特集 2014年10月11日

中国の一日一往復しか電車の来ない駅

旅のスタートは雲南省の昆明駅…のはずだったが
旅のスタートは雲南省の昆明駅…のはずだったが
中国の西南の果て「雲南省」。ペンキ山のその後を見に行ったけれど、それだけではあまりにもったいない。そこで昆明から一駅、各駅列車に乗ってみようと考えた。

上海や北京では新幹線のような「和諧号」がこれでもかと走り、駅もかなり絞られてしまった。「誰が降りるんだろう」と思うような、小さな駅がなくなってしまい、各駅が市の中心駅といった状況となった。

でも雲南省は開発が後回しだからか、ローカル駅は残っていた。そのローカル駅を各駅に停車する列車は上下一本ずつとなってしまった。

北海道の内陸にも上下一本しか止まらない「上白滝駅」という一部で有名な駅があるが、大都会の中心駅の隣駅で上下一本しか止まらない駅とはどんな駅だろう。

やがてなくなってしまう前に、その利用実態を見ておこうというわけだ。
変なモノ好きで、比較文化にこだわる2人組(1号&2号)旅行ライターユニット。中国の面白可笑しいものばかりを集めて本にした「 中国の変-現代中国路上考現学 」(バジリコ刊)が発売中。

前の記事:7年経った中国のペンキ山は変わったのか

> 個人サイト 旅ライターユニット、ライスマウンテンのページ

バスに乗る

砂ぼこり飛び交うバスに乗っていた
砂ぼこり飛び交うバスに乗っていた
昆明駅は無差別殺人事件が起きていた関係で、今も厳重にセキュリティーチェックが行われていた。

厳重すぎて昆明駅の中に入るのに30分、有人窓口で切符を買うのに30分、その他にもどれだけ待たされるだろう。昆明駅から各駅停車に乗るのはものすごく効率が悪そうだ。

そこでバスに乗り、昆明駅の東側のひとつ隣の駅「金馬村」駅から昆明駅に向かうことにした。

隣駅へと向かう途中の道は街中と違って半未舗装。ガタガタとバスは揺れ、時々上下に大きくジャンプし、そのたびにバスは大きな音を立てて、砂ぼこりを巻き上げる。

そんな道だから、まさにこのときいつ終わるかわからぬ道路工事を行っていたのだが、車線が狭くなり、信号機もないから大渋滞で動かなくなる。ザッツ混沌アジア。

道中で「昆明東」駅を抜ける。昔は各駅停車が停車していたのだが、今は建物だけで各駅停車も止まらなくなってしまった。
11番バスで到着したのは、「金馬村」駅の最寄りのバス停「水庫」。貯水池バス停だ。
11番バスで到着したのは、「金馬村」駅の最寄りのバス停「水庫」。貯水池バス停だ。
昆明の東のバスターミナルからさらなる東の郊外へ向かう11番バスに乗り、途中の「水庫」バスで降りる。そこが近いと、スマホの中国産地図アプリが言っていたので、とりあえず行くしかない。

降りたのはぼく1人だけ。途中の大渋滞のせいで、列車の金馬村駅到着予定時刻を30分以上も過ぎてしまった。今回は下見だけでもいいや、と駅を探しはじめた。
前に進む。 「毎月500MBプレゼント」などと書いてあるペンキで塗ったプロバイダーの広告しかない。 その先には車が止まっている。
前に進む。 「毎月500MBプレゼント」などと書いてあるペンキで塗ったプロバイダーの広告しかない。 その先には車が止まっている。
さらに車が止まっている。パトカーもある。
さらに車が止まっている。パトカーもある。
たぶんもうそろそろ左側に駅が見えてくるはずだがおかしい。見つからない。止まっている車を横目に進みながら歩いていると、

ファーン!…遠くから列車がやってくる。

!!!

そうか、この車は下車した人々の迎えの車だったり、白タクだったりするのではないか!?

ひょっとして標識も何もないこの左側の黄色の建物が「金馬村」駅ではないのか?

気になって建物の入口に向かってダッシュすると…
駅だった!列車が止まっていた!
駅だった!列車が止まっていた!

30分以上の遅れという平常

各駅停車がやってきた!

