特集 2018年7月1日

店内に県境のある店めぐり(デジタルリマスター版)

この中に(外にも)県境がある!
この中に(外にも)県境がある!
県境が建物の中を走るショッピングセンターが京都府と奈良県の府県境にあるらしい。

こっちは奈良県、足を一歩ふみ出せば京都府……というような場所が、建物の中にあるというわけだ。とても気になるので、行ってみた。

※以降、府県境・都県境も県境と表記します。

2011年4月に掲載された記事の写真画像を大きくして再掲載したものです。
鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

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境界にもグレードがある

ある。というか、ぼくが勝手に思ってるだけなのだけど。 やはり境界好きな人たちにとって、なんといっても一番グレードが高いのは「国境」ではないだろうか? ボーダーライン界の巨塔。キングオブ境界。

しかし、残念ながら現在の日本には地続きの国境が無いので、国境線上で反復横飛びをするというダイナミックな遊びはできない。

でも、日本には県境がある。 国境よりグレードは下がるかもしれないけど県境だって立派な境界だ。県境を超えれば条例が変わるし、警察や消防の管轄だって変わる。学校の学区だって変わるだろうし、ゴミの分別方法だって変わるはずだ。境界を越えただけでいろいろ変わる、変わるのに一切見えない、見えないけれど確実に存在する……。

そんな境界線が建物の中にあり、間近に見られるなんてなんて、日常ではちょっと体験できない興奮が味わえるのではないだろうか?

近鉄高の原駅に到着。テンションあがってるのぼくだけ。
近鉄高の原駅に到着。テンションあがってるのぼくだけ。
京都から1時間ほどかけて高の原駅に到着。おぉ、ここが県境のある町かと思うと胸が高鳴る。しかし、駅を利用する人たちは至って普通……近くに境界があるというのに、なぜこの人達は冷静なんだ? さっそく、駅の地図で周辺地図を確認する。
噂通り建物の中を県境が突っ切ってる!


「イオン高の原ショッピングセンター」は京都府木津川市と奈良県奈良市の境界線上に建てられており、建物の丁度真ん中あたりを県境が走っているのだ。

このへんが県境だ。マウスオーバーで県境を表示します
奈良県知事の選挙看板
奈良県知事の選挙看板
奈良県警の交番
奈良県警の交番
高の原駅前は奈良県側なので、選挙のポスターも奈良県知事選挙のものだし、交番も奈良県警のものだ。ちょっと歩けば京都府があるとは思えない奈良県っぷりだ。

店内の県境はどうなっているのか?

噂によると、ショッピングセンター内に県境を示すラインが引いてあるらしい。一体どこにあるのか?

店内地図には境界は書いてない
店内地図には境界は書いてない
しばらく店内を散策するも、それらしいラインは引かれていない。店内マップに描いてないか確認してみるけれど、それらしきものはなにも描いてない。 おかしいなあ……と思ったそのとき、マップに「平安コート」と「平城コート」の文字を発見。

平安? 平城?
平安? 平城?
平安といえば平安京、京都。平城といえば平城京、奈良。あ、そういうことか! 小学校で習った歴史の知識が役に立った瞬間だ。覚えといて良かった。ということは、今ぼくがいる場所はまだ奈良県奈良市なのだ。

ついに県境を発見!

ドーン! マウスオーバーで県境を表示します
ドドーン!  マウスオーバーで県境を表示します
今ぼくは県境を跨いでる! マウスオーバーで県境を表示します
平城コートと平安コートの真ん中あたりをめざして歩く。……おぉ!県境だ!これは明らかに県境の線だ!とりあえず、県境を跨いでいる記念写真を撮るため、ベンチに座っていたおじさんにカメラをお願いした。

ぼく「すみません、あの、ぼくこの線の上でこうやって立ってますので、写真お願いできますか?」

おじさん「え?あ、カメラ?わかった」

おじさんは「なぜこんなところで?」というような表情で撮影してくれた
キリッ! マウスオーバーで県境を表示します
ぼく「ありがとうございます……あ、ごめんなさい! ちょっと左に寄ってるんでもうちょっと真ん中に入れてもらえますか」

おじさん「え?あそう……」

せっかくの県境写真だ。少し嫌われても妥協はしたくない。

撮り直し二枚目、キリリッ! マウスオーバーで県境を表示します
ぼく「どうもすみません……ところで、このラインが県境だってご存知でした?」

おじさん「え?ケンキョウ?」

ぼく「奈良県と京都府の県境なんですよ、(ちょっと得意げな顔で)このラインこっちが奈良県、こっちが京都府……」
おじさん「あぁ……そう……知らんかったなあ……(家族に)おい、この線、県境なんやて」

