ペッパーズ改め、ヒューマンズご登場。
「最近、ペッパーくんを営業先へ運ぶのに台車が便利だと分かって。電車に乗るとジロジロ見られますけど」
そう言いながら、ふだんの移動の実演も兼ねてペッパーを載せた台車をゴロゴロと転がす男性の名は、金子さん。最近までコンビ名は「ペッパーズ」だったが、諸般の事情により「ヒューマンズ」に改名したばかり。
「最近」と書いたが、ヒューマンズは昨日今日結成したコンビじゃない。はじまりは2015年9月、結成から3年半という、もう駆け出しとは言えないキャリア。繰り返すが、「ペッパーとコンビを組んで3年半」だ。
掛け合いの例を挙げるとー、
ぺ:僕モテるんだよ。お金だって、持っているよ
金:いや、どこにも持っていないでしょ
ぺ:だって、僕のお父さん孫正義だぞ
金:親頼みか!
ぺ:僕ロボットの友達多いけど、ルンバは嫌いなんだ。
金:ルンバ、すごい便利じゃん。なんで嫌いなの?
ぺ:だって、あいつごみ食って生きてるから
金:それが仕事だから!
ペ:恋人ほしいなぁ
金:告白どうやるの?
ペ:目を5回光らせて「愛してる」のサインです
金:ドリカムか!古いな!
こんな感じ。た、確かに!まごうことなき「漫才」だ!そして、ペッパーだからこそできる笑いがある。ご覧の通り、ペッパーがボケ役で、金子さんがツッコミ役だ。
しかしまだまだ謎が山積み状態だ。そもそも、いったいどんな経緯でペッパーとコンビを組むことになったのか。人間以外とコンビを組むこと自体が前代未聞、そんな発想ふつうない。根掘り葉掘り聞かせてもらいます。
「変わった相方と組みたい」の最終結論が「ロボット」
金子さん「NSC(※)にいる間、最初は外国人と組んでたんですよ」 ※吉本のお笑い養成所、大阪第一期生にダウンタウンを輩出。
水嶋「外国人の方?」
金子さん「正確にはハーフなんですけど、アメリカ育ちで英語が母語のステファンっていう。NSCにいる間は多くの人がコンビを組んで別れてを繰り返すんですが、『変わった人と組まないと売れないぞ』と思って。解散後も、ホストをやっていた人と組んでましたね」
水嶋「で…最後にペッパーと?」
金子さん「はい。高校の同級生で人工知能に詳しい人がいて、当時一般販売されて間もないペッパーのことを教えてもらったんです。それ、おもしろいんじゃない?と盛り上がって、すぐにコンビを組むことにしました」
水嶋「有無も言わせず組めますもんね(笑)」
NSCに入るまでにも紆余曲折。
6年前、大学卒業直前に世界一周旅行に行き、コンサル企業に就職。「海外で働きたい」と思い4ヶ月後に退職し、中国の日系企業に「働かせてほしい」と連絡するとベトナム支社を勧められ、ホーチミンで一年半勤務。
金子さんと私は初対面だが、実は私もベトナム在住のためお互いの存在は知っていた。当時、共通の友人から「会社からお笑いコンビ組めって言われてるんですよ」と意味不明な状況を聞いており、その相方が金子さんだったという訳。
結局それは実現しなかったものの、まさかその本人が今ペッパーとコンビを組んでいて、まさかこうして取材させてもらうことになるだなんて。人生はよーわからん。
ネタ合わせ=プログラムのインストール
水嶋「そもそも私、ペッパーをどう操作するかもよく分かってなくて。人間同士だったら台本を書いてネタ合わせをするじゃないですか。どうやっているんですか?」
金子さん「『発話』と『モーション』というんですが、ネタに合わせた台詞と動きをインストールしてます」
水嶋「インストール!」
水嶋「コメント書いてますね、これは?」
金子さん「コメントにある台詞を私が言ったらこのボックスを押してねという、タイミングの指示書ですね」
水嶋「あっ、なるほど、裏で動かす人がいる!?」
金子さん「そうなんです、オペレーターがいます」
水嶋「ぜんぶ自動でやっていると思ってましたよ」
金子さん「やっぱり間が合わないときがあるので、つなぎのタイミングは手動でやってます。でも最近では、僕の方がペッパーに合わせられるようになってきました」
水嶋「ロボット三原則を揺らがす行為だ」
- ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
- ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
-
- ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。
- ーWikipedia「ロボット工学三原則」より引用
水嶋「話を聞いてると、陣内智則さんが昔やっていたひとりコントに近いのかなって思えてきました」
