デンプンから器を作る
いきなりですが、料理に使う片栗粉の原料は何かご存知でしょうか?
スーパーで簡単に手に入る片栗粉。
片栗粉の原料は、その名の通り、ユリ科のカタクリの花の鱗茎(球根)から作られます。というか、作られていました。明治の頃までは。
カタクリは栽培が難しく、北海道でジャガイモの栽培が盛んになると片栗粉の原料はジャガイモに変わっていきました。今ではほぼ100%がジャガイモから作られています。
原材料名「馬鈴しょ(ジャガイモ)でん粉」。カタクリ製の片栗粉を売っている所はあるのだろうか?
片栗粉は、水に溶いて加熱すると粘りが出るので料理にトロみをつける時などに使われます。工作に使う糊(デンプン糊)は、小麦粉やトウモロコシの粉などを水と共に加熱して作られますが、片栗粉でも同様に水と一緒に加熱していけば糊のように固まります。
ジャガイモからの器作りには、この片栗粉(ジャガイモデンプン)から作る糊を利用します。
まずはデンプンの抽出
それでは、まずジャガイモから片栗粉を取り出します。私(昭和47年生まれ)ぐらいの世代の人ならば、理科の実験でジャガイモから片栗粉を取り出し、ヨウ素液をかけてヨウ素デンプン反応を見るというのをやったのではないでしょうか。
現役の理科の先生である、
ライターの加藤さんに聞いたところ、ヨウ素デンプン反応の実験は今もあるそうです。しかし、生活科というものが導入されたことにより、理科の方で生き物を育成する授業が減り、ジャガイモからデンプンを取り出すことはあまりやらなくなったのだとか。ということで、ジャガイモからのデンプン抽出方法を解説しておきます。
まず、ジャガイモを洗って皮を剥く。芽が出ていたらそれも綺麗に取り除きます。ジャガイモの芽や光に当たって緑色になった皮のあたりには、ソラニンやチャコニンといわれる毒素が多く含まれます。体に悪いのでしっかり取り除きましょう。
続いておろし金でジャガイモをすりおろす。手を怪我しないように気をつけましょう。
すりおろしたものを布巾で包む。すりおろしている間にジャガイモが赤く変色してきますが、ジャガイモに含まれる成分が酸化することにより起こるもので、特に問題ありません。気にせず続けてください。
布巾の口をしっかり止めて、ボールに入れた水の中ですりおろしたジャガイモをよく揉む。ジャガイモの成分の関係で結構泡立ちますが問題ありません。5分から10分ほど揉んだらよくしぼって水を切り、ボールをそのまま15分ぐらい放置します。
底に白くたまっているものが片栗粉です。この状態だとまだジャガイモを揉んだ時の水が混ざっているので、もう一度水を入れてかき混ぜます。
水を入れてかき混ぜたらまた15分ほど放置して上澄みを捨てる。これを3、4回繰り返します。
水を捨てたら残った片栗粉を乾燥させる。量にもよりますが、そのまま数時間置いておけば大体乾きます。
これで片栗粉の完成。手で押すとキュッ、キュッと片栗粉独特の音がします。このままでも使えますが、ジャガイモをしぼる時にカスが混じっていることがあるので、一度ふるいにかけておきます。
片栗粉が出来たら次は糊を作っての器作り。器作りには今はやりの技術を使います。3Dプリントです。
いや、3Dプリンターは使いません。その辺で入手できる簡単な道具で行います。
デンプン糊作りは簡単
では出来上がった片栗粉(ジャガイモデンプン)から糊を作ります。用意するものは鍋とヘラかスプーン。あと水です。
分量は片栗粉大さじ2に対して水200mlぐらい。ボールに入れた片栗粉に水を入れてよく混ぜます。
しばらくすると、透明なかたまりが出来てきます。更にかき混ぜる手を休めず加熱し続ける。
全体が透き通って粘りが出たら完成。小麦粉で作るデンプン糊と比べると、弾力の方が強く、接着力も弱いですが紙ぐらいなら接着できます。
これを使って器を3Dプリントします。
クリーム搾り器による手動3Dプリント
器の3Dプリントにはこれらの道具を使います。
ケーキを作る時に使うクリーム搾り器、器を3Dプリントしていくときの台となるトレーとクッキングシート。あと適宜ヘラやスプーンを使います。
3Dプリンターが物をプリントする方法には幾つかあります。それぞれの方法で材料や手順などに違いはありますが、基本的には作りたい形を薄くスライスして、スライスによってできた形状を1層ずつ積み重ねてプリントしていきます。
