにここにテントを張って打ち上げを待つ人もわりといた。
キャンプ場にはバイクツーリングの人や家族連れ、外国人の方などいろいろな人が野営中。
キャンプ場にはバイクツーリングの人や家族連れ、外国人の方などいろいろな人が野営中。
宇宙ヶ丘公園は遊具まで宇宙テイスト。UFOみたいでかっこいい。
宇宙ヶ丘公園は遊具まで宇宙テイスト。UFOみたいでかっこいい。
少し距離は離れているけど、ロケットがほぼ真正面に見えることから、種子島を代表するビューポイントとなっているそうだ。
[長谷展望公園]
住所:鹿児島県熊毛郡 南種子町新長谷
もう一ヶ所、メジャーなビューポイントが長谷展望公園。
ロケット射場からの距離が6.5kmぐらいということで、宇宙ヶ丘よりちょっと近い。

この公園はなだらかな下り坂の芝生がずっと続く、気持ちのいい広場だ。で、下り坂の先からロケット射場が見えるというロケーションとなっている。
下り坂ゆえにどこでもロケットの打ち上げが見えるという、専用劇場みたいな作りの広場である。
長谷展望公園にも来ました。打ち上げ12時間前からすでに待機中の人たちが。
長谷展望公園にも来ました。打ち上げ12時間前からすでに待機中の人たちが。
スキッと視線が抜けて、爽快感がすごい。フェス会場か。
スキッと視線が抜けて、爽快感がすごい。フェス会場か。
劇場というのも大げさな話ではなく、場合によっては2千人ぐらいがここに集まって打ち上げを見物するとのこと。そんなの、ちょっとしたフェスだろう。
広場内ではカウントダウンの中継も行われており、打ち上げ時の盛り上がりは相当なものらしい。
ここでも待機中のロケットが見える。フェス会場からヘッドライナーの楽屋がペロッと全部見えてんぞ、みたいな話だ。
ここでも待機中のロケットが見える。フェス会場からヘッドライナーの楽屋がペロッと全部見えてんぞ、みたいな話だ。
宇宙ヶ丘に比べるとちょっとロケットに対してはすになっているので、場所によってはVAB(左の四角い建物。ロケットの組立棟)とロケットが重なって隠れてしまうこともあるのが難点といえる。

ただ、ロケットの根本まで視線が通っているので、場所さえ選べば、宇宙ヶ丘では見られないメインエンジン点火の瞬間も見えるという。これは得点高いぞ。
屋台も出る。やっぱりフェスだ。
屋台も出る。やっぱりフェスだ。
公園内の遊具はロケットと人工衛星とすべり台。フェスかどうか判断しかねるが、でもたぶんフェス。
公園内の遊具はロケットと人工衛星とすべり台。フェスかどうか判断しかねるが、でもたぶんフェス。
収容人数なりに駐車場も広く、打ち上げを見るための条件はかなり良い。
個人的には長谷展望公園を見物会場の第一候補としておきたい。
[前之峯陸上競技場]
住所:鹿児島県熊毛郡南種子町中之上
もう一点、南種子町営のグランドもビューポイントとなっている。
ここは主に南種子の町民が集まって打ち上げを見るという、地元特化型の会場らしい。
長谷公園と比べると、だいぶのどかな陸上競技場。ここはフェスじゃない。
長谷公園と比べると、だいぶのどかな陸上競技場。ここはフェスじゃない。
それもそのはずで、このグランドは南種子町役場からも歩いて行けるほどの、町の中心地にあたるビューポイントなのだ。
おかげで交通の便などは前の2つに比べるとかなり良い。
グランドの向こう側で、木々が開けた辺りがポイントらしい。
グランドの向こう側で、木々が開けた辺りがポイントらしい。
ロケット、方角的には赤い丸の方向にあるはずなんだけど。たぶん。
ロケット、方角的には赤い丸の方向にあるはずなんだけど。たぶん。
しかし残念ながら、待機中のロケットは山に隠れてしまっている。
おかげでリフトオフの瞬間どころか、打ち上がったロケットが山からヒューッと飛び出してくるのがようやく見えるぐらい…とのこと。
何度も見て打ち上げに慣れた町民ならそれでもいいかもしれないが、我々のような観光客には、かなり物足りない。

