特集 2025年7月9日

チェコスロバキア時代のコーラ「コフォラ」を飲んでみた

去年、初めてスロバキアへ行く機会があった。

スロバキア名物って何だろうと調べていたら「コフォラ」という聞いたことのない飲み物が出てきた。

なんでも冷戦中にアメリカのコカコーラと張り合うためにチェコスロバキア政府が作らせたコーラだそうで、今でもチェコやスロバキアで愛され続けている飲み物らしい。

飲んでみたらコカコーラとは別物だったが、また飲んでみたくなる後引くうまさだった。

1986年東京生まれ。ベルリン在住のイラストレーター兼日英翻訳者。サウジアラビアに住んでいたことがある。好きなものは米と言語。

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夜行列車でスロバキアへ

去年の秋、友人の結婚式に出席するために初めてスロバキアに行くことになった。

スロバキアは、1918年から1992年の間はチェコスロバキアという共産主義国の一部で、冷戦の終結後の1993年に独立したばかりだ。

また、長年オーストリア・ハンガリー帝国の支配下だったこともあり、首都のブラチスラバはさまざまな歴史や文化の名残があるおもしろい街だ。

嬉しいことに、私の住むドイツ・ベルリンからブラチスラバまでは夜行列車が出ている。夜7時ごろに出発して朝6時に着く、11時間ほどの旅である。

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夜行列車では3段ベッドの個室があり、小さな子供連れには過ごしやすい空間だった。朝は早朝にも関わらずコーヒーとサンドイッチという簡単な朝食も出してくれて、なかなか快適な旅であった。

列車の廊下は狭く、ベビーカーがちょうど通れるぐらい
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個室の様子。3段ベッドと小さな洗面台がついて便利。ぎりぎりだったが折り畳みベビーベッドをおけるスペースもあった

そして予定通り、翌日の朝6時ごろにブラチスラバ中央駅に到着。ホテルのチェックインまで結構時間があるので観光でもしてようと思っていた。

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古い街並みが美しいブラチスラバの旧市街。ここをぶらぶら歩く予定だった

のだが、列車を降りてみるとあいにくの大雨。外を歩くのも大変な状態だったのだ。

えらいこっちゃ

なんと私たちの滞在中は運悪く大雨注意報が出ていた。かろうじて洪水には至らなかったものの、結構危なかったのである。 

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友人の結婚式場の目の前の水上ホテル。次の日には浮桟橋が渡れなくなっていた
大雨が止んだ後のドナウ川を見に行ったら、止水壁ぎりぎりまで水がきていた
えらいタイミングでブラチスラバに来てしまったもんだ

チェコスロバキア時代のコーラ「コフォラ」

仕方がないので、観光する代わりに毎日ショッピングセンターに通って時間を潰した。そのショッピングセンター内のスーパーで見つけたのが噂の「コフォラ」だ。

念願のコフォラ、あったぞ!
レジの近くにもコフォラの山。すぐ後ろにコカコーラがあるのが気になる

スーパーの至る所で山積みになって売られているコフォラ。その存在感から、コフォラの絶対的な人気がうかがえる。

旧市街のカフェのパラソルにも Kofola の文字
至るところで Kofola のロゴが目に飛び込んでくる

明らかにスロバキア人の生活に欠かせない飲み物だということは伝わってきたので、その歴史について少し調べてみた。

冷戦中に生まれた偽コーラ、コフォラ

遡るは1950年代、冷戦真っ只中のチェコスロバキア。第二次世界大戦後、アメリカ軍によって一時的に広まったコカコーラは冷戦中は手に入らなくなり、一般民にとって幻の存在となってしまった。

そんなチェコスロバキア民の西側のコカコーラに対する憧れを取り除くためにも、コーラに匹敵する国産のコーラを作るよう政府からプラハの薬用植物研究所におふれが出たそうだ。

それから2年間の試行錯誤の末にできたのが、14種類のハーブやオレンジピールをベースにしたシロップに、カフェインを配合したコフォラだった。

晴れて1960年にデビューしたコフォラは、材料のハーブやカフェイン不足で生産が間に合わなくなるほどの大ヒット商品だったそうで、コカコーラに代わるコーラを作る政府の作戦は大成功だったのだ。

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ドリンクメニューにも「コフォラ:スロバキアのコーラ」って書いてあった

共産国とコーラのこぼれ話 

私は幼少時代、1989年から1992年の間モスクワに住んだことがあった。ソ連時代はロシア人はコカコーラを手に入れることが難しく、外国人専用スーパーなどで買う以外あまり方法がなかったそう。

コラコーラが普通に出回り始めたのはペレストロイカ後の1991年頃。ちなみにモスクワにマクドナルド第一号ができたのは1990年。逆に現在はマクドナルドはロシアから撤退してしまってもう存在しないそう