おじさんの家族「へー、そうなんやー……」

おじさん「……」

ぼく「……ありがとうございました」

おじさん「はい……」

地元のひとはどうもテンションが低い。もしかして、こっちが高すぎるのか?いや、でも、だってここ県境ですよ?
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特に誰も意識はしていない県境

三階から県境のラインを眺めてみる マウスオーバーで県境を表示します
ところで、県境の上にあるショップで、もし何らかの犯罪があった場合、駆けつけるのは奈良県警なのか京都府警なのか、気になるところだ。県境上にあるショップの店員さんに聞いてみた。

ぼく「すみません、このラインが県境だってのはご存知でした?」
店員さん「あ、はい、こっちが奈良県でこっちが京都府ですね」

ぼく「もし万引き犯が奈良県側にダーッと走っていったら、駅前の奈良県警の交番は見て見ぬふりしますかね?」

店員さん「んー、どうなんやろなぁ……ショッピングセンターの住所は京都府になってるから、木津署に連絡するんやないですかね?」

ぼく「もし万引き犯が奈良県側にダーッと走っていったら、駅前の奈良県警の交番は見て見ぬふりしますかね?」

店員さん「いやーそれはないでしょう(笑)さすがに目の前犯人走ってたら捕まえると思いますよー」

ぼく「ですよねー(笑)」

愚問だった。警官が犯罪者をみすみす見逃すわけがない。県境の興奮でどうかしてたのだ。県境は心を惑わせる。ぼくにとって県境は煩悩かもしれない。

普段使いの県境

店員さんに県境についてもう少し聞いてみた。

ぼく「普段『あ、いま県境跨いでるな』とか『今日は何回県境越えしたな』みたいなことは考えたりしますか?」

店員さん「いや、無いですねー(笑)」

ぼく「無いですか(笑)」

店員さん「無いです……」

これもまた愚問だった。 我々だって「あ、きょう何回呼吸したな」とか考えないのと一緒で、この県境は、ここで働いてるひとにとって水や空気と同じ存在なのだ。普段使いの県境。カジュアルな県境。いいなあ、そういう県境。ぼくも欲しい。

誰も県境に注目してない マウスオーバーで県境を表示します
二階の県境ラインと一階の県境ライン マウスオーバーで県境を表示します

見えないけれど存在する県境

石井裕さんの著作「県境マニア!」(ランダムハウス講談社)という本によると、このショッピングセンターはやはり水道、消防、警察の管轄が違うらしい。しかし、なにか火災や事故などがあった場合は発生場所に関係なく、どちらも出動することが取り決められているとのこと。

ラインがわざわざ引いてあるのは、おそらく後で捜査や現場検証を行うとき、分りやすくするために引いてあるのだろう。

あまりにもテンションが上がりすぎて、県境ラインの引いてある駐車場の写真ばかり撮ってしまい、他の写真素材があまりない。 マウスオーバーで県境を表示します
あの車!県境上に駐車してる! マウスオーバーで県境を表示します
駐車場の案内図、紫のところが京都府、黄色のところが奈良県だ
駐車場の案内図、紫のところが京都府、黄色のところが奈良県だ
ところで、この記事は4ページの予定なんだけど「イオン高の原ショッピングセンター」は、最初の2ページで弾が出尽くしてしまった。でも大丈夫、関東にもいい県境があるのだ。

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町田のヨドバシカメラに行ってみた

これからの2ページは東京近郊の県境建築物もめぐってみたいと思う。東京近郊で店内に県境がある店といえば、みなさまご案内の通り、町田駅南口にある「ヨドバシカメラ・マルチメディア町田」だ。こちらにも行ってみた。
こちらが県境のある店。ヨドバシカメラ・マルチメディア町田店
こちらが県境のある店。ヨドバシカメラ・マルチメディア町田店

