特集 2018年8月5日

干しナマコの醤油煮が出来るまで(デジタルリマスター版)

実家の店内でナマコと記念撮影。
実家の店内でナマコと記念撮影。
ひょんな事から大量のナマコを手に入れた。ナマコは美味い。酢ナマコが好きだ。が、ナマコの旬は冬なので、夏の今はあんまり酢で食べないのらしい。

そこで、干しナマコを作って食べることにした。

 今日は、生の生きてるナマコが干されて、水で戻されて料理されるまでの5週間をレポートします。そう、5週間掛かったんです、完成までに。

2008年9月に掲載された記事の写真画像を大きくして再掲載したものです。
あばよ涙、よろしく勇気、こんにちは松本です。

1976年千葉県鴨川市(内浦)生まれ。システムエンジニアなどやってましたが、2010年にライター兼アプリ作家として自由業化。iPhoneアプリはDIY GPS、速攻乗換案内、立体録音部、Here.info、雨かしら?などを開発しました。著書は「チェーン店B級グルメ メニュー別ガチンコ食べ比べ」「30日間マクドナルド生活」の2冊。買ってくだされ。(動画インタビュー)

前の記事:カップ麺に歌舞伎揚を入れるとすごい

> 個人サイト keiziweb DIY GPS 速攻乗換案内

どうしてナマコが手に入ったかと言うと

私事ですが、7月末に父が亡くなってしまいました。父は千葉県鴨川市で干物を作って売っていました。その店、松本商店では干物の他に生きている海鮮(アワビ、伊勢エビ、サザエ、ハマグリなど)も売っていました。

 店内と店の裏には大きな「いけす」があります。海からくみ上げた海水が満たされ、父曰く、「うちは生き物にちゃんとエサをやってる。だから内臓がパンパンに太ってんだ。」という自慢の海鮮達が売られていました。

(編集部注:2010年に初出の再掲載の記事です)
最後に売っていたハマグリ、アサリ、サザエなど
最後に売っていたハマグリ、アサリ、サザエなど
1年365日、40年間。休まずに働き続けた父はある日突然死んでしまいました。働き過ぎ。残されたのは店と、売り物と、母。母は店を閉める決意をし、在庫を売り尽くそうと頑張りました。

 結果、まず生き物が全部売れ、いけすが不要になりました。不要になったいけす(店の裏にあるいけす)のポンプを止め、海水を抜くと、大きないけすの底にナマコが何匹、何10匹と見つかりました。

 なまこは海水を口から取り込み、有機物(糞やエサの食べ残し)を取り込んで海水を綺麗にしてくれます。

「よほど水質を気にしてたんだな・・・・」

 父がどれほどいけすの水質を気にしていたか、その大量のナマコたちを見て判りました。生き物を売るのは神経を使う仕事です。ウッカリ管理を怠ると1ヶ月分の儲けなんて一気に飛んでしまう仕事です。そりゃ胃に穴が開くはずです。

そのナマコを見て、僕は何も言えませんでした。
生前の父と自慢の伊勢エビ。まぁ、この海老はあんまり売れなかったみたいだけど(大きすぎて買わないって)。
生前の父と自慢の伊勢エビ。まぁ、この海老はあんまり売れなかったみたいだけど(大きすぎて買わないって)。

こうして大量のなまこが残った

僕は店の裏にあるいけすから、店先のいけすにナマコを移しました。そのままにしておくには大量過ぎたから。その量、5リットルのバケツ4杯分。

 店先のいけすはそれほど大きくないですから、ナマコを投入したらもう、「え、ここ、ナマコ屋さんですか?」という風情です。これは流石にナマコが多すぎやしないか。

と言うことで、一部を食べることにしました。

干して。

以上が僕の8月のあらすじです。
移送されたナマコたち。水を綺麗にしておくれ。
移送されたナマコたち。水を綺麗にしておくれ。

干しナマコを食べるまで その1 解体編

色んな色のナマコ。種類は多分同じ。
色んな色のナマコ。種類は多分同じ。
いけすから大きめのナマコを選んで新聞紙に包んで実家から自宅(東京)に持ち帰った。その重いことと言ったら。ほとんど水のくせに!
おにゃん子クラブと掛けてるんだぜ。
おにゃん子クラブと掛けてるんだぜ。
ナマコを家に持ち帰り、流しにあけました。固くなってるのや、デローンと伸びちゃってるのや、色々。放っておくとシンクのゴミ受けに落ちそうになって大変によろしくない。ちょっとなつめさんにも見てもらおうか。
上の黒いのが猫。下の黒いのがナマコ。黒ミーツ黒。
上の黒いのが猫。下の黒いのがナマコ。黒ミーツ黒。
なつめさんはオスの黒猫。こないだ推定誕生日を迎えて2歳になった。どっちも黒いのでよく判らない絵になっている。フンフンと匂いを嗅いで、プイとどっかにいってしまった。ナマコにはあまり興味が無いようだ。

