地産地消に醍醐味
日本でよく食べられているけど、考えてみると日本の素材じゃないよな、というものは多々ある。その一つがチョコバナナだと思う。今は輸送技術も高くなり味も変わらないということは今回のことでよくわかったけれど、最前線という喜びがある。その喜びが味にプラスされるのだ。
チョコバナナというものがある。バナナをチョコでコーティングした、お祭りなどで売られているアレだ。甘いバナナに、甘いチョコという甘さだらけの一品。お祭りに行けばだいたい売られているので人気が高いと考えられる。
そんなチョコバナナを作ってみたいと思う。しかも、バナナの名産地に行きバナナを仕入れ、チョコの名産地に行きチョコを仕入れ作るのだ。地産地消でもあるし、究極のチョコバナナとも言えるのではないだろうか。
お祭りの屋台の定番「チョコバナナ」。昭和の後半頃に生まれた料理らしいので、その歴史は長い。30代の私は物心ついた頃にはすでにチョコバナナが縁日に並び、そして今もお祭りに出かければ、当たり前のように並んでいる。
チョコとバナナ、どちらもおなじみのものを組み合わせて生まれる美味しさ。単純だからこそ、その美味しさに感動がある気がする。日本のお祭りの定番だけれど、使われているチョコもバナナも海外のものだ、おそらく。
このチョコバナナを地産地消で作りたい。美味しいものをより美味しく食べる定番として産地に行くというのがある。つまりチョコバナナをより美味しく食べるには産地に行って作ればいいのだ。ということで、私は日本を飛び立った。
スーパーに行けば必ず「バナナ」は売られている。値段も様々で産地も様々。フィリピン産のものもあれば、台湾産のものもある。日本産のバナナはあまり見ない。日本でも作ってはいるのだけれど、あまり流通していない。
国別でバナナの生産量を見ると、インドが圧倒的な1位だ。ただ日本ではインド産のバナナは見かけない。それはインドのバナナは基本的には国内市場向けのため日本にはやってこないから。日本の輸入量ではフィリピンが1位で、2位がエクアドルだ。
エクアドルに来てみるとバナナ農園があちこちにあり、市場に行けば大量のバナナが売られている。さすがバナナ大国だ。一時期は日本のバナナの輸入量はエクアドルが1番だった。子供の頃、エクアドル産のバナナを食べて、美味しくて感動したので、今回、エクアドルを選んだのだ。
バナナの歴史は古い。食用の種無しバナナは紀元前8000年頃から紀元前5000年前の間に生まれている。原産地は東南アジアで、その後にいろいろな国に広がっていく。世界にはバナナプディングやバナナケーキなどバナナ料理も多い。
アダムとイヴがエデンで禁断の果実を食べた。この果物をリンゴと思っている人も多いと思うけれど、聖書にリンゴと書かれているわけではない。実はバナナだったという説もある。コーランではエデンにバナナが登場している。
エクアドルにはプラタノという調理用バナナと普通のバナナがある。プラタノは焼いたり、揚げたりする。市場で生で食べたいんです、と聞いて、じゃこれだ! と教えられたのを買った。大きい。日本で見るバナナより大きい。
バナナを手に入れたので、次はチョコだ。バナナだけではチョコバナナはできないし、チョコだけでもチョコバナナはできない。チョコを手に入れなければならない。実はチョコもエクアドルなのだ。エクアドルはチョコバナナの国と言っても過言ではない。
実はチョコバナナだけではなく、チョコとバナナはセットなのだ。チョコの元となるカカオは直射日光を苦手とする。その日光を遮るために植えられるのが「バナナ」なのだ。バナナはカカオより背が高く日光を遮るのに適していた。相思相愛なのだ。
カカオを生で見たことがなかったので知らなかったのだけれど、カカオは「幹生花」。幹に直接開花して実をつけるのだ。ちなみにカカオの原産地は中米あたり。紀元前1500年頃に生まれた。
アダムとイヴがエデンで食べた果物がバナナだった、という話を書いたけれど、カカオは出てこない。その理由としてはヨーロッパ方面にカカオが届いたのが16世紀頃。ヨーロッパ人でカカオに初めて出会ったのはコロンブスで4回目の航海でのことだった。
古くはチョコは飲み物という認識だった。チョコを食べるという認識になったのは1800年代後半のこと。割と最近のことだ。そんな固形となったチョコレートの板をエクアドルのお店で買った。エクアドル産ですか? と聞くとそうだよ、と言っていた。
エクアドルではこのようなチョコの板が普通に売っている。バナナのような葉で固めているのか、バナナの葉のようだ。値段も安い。薄いので折れやすいのは問題だけれど、これだけあれば、チョコバナナには十分。甘い匂いと共にキッチンへと向かった。
チョコバナナをエクアドルで作るためにキッチンのあるアパートを借りた。エクアドル産のバナナ、エクアドル産のチョコ、エクアドルのキチン。完璧なるチョコバナナを作る準備は整っている。
買ったチョコをかじってみると、お手本のような苦さだった。砂糖が入っていないのだ。純粋な100%チョコレート。このチョコを溶かして、バナナにまとわせるので、チョコを溶かすときに砂糖を追加することにした。その砂糖はどこ産なのかわからないけど、気にしないことにする。
部屋中に甘い匂いがしている。特別にチョコに詳しいわけではないので、匂いで「エクアドル産は違うな」みたいなことはないのだけれど、気持ち的に「エクアドル産は違うな」となっている。だってカカオ畑もみたし、現地で買ったのだから。
チョコバナナを作ること自体は難しい作業ではないし時間もかからない。ただ、日本からエクアドル、エクアドルでは市場を巡ったりしたので、数十時間がかかっている。私が日本を発った頃に生まれた仔馬は、もう草原を駆け巡っているのではないだろうか。
バナナが大きかったので、完成したチョコバナナは日本では見ない大きさになっていた。これが現地パワー。地産地消ということだ。よく旅番組とかでも、「大っきいぃー!」なんて感想が流れるけれど、まさにそれ。大っきいぃーのだ。昔から大きいことはいいことだと教えられてきたので、このチョコバナナも美味しいに違いない。大きいは正義だ。
500mlのペットボトルくらいの大きさがある。小さいと大きいなら大きいがいい。私は大きな葛篭と小さな葛篭ならば大きい葛篭を選ぶタイプだ。正直になろうではないか、誰もが大きい葛篭がいいに決まっているのだ。私は誰もが大きい葛篭を選べる世界を目指しています。
噛み切るのが大変。口の大きさに限界があるので。文字通り口いっぱいに頬張るので、多幸感がある。大きいのはいいなと思うのだ。味も美味しい。わざわざエクアドルに来てまで食べるほどの味ではないのだけれど、美味しい。ある意味、ここはチョコバナナの最前線。その幸せが味に勝るのだ。
日本でよく食べられているけど、考えてみると日本の素材じゃないよな、というものは多々ある。その一つがチョコバナナだと思う。今は輸送技術も高くなり味も変わらないということは今回のことでよくわかったけれど、最前線という喜びがある。その喜びが味にプラスされるのだ。
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