特集 2018年7月31日

文明として高度! 札幌のシメのパフェとは

「夜パフェ専門店 パフェテリア パル」のパフェ
「夜パフェ専門店 パフェテリア パル」の美しきパフェ……!
飲んだあと、シメにパフェを食べる。

札幌のすすきのを中心とした地域にひろがる食文化である。

多くのメディアが取り上げており、各地の百貨店の催事にも進出している。ご存知の方も多いかもしれない。

しかしパフェか。夜食べるものという発想がこれまであまりなかった食べ物だ。

現地を取材し関係者の方に話を聞いたところ、札幌でしか組みあがりえないパズルが絶妙に組みあがった結果発達した文明であるということが分かった。
東京生まれ、神奈川、埼玉育ち、東京在住。Web制作をしたり小さなバーで主に生ビールを出したりしていたが、流れ流れてデイリーポータルZの編集部員に。趣味はEDMとFX。(動画インタビュー)

前の記事:みたことがない食べ物を10品集めたら話題性がすごかった

> 個人サイト まばたきをする体 Twitter @eatmorecakes

「シメにパフェを食べる」とは

はじめに一旦様相を整理しておきたい。

シメにパフェを食べるという札幌のこの状況、どういうことなのか。ざっくりだいたいこんな感じらしい。

・すすきのを中心に夜に開店し深夜閉店するパフェ専門の店が多数ある

・長時間並ばねば入れない人気店が多い

・一時のブームではなく札幌の地に確実に息づきつつある

・女性だけではなく男性にもファンが多い


特徴的なのは、夜に開店するパフェ専門の店が多数ある、という部分だろう。パフェの専門店に行列ができるというのも意外だ。

「そういうことになっている」というのだから疑うわけではないが、ちゃんとこの目で確かめてみたいとは常々思っていた。

開店前の店を見るという新しい観光

そしてようやく機会を得てこのたび札幌へ到着……!
そしてようやく機会を得てこのたび札幌へ到着……!
新千歳空港からすすきのへ直行し16時。パフェの店は夜に開くというのが本当であればまだどこも開店前の時間である。
有名店の「パフェ、珈琲、酒、佐藤」うおっ、開店前!
有名店の「パフェ、珈琲、酒、佐藤」本当に開店前! 「落雪注意」は冬場の行列客向けアナウンスだろうか
系列店の「パフェ、珈琲、酒 佐々木」もやはりまだ……!
二号店の「パフェ、珈琲、酒、佐々木」もやはりまだ……!
こちらも有名店「ぴーぷる・ぴーぷ」も閉まっている……ウォォ
こちらも有名店「ぴーぷる・ぴーぷ」も閉まっている……ウォォ
多くの店が18時から19時のあいだにオープンし、閉店は24時すぎ(午前3時閉店の店も)と掲げている。

疑っていたわけではなかったのだが、夜に開くパフェの専門店がたくさんあるといううわさは本当だったのだ!

旅行に来て「店が閉まっていた」というのはがっかりするものだが、私はいまはじめて閉まった店に来たことに意義を感じ興奮している……。

日本有数の観光地、札幌。閉まってる店でも感激させてくるから強い。
こちらも人気店の「ななかま堂」、開店したらさぞ並ぶんだろうなあという雰囲気。うおお……。
こちらも人気店の「ななかま堂」、テープが引いてあり開店したらさぞ並ぶんだろうなあという雰囲気。うおお……。
他の都市にもたとえば喫茶店が夜遅くまでやっていて、そこで飲んだ後にシメのパフェを食べるお客があるという話は聞く(当サイトにもこのような記事がある)。

が、専門店が数多くあるというのは札幌だけなのではないか。

目で見たぞ。事態は本当だ。

うわさには聞いていたが実際この目で見ると結構驚く。新大陸は本当にあったのだ……!ハトを飛ばして仲間に伝えねば(そのハトがこの記事です)。

シメにパフェ、その思想の過激さ

目でみたものの、なんでこんなことになったかは地元の方にしっかり話を聞かねばなるまい。

今回は「札幌パフェ推進委員会」という地元の振興団体の方にお会いできることになっている。

その前にまずは一旦、シメにパフェを食べるというのがどういうことなのか体験してみようじゃないか。
パフェは「シメ」なので「シメの前段階」からやらねばなるまい。イッヒッヒ
パフェは「シメ」なので「シメの前段階」からやらねばなるまい。イッヒッヒ
季節的にギリギリ滑り込みでアスパラをいただけた。あまい……!
季節的にギリギリ滑り込みでアスパラをいただけた。あまい……!
アスパラにかかっているのはウニのソース。残ったソースを食べきるためにアスパラのあとにご飯を少し入れましょうかとマスターにすすめていただいてそりゃもう絶対いただくしかないだろう。