ただ、市街地ということで、買い物がしやすいという利点がある。
これは意外と重要だ。
「天空のパラダイス」という名の地元コンビニ(兼、宇宙資料館)
「天空のパラダイス」という名の地元コンビニ(兼、宇宙資料館)
宇宙グッズもいっぱい売ってるので、お土産もここで揃う。
宇宙グッズもいっぱい売ってるので、お土産もここで揃う。
近所には、島内に2つあるファミリーマートのうち1店があり、さらには地元コンビニ(アイマート)と宇宙資料館が一体化した『天空のパラダイス』というお店もある。
ここらでビールやつまみを大量に買い込んで、グランドでピクニックシート広げて“ロケット見の宴会”というのはかなり楽しそうだ。
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さらにロケット見学の穴場

とは言え、ここまでは「種子島 打ち上げ」で検索したら探せるレベルの情報である。
何度も打ち上げを体験している宇宙おじさんならではの穴場情報って、教えてもらえないものか。

「長谷展望公園のわりと近くに病院があってね」

…病院?
高台にある病院なので、確かに屋上からは視線が通ってそう。
高台にある病院なので、確かに屋上からは視線が通ってそう。
展望公園から車で数分のところにある、公立種子島病院。ここの屋上がいい感じで見晴らしも良く、しかも混まない。悠々と絶景の打ち上げが見られるというのだ。

「もちろん病院の中だから勝手には入れないけど。打ち上げが見たかったら入院するしかないね」

さすがに打ち上げのためだけに骨折とかするわけにもいかない。ここは諦めよう。
「屋久島の、この辺からがいいんだよ」「屋久島!見えますか!」
「屋久島の、この辺からがいいんだよ」「屋久島!見えますか!」
もうちょい敷居が低い絶景の穴場って無いもんですか。

「個人的には、屋久島がオススメなんだよ」

屋久島と言えば、もちろん世界遺産にもなっているあの屋久島である。
で、この屋久島が実は海峡をはさんで種子島のすぐ隣。島の東端からロケットの射場まで約27kmとかなり近い。(同じ島内の西之表は屋久島の倍ほど遠い)

屋久島から打ち上げを見るメリットはいくつかある。
まず、ロケットというのは基本的に、地球の自転速度まで有効に利用するため、直上ではなく東向きの斜め上へ打ち上げる。
高山さんオススメのビュースポット。さて、どこで見よう。(病院除く)
高山さんオススメのビュースポット。さて、どこで見よう。(病院除く)
島内のスポットからでは射場に近すぎて真上に見上げるしかないのだが、少し離れた屋久島だと、斜め上に向かってどんどん飛んでいくロケットがずっと視界に入る。つまり、島内より長時間の打ち上げが楽しめるのだ。(3分ぐらいは見えてるらしい)
小さくはなってしまうが、ちゃんと音も聞こえるらしい。

もう一つ、屋久島の東の浜辺にはいくつも高級めなホテルが建っている。
そのホテルの部屋のベランダで、バスローブ着てブランデーグラスをカランと言わせながら的な、ラグジュアリー打ち上げ見物ができるというのだ。

うーん、その優雅な感じも捨てがたい。どうする。

ビューポイント、決定

…と迷っていたのだが、実はこの直後から色々な調整とか色々な申請とかが行われた結果、僕はここでロケット打ち上げを見られることになっていたのだ。
種子島宇宙センター!
種子島宇宙センター!
今回は高山さんと宇宙ビジネスコートチームも打ち上げ取材をされるとのことで、そこに混ぜてもらえるように、JAXA側に申請をしていただいたのだ。

その結果、テレビや新聞などの報道が使う専用の、射場に最も近い(約3.7km。規制範囲ギリギリ)宇宙センター内の竹崎観望台に入れてもらえることになったのだ。
宇宙センター内、N-Iロケット前で会心のガッツポーズ。
宇宙センター内、N-Iロケット前で会心のガッツポーズ。
「みんなもロケット打ち上げ見に行こうよ」みたいなノリで記事を進めてきたのに、ここに至って大きく裏切ってしまった。
前ページまでしれっと「ビューポイントどこにしようかな」みたいに島内を回っていたのだが、あの時点ではもう竹崎観望台で見ることが決まっていたのだ。
こんな満面の笑顔で言うのもアレだが、申し訳無い。でも見たかったんだからしょうがない。