まずは内臓を抜く

茹でる前にナマコに穴を開けて内臓を抜き出す作業がある。出刃包丁を出してナマコの裏側中央に切り込みを入れる。その穴から指を入れて内臓を掻き出すようにして外に出す。

これがかなり初体験的な気持ち悪さだった。

 なにせ、結構予想外の物が出てくるのだ。黄色いデロデロ(卵巣?)とか、砂が詰まった腸とか。しかも結構生臭い。内臓が上手く出てこないのもあって、かなり難儀した。
かなりぐろい。うひー、ってずっと言ってた。
かなりぐろい。うひー、ってずっと言ってた。
生き物を捌くのは苦手じゃ無いんだけど、顔が・・・・。
生き物を捌くのは苦手じゃ無いんだけど、顔が・・・・。
これは卵巣かなぁ。正直腸との区別が判らん。
これは卵巣かなぁ。正直腸との区別が判らん。

干しナマコを食べるまで その2 ボイル編

次は、塩を入れた鍋で水から煮る。沸騰してから20分でゆであがり。
真っ黒なゆで汁に、茶色い泡。魔法使いか、オレは。
真っ黒なゆで汁に、茶色い泡。魔法使いか、オレは。
茹でてる間中なんとも良い匂いがしやがるんだ、これが。タンパク質が加熱される良い匂い。蟹とか海老とかホタテとか、あらゆる美味しそうな海産物を茹でた匂いと形容するか。とにかく良い匂いだった。これが、この真っ黒い鍋から漂ってるなんてウソみたい。

 クライマックスはそれをザルにあけた瞬間。やべぇ、匂いだけで酒飲める、と思った。で、鍋から出てきたのがコレだ。
ゆであがったナマコちゃん。縮みました。
ゆであがったナマコちゃん。縮みました。
手に持ってみるとこんなだ。
随分可愛くなってしまいました。これ、上でなつめさんに見せてるナマコちゃんです。
随分可愛くなってしまいました。これ、上でなつめさんに見せてるナマコちゃんです。
↓ゆでる前。
これが茹でると上の写真のようにスリムに。オレも茹でてもらうか。
これが茹でると上の写真のようにスリムに。オレも茹でてもらうか。
干しナマコなんだから次は干し工程。次のページでナマコを干します。完成までまだ5週間・・・・。

次はほんの1ヶ月ほど干します。

干しナマコを食べるまで その3 干し編

ボイルしたら、次は1ヶ月干す。当サイトのライターはなぜかみんな持っている干し網ですが、僕も東急ハンズで買いましてね。色々干して楽しんでいるが、今回もそれでナマコを干した。

 毎日天気を気にして、雨が降れば室内乾燥、天気が良ければ外に干す。ナマコちゃんの事をいつも考えて日々過ごしていた。

1ヶ月分、毎日の写真を載せようかとも思うのだが、ここは堪えて1週間ごとの経過を見ていこう。
当サイトのライターは油と肉と干しが好きらしい。あと酒。
当サイトのライターは油と肉と干しが好きらしい。あと酒。

一瞬で判る4週間の変化

干して24時間後のナマコちゃん。まだプリプリ。中学生くらいかな。
干して24時間後のナマコちゃん。まだプリプリ。中学生くらいかな。
1週間でかなり乾いた。お肌の曲がり角くらい?30歳くらいかな。
1週間でかなり乾いた。お肌の曲がり角くらい?30歳くらいかな。
すっかりシオシオ。50歳くらいだろうか。
すっかりシオシオ。50歳くらいだろうか。
3週間でこんな事に。カチカチです。60歳ってとこかな。
3週間でこんな事に。カチカチです。60歳ってとこかな。
そして1ヶ月、ついに干しナマコちゃんが完成した。さぁ、食べるぞ!
80歳ってな風情のナマコちゃん。トゲが固くてヘビメタな感じです。
80歳ってな風情のナマコちゃん。トゲが固くてヘビメタな感じです。
松本商店から持ってきた時は重かったナマコちゃんがこんなにコンパクトに。可愛いな。
松本商店から持ってきた時は重かったナマコちゃんがこんなにコンパクトに。可愛いな。
すっかり固く干し上がったナマコちゃん。色や形でうっすらナマコを想起させるけど、でも最初の姿から想像するに、アレがコレになるってのは中々驚きの事態だと思う。

