記事1本にぜんぜん収まりきらなかった請島・与路島紀行は次回が与路島編となる。用心棒も石垣もあり、もちろんハブも
いたのだが、ここでは請島にも与路島にもパンダが1頭いたことを言っておきたい。
宿で夕食をいただきながら主人に旅の目的や経緯、職業その他を話すと、奇特なやつもいるものだという顔をしながらハブが良く通る「ハブ道」など、エンカウントできそうなポイントを教えてくれた。
山道のカーブとか、水源に続く林道の入口とか、ネットを隅々まで検索してもわからない具体的な情報をいただき、カエルの鳴き声がこだまする夜のフィールドへハブ散策へと出かけた。
集落を離れると山との間に農場跡地があり、道沿いにはソテツが群生している。
奄美ではソテツとハブはセットで語られることが多く、伝統工芸品の織物、大島紬の柄(龍郷柄)は月夜にソテツの葉に乗り移ろうとしたハブが図案のモチーフになったとも言われている。
実際ソテツは「ハブのよくいる場所」とされており、徳之島ではソテツに近寄らないほうがいいと言われたし、本にもソテツでおすましするハブの写真が載っていたりする。
ずんぐりした幹から放射状に茂っている針のような葉は隠れる場所も多く、様々な生き物が潜んでいるが、中でもヘビは映える。さすが織物の柄になるだけのことはある。
わいいミニヘビたちがソテツにからまっていたが残念ながらハブはいなかった。
これも島の人に聞いたのだが「ソテツの実を収穫する時に隠れてたアカマタが出てくることはあるけど、ハブが出てきたことはないなあ」とのことだった。つかめないやつである。
翌日は投宿した請阿室の反対側(西側)の池地集落を散策する。学校や郵便局、診療所など、パブリックな施設がこちらに集まっている。
集落の背後には請山最高峰(398m)の大山(ミヨチョン岳)がそびえている。この山には請島だけで生息が確認されているクワガタ「ウケジママルバネクワガタ」やこの島が名前の由来になっている希少なユリ「ウケユリ」が生息している。
これだけ希少となるとやはり乱獲、密猟のターゲットとなるため入山は規制されており、山に入るには事前に瀬戸内町に申請した上で、現地のガイドと一緒に登る必要がある。
ピクニックみたいな感じで行けるのだろうかと島に行く前に電話で聞いてみたら「いや獣道をがんがん登って途中ロープとかも使いますよ。イノシシとかマダニに気をつけながら」と思いの外ハードコアーだったので、どうしようかな、やめて海を見ながらサターアンダギーでも食べてよっかなと思ったが、これを体験せずに請島を離れるわけにはいかんのではないかと申し込んだ。
「山には結構慣れてるんだね」と歩きっぷりをさりげなく褒められ、
「ええ、サンショウウオ探しに渓流を登ったりもしてますから」と調子に乗った直後に木の根に引っかかって転倒し、頬を岩に打ち付けてスリ傷を作りながらも無事(じゃないけど)登頂。
季節的にマルバネとはいかなかったがウケユリを目にすることができた。縁起のよいことだ。これはハブもさっくり見られちゃうんじゃないかな。
夕方には小雨もパラついた。少し寒いが湿度は上がり、ハブの活動には絶好だ、ハブ ア ナイスデイと颯爽と出かけたところで痛そうなほどに激しい雨が振り出した。雨の勢いは収まらず、私は軒下で大声量で鳴くハロウェルアマガエルをじっと見ていた。
その翌日も、川沿いから山道まで、教えてもらった出現ポイントを歩いて3周回ったが残念ながらハブは見つからなかった。またも降り出した大粒の雨の中、ハロウェルアマガエルが恋をしていた。
散々歩き回ったがハブに会えない。しかし、たくさんの用心棒を見た。ハブがいるから棒がある、彼らは確かに存在している。バットマンとジョーカーのように共依存的な関係にあるこの棒を見ることはハブ見るのと同義ではないか、やったじゃん、共依存いっぱい見れたねーとわけのわからない理屈で自らを慰めていたが、翌日、宿の主人からすごいニュースが飛び込んできた。
「従兄弟の家でハブがいたみたいだから見せてもらうかい?」
同じ集落に住み、畜産をしている従兄弟の家にハブが潜んでいたらしい。早速駆けつけ、捕獲箱に入れる前にちょっと見せてもらった。
このハブは生きたまま役場に引き渡される。奄美大島ではハブを自治体で買い上げる制度があり、生きたハブを届けると1匹につき3000円の奨励金が支払われる(住民票のある市町村でのみ)。請島は瀬戸内町となるが、いちいち船で持っていかなくてはならないのか。
「箱ごと船に渡して、手数料を出して届けてもらうんだよ」
なるほど、いちいち船に乗って役所まで行くことを考えたら効率がいい。
もっとハブがたくさん出て、報奨金が多かった頃はこうした離島で捕獲されたハブを集約してマージンを取って役所に納める者もいたという。そんなハブのディストリビューションが存在したとは。
自分で見つけることはできなかったが、島の人の好意のおかげで「共依存だ」とかごまかさずにハブを見ることができた。ありがたい。
港でボラードを見つめていたら船が来た。次の目的地は与路島である。
記事1本にぜんぜん収まりきらなかった請島・与路島紀行は次回が与路島編となる。用心棒も石垣もあり、もちろんハブも
いたのだが、ここでは請島にも与路島にもパンダが1頭いたことを言っておきたい。
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