ともかく、この年末に来て今年最大最高のラッキー到来である。あとは帳尻合わせで大晦日まで毎日犬のうんこ踏んだとしても、さして問題は無い。
センター内の植栽絵は、立体的に刈り込まれたロケット。植栽好きのライター伊藤さんに見せたい。
センター内の植栽絵は、立体的に刈り込まれたロケット。植栽好きのライター伊藤さんに見せたい。
ともあれ、この種子島宇宙センターはロケット打ち上げの約10時間前から入構制限を行う。そのため、事前に入構証やら腕章やらを受け取っておかないと、完全にシャットアウトされてしまうのだ。
ここが竹崎観望台!建物内にプレスセンターと、屋上にひな壇みたいな観望席がある。
ここが竹崎観望台!建物内にプレスセンターと、屋上にひな壇みたいな観望席がある。
報道の腕章と入構証ゲット。我ながら恐ろしいほどのドヤ顔だ。
報道の腕章と入構証ゲット。我ながら恐ろしいほどのドヤ顔だ。
ということで、あとは明日を待つばかりである。
今夜は眠れるだろうか。

射点移動開始(X-17時間)

竹崎から西之表の宿にとって帰して早々に布団に潜り込んだのだが、ちょっとウトウトしたかなー、ぐらいでアラームが鳴った。
なんせ今日は朝3時30分には西之表の宿を出て、まだ暗い中を宇宙センターまで移動せねばならなかったのだ。元から、寝てる時間がそんなに無かった。
左の四角いVABから今回打ち上がるH-IIBが出てきます。もうすぐです。
左の四角いVABから今回打ち上がるH-IIBが出てきます。もうすぐです。
だって、報道向けに、ロケットを格納してあるVABから射点(打ち上げるところ)まで移動させる「射点移動」も見せてくれるっていうから。
本来ならロケットから3km半径まで移動制限がかかってるところを、この射点移動の時だけ、1kmぐらいのところまで近寄って見ていいことになっているのだ。

竹崎観望台に朝5時集合した報道陣は、マイクロバス3台に分乗ののち20分ほどかけて展望台へ移動する。
今日の日の出は7時2分の予定。まだまだ暗い。

カメラを三脚にセットしてじりじり待っていると、不意に動きがあった。
うおおおお、出たー!出たぞー!!
うおおおお、出たー!出たぞー!!
ポーン…ポーン…という警戒音と共に、VABの中から細長いのがじわーっとゆっくり出てきた。あれが、今夜打ち上げられるH-IIBロケット6号機(H-IIBはこうのとり打ち上げ専用なので、こうのとり6号機を積んでる=H-IIBも6号機)である。
そもそもVABが巨大建造物なので、対比させてもロケットの大きさがピンとこない。
そもそもVABが巨大建造物なので、対比させてもロケットの大きさがピンとこない。
足元を撮ると、大きさがわかった。左下の青い小さいのが人間で、併走してるのがかなり大型のトラック。
足元を撮ると、大きさがわかった。左下の青い小さいのが人間で、併走してるのがかなり大型のトラック。
ちなみにロケットを乗せて動いているのが、ドーリーというロケット運搬車。56輪タイヤの巨大トレーラーで、それを横に2台併走させた上に移動発射台を乗せ、さらにその上にロケットを乗せて運搬している。
射点まで移動する間、徐々に朝焼けを迎えるロケット。
射点まで移動する間、徐々に朝焼けを迎えるロケット。
ちなみにH-IIBロケット自体の大きさは全長56.6mで、直径が一番太いところで5.6m。超ヒョロ長いのだ。
このヒョロいのを立てたままで揺らさないように運ぶため、移動は超じんわり。
VABから射点までの約500mを時速2km以下でじわじわ20分ほどかけて運ぶのだ。
射点移動時のベストショット。かっこよすぎるぜH-IIB。
射点移動時のベストショット。かっこよすぎるぜH-IIB。
じわじわ移動して、避雷針に囲まれた射点まで辿り着いたH-IIBは、このままここで固定されて打ち上げを待つことになる。
天候は夜まで安定しそうとのこと。あとは、カウントダウン開始までに何度か行われるGo/NoGo判断(責任者による執行決定)でNoGoが出ない限り、問題無く打ち上げは行われるということだ。
出るな、NoGo!
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打ち上げを待つ(X-900分)

夜明け前の射点移動を見た後は、再び竹崎観望台に戻って来て、今夜のために撮影場所をチェックしておく。
肉眼でも、だいたいこれぐらいはロケットが見えてる。
肉眼でも、だいたいこれぐらいはロケットが見えてる。
観望台にはデジタルのカウントタイマーが設置されている。
昼ぐらいに「カウントダウン開始」の指示が出て、このタイマーの数字がマイナス表記(マイナスからゼロへカウントされていく)になると、この一帯の緊張感がグッと高まるらしい。
ひな壇だけど、芸人はいない。
ひな壇だけど、芸人はいない。
報道陣はこのひな壇にカメラを設置するとのことで、あと半日もすると、ここにバズーカみたいなレンズ付けたカメラがずらっと並ぶことになるようだ。
改めて、ひな壇から待機中のロケットを撮影。緊張感高まる。
改めて、ひな壇から待機中のロケットを撮影。緊張感高まる。
とはいえ、まだ時間はある。
ロケット関係者が打ち上げ前に必ず訪れるという場所があるそうなので、ひとつそこも回ってみよう。