……あれ……。もう締まっちゃってない!?
1人飲み会は気を抜くと締まる
1人飲み会は気を抜くと締まる
うっかり1軒目で幸せに終了しそうになってしまった(私の胃はとてもとても小さい)。このあとのパフェに備え早々にここは引き上げた。

それにしても、札幌の居酒屋にはうまいものしかないだろう。

にもかわらず1軒目で満腹にせずにパフェに行こうというのはやっぱりちょっと思想が過激すぎなのではないか。
時間は22時に
時間は22時に
すすきのは平日にもかかわらず観光客らしき人々も多くガッツリした人でだ。

この人たちのなかにもおそらくシメにパフェをという人がいるんだろうと思うと気がせく。

本当に夜中のパフェ店が大繁盛

19時開店、3時閉店というパフェ専門店「幸せのレシピ スイート」にやってきた
19時開店、3時閉店というパフェ専門店「幸せのレシピ スイート」にやってきた
と、ここで心中の落ち着きをとりもどすべく、すみません助っ人を呼んだので紹介させてもらっていいでしょうか。

なにしろ気持ちが落ち着かないうえ、1人だと1品しか食べられないので食べ手を呼んだのだ。
スポーツレポーターの高木聖佳さん(左)とタレントの阿井莉沙さん
スポーツレポーターの高木聖佳さん(左)とタレントの阿井莉沙さん(右)
急にあか抜けた方々にご協力いただけることになり恐縮しきりだが、お二人はともにJリーグの川崎フロンターレの応援番組に出演されている。番組はどちらも当サイトと運営元が同じ(イッツコムという会社です)。言ってみればデイリーポータルZときょうだいメディアなのである。

ちょうど川崎フロンターレと北海道コンサドーレ札幌の試合があったため札幌に来ており協力してもらえることになったのだ。

パフェは1人ではいくつも食べられないのでこれは本当にありがたい……。
お二人も食事会の後ということでちゃんと「シメのパフェ」である
お二人も食事会の後ということでちゃんと「シメのパフェ」である
きた……!
きた……!
22時の……パフェ……!
22時の……パフェ……!
ガチのパフェだ…!!
ガチのパフェだ…!!
本当にパフェは頼んだとおりきたし、しかも22時の店内は大大繁盛だ。この時間にパフェを食べるということが、けっして珍しい行為ではないのだ。

食への意識が高度で初体験の私はうろたえるばかりである。

次ページで詳しくレポートしつつ、有識者へのインタビューへ続きます。


せっかくなので阿井莉沙さんご出演の番組をご紹介させてくだされ


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寝る時間じゃないのかみんな

このあとも調査して分かったのだが、札幌の夜のパフェは夜とはいえ手加減なしのがっちりしたボリュームがあるちゃんとしたパフェである。

ボリュームがあるのも当然だ。パフェはどれも、きちんとした値段がついている。

安くて1,000円、高いと2,000円近いものもある。
こちら、さすがにこの豪華さだけあって1,880円だった
こちら、さすがにこの豪華さだけあって1,880円だった
美しい盛り付けを見て、そして食べれば高品質なアイスクリームにふんだんでフレッシュなフルーツなど値段にはまったく異論は出ない。

それでも、こういう価格的にラグジュアリーなものを食べるのが文化として定着しているというのにはやはりどうしても驚く。
異文化に歓喜しつつめちゃめちゃに盛り上がる我々……!
異文化に歓喜しつつめちゃめちゃに盛り上がる我々……!
食後のデザートだと言ってしまえば普通のことだと思うのだが、それにしても値段、大きさ、色合いと要素のテンションが全部高い。
こりゃあすげえ文化じゃのう、私の感動に店のライティングが答えた
こりゃあすげえ文化じゃのう、私の感動に店のライティングがこたえた

女性が多いがうわさ通り男性も来ている。お酒のメニューも充実していてお酒といっしょにパフェを食べている方も多いようだ。

あとで聞いたがいま札幌ではスパークリングワインとパフェを合わせるのが流行しているのだそうだ。

完全に未知の体験だ。これが、これが札幌のシメのパフェか。

大満足して店を出たら23時である。

寝る時間かよ!