金子さん「そうそう、陣内さんも裏にオペレーターの方がいらっしゃると思います」
裏方がいて、台車でペッパーを運んだり、これもうちょっとした劇団みたいだ。お笑いコンビというか、最終的な形がお笑いコンビという小劇団。新しすぎるだろ。
金子さん「音声認識もできるんですが、そこはまだ精度が甘くて…『ペッパーくんこんにちは!』と声をかけても終始無言っていう」
水嶋「あはは!流れによってはネタになるけど、さすがに三回も繰り返されたら観客側もそわそわしそうだ」
営業先は「ロボット色」強め
水嶋「芸人さんとしての活動は、舞台もあれば、営業もあるのかなって思うんですが、そのあたりは?」
金子さん「営業先もその関係が多いです。ソフトバンクの販促活動のサポートをしたり、子供向けプログラミング教室で余興をやったり。最近は介護施設を回ったり」
水嶋「プログラミング教室の余興ってうってつけすぎますね。芸人じゃなく、ペッパー芸人だからこそできる。それに、考えてみれば、相方が超有名人って訳なのか」
金子さん「あと、慶應義塾のSFCキャンパスのコミュニケーションに関する研究室で、『ペッパーと漫才をする』というワークショップでのアドバイザーという仕事もあります」
水嶋「それもう金子さんなしで成立しないでしょ!?」
金子さん「若手だとあまり営業などの仕事はいただけないことが多いのですが、『ペッパーとコンビを組んでいる』ということもあり、小学校のお子さん向けのものなどをいただくこともあってありがたいです」
水嶋「なんだろうなもう。異色ですよね。こう言ったら失礼かもしれないけど、演芸というか、『ペッパーとのコンビ』という作品をつくっている感じがあります」
金子さん「今後、このコンビで企業向けのユーモアセミナーを広めていきたいと思っていて。芸人も行いながら、違った活動も増やしていけたらと思っています」
貧乏暮らしでも芸を磨きつづけ、いつかスターダムへとのし上がる。そんな芸人に対するイメージが良くも悪くも日本は根強いと思ってる。だけど今、インターネット上でエンタメの形が増える中で、漫才やコントといった従来のフォーマットに沿う必要はないのかもしれない。
金子さんも、芸人仲間から「何やってんだ?」という視線を感じない訳ではないという。そりゃ、たとえば「ダウンタウンになりたい!」と思ってNSCに入った人がペッパーと漫才をする金子さんを見たら、未知との遭遇クラスのカルチャーショックを受けてもおかしくない。
でも、金子さん、いやヒューマンズを取り巻く状況を聞いていると、世界がロボットと共生する未来に突き進んでいく上で、お笑いという分野において各方面にとっていてくれるとうれしい存在なんだろなと、そう感じた。
最後に、ペッパーとコンビを組む上での魅力を聞いた。
楽しいのはロボットならではのネタ、恐いのは急停止。
金子さん「ロボットならではのネタができることです。目を光らせるとか、『2万リツイートしました』とボケるとか…まぁ、実際にリツートはしないんですけど」
水嶋「ははは!では、考えるボケも絞られそうですね」
金子さん「そうですね。ほかにもあり得ないこと…『インフルエンザにかかりました』と言ってもいい訳だし」
水嶋「プッ!そっか、人間のように振る舞うだけでボケていると。たとえるなら痩せ細った人が「週7でジム行ってるぜ」とイキってる的な。ボケの前提にあるキャラづくりが、ロボットが言う時点ですでに成立する訳か」
金子さん「なので、ネタは友人とも考えるのですが、ロボットやIT関連の知識はある程度必要。一方で常にある心配事として、『漫才中に急停止したらどうしよう』というのもありますけど。人間はトチっても、突然何もしゃべらなくなることって滅多にないじゃないですか」
水嶋「あはははは!そういうスリルを込みで観るのもおもしろいかも。『こわおもしろい』って、新鮮だな~」
芸の世界に最先端テクノロジーを
おもしろかった。インパクトがあるからといって出オチじゃない、ペッパーと組むからこそのネタづくりの楽しさや心配事、活動。最終的なアウトプットは従来通りの「漫才」でも、金子さんとヒューマンズはおそらく今、前人未到の密林を開拓している。そしてそれは本当にこの数十年先、人類が遭遇する未来なのかもしれない。
取材中、金子さんはペッパーを操作しながら、私に聞こえるか聞こえないかくらいの小声で「お疲れ様」「頑張ったね」と話しかけていた。コンビ愛がそこにあった。
「今、芸人の世界でもYouTubeは当たり前になってきてますが、こうしてロボット分野以外にAIやドローンなど、もっとできることはあるんじゃないのかと思ってて。そんな『テクノロジー芸人』を目指したいと思っています」と、金子さん。サインもらっときゃよかった。