ロケット神社参拝(X-480分)

宇宙センターから車で5分ほどのところに、宝満神社という神社がある。
ここが、JAXAの人・ロケット作ってる三菱重工の人・ロケットに搭載されている衛星の関係者など、みんなが事前に打ち上げの成功を祈るためにお参りするという、通称ロケット神社なのだ。
なんというか、ありがたみのある雰囲気。
なんというか、ありがたみのある雰囲気。
話によるとこちらでは「玉依姫(たまよりひめ=神霊を宿す女性・巫女のこと)」をお祀りしているとのこと。
種子島に赤米(古代米の一種)を持ち込んで降臨した方という説明もあり、ありがたい田んぼの神様のようだ。

あれ、ロケット関係ないのか。
この雰囲気が大事なのかも。僕も成功を祈っておきました。
この雰囲気が大事なのかも。僕も成功を祈っておきました。
とはいえ、参道から拝殿までの静謐な雰囲気はとてもいい。落ち着く。
パワースポットとか御利益とかそういうのはさておき、神経をすり減らす打ち上げ作業の前に、こういう場所で心を穏やかにするのはそれなりに大事なことなのかもしれない。
島内のあちこちに立てられたのぼり。島全体で成功祈願してる。
島内のあちこちに立てられたのぼり。島全体で成功祈願してる。
…的なイイ感じにまとめてはみたが、正味のところ、こちとらもうワクワクしすぎてはち切れそうになっているのだ。落ち着くとか嘘だ。むしろ余計にテンション上がってるぐらいである。ヤバい。

このままだと神社の境内でスクワットとか始めてしまいそうだ。
そんなことで疲れてる場合でもないので、時間は早いけど竹崎観望台まで移動することにしよう。

打ち上げ直前(X-360分~-120秒)

宇宙センターのゲート前では、すでに厳重な入構制限が始まっていた。
ドラマとかで見たことはあるが、これ本当にガチのやつだ。
車を止められて、その場でチェックを受ける。
車を止められて、その場でチェックを受ける。
まず事前に登録しておいたレンタカーのナンバーを照合され、顔写真入りの入構証(これも事前に免許証の写しを送って登録したもの)と本人の顔をチェックされる。
僕は後部シートに撮影機材の入った大きなカバンを乗せていたのだが、警備員さんに「うしろ、他に誰も乗ってませんよね?」と確認までされてしまった。

今はもう何を見てもテンション上がる一方なので、厳重なチェックを受けたことでまた昂ぶってきた。
X-4時間前。向こうにぼんやりとライトアップされたロケットが見える。
X-4時間前。向こうにぼんやりとライトアップされたロケットが見える。
この辺りのタイミングでプレスルームにこもったのだが、そこからひどく記憶が薄い。
撮影機材のセッティングをした後は仕事でもしようかなとノートPCを開いてみたが、そわそわするばかりで何一つ進まなかった。
期待で本当に顔がテラテラしてる。顔の油分すごい。
期待で本当に顔がテラテラしてる。顔の油分すごい。
ただ、プレスルームと屋上のひな壇を意味もなく何度も往復したような気はする。
かなり急な外階段(エレベーター使用禁止)を使って屋上まで出たら、設置したカメラの望遠レンズを覗き込んで、ロケットを確認して「よし」って言って、また階段でプレスルームに戻って、みたいなのの繰り返しだ。

何回それを繰り返したかは憶えてないが、翌日にふくらはぎが軽く筋肉痛になっていたので、筋トレになるぐらいは上り下りしたんだろう。
これ見て「よし」って言ってた。なにが「よし」なのか、今となっては分からない。
これ見て「よし」って言ってた。なにが「よし」なのか、今となっては分からない。
そうこうしているうちに、打ち上げ8分前。アナウンスで「480……470……」と10秒ごとのカウントダウンがスタートした。
意味もなくその場で足踏みをしてしまう。