チェコスロバキアと同じく、ソ連に住む人々も禁断の果実であるコカコーラに対する憧れがあったのだろう。それを身をもって実感した話を母から聞いたことがある。

1989年頃のある日、自宅のベランダに置いてあったはずのコカコーラがケースごと盗まれていたそうだ。

そりゃあそんな珍しいものを人の目に付くところに置いていたら盗まれても仕方がないだろう、と思うだろう。ただ、その肝心のベランダは建物の18階にあったのだ。

当時住んでいた21階建の建物。私たちのアパートは18階にあった

あのベランダからものを盗むには、上下のベランダから忍び入るか、上からUFOキャッチャーみたいに釣って取るしかないだろう。どちらにしても危険な行為で、想像しただけで鳥肌がたつ。

自分で飲むためだったのか売ってお金にしたかったのかは謎だが、命を危険にさらしてでも手に入れたいものなのか!と両親はショックを受けたそうだ。

コカコーラとはまた別物

ではそんなチェコスロバキア時代の想いが詰まったコフォラを、早速飲んでみよう。

初コフォラ。一体どんな飲み物なのか
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色はコカコーラっぽいのだが……

飲んですぐ、柑橘のさっぱりした味が口に広がる。そして追ってバニラっぽさも感じた。

本物のコカコーラはこんなに柑橘の味はしなかったような

なるほど、炭酸はコーラほどきつくなく、さっぱりとしたのどごしだ。確かにジャンルとしてはコーラ寄りだけど、コカコーラとはまたちょっと違う感じ。でもおいしいじゃないか。

飲みやすくて私は結構好きかも
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次は本家のコカコーラと飲み比べてみてみよう。

色は本当にほとんど同じだぞ

まずはお馴染みのコカコーラの方から飲んでみる。

あー、これこれ!飲み慣れたコーラの味だ

一口飲むと、強烈な炭酸と甘さのダブルパンチが襲ってくる。

久々に飲んだが、コカコーラってこんなにも炭酸がきついものだったのか!うまいけど涙がでそうだ。

あと甘くて歯のエナメルが溶けそうな感じがする

とにかく全ての要素が強い。さすがアメリカの飲み物だ。

次に、コフォラを飲んでみる。

お、これは明らかに別物だが……
優しい!

まず炭酸の強さが全く違う。コカコーラをつぐとシュワーッ!と泡立つのに比べて、コフォラはシュワリシュワリと穏やかな感じ。

コカコーラを飲むときのあのガツーン!というパンチがないので、ごくごくイケる飲みやすさがある。強い炭酸が苦手な人にはいいかもしれない。 

左がコフォラ、右がコカコーラ。コカコーラの方が気泡が大きいのが分かる

あとコカコーラと飲み比べて気付いたのは、コフォラの圧倒的なハーブの香りだ。

ちょっと漢方に通じるものもある気がするが、これがまたクセになりそうだ。またコカコーラよりカラメル感が少なく、レモンやオレンジの味がする。

悪く言えばちょっと気の抜けたコカコーラみたいだが、私は好きだよ

ざっとまとめると、コフォラはコカコーラより炭酸が弱く、全体的に優しく、口当たりが軽く、ハーブの香りが良い。

おおよその方向性は似ているけど、直接飲み比べるとかなりの別物であることが分かった。

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生でジョッキでも飲めるコフォラ

果たしてこのコフォラ、本当に今でも好んで飲まれているんだろうか。スロバキア出身の友人たちに聞いてみた。

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教えてもらってから飲んだ生コフォラ。ジョッキについでくれるのが嬉しい。あと生だからか、泡がきれいだ
300mlが1.50ユーロ(約250円)、500mlが2ユーロ(約330円)と値段も良心的
ジョッキの底に「1960 kofola original」と書いてあってかっこいい

バシカもルラも1980年代後半生まれなので、彼女たちが育った1990年代には既にコカコーラなど西側の商品が入ってくるようになっていた。ちょうどコフォラの人気が落ち始めていた時代だったにもかかわらず、コフォラは身近な存在だったそう。

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やっぱりちょっと別ステータスだったんだな、コフォラ。

世界のコーラをもっと飲みたい

今回偶然スロバキアに行ったことで出会うことができたコフォラ。

私が住むドイツでも旧東ドイツ時代のコーラがあるし、昔住んでいたサウジアラビアにはテトラパック入りの炭酸の入っていない謎のコーラもあった。

世の中には自分の知らないコーラがどれだけあるんだろう。コフォラに出会って、世界のコーラをもっといろいろ飲んでみたくなった。眠れなくなりそうだけど。

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関係ないけど、ブラチスラバの日本レストランのネーミングセンスが独特だった
編集部からのみどころを読む

編集部からのみどころ
いろいろ語りたいところがある記事です。
まず、コーラのような身近なものが、冷戦という大きな物語につながっているのがぞくぞくします。
そして、ほりべさんのイラストのかわいさ! お気に入りはほりべさんの自画像と「生コフォラは特別なんだから」のドヤ感です。
そして最後に「歯のエナメルが溶けそう」という表現。言われてみたら確かにそうかも。(林)

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