特集 2019年3月27日

30年前の友人の友人の「復活の呪文」でクリアする

友人が、30年前に遊んだドラクエ2の「復活の呪文」(後述)を覚えている。その話は一度聞かされて知っていたが、正確には「自分のものじゃない」という。え、じゃ、誰の?それ、本当に復活できんの??

結論から言うと、できた。

そして、予想外のオチがついた。

1984年大阪生まれ。2011~2019年までベトナムでダチョウに乗ったりドリアンを装備してました。今は沖永良部島という島にひきこもってます。(動画インタビュー

前の記事:ペッパーとお笑いコンビを組んで3年半

> 個人サイト AbebeTV おきのえらぶ島移住録 べとまる

まずは「復活の呪文」について軽く説明

私のような30代、から40代、なんなら50代の男性でも、説明せずとも分かるだろうけど、最近は自分もおっさんという自覚が芽生えてきたので改めて説明しよう。

国民的ゲームのドラクエの説明は省くとして、そのシリーズ初期作、80年代後期に発売された1と2にはセーブ機能が存在せず、代わりに52文字のひらがなの羅列がパスワードになっていた。それが「復活の呪文」だ。

DSC01598.jpg
この日のために準備したドラクエ2(Amazonで91円)
DSC01602.jpg
取扱説明書には復活の呪文についての記述が。
「きのうの続きができるぞっ!!」という煽り文句に当時のノリを感じる。

この52文字が1字でも間違えたらもう大変。

旅立ち直後だろうが、ラスボス直前だろうが、なんだろうが、冒険には二度と戻れず全ては元の木阿弥に。呪文のメモ取りは慎重に慎重を期す作業であり、ゲーム少年たちがもっとも集中力を発揮する瞬間だっただろう。

なお、3から冒険の書というセーブ機能が生まれ、その恐怖から解放されたかと思いきや、「冒険の書ごと消える」という現象はしばしばあったようだけど。不測の事態のはずなのに「消えました」というメッセージだけはシッカリと残すあたり、残酷な仕様だという声も多い。

DSC01618.jpg
そんな呪文をいまだに覚えているという、友人のポール(あだ名)。
由来はマッカートニーに似てるから。
いったん広告です

で、そもそも本当に復活できるの?

水嶋「(ファミコン諸々の)受取りありがとう」
ポール「おう」
水嶋「これでできんかったら笑えるな、笑えんか」
ポール「大丈夫、大丈夫、絶対合ってる自信ある」

いきなりお金の話で恐縮だけど、ドラクエ2は100円以下だが、ファミコンの互換機で4000円は使ってしまった。これで復活できなければ企画倒れで記事にもならないし、内輪の笑い話にするにもちょっと手痛い。それ以前に、互換機とドラクエの相性は悪いという口コミも。我ながら、そんな状況でよくやろうと思ったもんだ。

DSC01610.jpg
まずは無事起動!よかった~。
DSC01637.jpg
来ました来ました、復活の呪文の入力画面!

ポール「えーと、ぱとざはみべひのぞごるかがろずぴばそぱろ…
水嶋「改めて思うけど怖っ
ポール「埋めた、押す(唱える)で?」

DSC01775-4.jpg
バン!
DSC01656.jpg
バン!!
DSC01653.jpg
ババーン!!!

水嶋「お願いします」
ポール「おっしゃ」

DSC01680.jpg
デーン!
DSC01680_2.jpg
デデーン!!

水嶋「おーい!!」
ポール「なにー!!?」

shock.gif
30年信じていたものが崩れた瞬間

水嶋「…」
ポール「…」

DSC01682.jpg
思い出せ…思い出せ…

水嶋「まぁ、これはこれで…ブログにでも書くわ!」
ポール「あ!ちょっと待って…たぶんあれだ」

DSC01687.jpg
再チャレンジ…!!!
DSC01704.jpg
ぽん。あっ。

二人「うおーーー!!!」

DSC01694.jpg
13年来の付き合いで今最高の笑顔を見た
break.gif
ひと仕事終えた感

水嶋「さっきと何がどう違ったの」
ポール「るかががぐかがやってん
水嶋「え?」
ポール「『る』かがやと思ってたけど『ぐ』かがが正しかってん

chigai.jpg
あー

改めてよく覚えてるねと言ったところ、呪文は「3文字・3文字・4文字✕5行+2文字」なので、リズムもあるし、5つ分の電話番号を覚えている感じだという。なるほど。昔遊んだ友人の電話番号だったり、流行曲の歌詞にしたって確かに覚えている。そう考えると納得だ。

水嶋「そういえば俺も昔公文の豆本に載ってた数の単位ぜんぶ言えるわ、一十百千万億兆京垓杼穣溝澗正載…
ポール「なにそれ怖っ
水嶋「そうなるよな」

いったん広告です

「くりた」くんの代わりにラスボス・シドーを倒す

と、復活できたことで達成感に浸っていたけど、ゲームはたいていクリアするもんだ。勇者の名前は、くりた。

DSC01705.jpg
神父もまさか、勇者が30年越しで戻ってくるとは思うまい。

自分にとっては赤の他人であるくりたくんの名前を見た瞬間、思った以上に戸惑いを覚える。イタコの口寄せで他人がやってきたところで、「あ、どうも…」としか言えない気分(そんな経験は一度もない)。が、ポールにとっては友人だ。ラスボスのダンジョン直前のデータとのことなので、このまま代わりに世界を救ってもらう。