「180…打ち上げ3分前です。全システムの電源が外部から内部に切り替えられました…170…」
そのアナウンスに「すごいエヴァンゲリオンっぽいですね」みたいなコメントが周りから聞こえてくる。
確かにエヴァっぽい。いや、むしろあっちがこれを真似してるんだけども。

「120…19…18…17…」
打ち上げ2分前からは、いよいよ1秒ごとのカウントダウンに切り替わる。
待ったなし感、半端ない。こちらも足踏みが強まる。
あと、秒カウントを聞きながら足踏みすると、自分が1秒あたり何回足踏みしてるのか分かって便利だった。このとき僕は3歩/秒ペースで足踏みしてた。

打ち上げ(X-0)

「15…14…13…」
このあたりで、メインエンジン点火というアナウンスが入り、ロケットの下部にぽわっと明かりがともる。
うわっ、来た!来た!
うわっ、来た!来た!
「5…4…」
ぐらいで、明かりがクワーッと広がる。

「3…2…1…0…リフトオフ」
光の玉が太陽ほどになって、一瞬「えっ、なになに?どうなったの?」ぐらいに目の前が真っ白になる。
と同時ぐらいに、数秒前に点火されたメインエンジンの音がようやく耳に届いた。
これが「ドゥオオオォォォオオオォォォ…」という燃焼ガスの噴出音と、「バリバリバリバリバリバリ!!!」という、すぐ近くに雷が落ちたみたいな、音というよりは振動に近いのが混じって聞こえてくるのだ。
来た来た来た来たー!!!!!!!(焦りすぎて、カメラがずれた)
来た来た来た来たー!!!!!!!(焦りすぎて、カメラがずれた)
光と音に圧倒されて「うわーっ」と思っている間に、手で摘めそうなくらい密度の濃い煙(水蒸気)がロケットの周りに立ち上って、で、その煙を地上に残してロケット自体がググググーッと上昇する。
うわー
うわー
うわー
うわー
うわー
うわー
うわー
うわー
冒頭にも書いたとおり、目でロケットを追えたのはせいぜい1分といったところ。
うわーうわー言ってる間に、H-IIBロケットは小さくなって、ぽつんと見えなくなった。
(個体ブースター分離まではレンズ越しに見えたんだけど、撮影はできなかった)
10分後ぐらいに、プレスルームに降りてきて自撮りをしたので見て欲しい。びっくりするほど目がキラキラしてる。できれば最初のページの自撮り写真と見比べて欲しい。
10分後ぐらいに、プレスルームに降りてきて自撮りをしたので見て欲しい。びっくりするほど目がキラキラしてる。できれば最初のページの自撮り写真と見比べて欲しい。
ということで、今回の打ち上げ見物は終了である。
感想としては、バカっぽくて恐縮だが「うわー」と「すげー」と「最高」しかない。むしろこんなキラキラした目で冷静にコメントできてたら気持ち悪いだろう。

感想を忘れないようにその場でボイスメモを録っていたのだが、本当に「うわー」と「すげー」と「最高」しか言ってなかった。役には立ってない。
打ち上げは成功から一時間後ぐらいに宇宙飛行士の油井さんが記者会見していたけど、それ見ながらまだ脳内で「うわー」って言ってた。
打ち上げは成功から一時間後ぐらいに宇宙飛行士の油井さんが記者会見していたけど、それ見ながらまだ脳内で「うわー」って言ってた。
実は今回の打ち上げ直前に、同じくISSへの補給物資を積んだロシアの無人補給機が打ち上げ失敗している。そういう意味で今回の打ち上げ成功は非常に価値があったのだ。

…なんだけど、でもそういうのは全く知らなくてよくて、単に「すごいものが見たい」というだけでロケット打ち上げを見に行くの、いいと思う。
下手すると、ロケットって何をするモノなのか知らなくても、打ち上げを現地で体感したら「うわー、すげー」ってなるからだ。
みんな、見に行くといい。僕も多分また行く。

今回は取材と言うことで勿体ないぐらい良い場所を用意していただいたのだが、その代わりにカメラの撮影に気を遣ったりしたため、打ち上げを100%満喫しきれなかった部分もある。

できればカメラとか用意せず、ただただあの光と爆音に晒されて「うわー」って言い続けるだけだと、もっと楽しかったと思う。次はそうしよう。
打ち上げられたこうのとり6号機は、12月13日にISSにドッキング完了。めでたい。 (写真提供:JAXA/NASA )
打ち上げられたこうのとり6号機は、12月13日にISSにドッキング完了。めでたい。 (写真提供:JAXA/NASA )
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