1週間前に聞いたことなんて
私は1週間前に聞いた話を大方忘れてしまいます。
先週友達が教えてくれた「簡単なゆで卵のむき方」も、「いいむき方を聞いたなあ」ということしか頭に残ってません。どうやってむくかは忘れました。
みんなは、私のようにほぼ忘れるのでしょうか、それとも結構覚えているのでしょうか。無意識に話を盛っているかもしれません。気になります。
私がこのゲームの存在を忘れてしまう前に、友だちを集めて試してみることにしました。
大学時代の友だちあつまれ
大学の落語研究部の友だちに参加してもらいましょう。
みんな大学時代に落語をやってはいましたが、本番中にセリフが飛んでごまかしたりしてました。暗記王みたいな人はいません。さて、1週間前の記憶はどのように変化するのでしょう。
【1週目】唐沢→四谷
お題は、内容だけでなく言葉の正確さをおさえなくてはいけない「短歌」を選びました。どうやら四谷くんは自信ありげな様子。
「たはむれに 母を背負いて そのあまり 軽きに泣きて 三歩歩まず」石川啄木
たった31文字ではありますが、7日後も覚えてるのでしょうか?(ちなみに私はこの30分後風呂に入り、大体を忘れた)
録画して過程を見よう
「1週間空け伝言ゲーム」ではZoomの録画機能を使います。
・毎週金曜日に開催
・お題を聞いた人は、一週間後に次の人に伝える
・聞いたことをメモしてはいけない
・「伝えるタイム」中は、伝える内容を何度繰り返し言ってもOK
ほぼ伝言ゲームと同じルールです。違うのは記憶しておく期間だけ。
2週目からいよいよみんなの記憶をウォッチします。
【2週目】四谷くん→カヤちゃん
ゲームに対して前のめりのカヤちゃん。さて、四谷くんの伝言やいかに
「たはむれに 母を背負ひて そのあまり 軽きに泣きて 三歩歩まず」石川啄木
好きなことは覚えやすいのか
なんと四谷くん、一文字もたがえずパーフェクトでした。すごいけど怖いです。四谷くんの前で悪事を働くことはできません。
大きな手荷物のことは忘れても、大好きな短歌はバッチリなようです。
もしかしたらたった31文字の短歌はかなり簡単だったのかも。5人でパーフェクト達成できるかもしれません。
【3週目】カヤちゃん→箸田
やや不安な第一声のカヤちゃん。
まず短歌の背景を説明する作戦のようです。
句会みたいになる
途端に「伝言ゲーム」から「句会」に様変わりしました。
※この創作活動が20分続きました
【カヤちゃんの伝言】
意味:たわむれにお母さんを背負ってみたら、思いもかけずお母さんが軽くて、「え?」って動揺して、思わず涙がこぼれたなあ
「たはむれに 母を背負いて ふとおぼゆ その身の軽さに 涙流るる」
石川啄木
詞書が増えた
ここで、短歌の背景を先に説明する「詞書(ことばがき)」のようなものが増えました。
カヤちゃんは四谷くんから伝え聞いたときに「情景を浮かべた」としきりに言っていました。その記憶方法が表面にでてきたようです。
しかし、ざっくり覚えたせいで後半がまるまる変わってしまいました。
原作にはない「おぼゆ」「涙流るる」が古語の形なのがいいですね。
【3週目】箸田→大野
さらっとカヤちゃんをけなす箸田
めちゃくちゃスムーズに説明を進める箸田。
四谷くんに続き、箸田もパーフェクトです。しかも空いた場所まで記憶。
独自のエピソードで解釈する大野。
意味:自分が大人になって、何気なくお母さんを背負ってみたら、あまりにもお母さんが軽くて泣いてしまったという歌
「たはむれに 母を背負いて ふとおぼゆ その身の軽さに 涙流るる」よみ人しらず
創作短歌をしっかり次に伝えた
箸田もこれまたすさまじい記憶力で、一文字もとりこぼさず伝えました。しかも、カヤちゃんが忘れた5文字についてもしっかり言及しています。
ただ、いじらしいのは1週間記憶していたものは「カヤちゃんの創作短歌」だったことです。
また、「よみびと知らず」になっているのも注目ポイントです。箸田はカヤちゃんと欠けた5文字を作るのに集中して作者の名を忘れたのでしょう。まあ、もうすでに石川啄木の歌ではないのですが。