んじゃあ食べますかって話なんだが、完成までにはあと1週間を要する。

干しナマコを食べるまで その4 戻し編

1ヶ月掛けて干したナマコだが、食べるには今度は1週間掛けて戻す必要がある。凄い、まさに3歩進んで2歩下がるだ。

 干しナマコと水を鍋に入れて火にかけてお湯が沸騰したら火を止める。これを1日1回毎日1週間続けるのだ。そうしてやっと食べられるようになる。

なんつースローフード。

 スケジュールの都合で干しナマコを実家に持ち帰り、干物屋の店番をしつつナマコを戻した。
干しナマコと生ナマコを比べてみたよ。うーん、小さい。
干しナマコと生ナマコを比べてみたよ。うーん、小さい。
このナマコがどの位もどるのか。
このナマコがどの位もどるのか。
煮すぎるとナマコが溶けちゃうのだそうだ。
煮すぎるとナマコが溶けちゃうのだそうだ。

一瞬で判る1週間の変化

煮込んで1日後。多少膨らんだが、まだ小さい。幼稚園くらいか。
煮込んで1日後。多少膨らんだが、まだ小さい。幼稚園くらいか。
ちょっと成長。小学2年生くらい。
ちょっと成長。小学2年生くらい。
大分太く、長く成長した。中学2年生くらいと言えるかも知れない。
大分太く、長く成長した。中学2年生くらいと言えるかも知れない。
ここで内臓の残りなどを取り除く。
ここで内臓の残りなどを取り除く。
4日目、干しナマコがある程度戻って柔らかくなったら、裏側の穴をハサミで広げて、身の内側に付いている筋状の物や口の器官などを取り除いて掃除する。身の表面も黒い部分が浮いて垢のように剥がれてくるのでナイフなどでこそいで綺麗にした。
ますます太さと長さを増し、立派になっていく。高校生かな。
ますます太さと長さを増し、立派になっていく。高校生かな。
もうすっかり大人びたナマコちゃん。いや、大人なんだからちゃん付けはやめよう。
もうすっかり大人びたナマコちゃん。いや、大人なんだからちゃん付けはやめよう。
1週間、毎日煮て、綺麗にして、水が悪くなれば変えて、と手間を掛けて来たナマコさんがすっかり大きく成長した。いやー、嬉しいね。最初から比べると倍以上に膨らんでいる。
これはもう、日本人の例えでは計れないね。外人だろう、外人。
これはもう、日本人の例えでは計れないね。外人だろう、外人。
いよいよ、今度こそ調理に取りかかる。干しナマコ、果たして美味いのか?

干しナマコを食べるまで その4 調理編

戻したナマコを切りました。なんか綺麗ね。美味しそう。
戻したナマコを切りました。なんか綺麗ね。美味しそう。
すっかり戻ったナマコはプルプルで、感触としてはシリコン樹脂。切ってみたら裏側は白くて半透明で美味しそう。おお、これは煮込んだら良い味を出しそうな雰囲気だ。

干しナマコの醤油煮を作ります

材料は以下の通り。

・干しナマコ2本
・長ネギ
・タケノコ水煮
・生姜
・干し椎茸
・老酒
・中華調味料
・ごま油
・醤油、砂糖、水溶き片栗粉

 これらを中華っぽく調理すればいいって訳。基本、刻んで合わせていって煮込んでとろみを付ければOKってのが中華なのでレシピは適当にやっちゃいます。一応ネットで調べたけどな。
老酒とか無いから買ってきた。素材は全部国産です。
老酒とか無いから買ってきた。素材は全部国産です。

調理開始!