朝5時57分、始発駅である貴州省六盤水駅を出発、金馬村駅まで411km、32駅の道のりを11時間以上かけて、30分以上遅れてやってきた。隣駅の昆明駅まではあと16km。

ちなみに日本最長と名高い北海道の根室本線を走る各駅停車の列車は308kmを約8時間かけて走破するのだとか。

1日1本だからといって、1両編成の気動車がやってくるというわけではなく、さすが中国、長い編成の列車がやってきた。
大陸鉄道各駅停車。何両編成だろう
大陸鉄道各駅停車。何両編成だろう
駅のホームに入って「金馬村」駅の標識にはじめて出会う
駅のホームに入って「金馬村」駅の標識にはじめて出会う
水色シャツの駅員がまったり見守る
水色シャツの駅員がまったり見守る
400km分の旅情が詰まった列車をただただ撮っていた。

しばらくして、次から次へと人がおりだし、ぼくが今さっき通った出入り口に向かって歩いていく。駅員は見守るだけで切符は回収しない。タダ乗りできるということで、終点のひとつ前の駅で降りる人が多いのだとか。
老若男女問わず、独り身から家族まで降りだす
老若男女問わず、独り身から家族まで降りだす
各車両にいる車掌が乗客の降車を見守る。切符はチェックも回収もしない
各車両にいる車掌が乗客の降車を見守る。切符はチェックも回収もしない
1日1本停車で、駅前に何もない駅とは思えないほど多くの人が降りていた
1日1本停車で、駅前に何もない駅とは思えないほど多くの人が降りていた

おいしいとこどり

「お前はさっきからずっと何を撮っているんだ?」と不意に切符をチェックしてない駅員から聞かれた。スパイか何かと思ってるのだろうか。

「いやぁ列車の旅が好きなんですよぉ」みたいなことを言って、返答を待たずに「乗りまーす」とばかりにぼくは列車に乗り込んだ。

400kmの旅のクタクタ感、ようやっと到着感を、「世界の車窓から」のようにわずか数分というダイジェストっぷりながら、五感で感じる帰路となった。
硬い席の指定席に空いていれば着席できる切符を購入。値段は1元(17円)!
硬い席の指定席に空いていれば着席できる切符を購入。値段は1元(17円)!
空席は結構目立っていた。1日1本ながら、金馬村駅の前には多くの人が座ってたのだろう
空席は結構目立っていた。1日1本ながら、金馬村駅の前には多くの人が座ってたのだろう
扉の前で立ちスマホ、椅子で座りスマホなどスマホは各駅停車でも持ってる人は結構いた
扉の前で立ちスマホ、椅子で座りスマホなどスマホは各駅停車でも持ってる人は結構いた
スマホもいいけど、談笑するおじいちゃんおばあちゃんも素敵
スマホもいいけど、談笑するおじいちゃんおばあちゃんも素敵
線路が複々線へ、さらに広がり、旅の終わりへ
線路が複々線へ、さらに広がり、旅の終わりへ
掃除のスタッフが床に散らばるひまわりの種などを掃除
掃除のスタッフが床に散らばるひまわりの種などを掃除
20分弱で昆明駅に到着!景色から人々まで満場一致のフィナーレ感にお腹いっぱい
20分弱で昆明駅に到着!景色から人々まで満場一致のフィナーレ感にお腹いっぱい
「遠足も家に帰るまでが遠足です」という言葉をかみしめてホテルに向かう。いい旅行だった。
「遠足も家に帰るまでが遠足です」という言葉をかみしめてホテルに向かう。いい旅行だった。

明るいブラックマーケットを見た

1日1往復の列車が止まる、大都市の中心駅の隣駅。しかも中国の端の雲南省。いろんな面白そうな条件が揃う駅に来てみれば、予想とは裏腹でそれだけに先入観が壊れてよかった。

駅前に商店も食堂1つもないのに多くの人が降りていき、多くの白タクが街に連れて行った。全ての人ではないだろうけど、キセル行為前提で、多くの乗客が動き、多くの白タクドライバーが動き、ブラックなマーケットが閑散駅でできあがっていた。

やはり中国人は商売上手である。この定期の各駅停車の列車がなくなり、駅がなくなってもタフに彼らは対策を考えるだろう。彼らがどう鉄道と付き合っていくのか。それも気になった。
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