水嶋「そもそも、くりたくんってどういう友達?」
ポール「近所に住んでたひとつ上のお兄ちゃんやな。ゲームたくさん持ってて、よく家に遊びに行っててん」
水嶋「あーあるある、そういう友人とそういう場面」

DSC01729.jpg
込み入るから説明は省くけどドラクエ2むずかしすぎ。
DSC01733.jpg
結局行き詰まって再び復活することに。

以下、ドラクエ2をプレイしながら、ポールから聞かせてもらったくりたくんの思い出。フェイク入れてます。

・当時、「ゆうじくん」と名前で呼んでいた。
・同じマンションの307と302のすぐ近所、数秒で行ける距離。
・ゆうじくんがゲームを買ったら見に行くのが好きな過ごし方だった
・几帳面でゲームカセットをすべて箱に入れていて、そこから取り出してセットするのがある意味「儀式」。
・幼稚園から小6までの過ごし方はそんな感じだったが、(ポールが)中学で転校してから疎遠になった。
・関係ないけど、近所のボンボンがいじわるでバイキンマンみたいなヤツだった。
・関係ないけど、そいつの家に石投げたら親父が出てきて言ったセリフが「息子の方に投げろ!」。
DSC01739.jpg
大神官ハーゴンによってつくられた幻の街を見破り…
DSC01750.jpg
ステージは最終局面へ…

水嶋「なんでゆうじくんの復活の呪文覚えてたん?」
ポール「ドラクエ2ってむずかしくてさ」
水嶋「うん」
ポール「どうしてもロンダルキアへの洞窟はクリアできんで、ゆうじくんに『俺の使え』ってもらってん
水嶋「あぁ!そういうことやったんや…納得した」

DSC01757.jpg
ハーゴンを倒し…
DSC01776.jpg
ついに邪神シドーと対峙!

ポール「…で、FF5は1つのジョブに1つのアビリティなんやけど、すっぴんは2つアビリティ持てる訳よ」
水嶋「そうなんや」
ポール「結局すっぴんが一番強いっていう、フリーランスが強いという世相を、本質を示してると思うわ」
水嶋「ほうほう」
ポール「ものまね士は3つアビリティ持てるんやけど」
水嶋「ならそれが一番強いやん」
ポール「スペックが貧弱やから何させても弱いねん」
水嶋「へーー」
ポール「現実と同じで、いろいろ上辺だけ真似するやつは何にもできへんってことやな」
水嶋「なるほどね!ドラクエぜんぜん関係ないな!」

後半はふつうにゲーム談義(?)に沸いていた。

DSC01780-4.jpg
くりたくんが存分にレベルを上げてくれていたので、シドーは難なく倒せました。
DSC01824.jpg
30年越し、勇者くりた(ポール代行)は再び世界を平和に導いた…。

で、勇者くりた(ゆうじくん)は今何をしているかというと、10年ほど前に仕事でアメリカへ転勤。ある機器の生産管理をしているとか。場所も仕事も家庭も、お互いの環境は大きく違っているが、Instagramなどでもつながっていて、5年に一度は会っているとのこと。

DSC01829.jpg
クリア後、スマホをさわるポール。

水嶋「何してんの?」
ポール「インスタにドラクエ2したって投稿」

いったん広告です

クリアを見たゆうじくんから予想外の反応が!

その夜、ポールふくむ友人たちとの酒の席でのこと…。ポール「あ!」
水嶋「どしたん?」
ポール「インスタに投稿した言うたやん」
水嶋「うん」
ポール「ゆうじくんからコメントついててさ」
水嶋「おぉ!」
ポール「それがこれ…」

IMG_20190209_204537.jpg
おおおおおおお!!
insta_2.jpg
ゆうじくんも復活の呪文、覚えてたー!!

どちらも復活の呪文を覚えていた!!「分かるだろ」と言わんばかりのシンプルなコメントに、二人の関係性がうっすらと透けて見えるようだ。 でも、ゆうじくん、いや真の勇者、「のざべど」じゃなくて「のざべと」!これをきっかけにアメリカでも世界を救ってください。


復活の呪文でつながっている

ドラクエ2のプレイ画面を眺めていたとき、自分にもそんなお兄ちゃん的友人だったり、ゲームをたくさん持っている友人がいたなーと思い出していた。彼らに限らず当時よく遊んでいた友人たちはスッカリ疎遠になっており、住む場所が違えば「地元が同じ」程度の共通項なんてそんなもんだろうと、どこか淡白に考えている自分がいる。歩けば歩くほど、大人の道はバラバラになる。

それは勝手ながら、ポールとゆうじくんについても同じだと思うんだけど、お互いに30年前の復活の呪文を覚えていた。二人とも1字間違えたのも奇跡。それはそのまま、二人にとって思い出を復活させる呪文なんだろうなーとかなんとか。それってなんかいいな、と思った。

ugoki400.jpg
ちなみにこのエピソード、2016年9月に企画した「身体が覚えてる動きや言葉を教えて!」が初出でした。くりたくんのこと、聞かされてたんだな(忘れてた)。
▽デイリーポータルZトップへ

banner.jpg

 

デイリーポータルZのTwitterをフォローすると、あなたのタイムラインに「役には立たないけどなんかいい情報」がとどきます!

→→→  ←←←

 

デイリーポータルZは、Amazonアソシエイト・プログラムに参加しています。

デイリーポータルZを

 

バックナンバー

バックナンバー

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