まず中華鍋に油を引いて生姜のみじん切りとネギを炒める。ごま油とネギと生姜の良い匂いが煙になって飛んでくる。

 次にタケノコと干し椎茸を入れて炒める。干し椎茸が入るとグッと中華っぽい雰囲気が増す。そこに中華スープを入れ、煮立ったらナマコ投入。切ったナマコと、そのままの姿のナマコを入れた。
中華鍋ってなんでも手軽に作れて便利よね。
中華鍋ってなんでも手軽に作れて便利よね。

料理としては相当簡単です

味付けは老酒、醤油、砂糖の仕事。アルミホイルで落としぶたをして煮込むこと20分。煮汁が半分くらいに煮詰められたら水溶き片栗粉でとろみをつけて完成。

1ヶ月干して1週間戻したスローぶりからしたら一瞬みたいな時間で出来上がってしまった。
匂いはかなり美味そう。姿煮状態のナマコが凄い存在感。
匂いはかなり美味そう。姿煮状態のナマコが凄い存在感。

はたして、その味は?

干しナマコ試食会

折角面倒くさい料理を作るって事で、友人を家に呼んでナマコの会を開いた。来てくれたのはKさん家族とHさん。チャーハンや炒め物など数品作って、いよいよナマコの醤油煮を作って食卓に運んだ。
表面の突起がかなりアレですな、やっぱり。
表面の突起がかなりアレですな、やっぱり。
「うわぁ、ナマコだね」

「匂いは良いね。中華だ。」

「やらか!ナマコってこんなに柔らかいんだ」

 食べる前から色んな反応があった。僕も干しナマコなんて食べるのは始めて。友達も食べるのは始めて。果たしてこれが干しナマコの料理として正しいのか判らないのだが、まぁ、素材も作り方も調べたとおりにやったのだから結構近いんじゃないかと思う。

前フリはもういいですか。じゃ、いただきまーす!
2切れほど取ってみた。
2切れほど取ってみた。
「美味い!」

 干しナマコの醤油煮は驚くほど美味かった。なんだこりゃ、エライ美味いものが出来てしまった。ナマコはプルプルで全く嫌な味も匂いも無い。汁に溶け込んだあらゆる旨味を吸っていた。食感は牛すじ、ただしケモノの臭みは無縁。

なるほど、中華料理で干しナマコが珍重される理由が判る。だって、美味いもの、コレ。Hさんにも食べて貰った。
おそるおそる半笑いで食べるHさん。
おそるおそる半笑いで食べるHさん。
食べると驚きの笑顔に。Hさんは以前「手作りナンプラー」でヒドイ目に合わせた。
食べると驚きの笑顔に。Hさんは以前「手作りナンプラー」でヒドイ目に合わせた。
みんな驚きと喜びで、ワイワイ言いながらナマコを食べた。残ったらどうしようと思っていたナマコはあっと言う間に無くなった。「ナオミの奇妙なメニューを」で寄食振りを紹介したナオミさんが「これ、寒天だよ!寒天!細切りにして酢醤油で食べよう!」って言ってたけど無視した。

最後は内臓の塩辛だ

ナマコの中身を塩辛にすると、コノワタと呼ばれる珍味になるらしい。という事で、1ページ目で取った内臓を塩漬けにして、5週間冷蔵庫で寝かしておいた。それが左の写真だ。

 箸でつまむとデローンと伸びる。その様子はあんまり美味しそうじゃないんだけど、食べてみるとコレが美味い。一番近い味は、ホタテの貝柱。溶けちゃった貝柱という趣で、これがいけるんである。

ナマコを解体する機会があったら、中身も捨てずに食べることをお勧めしたい。
見た目は食欲をそそらない。
見た目は食欲をそそらない。
最初にこれらを食べた人は相当偉いか、もしくは相当腹減ってたに違いない。
最初にこれらを食べた人は相当偉いか、もしくは相当腹減ってたに違いない。

父が遺したナマコは美味かった

親父は人を笑わせるのが好きだった。誰も得をしないようなウソをついたり茶番を演じたり、それで誰かが笑えばいいとばかりに、よくしょーもない事をしていた。人が笑う顔を見るのが好きだったのだろうと思う。

 その親父が集めたナマコが人を笑顔にしている、それがなんだか感慨深くて、干しナマコの美味しさ以上に美味しく感じられた。これを親父にも食べさせたかったなぁと思っても、死んじゃってもういない。誰かに何かをしたくても、相手が死んじゃってたらなにも出来ない。

「親孝行したい時には親はなし」

しみるねぇ。しみる。干しナマコの味付けくらい沁みる。
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