計画停電でちょっと気になった

県境は、ヨドバシカメラの前、JR町田駅の南口階段を降りきった所にいきなりある。iPhoneで地図を確認しながらさっそく記念写真を撮影。

キリッ! マウスオーバーで県境を表示します
残念なことに、ここには県境示すラインはない。しかし、地図を確認すると右の宝くじ売場のすぐ前を県境が走っているのだ。

宝くじ売り場のおばちゃんに話を聞いてみた。

ぼく「お忙しいところすみません、あの……この店の前に県境があるのはご存知ですか?」

おばちゃん「えぇ、ここは町田市です」

「ここは町田市ですよ」って、ドラクエの町の出入口のへんにいるひとみたいなセリフだ。実際に聞けるとは思わなかった……。

ぼく「ふだん県境を気にしたりすることってありますか?」

おばちゃん「うーん、特にないけれど……計画停電の時はちょっと気になりましたよ」

ぼく「なるほど、計画停電ですか。停電になりました?」

おばちゃん「いや、結局、停電にはならなかったですねえ」

そうか。確かに計画停電で停電する場所って自治体ごとに決められてた。幸いにも、この宝くじ売場は停電になることはなかったらしいけれど、実際、境界線上の建物は停電の時どうなるんだろう?

店内でさらにテンションが上がる

計画停電の疑問を抱えつつも、ひとまずヨドバシカメラ店内の県境をさがしてみる。

こんなふうに県境がある(はず) マウスオーバーで県境を表示します
建物の角だけが東京都 マウスオーバーで県境を表示します
ヨドバシカメラの建物自体はほぼ神奈川県相模原市なのだけど、建物の角や駐車場の一部が東京都町田市となっているのだ。

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おもわず関係ない話を聞き込んでしまう

まったく県境の存在を感じさせない店内 マウスオーバーで県境を表示します
町田市と相模原市の県境にあるこの建物、計画停電のさいにはどんなふうに停電するのだろうか? 元気のいい店員のお兄さんに聞いてみた。

ぼく「あの、この建物の中に県境がありますよね」

店員「え?ケンキョウ?……すみません、お客様の仰ってることがちょっと把握出来てないのですが……」

サンドウィッチマンの「ちょっと、言ってることがわからないです」っていうギャグを丁寧に言うとこんな感じなんだろうか?

ぼく「東京都と神奈川県の県境が建物の中にあると思うんですけども(iPhoneの地図を見せて)こういう感じで……」

店員「あぁ、そうなんですね。知りませんでした!」

ぼく「計画停電で停電はしましたか?」

店員「私は計画停電の後にこちらへ配属されましたので、ちょっとわからないです」

まだ、こちらで働き始めたばかりの方だった。

ぼく「例えばですけども、駐車場の県境上で車がぶつかったというようなときには、警視庁と神奈川県警とどっちが来るんでしょうね?」

店員「さぁ、どうかなあ、気になりますね。私は家が川崎の方なんですが、昔、境界線上でお巡りさんに面倒くさがられたことありますね」

ぼく「そうなんですか?」

店員「えぇ、高速道路でも県境越えると(パトカーが)追ってこなくなるって話を聞いたことありますしね。どうなのかはちょっとわからないです」

おっと、思わず店員さんの昔話をじっくり聞き出してしまうところだった……あぶないあぶない。

記念写真を撮るために、屋上に出てみた

県境上で昭和っぽいポーズ マウスオーバーで県境を表示します
しつこいけれど、マウスオーバーで県境を表示します
屋上は駐車場になっているのだけど、ここにも県境を示すものは何もない。せっかく「県境がある建物」という個性があるのに、その個性を活かそうとしないのは宝の持ちぐされだ。ヨドバシカメラマルチメディア町田は、早く自分の個性に気付いてほしい。 ここに県境を示す破線でもあれば、それ目的で訪れるものずきも結構いると思うんだけどなあ。

ヨドバシカメラは停電しなかったそうです

後日、ヨドバシカメラに直接電話して聞いてみたところ、ヨドバシカメラマルチメディア町田は、実際には停電しなかったものの、計画停電は第4グループ(相模原市)に入ったそうだ。また、警備に関しては普通に110番をして、繋がった方の警察が来るらしい。 実際、ヨドバシカメラは県境があるとはいえ、ほとんどが相模原市なので、あまり問題にはならないかもしれない。


場所の意味が変わる

今回、東西の「県境のある建築物」をめぐってみてわかったのは、日常的にそこを利用するひとたちは、あまり県境を意識していないということだ。

ぼくみたいに、意味もなくまたいでみたり、反復横飛びしてみたりというようなことは普通しないらしい。

実にもったいない。

自分が意識するだけで、何もないところがたちどころに重要な意味を持つ場所にかわるのだ。高の原ショッピングセンターや町田駅を日常的に使う人はちょっと意識してみると面白いと思う。

JR町田駅の南側はラブホテル街
JR町田駅の南側はラブホテル街
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