世界のコーラをもっと飲みたい
今回偶然スロバキアに行ったことで出会うことができたコフォラ。
私が住むドイツでも旧東ドイツ時代のコーラがあるし、昔住んでいたサウジアラビアにはテトラパック入りの炭酸の入っていない謎のコーラもあった。
世の中には自分の知らないコーラがどれだけあるんだろう。コフォラに出会って、世界のコーラをもっといろいろ飲んでみたくなった。眠れなくなりそうだけど。
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去年、初めてスロバキアへ行く機会があった。
スロバキア名物って何だろうと調べていたら「コフォラ」という聞いたことのない飲み物が出てきた。
なんでも冷戦中にアメリカのコカコーラと張り合うためにチェコスロバキア政府が作らせたコーラだそうで、今でもチェコやスロバキアで愛され続けている飲み物らしい。
飲んでみたらコカコーラとは別物だったが、また飲んでみたくなる後引くうまさだった。
去年の秋、友人の結婚式に出席するために初めてスロバキアに行くことになった。
スロバキアは、1918年から1992年の間はチェコスロバキアという共産主義国の一部で、冷戦の終結後の1993年に独立したばかりだ。
また、長年オーストリア・ハンガリー帝国の支配下だったこともあり、首都のブラチスラバはさまざまな歴史や文化の名残があるおもしろい街だ。
嬉しいことに、私の住むドイツ・ベルリンからブラチスラバまでは夜行列車が出ている。夜7時ごろに出発して朝6時に着く、11時間ほどの旅である。
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夜行列車では3段ベッドの個室があり、小さな子供連れには過ごしやすい空間だった。朝は早朝にも関わらずコーヒーとサンドイッチという簡単な朝食も出してくれて、なかなか快適な旅であった。
そして予定通り、翌日の朝6時ごろにブラチスラバ中央駅に到着。ホテルのチェックインまで結構時間があるので観光でもしてようと思っていた。
のだが、列車を降りてみるとあいにくの大雨。外を歩くのも大変な状態だったのだ。
なんと私たちの滞在中は運悪く大雨注意報が出ていた。かろうじて洪水には至らなかったものの、結構危なかったのである。
仕方がないので、観光する代わりに毎日ショッピングセンターに通って時間を潰した。そのショッピングセンター内のスーパーで見つけたのが噂の「コフォラ」だ。
スーパーの至る所で山積みになって売られているコフォラ。その存在感から、コフォラの絶対的な人気がうかがえる。
明らかにスロバキア人の生活に欠かせない飲み物だということは伝わってきたので、その歴史について少し調べてみた。
遡るは1950年代、冷戦真っ只中のチェコスロバキア。第二次世界大戦後、アメリカ軍によって一時的に広まったコカコーラは冷戦中は手に入らなくなり、一般民にとって幻の存在となってしまった。
そんなチェコスロバキア民の西側のコカコーラに対する憧れを取り除くためにも、コーラに匹敵する国産のコーラを作るよう政府からプラハの薬用植物研究所におふれが出たそうだ。
それから2年間の試行錯誤の末にできたのが、14種類のハーブやオレンジピールをベースにしたシロップに、カフェインを配合したコフォラだった。
晴れて1960年にデビューしたコフォラは、材料のハーブやカフェイン不足で生産が間に合わなくなるほどの大ヒット商品だったそうで、コカコーラに代わるコーラを作る政府の作戦は大成功だったのだ。
私は幼少時代、1989年から1992年の間モスクワに住んだことがあった。ソ連時代はロシア人はコカコーラを手に入れることが難しく、外国人専用スーパーなどで買う以外あまり方法がなかったそう。
チェコスロバキアと同じく、ソ連に住む人々も禁断の果実であるコカコーラに対する憧れがあったのだろう。それを身をもって実感した話を母から聞いたことがある。
1989年頃のある日、自宅のベランダに置いてあったはずのコカコーラがケースごと盗まれていたそうだ。
そりゃあそんな珍しいものを人の目に付くところに置いていたら盗まれても仕方がないだろう、と思うだろう。ただ、その肝心のベランダは建物の18階にあったのだ。
あのベランダからものを盗むには、上下のベランダから忍び入るか、上からUFOキャッチャーみたいに釣って取るしかないだろう。どちらにしても危険な行為で、想像しただけで鳥肌がたつ。
自分で飲むためだったのか売ってお金にしたかったのかは謎だが、命を危険にさらしてでも手に入れたいものなのか!と両親はショックを受けたそうだ。
ではそんなチェコスロバキア時代の想いが詰まったコフォラを、早速飲んでみよう。
飲んですぐ、柑橘のさっぱりした味が口に広がる。そして追ってバニラっぽさも感じた。
なるほど、炭酸はコーラほどきつくなく、さっぱりとしたのどごしだ。確かにジャンルとしてはコーラ寄りだけど、コカコーラとはまたちょっと違う感じ。でもおいしいじゃないか。
次は本家のコカコーラと飲み比べてみてみよう。
まずはお馴染みのコカコーラの方から飲んでみる。
一口飲むと、強烈な炭酸と甘さのダブルパンチが襲ってくる。
久々に飲んだが、コカコーラってこんなにも炭酸がきついものだったのか!うまいけど涙がでそうだ。
とにかく全ての要素が強い。さすがアメリカの飲み物だ。
次に、コフォラを飲んでみる。
まず炭酸の強さが全く違う。コカコーラをつぐとシュワーッ!と泡立つのに比べて、コフォラはシュワリシュワリと穏やかな感じ。
コカコーラを飲むときのあのガツーン!というパンチがないので、ごくごくイケる飲みやすさがある。強い炭酸が苦手な人にはいいかもしれない。
あとコカコーラと飲み比べて気付いたのは、コフォラの圧倒的なハーブの香りだ。
ちょっと漢方に通じるものもある気がするが、これがまたクセになりそうだ。またコカコーラよりカラメル感が少なく、レモンやオレンジの味がする。
ざっとまとめると、コフォラはコカコーラより炭酸が弱く、全体的に優しく、口当たりが軽く、ハーブの香りが良い。
おおよその方向性は似ているけど、直接飲み比べるとかなりの別物であることが分かった。
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果たしてこのコフォラ、本当に今でも好んで飲まれているんだろうか。スロバキア出身の友人たちに聞いてみた。
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バシカもルラも1980年代後半生まれなので、彼女たちが育った1990年代には既にコカコーラなど西側の商品が入ってくるようになっていた。ちょうどコフォラの人気が落ち始めていた時代だったにもかかわらず、コフォラは身近な存在だったそう。
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やっぱりちょっと別ステータスだったんだな、コフォラ。
今回偶然スロバキアに行ったことで出会うことができたコフォラ。
私が住むドイツでも旧東ドイツ時代のコーラがあるし、昔住んでいたサウジアラビアにはテトラパック入りの炭酸の入っていない謎のコーラもあった。
世の中には自分の知らないコーラがどれだけあるんだろう。コフォラに出会って、世界のコーラをもっといろいろ飲んでみたくなった。眠れなくなりそうだけど。
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