発祥は「諸説あり」

寝る直前に繁華街で最高に美しくおいしいパフェを食べてなんならお酒も飲んで盛り上がる。

俺のなかの風紀委員はいま怒っているぞ。

と、体験を経ていろいろと分かった一方、むしろものすごく大きな見知らぬ価値観にぶちあたって興奮も混乱も冷めやらぬという具合だ。

ここで、満を持して地元の有識者の方に話を聞いていこうではないか。

2015年の9月に「札幌パフェ推進委員会」を発足させいまも運営を行っている会社のひとつ、クリプトン・フューチャー・メディアの磯崎智恵美さんにお話を伺った。
「おらこの文化にびっくらこいちゃってよう~」と、ほとんど泣きつくような私にやさしく対応してくださった磯崎さん
「おらこの文化にびっくらこいちゃってよう~」と、ほとんど泣きつくような私にやさしく対応してくださった磯崎さん
まずはその始まりだ。しかし聞けば文化の発祥については完全に「諸説あり」なんだそうだ。

(以下、緑字は磯崎さん)「パフェの専門店は私たちが委員会を発足させたころ(2015年9月)にはすでにいくつかありました。シメにパフェを食べるという人たちは札幌にはもともといたんですよね。

どこが発祥かはわからないんです。かなり昔から夜中までパフェを食べさせる店はあったという人もいれば、ペンギン堂というお店が最初ではという人がいたり」
こちらがそのペンギン堂。人気店で22時ちょっと前にうかがったら全品売り切れで食べられなかった……!
こちらがそのペンギン堂。人気店で22時ちょっと前にうかがったら全品売り切れで食べられなかった……!
確かに夜にパフェを出す店がありそれを食べる人がいるということ自体はとりたてて珍しいことではない。

なにをもって発祥というのかが難しいのかもしれない。

しかし発祥はなぞでも、なぜ札幌でシメにパフェががっちり定着したのかには訳がちゃんとあった。

さまざまな理由が幾重にも折り重なっていました。さらにインタビューが続きます。


高木聖佳さんご出演の番組もどうぞ


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札幌の人はお酒とアイスを愛してる

加速度的に一気に定着したのは、磯崎さんたち委員会が「シメパフェ」という言葉を作ってとりまとめをしてPR活動を行いだしたというのも間違いなく大きいようだ。そこから札幌のフードフェスや全国の催事に広まったという。

とはいえそれ以前からシメにパフェを出す店があり食べる人もいたわけで……。その理由、ポイントは「アイスクリーム」ではないかと磯崎さん。
「札幌のパフェってほかの地域のフルーツパーラーのフルーツたっぷりのパフェと違ってアイスクリームが多めなんです。

そもそも札幌の人はアイスクリームが好きなんです。冬でもアイスクリームをすごく食べるんですね。

アイスクリームとかソフトクリームが入ってるパフェを年中食べるのも不思議じゃないんですよ」


よく聞く話だが、北海道の住宅というのは保温と暖房に強烈に特化しており厳寒期も室内はぽかぽかにあたたかい。半袖で過ごすこともあるくらいだそうだ。

もともとお酒を飲んだあとにちょっとアイスを買って食べることが多い流れがあったため、お酒のあとにアイス中心のパフェというのも唐突に感じない土壌があるのではということだった。
北海道には雪印パーラーという雪印の喫茶店チェーンがあるのだが……
北海道には雪印パーラーという雪印の喫茶店チェーンがあるのだが……
ここのパフェのいち推しは「スノーロイヤル」という特別なアイスクリームを使ったパフェ。注文から3分くらいだろうか、驚くべき速さで出てきた
ここのパフェのいち推しは「スノーロイヤル」という特別なアイスクリームを使ったパフェ。注文から3分くらいだろうか、驚くべき速さで出てきた
下から上までほとんどアイスというパフェだった。めちゃめちゃに濃い! これまた体験としてぜいたくすぎた
下から上までほとんどアイスというパフェだった。めちゃめちゃに濃い! なるほど札幌のパフェはアイスに力が入っている
「札幌は国内の都市の中でもアルコールの消費量がかなり上位なんだそうです。パフェも好きだし、お酒も良く飲むんですよね。

アイスクリームというのは糖質もたんぱく質も含まれていて、肝機能を高め、二日酔いの防止に効くらしいという話もあるようです。いろいろと理にかなってる。

お酒を飲まない人も増えてきているので、基本的にお酒も出すシメパフェのお店はお酒を飲む人と飲まない人が共存しやすい部分もあったんだと思います。」


アイスクリームもお酒も身近であり、食べ合わせとして間違っていない。さらに昨今のアルコール離れも意外に一役買って……。なるほど……これは追い風吹きまくりだ。
「白い恋人」の石屋製菓のカフェにもパフェが。ソフトクリーム中心だ
「白い恋人」の石屋製菓のカフェにもパフェが。ソフトクリーム中心だ

