特集 2024年5月27日

奄美の秘境、請島へ!〜ハブのいる島めぐり

ソテツに映えるヘビ

宿で夕食をいただきながら主人に旅の目的や経緯、職業その他を話すと、奇特なやつもいるものだという顔をしながらハブが良く通る「ハブ道」など、エンカウントできそうなポイントを教えてくれた。

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投宿したのは請阿室の民宿「とやま」
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出かけるのをやめたくなるほどうまい夕食。

山道のカーブとか、水源に続く林道の入口とか、ネットを隅々まで検索してもわからない具体的な情報をいただき、カエルの鳴き声がこだまする夜のフィールドへハブ散策へと出かけた。

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集落を離れると山との間に農場跡地があり、道沿いにはソテツが群生している。

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ソテツたち。わかりやすく昼間の写真で。

奄美ではソテツとハブはセットで語られることが多く、伝統工芸品の織物、大島紬の柄(龍郷柄)は月夜にソテツの葉に乗り移ろうとしたハブが図案のモチーフになったとも言われている。

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大島紬(龍郷柄)のマスク。ハブの紋様とソテツの葉が図案化されている。

実際ソテツは「ハブのよくいる場所」とされており、徳之島ではソテツに近寄らないほうがいいと言われたし、本にもソテツでおすましするハブの写真が載っていたりする。

ずんぐりした幹から放射状に茂っている針のような葉は隠れる場所も多く、様々な生き物が潜んでいるが、中でもヘビは映える。さすが織物の柄になるだけのことはある。

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小さなアカマタが葉をつたう。なんか楽しそうだな。
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葉先で休むアマミアオヘビの幼蛇。手のひらサイズぐらいでかわいい。

わいいミニヘビたちがソテツにからまっていたが残念ながらハブはいなかった。
これも島の人に聞いたのだが「ソテツの実を収穫する時に隠れてたアカマタが出てくることはあるけど、ハブが出てきたことはないなあ」とのことだった。つかめないやつである。

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キノボリトカゲはキノボっていたのだが。
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手付かずの原生林で転ぶ

翌日は投宿した請阿室の反対側(西側)の池地集落を散策する。学校や郵便局、診療所など、パブリックな施設がこちらに集まっている。

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郵便局で飼われていた?ヤギ。手紙を食べたりしないのだろうか。

 集落の背後には請山最高峰(398m)の大山(ミヨチョン岳)がそびえている。この山には請島だけで生息が確認されているクワガタ「ウケジママルバネクワガタ」やこの島が名前の由来になっている希少なユリ「ウケユリ」が生息している。

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請島の宝。採集はもちろん厳禁。

これだけ希少となるとやはり乱獲、密猟のターゲットとなるため入山は規制されており、山に入るには事前に瀬戸内町に申請した上で、現地のガイドと一緒に登る必要がある。

ピクニックみたいな感じで行けるのだろうかと島に行く前に電話で聞いてみたら「いや獣道をがんがん登って途中ロープとかも使いますよ。イノシシとかマダニに気をつけながら」と思いの外ハードコアーだったので、どうしようかな、やめて海を見ながらサターアンダギーでも食べてよっかなと思ったが、これを体験せずに請島を離れるわけにはいかんのではないかと申し込んだ。

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地元の有志による団体「みのり会」の方に同行して道なき道を行く。

「山には結構慣れてるんだね」と歩きっぷりをさりげなく褒められ、

「ええ、サンショウウオ探しに渓流を登ったりもしてますから」と調子に乗った直後に木の根に引っかかって転倒し、頬を岩に打ち付けてスリ傷を作りながらも無事(じゃないけど)登頂。

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倒れて天地がぐりんとなった瞬間をGO-PROは捉えていた。
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あいにくの曇天で見晴らしは良くなかったが頂上の岩場からの眺めは足がすくむ臨場感。

季節的にマルバネとはいかなかったがウケユリを目にすることができた。縁起のよいことだ。これはハブもさっくり見られちゃうんじゃないかな。

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まだ花は咲いていなかったが。

夕方には小雨もパラついた。少し寒いが湿度は上がり、ハブの活動には絶好だ、ハブ ア ナイスデイと颯爽と出かけたところで痛そうなほどに激しい雨が振り出した。雨の勢いは収まらず、私は軒下で大声量で鳴くハロウェルアマガエルをじっと見ていた。

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研究者のハロウェルさんの名前を取った南西諸島のアマガエル。

最後に奇跡が

その翌日も、川沿いから山道まで、教えてもらった出現ポイントを歩いて3周回ったが残念ながらハブは見つからなかった。またも降り出した大粒の雨の中、ハロウェルアマガエルが恋をしていた。

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リア充め。

散々歩き回ったがハブに会えない。しかし、たくさんの用心棒を見た。ハブがいるから棒がある、彼らは確かに存在している。バットマンとジョーカーのように共依存的な関係にあるこの棒を見ることはハブ見るのと同義ではないか、やったじゃん、共依存いっぱい見れたねーとわけのわからない理屈で自らを慰めていたが、翌日、宿の主人からすごいニュースが飛び込んできた。

「従兄弟の家でハブがいたみたいだから見せてもらうかい?」

同じ集落に住み、畜産をしている従兄弟の家にハブが潜んでいたらしい。早速駆けつけ、捕獲箱に入れる前にちょっと見せてもらった。

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ついに見た(見せてもらった)請島のハブ。体長は1m弱といったところ。

このハブは生きたまま役場に引き渡される。奄美大島ではハブを自治体で買い上げる制度があり、生きたハブを届けると1匹につき3000円の奨励金が支払われる(住民票のある市町村でのみ)。請島は瀬戸内町となるが、いちいち船で持っていかなくてはならないのか。

「箱ごと船に渡して、手数料を出して届けてもらうんだよ」
なるほど、いちいち船に乗って役所まで行くことを考えたら効率がいい。

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苦手な日光の下、すぐに戦闘意欲を無くしてしまった。ちょっと不憫な気持ちになった。

もっとハブがたくさん出て、報奨金が多かった頃はこうした離島で捕獲されたハブを集約してマージンを取って役所に納める者もいたという。そんなハブのディストリビューションが存在したとは。

自分で見つけることはできなかったが、島の人の好意のおかげで「共依存だ」とかごまかさずにハブを見ることができた。ありがたい。

港でボラードを見つめていたら船が来た。次の目的地は与路島である。

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ありがとう、そして行ってきます。

 

記事1本にぜんぜん収まりきらなかった請島・与路島紀行は次回が与路島編となる。用心棒も石垣もあり、もちろんハブも
いたのだが、ここでは請島にも与路島にもパンダが1頭いたことを言っておきたい。

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請島では公民館に、与路島では公園にいます。

 

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