まずは「復活の呪文」について軽く説明
私のような30代、から40代、なんなら50代の男性でも、説明せずとも分かるだろうけど、最近は自分もおっさんという自覚が芽生えてきたので改めて説明しよう。
国民的ゲームのドラクエの説明は省くとして、そのシリーズ初期作、80年代後期に発売された1と2にはセーブ機能が存在せず、代わりに52文字のひらがなの羅列がパスワードになっていた。それが「復活の呪文」だ。
この52文字が1字でも間違えたらもう大変。
旅立ち直後だろうが、ラスボス直前だろうが、なんだろうが、冒険には二度と戻れず全ては元の木阿弥に。呪文のメモ取りは慎重に慎重を期す作業であり、ゲーム少年たちがもっとも集中力を発揮する瞬間だっただろう。
なお、3から冒険の書というセーブ機能が生まれ、その恐怖から解放されたかと思いきや、「冒険の書ごと消える」という現象はしばしばあったようだけど。不測の事態のはずなのに「消えました」というメッセージだけはシッカリと残すあたり、残酷な仕様だという声も多い。
で、そもそも本当に復活できるの?
水嶋「(ファミコン諸々の)受取りありがとう」
ポール「おう」
水嶋「これでできんかったら笑えるな、笑えんか」
ポール「大丈夫、大丈夫、絶対合ってる自信ある」
いきなりお金の話で恐縮だけど、ドラクエ2は100円以下だが、ファミコンの互換機で4000円は使ってしまった。これで復活できなければ企画倒れで記事にもならないし、内輪の笑い話にするにもちょっと手痛い。それ以前に、互換機とドラクエの相性は悪いという口コミも。我ながら、そんな状況でよくやろうと思ったもんだ。
ポール「えーと、ぱとざはみべひのぞごるかがろずぴばそぱろ…」
水嶋「改めて思うけど怖っ」
ポール「埋めた、押す(唱える)で?」
水嶋「お願いします」
ポール「おっしゃ」
水嶋「おーい!!」
ポール「なにー!!?」
水嶋「…」
ポール「…」
水嶋「まぁ、これはこれで…ブログにでも書くわ!」
ポール「あ!ちょっと待って…たぶんあれだ」
二人「うおーーー!!!」
水嶋「さっきと何がどう違ったの」
ポール「るかががぐかがやってん」
水嶋「え?」
ポール「『る』かがやと思ってたけど『ぐ』かがが正しかってん」
改めてよく覚えてるねと言ったところ、呪文は「3文字・3文字・4文字✕5行+2文字」なので、リズムもあるし、5つ分の電話番号を覚えている感じだという。なるほど。昔遊んだ友人の電話番号だったり、流行曲の歌詞にしたって確かに覚えている。そう考えると納得だ。
水嶋「そういえば俺も昔公文の豆本に載ってた数の単位ぜんぶ言えるわ、一十百千万億兆京垓杼穣溝澗正載…」
ポール「なにそれ怖っ」
水嶋「そうなるよな」
「くりた」くんの代わりにラスボス・シドーを倒す
と、復活できたことで達成感に浸っていたけど、ゲームはたいていクリアするもんだ。勇者の名前は、くりた。
自分にとっては赤の他人であるくりたくんの名前を見た瞬間、思った以上に戸惑いを覚える。イタコの口寄せで他人がやってきたところで、「あ、どうも…」としか言えない気分(そんな経験は一度もない)。が、ポールにとっては友人だ。ラスボスのダンジョン直前のデータとのことなので、このまま代わりに世界を救ってもらう。
水嶋「そもそも、くりたくんってどういう友達?」
ポール「近所に住んでたひとつ上のお兄ちゃんやな。ゲームたくさん持ってて、よく家に遊びに行っててん」
水嶋「あーあるある、そういう友人とそういう場面」
以下、ドラクエ2をプレイしながら、ポールから聞かせてもらったくりたくんの思い出。フェイク入れてます。
・当時、「ゆうじくん」と名前で呼んでいた。
・同じマンションの307と302のすぐ近所、数秒で行ける距離。
・ゆうじくんがゲームを買ったら見に行くのが好きな過ごし方だった
・几帳面でゲームカセットをすべて箱に入れていて、そこから取り出してセットするのがある意味「儀式」。
・幼稚園から小6までの過ごし方はそんな感じだったが、(ポールが)中学で転校してから疎遠になった。
・関係ないけど、近所のボンボンがいじわるでバイキンマンみたいなヤツだった。
・関係ないけど、そいつの家に石投げたら親父が出てきて言ったセリフが「息子の方に投げろ!」。
水嶋「なんでゆうじくんの復活の呪文覚えてたん?」
ポール「ドラクエ2ってむずかしくてさ」
水嶋「うん」
ポール「どうしてもロンダルキアへの洞窟はクリアできんで、ゆうじくんに『俺の使え』ってもらってん」
水嶋「あぁ!そういうことやったんや…納得した」
ポール「…で、FF5は1つのジョブに1つのアビリティなんやけど、すっぴんは2つアビリティ持てる訳よ」
水嶋「そうなんや」
ポール「結局すっぴんが一番強いっていう、フリーランスが強いという世相を、本質を示してると思うわ」
水嶋「ほうほう」
ポール「ものまね士は3つアビリティ持てるんやけど」
水嶋「ならそれが一番強いやん」
ポール「スペックが貧弱やから何させても弱いねん」
水嶋「へーー」
ポール「現実と同じで、いろいろ上辺だけ真似するやつは何にもできへんってことやな」
水嶋「なるほどね!ドラクエぜんぜん関係ないな!」
後半はふつうにゲーム談義(?)に沸いていた。
で、勇者くりた(ゆうじくん)は今何をしているかというと、10年ほど前に仕事でアメリカへ転勤。ある機器の生産管理をしているとか。場所も仕事も家庭も、お互いの環境は大きく違っているが、Instagramなどでもつながっていて、5年に一度は会っているとのこと。
水嶋「何してんの?」
ポール「インスタにドラクエ2したって投稿」
クリアを見たゆうじくんから予想外の反応が!
その夜、ポールふくむ友人たちとの酒の席でのこと…。ポール「あ!」
水嶋「どしたん?」
ポール「インスタに投稿した言うたやん」
水嶋「うん」
ポール「ゆうじくんからコメントついててさ」
水嶋「おぉ!」
ポール「それがこれ…」
どちらも復活の呪文を覚えていた!!「分かるだろ」と言わんばかりのシンプルなコメントに、二人の関係性がうっすらと透けて見えるようだ。 でも、ゆうじくん、いや真の勇者、「のざべど」じゃなくて「のざべと」!これをきっかけにアメリカでも世界を救ってください。
復活の呪文でつながっている
ドラクエ2のプレイ画面を眺めていたとき、自分にもそんなお兄ちゃん的友人だったり、ゲームをたくさん持っている友人がいたなーと思い出していた。彼らに限らず当時よく遊んでいた友人たちはスッカリ疎遠になっており、住む場所が違えば「地元が同じ」程度の共通項なんてそんなもんだろうと、どこか淡白に考えている自分がいる。歩けば歩くほど、大人の道はバラバラになる。
それは勝手ながら、ポールとゆうじくんについても同じだと思うんだけど、お互いに30年前の復活の呪文を覚えていた。二人とも1字間違えたのも奇跡。それはそのまま、二人にとって思い出を復活させる呪文なんだろうなーとかなんとか。それってなんかいいな、と思った。