「パフェの値段についても、バー行くかもう1軒居酒屋行くかってなったときに入れる選択肢としては高くはないと思うんですね。お酒とパフェのセットで少し安くして提供しているお店もありますし」


なぜシメにパフェなのか。そしてなぜ札幌なのか。解けないパズルが解けてしまいそうではないか。

ブームではなくもはや普通にいちジャンル

ガチャンガチャンとはまるパズルのピースはまだある。


・小豆(あんこ)や大豆(きなこ)の生産量は多いが和菓子よりも洋菓子に脈々と人気がある。
→甘味よりもパフェ

・道民性として流行ものが好きな人が多い
→行列もへっちゃら
すすきのは雑居ビルのテナントが多い。パフェ専門店もそういうところによく入っていて座席が少なく勢い行列ができやすいんだそうだ。さきほど開店前の写真をのせたななかま堂もそうだった。
すすきのは雑居ビルが多い。パフェ専門店もそういうところによく入っていて座席が少なく勢い行列ができやすいんだそうだ。さきほど開店前の写真をのせたななかま堂もそうだった。
・すすきのは飲んで地下鉄やタクシーで帰る人が多い、自分で運転して帰らない
→夜の文化が発達しやすい

・一大観光地だが今まで光の当たらなかった喫茶文化に光があたり関係者も発奮
→魚介、ジンギスカン、ラーメン、スープカレー以外に観光客を呼ぶチャンスがやってきた

様々な要因がきれいにつながり盛り上がったのが飲んだ後のパフェだったのだ。

「ブームという感じじゃなくてジャンルとして定着した感じがしますね」

もろもろ、ものすごく納得させられてしまった。

素材にこだわりオーナーさんが牧場を買いそうになっているお店があったり、チョコレートを極めるためにベトナムへ行く店主がいたりと店側の熱いパフェ向上心のようなものも高まっていっているという。

名物の台頭としてものすごくうまくいっているのだ。ふるえる。
冒頭でも掲載した「夜パフェ専門店 パフェテリア パル」のパフェ。カクテルのゼリーがひらひらかぶさっている。芸術性がすごい
冒頭でも掲載した「夜パフェ専門店 パフェテリア パル」のパフェ。カクテルのゼリーがひらひらかぶさっている。芸術性がすごい
「幸せのレシピ スイート」には味覚を変化させる実(ミラクルフルーツ)を使ったパフェがあった。実験的だ
「幸せのレシピ スイート」には味覚を変化させる実(ミラクルフルーツ)を使ったパフェがあった。実験的だ
磯崎さんにももはやシメにパフェを出す店をすべては把握できないレベルだそうだ。

「このあいだはキャバクラの看板に『シメパフェ付き』って書いてあるのを見かけて。ここまできたか! と笑」

流行り、そして定着し、一大観光地の強みで観光客を巻き込んでさらに拡大しようとしている。パフェと札幌の街のケミストリーがすごい。

興奮した。誰か煮え湯を持ってきてくれ! 俺は飲む!(おなかが冷えたから……!)
お話を聞かせてもらった磯崎さんの所属会社が運営するMIRAI.ST cafe & kitchenのパフェ
お話を聞かせてもらった磯崎さんの所属会社が運営するMIRAI.ST cafe & kitchenのパフェ
標茶町という酪農の街の牧場に作ってもらった乳脂肪の高いソフトクリームがバターのような味わいなのにあっさりしていて、北海道の地肩が強すぎる
標茶町という酪農の街の新鮮なミルクで作ってもらっているという乳脂肪の高いソフトクリームがバターのような味わいなのにあっさりしていて、北海道の地肩が強すぎる

「年越しパフェ」もきている……!

・夜
・高額
・行列

シメのパフェをとりかこむこの3つの要素。すべてを乗り越えてよくぞ流行したものだと驚いたのだが、むしろすべててが流行のための必然であった。

昨年末、磯崎さんの同僚の方は年の最後を締めくくるためパフェを食べようと考えたらしい。飲みのシメではなく、1年のシメのパフェを、と。

しかし同じことを考える人で店はいつも以上の大混雑、5軒をハシゴしてようやく食べられたのだそうだ。

いまやシメのラーメンに肩を並べたシメのパフェ、次に狙うのは年越しそばの座である。年越しパフェ、語呂も悪くない。麺類をまさかパフェが脅かすとはだれが思っただろう。

札幌シメパフェ、興味深すぎる高度文明を見た。


取材のご協力ありがとうございました!
 「札幌パフェ推進委員会」
雪印パーラー、食事は11時からだがパフェは10時から食べられる。朝パフェも行ける札幌クオリティ
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