例えば、材料押出といわれる方法では、熱で溶かした樹脂をノズルから押し出し、1層ずつ形を積み重ねていきます。溶かした樹脂がデンプン糊、ノズルがクリーム搾り器。3Dプリンターでは、ノズルをX、Y、Z方向にモータを使って精密に移動させて形をつくりますが、今回その部分は手動です。
糊を絞り出して1層重ねたら乾燥させて、更にもう1層重ねていきます。こんな感じです。
と、ここで問題発生。実は当初、この手動3Dプリントでグラスサイズの物を作る予定でした。しかし、片栗粉のデンプン糊が予想していたよりも強度が無く、ドライヤーを使っても乾燥にかなりの時間が必要な事が判明。ある程度の乾燥でギリギリ形状を維持できる、小鉢サイズに変更しました。
器として形は維持しますが、持つとかなりプルプルです。
ジャガイモのデンプンを主原料とした食べられる器は市販されています。例えばこちら。
「
イートレイ」
こちらの器は
そのままのジャガイモデンプンを自然に固まらせている訳ではないので、今回作った物とは異なり強度もある程度の耐水性もあります。今回は3Dプリントの原理で食べられる器を作ってみたかったということで、小鉢サイズで良しとしましょう。ものつくりは臨機応変。
わらび粉でないわらび餅
ということで、当初計画だと甘いお菓子を作るのではなかったのですが、出来た小鉢を活かすべく、作ったデンプンからお菓子作りです。
右が片栗粉で左が白砂糖。
使う材料は片栗粉が25gに対して砂糖が25g。そこに水が200ml。あと、きな粉と黒蜜。使う道具は鍋とヘラかスプーン。あとトレーか皿。
材料を見て何を作るか分かったのではないでしょうか。わらび餅を作ります。わらび餅は本来わらびの根から作るわらび粉を使って作ります。くず餅も葛の根から作る葛粉を使いますが、最近は片栗粉やサツマイモのデンプンを使って作られている事が多いです。
作り方は簡単。先ほどの糊を作る時と工程は大体同じです。片栗粉と砂糖を水で溶き、弱火でゆっくり加熱して固めます。
出来たものをボールに移したら氷水で冷やして粗熱をとります。それを小さくちぎってトレーに入れたきな粉の上に乗せて絡めれば、片栗粉のわらび餅の完成。
15分もあればできる簡単おやつ。
出来上がったわらび餅を皿に盛りつけ、その横に黒蜜の入った小鉢を添えます。
手動3Dプリントのデンプン糊小鉢はちゃんと機能しています。液体が漏れる事もなく、形が崩れることもありません。プルプルだけど。
ジャガイモから作った片栗粉によるわらび餅も弾力など問題無し。さて味の方は?
うまいねー。きな粉と黒蜜。わらび餅部分はあまり味がしない。
わらび餅の味も問題ありません。わらび粉を使ったわらび餅と比べれば、餅の部分の味は非常にクリア。食感を楽しむという点では変わりありません。大変美味しいです。
小鉢部分。食べられない事はないけどね。
そして、3Dプリントで作った小鉢。こちらも元は片栗粉なので食べられます。ただ、表面が乾いてボソボソで、片栗粉のみで作っているので味もなく、ハッキリ言って不味いです。無理して食べることは無いでしょう。3Dプリントの原理を知る実験ということで十分です。
自分で作ることはできるがしかし……
今回は若干方向を変えながら、ジャガイモからデンプンを作り、デンプンから器とわらび餅を作って食べました。以前、
サトウキビから砂糖を作った時もそうでしたが、この手のものは自分でも作れるけれど非常に手間がかかります。
市販品最高。工業製品最高です。ただ、その製品がどのような材料からどのような方法で作られているかを知っておくことは大切だと思います。あと、それを作る苦労も体験しておくと、そのもののありがたさがわかります。
とりあえず、売っている片栗粉からわらび餅を作るのはすぐにできます。わらび餅が食べたくなったが、近所にわらび餅屋がなく、スーパーとかでも売り切れていたら片栗粉を買って帰りましょう。もちろん、わらびの根から作ったわらび粉があるならそれで。
本当はジャガイモのデンプンからグラスを作り、ジャガイモから作った酒「アクアビット」を飲み、発酵や蒸留について説明しようかと思っていました。それはまたいずれ。
自由研究的まとめ