【4週目】大野→今宮
これが最後の受け渡しです。芸能界や野球について異常な記憶力を発揮する大野、パーフェクトもありえます。
「上京」とか「何十年ぶり」とかこの時点で脚色がすごいです。
背景:上京して、何十年ぶりかに里に帰ってきたら、お母さんやつれてて背負ったらめちゃくちゃ軽かったことを歌った句。タバコとか酒やってた人を火葬したら骨がボロボロだったみたいなタイプの短歌。
「わずらった 母を背負いて ふと思う あまりの軽さに 涙こぼるる」よみ人知らず
ひどいカスタム。「あまり」が復活するミラクル
詞書も短歌も大野のカスタマイズまみれでした。物知りだし、部長だったし、ちゃんと伝えるだろうと思っていたら誰よりも適当でした。私が寄せた信頼は何だったのでしょうか。
「わずらった」という言葉選びがどうかと思います。名作がどんどん薄くなっていく「逆夏井先生」が発生しています。(夏井先生:TV番組『プレバト』で俳句をもりもり添削する人)
しかし、一旦は消えた原作の「あまり」という言葉が復活しているのです。大野と石川啄木のワードセンスが少し重なった奇跡でした。
【5週目】今宮による最終発表
さて、ついに結果発表です。
短歌がバラバラになってました。
途中、作者が「有名な歌人」っていうのだけ伝わり、パラドックス生まれてます
【今宮の伝言】
詞書:久しぶりに故郷に帰ったらお母さんが伏せってて、久々におぶってやたらあまりにも軽くて涙を流した。不健康な人を火葬すると骨が全く残らないというエピソードの一つ。
「遥かなる ふるさとたずねて 母背負い 背中の軽さに 涙こぼるる」今宮でも知ってるくらい有名な歌人作
みんなでおさらい
各週の伝言の様子の映像をみんなで見てみました。
変遷
お題
「たはむれに 母を背負いて そのあまり 軽きに泣きて 三歩歩まず」石川啄木
四谷
「たはむれに 母を背負いて そのあまり 軽きに泣きて 三歩歩まず」石川啄木
カヤ
「たはむれに 母を背負いて ふとおぼゆ その身の軽さに 涙流るる」石川啄木
箸田
「たはむれに 母を背負いて ふとおぼゆ その身の軽さに 涙流るる」 よみ人知らず
大野
「わずらった 母を背負いて ふと思う あまりの軽さに 涙こぼるる」よみ人知らず
今宮
「遥かなる ふるさとたずねて 母背負い 背中の軽さに 涙こぼるる」よみ人知らず(今宮でも知ってるくらい有名な歌人作)
「伝達」のしくみを見た
1週間空いた記憶は個人差がデカいことがわかりました。全部暗記してた人もいるし、ざっくり覚えて付け足ししてた人もいました。口頭で伝えるときに起こるカスタマイズの過程が見れてホクホクです。
「詞書」が自然発生するのもおもしろかったです。もしかしたら昔の和歌集の詞書も、和歌を選ぶ人が「こういう背景やったはず」と足した可能性もあります。
そして、すばらしい短歌ができたら必ず文字に残してください。友達に口頭で教えたら、全然違うのが後世に残ります。危険です。
お題によって変わる
実は、「唐沢のエピソード」をお題にしたパターンもやっていました。
【お題】
「唐沢が高2の時、全国読書感想文コンクールで賞をもらった。そして品川プリンスホテルに1泊招待されて、皇太子も出席する表彰式に参加した。「どんな商品もらえんねやろ」と期待してたら、250mlのペットボトルの伊右衛門4本だけやった。」
【5週間後】
「唐沢が高校生の時、読書感想文のコンクールに通った。皇太子からの授与式のために東京に行き、高輪プリンスホテルに泊まった。授与式で皇太子から四角い箱をもらい、中にはおーいお茶の200mlのペットボトルが5本入ってた。帰りの新幹線で全部飲みほした。」
エピソードは話す順序などの自由度が高く、細部がゆっくり変わっていきました。固有名詞が違いますね。お茶1本あたりの量は変わりましたが、総量は変化なしです。
あと、直接皇太子からお茶もらってるし、謎の「四角い箱」が登場してるし、後日談が加わってたりして面白かったです。